ロボアドバイザーという言葉をお聞きになったことがあるでしょうか?オンラインで、顧客にアンケートなどに答えてもらい、顧客の許容リスクレベルを測り、それによって低手数料のETFなどを中心に組み合わせポートフォリオをつくり管理する自動化サービスのことですが、ここ数年で、すごい勢いで注目が高まり、ビジネス拡大が進んでいます。インデックスファンドへの関心とあいまって、インッデクスETFとロボアドバイザーのコンビネーションで投資ポートフォリオを組むのが、いわば流行りになっています。今回は、2回に分けそのあたりの投資業界の流れと、ロボアドバイザーの選択について注意すべきことについて考えてみます。
ETF手数料カット競争
最近各社のETF(Exchange Traded Fund)の手数料カットの競争が激しくなっています。BlackRockは自社の15種のETFの手数料を下げると発表。次いでCharles Schwabが自社の5種のEFTの手数料削減の発表をしました。VanguardやFidelityも、EFTへ客引き寄せ策を強化しています。2008年の金融危機以降、投資家のActively Managed Fund(アクティブファンド)離れは継続的に進み、その分インデックスファンドへ投資マネーが流れ込んでいます。インデックスファンドの中でもETFの形態で提供されるものへの顧客の関心は高く、各社はETFの低手数料を歌い、顧客集めにたゆまぬ努力を注いでいます。
アクティブファンド投資の人気低下
金融危機までの間、人気のあった投資法はアクティブファンド投資でした。ファンドにより程度の差はありますが、その時点その時点で、“儲かりそうな株”を安い時に買い、高い時に売るという投機的な方法を繰り返すことで、利ザヤを稼いでいく方法です。このやり方は、一度買ったら持ち続ける(Buy & Hold)やり方に比べると、労力と手間がかかるため、もちろん手数料も高くなります。金融危機前は、投資家の中に危機感も低く、手数料が見えるように開示されていなかったこともあり、そのやり方に疑問をいだく人もあまりいませんでした。ところが危機をきっかけに、アクティブファンドのやり方とその手数料の妥当性に大きな注目があたるようになりました。結果、人々は手数料の高いアクティブファンドからお金を引き出し、手数料の低いBuy & Hold型のインデックスファンドなどに投資をするようになりました。
Active InvestingとPassive Investing(Buy&Hold/Index Fund Investing)についてはこちらの記事をご参考に。
インデックスファンドに投資するにあたり、大きく分けて二つの方法があります。ひとつは通常のミューチュファルファンド型のインッデクスファンドに投資する方法。401(k)などでは、この形が主流です。もうひとつはETFのインデックスファンドに投資する方法。個人である程度フレキシブルに投資先を変えたいなどという場合には、この方法が適切といえます。
ミューチュアルファンドとETFについてこちらの記事をご参考に。
今回、各社が顧客獲得にしのぎを削っているのはこの後者のほうです。
ロボアドバイザーの登場
この動きはロボアドバイザーの登場と深くかかわっています。ロボアドバイザーをご存知ですか?オンラインで、顧客にアンケートなどに答えてもらい、顧客の許容リスクレベルを測り、それによって低手数料のETFなどを中心に組み合わせポートフォリオをつくり管理する自動化サービスのことです。時間がたつにつれて必要となるリバランスや、節税対策を念頭に売り買いを司る機能(Tax Harvesting)も果たします。
金融危機以前は、顧客のニーズに合わせ、ファンドを使ってポートフォリオをつくり維持し、それに対して1%~数%のマネジメント料をとるアッセットマネージャーとかファイナンシャルアドバイザーなどと呼ばれる専門家(つまり人間)の人気も高かったのですが、危機以降は、ファンド自体の手数料に加え、このようなアドバイザーへの手数料も疑問視する向きが高まり、前述のようなロボアドバイアーへの人気が高まっています。アルゴリズムベースのこの自動サービスで、低手数料のインデックスEFTを中心に投資をすることで、ファンド手数料とアドバイザー料をダブルで削減でき、投資家には魅力的な話といえるわけです。
ロボアドバイザーの対象範囲の拡大
これからもロボアドバイザーへの人気は高まり続ける気配があり、今のところロボアドバイザーが中心に用いられているのは、IRAやTaxable Account(401(k)や529などのような税優遇措置のない、通常の投資口座)ですが、今後はこれまでロボアドバイザーの範囲外とされていた401(k)や529プランまで対象にされていくことになるようです。ロボアドバイザーの主力はこのような動きを見せています;
- Wealthfrontは、これまでアドバイザーを介して売られていた529プランに介入し、ロボアドバイスサービスであるWealthfront 529プランを開始予定。手数料はファンド手数料+ロボアドバイス手数用で43%~0.46%(That is higher than some 529 plans sold directly to consumers.
