不動産投資シリーズ(4) -不動産投資の収益性を考える

ミューチュアルファンドはもうすでに投資しているが、ポートフォリオの一部として不動産への投資も考えてみたいという方もおられるでしょう。不動産投資を考えるシリーズ全4回でお届けしており、(1)では、レンタル物件を購入し大家(ランドロード)になるにあたって、必要となるスキルについて考えました。(2)では、物件管理業者への委託、REITを通しての不動産投資について見てみました。前回(3)では、レンタル収入でリタイヤメントをサポートする場合の考え方について考えました。今回は、不動産投資の収益性を測るための指標について考え、収益性をどうとらえるかについて見てみます。

 

3つの指標

不動産投資の利益は、大きく二つの要素に分けることができます。ひとつは月々入ってくるレンタル収入で、もうひとつは物件の値段上昇によるキャピタルゲインです。

もちろんどちらも見込める物件がよい物件ではありますが、どちらに重点をおいて期待するかは投資する人によって異なるでしょう。不動産からの収入で老後の生活をサポートしたい人ならば、月々どのくらいの実入りがあるのかというレンタル収入の大きさに焦点を当てます。それとは両極端に位置するのがフリップ投資家で、レンタル収入には全く興味がなく、安く買い素早く手を入れすぐに売ることで大きなキャピタルゲインを狙います。

何にフォーカスを当てて収益性をみたいかで、使う指標も異なってくるわけですが、不動産投資の利益率を測るために使われる指標の代表的なもの三つについて見てみます。CAP、ROI、IRRです。

CAP

短くCAP rateと呼ばれるます。Capitalization rateの略で、以下の計算式で求められます。

CAP rate = 年のレンタル純利益(経費差引後) ÷ 物件価格

いくらの物件で、いくらくらいのレンタル純利益を生むか・・を測ります。

市場価格より安く買える穴場物件で、プロパティ税やメンテなどの経費も安く、その割には恒常的に高いレントで貸し出せそうな家はCAP rateが高くなります。

ROI

CAPは購入価格しか考慮に入れませんが、ROI(Return on Investment)というのもあって、こちらはいくらポケットから出したか(頭金)をもとに考えます。

ROI = 年のレンタル純利益(経費差引後) ÷ 頭金

CAPとの違いは、ROIは、モーゲージでローンを組みその利子率を上回る収益率を生むことで、利益を増強する場合の収益性を見るのに向いていることです。ローンを組んでの投資は一般にレバレッジとよばれます。手持ち現金は少なく出し、モーゲージをなるべく安く組んで投資します。いくら手持ち現金をだし、いくらくらいのレンタル純利益を生むか・・・を測ります。

IRR

もうひとつ、IRR(Internal Rate of Return)というのもご紹介しましょう。こちらは、たとえば10年なり20年なりの期間で、物件を買ってレンタル収入を得つつ、最終的には売却しキャピタルゲインを得るまでのすべての利益を考慮します。いくら現金を投資し、いくらのレンタル収入をもらい、最終的にどれだけのキャピタルゲインを得たかのすべてを含んで、年平均の複利利益率を計算します。株式や債券などとの利回りと比較することができる指標です。

IRR = 簡単な計算式では表せず、すべてのお金の出入りを含めて年利を計算

この3つのどれかの数字は優れていても、どれかは全く優れていないということは大いにあり得ることで、不動産投資をするなら自分はどの指標に重点を置いて考えたいのか、あるいは不動産とミューチュアルファンドなどの比較をしたいのかなど、自分のニーズをはっきりし使うことが必要です。

 

3つのケース

実際に3つのケースで応用してみましょう。

物件AとBとCがあります。購入価格や、レント(月)、費用(年)の各項目は上記のとおり。

Aは、地方都市の郊外にあるコンドで、若いプロフェッショナル層が好んで住むエリアにあります。物件価格が低い割には、かなりのレントが見込めます。コンドのためHOAなどがありますが、物件価格が低く現金で購入したためモーゲージの支払いなどもありません。

