家、買い時?-アメリカ不動産市場を読む(1)

「家を買うのにはいい時ですよ」とよく聞きます。確かに不動産価格も随分と下がってきたし、フォークロージャーもこれから減少していくというし、場所によっては値段が上昇しているところもあると聞けば、「そろそろ底を打ったのか。金利が安いうちにいい物件を見つけよう」と思いますね。今回は、「家、買い時?-アメリカ不動産市場を読む」と題して、2回連続でお送りします。この2回、(1)は「買い時!買うべき!」バージョン、(2)は「う~ん、どうかな??」バージョンです。私には、「今が買いどき」とも「今は待ち」とも決めかねますので、どっちもバージョンをご用意しました。モノには二面性がありますから、どっちも読んであなたが決めてください・・・。それでは、「買い時!買うべき!」バージョンのはじまりです。。。

 

ピーク価格から33%ダウン

2006年のピーク時と比べると、33%ほど値段が下落し、現在はピーク時を3年もさかのぼる2003年レベルまで下がりました。ピークで買ったとすれば、1/3も家の価値が消えてなくなったわけでとても恐ろしい話ですが、これから買う人にとってはチャンスですね。

家の価格の下落と反対にレントのほうは上昇傾向で、Moody’sの分析によると、平均的なサイズのアパートの場合、全米平均のprice-to-rent ratio(家の値段÷1年分のレント額)は、ピークの18.5から11.3までに下がってきており2003年以前の10という数字に近づいているとのこと。よって、レントするのに比べて家を購入したほうが、ますます有利になってきているといいます。

 

価格は少しずつ上がり始めている・・・

ここ半年ほど、家を買いたい人の数に比べると売りに出ている家の数(インベントリ)が少ないという現象があちこちで見られます。地域によってはbidding warといって、複数オファーが入り、場合によってはオファー価格より販売価格がつりあがったりするというケースも垣間見られるようになりました。2012年初頭のデータですが、フェニックスでは1年前に比べて価格が20%上昇、マイアミやワシントンDCでも2012年3月だけで8%上昇したそうです。売り手の競争の激化はサンフランシスコやボストンでも見られるそうです。Tulia.comの調査によると、この傾向はすでにオファー価格の上昇にも反映されはじめ、2012年第一四半期の全米平均オファー価格は、2011年第四四半期のそれより1.4%上昇したとレポートしています。

価格を押し下げてきたフォークロージャーも冷却傾向にあることも要因です。Zillow.comによると、90日以上延滞しているローンの割合は急速に低下しているとのこと。2011年末あたりからこの延滞グループが急速に収縮しているようで、今後フォークロージャーに入る可能性の高いローンは減少していくことを示しています。

 

この低金利は永遠には続かない

「これ以上はもう下がらない」といいつつ、記録更新中の低金利。なんてったって40年ぶりの歴史的低金利です。4.5%でも驚いていたのはその昔。今では3.8%という数字まで出現。15年ローンなら3%を割るものもでてきました。2%台ですよ!ウルトラ・スーパー低金利です。我が家が2000年に家を買ったときは、たしか9%台でしたから、時代の移り変わりを思わされます。

金利の低さは家の購入に直接的な影響を与えます。$400,000のローンを30年固定金利で借りた場合、月々の支払い(モーゲージだけ。プロパティ・タックス、家の保険は含まず)は、金利が4%だと$1,910、5%だと$2,147、6%だと$2,398となります。金利が1%上がると月々の負担が$200以上増えるわけですから大きいですね。

別の見方をしてみましょう。年収$100,000の人がダウンペイメント$100,000を用意できる場合、金利が4%、5%、6%のとき、いくらの家だったら無理なく買えるかを分析してみます。CNNに便利なカリキュレータがあり、conservative(安全路線)とaggressive(強硬路線)の家の値段を計算してくれます。今回は無理なく買えるほう、つまりconservativeのほうだけ見て見ます。金利4%だと無理なく買えるのは$519,000ほどの家、金利5%だと$473,000ほど、金利が6%だと$434,000という結果でした。金利が1%上がると買える家の値段は$40,000ほど下がってしまうわけです。それなら、この低金利が使えるうちに、さっさとロックインしたいと思うのもうなづけるでしょう。

 

レントはドブに捨てるようなもの

これはとくに、バブルのころよく言われたことですね。レントは払ったらそのままなくなるもの、モーゲージの支払いはエクイティーを貯める。。。たとえば、借り家のレントに$2,000払っている場合と、家を買った場合の月々の支払い(モーゲージ返済、プロパティ・タックス、家の保険の合計)が$2,000の場合とを比べてみましょう。両方とも、家に住むための直接的コストは$2,000です。後者では、モーゲージの返済額が$1,700(利子が$850、元本返済分が$850とします)、プロパティ・タックスが$200、家の保険が$100という内訳を仮定します。

