Last Updated on 2020年1月16日 by admin
大切にためたリタイヤメント資金。いざ老後の生活に入ったら、今度はその資金を大切に使わなくてはなりません。途中で資金が枯渇してしまっては困りますから。ここにも計画が必要です。ここ20年くらいの間、「リタイヤメント資金を準備するために、どう投資ポートフォリオを運用するか」というトピックについては、多くの議論やリサーチがなされてきました。ベビーブーマーがリタイヤメントに入り始めたころから、「リタイヤメント資金をどう引き出すか」というトピックも出始めるようになりましたが、このテーマについてはまだ多くの研究と議論が必要な段階といえます。今日は、RMDが引き出しのひとつの有効な指標になるという興味深い記事を見つけたのでシェアします。
RMDとは
401(k)やTraditional IRAなどは、70歳半(2019年末SECURE ACTにて72歳に変更)になると、そこからお金を使う必要がなかったとしても、最低限の引き出し額(Required Minimum Distribution :RMD)を引き出すことが義務付けられます。これは、リタイヤメント資金準備目的がゆえに税優遇のあるプログラムでお金を貯めながら、実はあまりリタイヤメントに使わず、税優遇を受けたまま次世代へ相続するなどの使われ方を防ぐ意味があります。年々最低限の額は引き出させ、課税するというのがRMDの存在意義です。
RMDは年齢と残高によって毎年計算されます。この残高は401(k)やTraditional IRAなどの総額(Roth IRAはRMD不要で、これに含まれず)が使われ、RMDを具体的にどの口座から引き出すかについては自由があります。これを怠ると高額のペナルティがありますので気をつけます。
・・・というわけで、RMDはどちらかというと、「(引き出したくなくても)引き出さないといけないもの」、「引き出し忘れるとペナルティがあるもの」というネガティブなイメージだけがつきまといがちだったのですが、このRMDをリタイヤメント資金引き出しの指標として使ってみたところ、うまいぐあいに引き出しが調整されて、しかもリタイヤメント資金が枯渇することなく最後まで保たれた・・というシュミレーションを、今回、見つけたわけです。
リタイヤメント資金を使うにあたってのポイント
まず、RMDのシュミレーションの話に入るまでに、リタイヤメント資金を使うフェーズで、キーとなるポイントをまとめてみます。詳しくは、下のシリーズをお読みください。
リタイヤメント資金の賢い引き出し方(1) - 相続と複数口座
リタイヤメント資金の賢い引き出し方(2) - 老後の資金運用ポートフォリオ
リタイヤメント資金の賢い引き出し方(3) - 毎月の生活費の確保のしかた
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リタヤメント生活に入る前に、無駄な出費を削るための生活の見直しをする。
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出費を純生活費(レント、食費、ガス代など固定費)と、変動費(旅行、エンターテイメント、社交費など余裕があれば出費する費用)に整理する。
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ソーシャルセキュリティ、企業年金などの固定収入で、純生活費の何パーセントがカバーできるかチェックする。
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上のパーセンテージが少なければ(50%以上なければ)、質の良いアニュイティ(一括で支払って、年金化)などの購入を考慮する。
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純生活費から固定収入を差し引いた額の6か月から12か月分ぐらいの現金を手元に用意する。
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老後の投資ポートフォリオは、リタイヤメントポートフォリオの大きさ、寿命、固定収入の大きさなどをトータルで考え、アロケーションを決める。
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枯渇しないように、ポートフォリオから引き出す:マーケットの状況が悪いときには少なく引き出し、状況が良い時には多く引き出す、ダイナミックな調整を行いつつ引き出すのがよい。
この7のダイナミックな調整をしつつの引き出し方として、以前、Vanguard社が編み出した、上限・下限設定の範囲で固定パーセンテージ引き出していく方法を紹介しました。これは、毎年ポートフォリオの固定パーセンテージ(例えば5%など)を引き出すのを基本とするが、ただマーケットの状況が悪い(資産価値が下がっている)ときには下限(たとえば2.5%減の額)を引き出し、反対にマーケットの状態が良い(資産価値が上がっている)ときには上限(たとえば5%増しの額)を引き出すというように調整するもので、シュミレーションの結果、マーケットがいいとき多く引き出し、悪いとき少なく引き出すという意味で、なかなか有効な策であることがわかりました。