Bは、中都市の一軒家です。そこそこのレントが入り、費用もそれなりの範囲に収まっています。モーゲージを組んで購入したので月々の支払があります。

Cは、メトロエリアのコンドです。それなりのレントをとることができますが、プロパティ税や保険費も物件価格上昇にともないかさみ、HOAやメンテナンスにも費用がかかります。モーゲージを組んで購入したので月々の支払があります。また、この大家さんは忙しい日々のなか自分でレンター管理をするのが大変なので、物件管理会社に委託しています。その費用は雑費に含まれて計上されています。

このような状況にある3つの物件のCAP、ROI、IRRを計算してみましょう。

物件の保持期間はここでは10年としました。

Aは、CAPもROIもIRRもそこそこの数字が出ています。物件価格の割にレントが高いこと、費用がかかりすぎないことで、CAPは6.29%が出ています。また、モーゲージを組まず、100%現金で買っています(レバレッジなし)ので、ここではCAPとROIが同じ数字になっています。物件価格は年平均2%ぐらいずつの割合で伸び、最終的には$170,000強で売却、IRRを計算すると8.29%という数字でした。これは投資した$140,000に対し、レントの純利益とキャピタルゲインまで含めると年平均8.29%の利回りが出たことを意味しています。

この8.29%という数字をどう見るか、比較できる対象として、株式60%・債券40%のポートフォリオの過去成績が下記の通りです。

株式を含むミューチュアルファンド投資で、いい時もあれば悪い時もありますが、1926年から2016年の間の年平均をとると8.70%という数字です。上の不動産投資ではこれとコンパラブルな利回りが出たことになります(もちろん投資時期が異なりますので、対等比較はできません。あくまで目安ということで)。

Bは、レバレッジ(モーゲージローン)を上げて、自己投資額は$30,000で投資した例です。レントもそこそこ、プロパティ税やメンテナンスなどの費用もそこそこですが、ただモーゲージ支払いがあるため、全体的な費用は大きくなり、そのせいでCAPはわずか1.66%です。その代わり、自己投資$30,000に対しては、13.83%のROIとなっています。レバレッジを上げると、月々の収益率は衰えるが、その分投資に対する利回りが上がるという典型的な例です。この物件は、10年間の間、年々3%推移で物件価格も上昇し、最終的なキャピタルゲインを含んでのIRRは27.83%でした。物件選択の目利きがあったこととレバレッジの威力との相乗効果で、上の株式60%・債券40%の利回りとは比較にならない大きな利回りが実現できています。

Cは、メトロエリアの物件価格が非常に高い物件です。レントも$2,500とそれなりに高いのですが、AやBと比較すると、物件価格の割にレントがそれほど伸びないという痛い特徴があります。物件価格は大きいので、プロパティ税も高く、コンドでHOAもあります。自己資金も$160,000投じたものの、モーゲージも$250,000組んでいるのでモーゲージ支払いが発生し、さらに自分で管理することが難しいため管理会社を使っており、その費用もあるので最終的にはCAPはわずか0.57%という寂しい数字です。自己資金をそれなりに出しているものの、純利益はなかなか上がらないので、ROIも1.45%です。年々のレンタル純収入はそれほど期待できなくとも、メトロエリアならではの物件上昇が見込めると思いきや、近くで山火事の影響があり、エリア全体的に物件価格が頭打ちになりました。最終的にキャピタルゲインは出たものの、IRRは6.93%となりました。このケースは、山火事の影響という不動産ならではのリスクに影響された例でもあり、これならミューチュアルファンド投資のほうがよっぽどよかったと後で後悔するタイプのケースです。

このように、不動産投資の収益性は物件によってまちまちですし、どの指標でみるかでも評価が異なってきます。どの物件にするかという判断も大切ですが、不動産にするかそれ以外の投資にするかという判断も大切です。

これで不動産シリーズは終わりです。不動産は大きく儲けられる可能性を秘めています。スキルのある人、単に運が良かった人は大きく資産を伸ばすことができます。反対に、スキルのない人はインデックスファンドやREITのほうがよっぽどよかった・・ということにもなる危険性をはらんでいます。自分のスキルとタイプ、何を目指すかを吟味したうえで判断をされるとよいでしょう。

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