レントの場合は、月に$2,000支払ったらそれでおしまい。出て行ったら出て行ったきりのコストです。しかし、家の支払いが$2,000の場合、$2000のうちのモーゲージの元本返済分$850は、その分だけローン残高を減らす、つまり家のエクイティとして貯まっていきます。その分は払いっぱなしでなく、自分のもの(バランス・シートで言えば純資産)として蓄積されていきます。

 

税控除でおトク

上の例をそのまま使います。家を借りた場合のレントは、$2,000払っても何の税控除もありません。一方、家を買った場合の月々の支払いのうち、$850の利子と$200のプロパティ・タックスの合計$1,050はインカム・タックスの控除ができます。この人のタックス・ブラケットが25%だとすると、$1,050/月x25%=$263だけ税金を減らすことになります。この額を12で掛けると、1年あたり$3,150も税控除できることになります。

つまり、$2,000支払うけれど、それにより$263税金が浮くわけなので、差し引き$1,737を払うのと同じ効果ということになります。レントの$2,000と比べるとおトクな気がします。

家はよいインベストメントである

アップ・ダウンはあっても、時を越えて不動産価格は着実に伸びていくという考え方をもとに、不動産は確実なインベストメントであるという考え方です。2000年から2006年のバブル時には、不動産価格は年あたり14から15%ずつ上がっていきました。もう少しさかのぼって、比較的不動産価格が安定していた1990年初頭からバブル・ピーク時2006年までの間の1年あたり平均的上昇率は7.2%です。さらに期間を広げて1987年から2012年の25年間だと3.5%ほどです。不動産は、それを保有する時期によっては魅力的なインベストメントでありうるいうところですが、どうでしょう。。。

また、家を担保にしたモーゲージ・ローンは、他のローンに比べて利子が安い傾向があります。借り手が優良なクレジットを有していればなおのことです。バブルの頃などはこれを利用して、モーゲージを組むことで6%でお金を借りておき、そのお金を他で10%で投資してお金を増やすという考え方がありました。

たとえば、$200,000分ダウンペイメントに出すことができる資金があったとしましょう。それをダウンペイメントに出す代わりに、10%の利回りのある投資にまわすわけです。ダウンペイメントに$200,000出さないということは、$200,000だけ余分にモーゲージで借りるということですが、こちらの利子は6%です。6%で借りて10%で稼げば4%儲かるというしくみです。ダウンペイメントをできるだけ出してなるべく借金を少なくしたいというのが典型的日本人の考え方ですが、これとは全く逆をいく「お金の回し方」であり、家を購入したからこそできる投資です。不動産価格が下がった今でさえ、クレジットが優良であればモーゲージ金利が非常に低いので、依然として有効な手段でありえるようです。

また住むための家ではなく賃貸のための投資の場合を考えてみましょう。一年に入ってくるレント収入÷購入価格は、rent yield(レント利回り)などと呼ばれ、レンタル物件の収益率を見る目安です。たとえば、$200,000で購入したコンドを月々$1,000で貸すことができれば、$1,000x12÷$200,000=6% となり、投資元本に対して年に6%の利回りがあるということになります。この利回りは、現在では全国平均で9%あたりまで上がってきており、特殊な地域ではさらに高い数字を記録しているようです。たとえばデトロイトでは18%近いとのデータがあります。レンタル物件には、プロパティ・タックス、保険、メンテなどの費用がかかりますが、これらを3から4%と見て差し引いても、デトロイトなら14から15%の利回りがあるという計算になります。これはかなり魅力的な利回りですね。

かなり下がった家の値段

+下げ止まりそう、上昇し始めた家の値段

+歴史的低金利

+エクイティが貯まる

+税控除がある

+よいインベストメントである・・・

=ときたら、もう買うしかない?

次回の「家、買い時?-アメリカ不動産市場を読む(2)」も読んでね。。。

2 comments

  1. ありがとうございます。このトピック、ここ数ヶ月、ずーっと気になっていて、知り合いの不動産エージェントにも質問したり、時間がある時にInternetで情報を集めたりしてたんですけど、なんせ素人ですから、なかなか判断がつかず、わかりやすく説明していただけて、ホントにいつも助かります。

    ざっと不動産関係のサイトを検索してみると、フォークロージャの物件を含め、どれも結構長い間マーケットに出てて何回も値段を下げていっているパターンを見ていたので、知り合いの不動産エージェントからも、特に、ここ数ヶ月インベントリが少なくてBidding Warになっていると言う話を聞いたときは、「えっ。うそでしょう。」と信じられませんでしたが、どうもそうみたいですね。そんな話を聞いたら、余計にこの機会を逃す前に「もう買うしかない?」の結論に達していたところだったんで、パート2を読むのが待ち遠しいです。

    1. いつも、コメントありがとうございます!励まされます。パート2、金曜日に出ますので、どうぞよろしく・・・。

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