リタイヤメント資金は順調に貯まっていますか?順調な人もそうでない人も、一生懸命貯めたリタイヤメント資金を、いざどう引き出して使っていくかというのは大きな問題です。資金が十分であれば、ある程度余裕をもって引き出すこともできますが、十分でない場合は、必要な生活費を引き出しつつも、将来なるべく長持ちさせるために引き出しすぎないことも重要です。今回は、あるファイナンシャルプラナーが、「リタイイヤメント資金が決して十分とはいえないリタイヤメントを控えた夫婦」のケースをつかってシュミレーションしているケーススタディを見つけたので、シェアします。
典型的なアメリカのリタイヤメントを迎える夫婦のケース(Federal ReserveのSurveyに基づいて)を使っています。詳細は次のとおり・
- 65歳の夫婦
- リタイヤ前の世帯収入は$75,000
- リタイヤ後は年間$60,000で生活したい
- 65歳で受給開始した場合のソーシャルセキュリティ年金は夫婦合計で年間$28,000ほど
- リタイヤメント資金は$200,000
- 返済済の持ち家の市場価格が$200,000
- 他に資産なし
所見
まず、ぱっと見ただけで、年間$60,000のリタイヤメント後の生活をサポートしていくのはかなり難しいかと思われます。すでに病気を抱えており寿命がふつうより短いことが予想されるというのでない限り、デフォルトケースでは寿命を95歳に設定しますが、そうすると65歳以降30年間を支えていくには$200,000の資金ではかなり心もとないといえます。
単純に計算して、$60,000の生活費からソーシャルセキュリティ年金の$28,000を引くと、差額は$32,000となり、これを手持ちの$200,000から捻出することになりますが、$200,000÷$32,000=6.25年となり、7年足らずで資金は枯渇することになります。
では、どうすればよいか・・・ですが、このリサーチでは、シュミレーションの結果、下記のような方策を挙げています。なお、それぞれの策の有効度は、個々のケースで異なってきます。どのケースにも同じように有効とは限りませんので、ここでは一般的な考え方としてとらえ参考にしてください。
一番最初に策として挙がっているのが・・・
株式に投資
数十年のリタイヤメント期間を$200,000の資金でサポートするためには、少ない資金を有効に運用するしかありません。通常は、リタイヤメントするまでの間に株式比率を上げてアグレッシブに増やし、リタイヤメント後は低株式比率の安全運用をするというのが教科書的なやりかたですが、ここではそうもいっていられません。
アメリカでは10年くらい前までは、リタイヤメント後は株式比率をゼロ~10%くらいに下げて安全運用するという考え方がありました。アロケーションを自動調整してくれるターゲットデイトファンドなどでも、リタイヤメント以降は株式比率がガクンと下がっていたものが多かったように思います。しかしながら、そこまで低リスク・低リターンにすると、長いリタイヤメント期間をサポートしきれないケースがたくさんあることが判明したのでしょう、最近では株式比率はリタイヤメント後も20~30%を確保しているものも多くなっています。
もちろん十二分に資金が貯まっていれば安全運用でも問題ない場合もあります。しかし、資金が少ない場合には、ある程度リスクを上げて運用していくことが不可欠になります。
このリサーチのケースでは株式20~30%でも足りないようで、株式50%:債券50%のアロケーションを提案しています。ただし、このレベルで運用しても、年間$60,000 - $28,000で計算された差額$32,000を毎年引き出していては、資金早期枯渇の可能性は95%と、ほぼ確実という結果でした。
そこで次の策が・・・
固定パーセンテージの引き出し
差額$32,000という固定額を毎年引き出すのではなく、固定パーセンテージ - 具体的にはこのケースでは3.15% *インフレ調整あり - を提案しています。
固定パーセンテージ方式では
年初のポートフォリオ残高 x 固定パーセンテージ (この場合の一年目は$200,000x3.15%)
というように計算され、市場が好調で残高は高いときには多い額を引き出し、反対に市場が不調で残高が低いときには少ない額を引き出すということになります。
引き出し額が変動するのである程度生活の調整が必要ですが、反面、資金は長く続くことになります。
生活費をどうしても譲れない固定費とある程度フレキシブルに調整できる変動費に分けておき、生活費の整理をしておくことが必要です。
これと関連して・・・
生活の低コスト化