ただ、毎年の判断と計算が面倒で、将来的にはもしかしたら自動プログラムが開発されたりするかもしれませんが、自分でやるには少々面倒です。
この代替策として今回ご紹介するのがRMDを使うやり方です。
RMDの計算のしかた
RMDは下の計算式で毎年計算されます。RMDは、投資残高をその年の寿命予測年数で割った額です。寿命予測はIRSが発表する下記のテーブルで確認します。
ある年のRMD = 前年末(当年初)の口座残高 ÷ 下のDistribution Period
これは、「その時ある投資資金を、残りの生存年数で割った額で、生存年数の一年分の額をその年に引き出す」という考え方です。年々、生存年数は少なくなっていきます=分母が小さくなっていきますので、裏返して考えれば、ポートフォリオから引き出すパーセンテージは上がっていきます。ただ引き出しのため、ポートフォリオの残高はだんだん小さくなっていくので、年を経るにつれて
だんだん小さくなるポートフォリオ残高 x だんだん増える引き出しパーセンテージ
という図になり、ある程度安定した引き出し額が確保される(投資ポートフォリオの投資利回りにもよりますが)ことになります。
シュミレーションの結果
下記は、リタイヤメント時に残高$500,000のポートフォリオを 低リスク運用(2%)した場合(オレンジ)と、中高リスク運用(年平均7.5%)した場合(ブルー)とのそれぞれで、3つの引き出し方法:1)毎年固定で$20,000ずつ引き出す、2)年初のポートフォリオ残高の4%を引き出す、3)RMDを引き出す についてシュミレーション(モンテカルロ法)し、40年間にわたり、
年平均で引き出し額がいくらであったか と
40年後の残高 を計算したものです。
1)毎年固定で$20,000ずつ引き出す では、低リスク運用のときは35年間で資金が枯渇してしまい、反対に高リスク運用のときには、反対の極端な結果が出ました。40年後の残高は約$7ミリオンであり、もっと引きだせたのに引き出さず必要以上の残高が残った状態ですが、(表には記載がありませんが)反対にシュミレーションの3%の最悪ケースでは30年よりも前に資金が枯渇したと報告されています。つまり引き出しすぎるか、引き出しなさすぎるかの可能性もある不安定な結果となりました。
2)年初のポートフォリオ残高の4%を引き出す では、自然と「マーケットの状況が悪いときには少なく引き出し、状況が良い時には多く引き出す」効果が得られるため、結果は1)のケースの両極端さが少し軽減されます。低リスク運用では、年の平均引き出しが$13,942と少なくなりますが、40年後の残高も$215,000ほどで、高リスク運用では、年の引き出し額が$52,486と増え、40年後の残高は$2.5ミリオンでした。シュミレーションでは40年以内に資金枯渇する可能性はゼロでした。ただし、どちらもまとまった額が残高として残っていますので、もう少し引き出してもよかったという状態です。両極端さは緩和されたものの、もう少し引き出す額を増やせた状態です。
3)RMDを引き出す では、年の平均引き出しが低リスク運用で$17,281、高リスク運用で$64,960と大きな開きがありますが、1)や2)と比べると最も大きい引き出し額を確保していあす。どちらも40年後の残高は、1)や2)のようにミリオン単位で資金が残ることはなく、また40年内の資金枯渇の可能性もゼロでした。
よって、ポートフォリオの運用成績(どのくらいのリスクをとるか)によって、実際の引き出し額は大きく変わってくるものの、年々の引き出し額とポートフォリオの枯渇リスク、最後の残高という要素を全体的に見ると、RMDでの引き出しはなかなかバランスのとれた方法であるという興味深い結果です。
RMDは、リタイヤメント資金として税優遇で貯められた資金に対しての、適切なタイミングでの課税を第一の目的に開発されたものですが、同時にリタイヤメント資金を枯渇させずことなしになるべく効率よく引き出すという個人側のニーズのためにも、なかなか有効な方法だといえそうだ・・という結果でした。
定年して以来、必要な時にIRAから、お金を引き出していましたが、このIRAをおろすタイミング、例えば一月と十二月に11Kを引き出し、1Kを税金として納めた場合にタックスリターン時の所得税に影響がでるのでしょうか。一年と言う年度内であれば、同じというふうに理解していたのですが、今年タックスリターンをプロにお願いしたところ、何時引き出したか聞かれたので、ちょっと気になっています。
課税額は年間に引き下ろした額に対して計算しますので、いつしたか、何回したかは関係ありません。70歳半を超えておられ、Traditional IRAの場合ですと、RMDが発生し、それとの兼ね合いでこの話がでたのかもしれません。直接プロに聞いてみるのがてっとりばやいかと思います。