- Bettermentは1月にスモールビジネス向けロボアドバイス401(k)プログラムを開始。
既存の金融機関もロボアドバイス?
これらはロボアドバイザーとして始まった新興企業ですが、この向きは既存の銀行や既存の投資会社にも影響を与え、それらは自社内でロボアドバイスサービスを立ち上げるか、あるいはロボアドバイザー会社を買収することで、自社でもその機能を準備しようと画策しています;
- VanguardはVanguard Personal Advisor Services開始
- Charles SchwabはSchwab Intelligent Portfolios開始
- FidelityはFidelity GOを開始
- Bank of Americaが自社のロボアドバイスサービスを立ち上げると発表
- Northwestern Mutual が LearnVestを買収
- Interactive Brokers が Covestorを買収
- Manulife Financial(John Hancock)が Guide Financialを買収
- Invesco が JemStepを買収
- BlackRock がFutureAdvisorを買収
セールルマン的ロボアドバイザー
既存の金融機関が提供するロボアドバイスサービスであれば、もちろん自社のファンドを中心にポートフォリオを組むようアドバイスすることが予想されますが、一方で、そもそもは独立系ビジネスとして立ち上がったロボアドバイザー会社も金融各社の傘下に吸収され、パートナーシップを組んでいます。ファンド運営をしている各社は前述のようにETFの手数料を下げるとともに、ロボアドバイスサービスも取り入れ、顧客の囲い込みに一層の努力を注いでいます。この意味で、もはや「完全に独立し中立した」立場からのポートフォリオ提案が難しくなることが予想されます。
ある専門家は、「今後はロボアドバイザーはディストリビューション・チャネルと化すだろう」と言っています。つまり、完全に独立し中立した」立場でのアドバイスをするというよりは、自社あるいは関連会社のファンドを売るためのセールスマン的役割をになうことになるということです。
たとえばCharles SchwabのロボアドバイザーはSchwabのETFを主に提案するだろうし、BlackRockであればいShare ETFを、InvescoであればPowerShares ETFをというように、それぞれのブランドをメインにポートフォリオを組むであろうことことが予想されます(というかすでにそうなっています)。
薄利の世界
2015年7月のデータになりますが、ロボアドバイザー会社トップ11社合計の、ロボアドバイス対象投資額は$8ビリオン、2014年4月の時点ではわずか$2.6ビリオンであったので、一年とわずかの間に3倍以上の投資額に膨れあがています。
このような急速な投資額の伸びを記録している一方で、Morningstarの分析によると、ロボアドバイサーの損益分岐点は意外に高く、低くて$16ミリオン、高くて$40ビリオンという投資額を集めて初めて利益がではじめるという結果でした。
細やかな投資アドバイスやパーソナルケア、特別にカスタマイズされたファンドという「特殊化」に基礎をおくのではなく、自動化による低手数料化に重きを置くロボアドバイザーは、とにもかくにも「低コストで勝負」です。手数料における価格競争は激しく、それによりすでに経営上のチャレンジを抱える会社もあります。答えは多くの場合、前述した既存の大手金融会社に買収され傘下に入るという生き残り方です。この意味でも“セールスマン”としてのロボアドバイザーという要素が強化されていきます。
今のところBetterment(下記)とWealthfrontは独立系ロボアドバイザーであり、“どのファンドを提案するか”において縛りがないとしています。
完全に中立とはいえない、セールスマンと化したロボアドバイザーも存在する中、自動化だから低手数料で安全・・・と一足飛びにうのみにする姿勢は避けるべきです。そうすることは、金融危機以前に、「ブローカーが薦めてくれるからきっといいものに違いない」と手数料に気を配らずファンドを買っていた失敗を、ただ違う形で繰り返すだけです。次回は、ロボアドバイザーを選ぶ場合、どのようなことに気を配るのがよいかを調べます。