このケースでは、引き出しパーセンテージを3.15%と低く保っているため、ソーシャルセキュリティと合わせた合計の年間収入はリタヤメント期間通算の年間平均$31,000ほどで生活する必要があることになりました。
希望していた$60,000にははるかに及びませんが、ただこの夫婦の場合、持ち家が返済済みですので、モーゲージやレントがかかりません。住居にかかる費用はプロパティ税と保険などですが、これに食費やユーティリティなどの費用と合わせて$31,000(月$2,600)に調節することは不可能ではありません。ポイントはリタイヤメントに入る以前から、この枠内で生活することに慣れておく、準備をしておくということです。老後は(保険にもよりますが)医療費もかさむ可能性もありますから、できるだけ低コストで生活するよう生活を整理しておくとよいでしょう。
このシュミレーションでは、株式50%:債券50%の運用+年間3.15%の引き出し(通算平均で年間$31,000での生活)にしても、まだ10%の確率で資金が早期枯渇するとう結果でした。
そこで次の策・・・
RMDをベースに引き出す
固定パーセンテージ3.15%の代わりに、RMD(Required Minimum Distribution)のルールに準じて引き出してみると、資金早期枯渇がゼロになったと報告しています。リタイヤメント資金の引き出し法としてのRMDの有効性については、こちらの記事でもとりあげていますのでご参考まで。
RMDの導入により、リタイヤメント期間通算の平均年間引き出し額は、上の$31,000から$33,000に増えました。
資金枯渇を防ぐために、固定額 → 固定パーセンテージ → RMD での引き出しというように、よりフレキシブルに引き出し額を変化させて対応するわけです。
それでもまだ足りないなら・・・
リバースモーゲージ
65歳でリタイヤメント資金が$200,000というのは少し心もとなく、株式投資+フレキシブルな引き出し額の対応を導入してもまだ足りないという結果でしたので、ここで頼みの綱となるのが持ち家です。この夫婦は完済している持ち家がありますので、これを担保にリバースモーゲージを組み、生活費を確保することができます。
リバースモーゲージの利用にあたってはいろいろ注意点があり慎重になる必要がありますが、正しく使えばかなりこころづよい助けとなります(参考:リバースモーゲージ - リタイヤメントと金策)
リバースモーゲージの導入により、リタイヤメント期間通算の平均年間引き出し額は$39,000まで増えました。
ここまでやってもまだ希望の$60,000には届かず。それなら・・・
長く働く
現在65歳という前提ですが、ここでリタイヤするのではなく、ソーシャルセキュリティのフルリタイヤメント年齢である67歳、あるいはさらに70歳まで働きつづけ収入を確保するとともに、リタイヤメント資金を手付かずのまま運用するというのは、非常に高い効果がありました。
長く働くということで、老後の期間が短くなること(コストが少なくなる)+リタイヤメント資金づくりの期間が増える というダブルの効果が得られるので、資金が少ない場合にはまず考慮すべきといえるでしょう。
リタイヤメント資金のよりアグレッシブな運用とともに67歳まで働くシナリオでは、平均年間引き出し額は$46,000まで増え、70歳まで働くシナリオでは$57,000まで増えました。
アニュイティはどうか・・・
このリサーチでは、65歳時点でのImmediate Annuity(一括で資金の$200,000を入れて、65歳にはじまり生涯、固定収入を得る)購入やDelayed Annuity(65歳で一部資金を入れて、85歳以降生涯、固定収入を得る)の導入もテストしていますが、平均年間引き出し額は$34,000~$35,000にとどまりあまり効果を見ませんでした。
ひとつには、このケースはリタイヤメント資金自体が少ないので、アニュイティに回した後の手持ち資金があまりに少なくなってしまうことが要因かと思われます。手持ち資金がある程度あり、アニュイティに入れても、自由になる資金がある程度ある場合には、アニュイティは固定収入確保の有効な手段になるかと思います。
大変に勉強になりました。
やはり私も老後は資金不足がネックになるかが常に不安です。私の場合は65才(20数年後)になったら、日本に帰国しようと思ってます。理由は生活費、医療費等がアメリカと比べ安く過ごしやすいと思うからです。また、故郷に帰り残りの時間を家族、親戚、旧友と楽しく過ごすのも良いかなと思います。凄く安易の考えでいますが、このオプションもありでしょうか?とにかくリタイアメントプランをおろそかにしないように気を使ってます。
日本に帰国するという選択は大有りだと思います!こちらの記事も参考になるかもしれません。