2016年のスーパーボールのコマーシャルで話題になったRocket Mortgageという会社をご存知でしょうか?「航空券やくつをオンラインで買うように、モーゲージローンもオンラインで買う!」というメッセージで、オンラインショッピングの要領で簡単に素早くモーゲージのApprovalをとり、素早くモーゲージ契約をCloseするというのが売りです。あまりに簡単なモーゲージローンの発行は、サブプライムローン問題の二の舞になるのではないかという危惧の声を聴く半面、なんでもオンラインで即時解決したい世代には期待の声をもって受け入れられました。現在もアグレッシブな宣伝が行われ、モーゲージ業界に改革を起こしつつある存在です。
Rocket Mortgageとは
Rocket Mortgageは、Quicken Loanの下のオンラインサービスポータルの名前で、Quicken Loanの一事業です。Quicken Loanは、全米モーゲージレンダーの中でローン発行額において、Wells Fargoに次いで2位、オンラインレンダーの中では1位となっています。Quicken Loanは、JDPowerの顧客満足度調査でも高い評価を受けており、過去何年も一位の座を記録しています。
そもそもQuicken Loanはオンラインでの情報提供・収集機能と、実際にモーゲージエージェントと話したりメールをやりとりしたりできる従来型サービスとの両方を兼ね備えた存在ですが、Rocket Mortgageは、“Push button. Get mortgage.”をキャッチプレーズに、はじめから最後まで人を介さず、すべてオンラインでスピーディにモーゲージ発行を行うことを実現しています(必要であれば、Quicken Loanで控えているモーゲージアドバイザーに話をすることは可能)。
2016年にQuicken Loanのローン発行高は$17ビリオンという最高記録に達し、このうち$7ビリオンがRocket Mortgageを介してのローンとなっています。Rocket Mortgageが別会社だったとして、この$7ビリオンという数字が単一ビジネスの成績だとすると、それだけでも全米30位に入るという結果で、驚くべき成長度とも言えます。Rocket Mortgageの80%がはじめて家を買う顧客だったとのことです。
簡単にまとめると以下の要領で進んでいきます。
- 雇用情報を入力すると、雇用や収入などの情報が、オンラインを介して即時確認が行われます(60%の顧客の場合に可能とのこと。自営(Self-employed)の場合などだと不可能)。
- 銀行口座などの資産についても、顧客提供のログイン情報をもとに、各金融機関から自動的にステイトメント(明細書)を収集します(全米金融機関の95%から可能)。
- 個人情報を入力すると、クレジットヒストリやスコアをクレジットビュロー3社から自動収集します。
- 物件情報を入力すると、公的データベースからプロパティタックスや価格などの情報を自動収集します。
- 必要ローン額を入力すると、Qualifyするかどうかが数分のうちに判断されます。
- ワンクリックでPre-Approvalレターをプリントして使うことができます。
- 利子、ポイント、手数料などのコンビネーションでいくつかのローンが提案され、それぞれの要素をスライドバーを使って自分で変更することで、自分の要件にあったローンを組み立てることが可能です。ここまでおそらく10分以内。
- 家の売買契約が成立したところで、正式にローン発行のためのプロセスに入ります。気に入ったローンを選択し、ワンクリックで利子をロックでき、査定など第三者機関のサービスのスピードによりますが、速ければ一週間で契約クローズできるとのこと。
Rocket Mortgageは不動産エージェントにも囲い込みをかけています。スピーディなPre-approvalや契約クロージングは、顧客がいくらくらいの家を買う能力があるのかを早い段階で即座に把握することを可能にし、不動産エージェントにも魅力的です。通常のモーゲージ会社は週末は休みですが、オープンハウスは週末のことが多く、足を運んできた顧客と一緒に、その場でPre-approvalプロセスをすることができることは非常に便利でもあります。また、オンラインで電子的に自動収集・確認される収入や雇用情報などをベースにしたPre-approvalは、口頭の情報収集・マニュアル確認での従来のPre-approvalよりずっと正確で信頼がおけるということも、不動産エージェントには魅力です。今後、エージェントからRocket Mortgageの紹介をされる機会も増えるかもしれません。
注意したいこと
たしかにすばやいPre-approvalの発行、クローズまで時間がかからないというのは大きな魅力ともいえますが、以下は利用上の注意点です。
すばやさこそが最大の利点でもあり欠点にもなりえます。欲しい家が見つかった時、Pre-approvalを早く欲しいという時には、Rocket Mortgageは最大の見方ですが、モーゲージも他の商品やサービスと同様に、見積もりをいくつか集めることが賢明です。いくら便利だからといって、一社だけに特化し、他と比べないで瞬時に決めるというのはあまりよいやりかたではありません。JD Powerの調べでも、モーゲージを利用した顧客のなかでローン選択に不満が残るとした顧客のうち、72%の顧客が特定のローンを選ぶようプレッシャーがあったとしており、状況が差し迫っていたりなどで自分が選択の余地のあるオプション(他のローンの候補)にどんなものがあったのかよく理解できなかったとしています。
スピード発行が重宝なのはわかりますが、大きな金額がかかわる家の購入ですから、いくらの家を買うか、ダウンペイメントはいくらにするか、モーゲージはどんな種類があって、そのうちどのタイプを自分は望むか、自分の所得やクレジットスコアではどの程度の条件が見込めるかなどある程度のリサーチをしてから、家を探し始めるのがよいでしょう。家を見つけてからモーゲージのことを初めて考えるのはよい進め方ではないでしょう。
Rocket Mortgageは雇用情報や資産情報が簡単に即時確認できる人、つまりスタンダードなW2雇用者向けです。自営の場合などマニュアル確認が必要な人にはうまく適用できない可能性があります。
またRocket Mortgageは最短スピードを保証するものかもしれませんが、最低金利・手数料を保証するものではありません。ある意味で、スピードに対して払う手数料というのも含まれている可能性もあります。よって、Rocket Mortgageを使ったとしても、やはりいくつかの他の金融機関からも相見積もりをとることが賢明です。
Rocket Mortgageは、Lending Tree、Zillow、Bankrateなどようなモーゲージブロカーサイトではありません。これら3社はブローカーとして、複数のモーゲージレンダーを相手にしており、顧客が条件にあったレンダーをサーチできる機能を提供しています。一方、Rocket Mortgageは、あくまでQuicken Loanのポータルであり、一社のローンしか提供していませんので、このことはよく理解しておく必要があります。複数の見積もりが集めたいのであれば、敢えて上の3社のサイトを使う方が効率的ともいえます。
最後にはいわずもがな、個人情報をオンラインで入力することに対する憂慮です。私たちの望むと望まないとにかかわらず、雇用情報も資産情報も多くがすでにデータベース化されオンラインでアクセス可能となっています。そのうちにはプロパティ情報など完全に公的情報として公開されているものもあります。ただ、Rocket Mortgageなどのサービスを利用すると、それらの散財するデータが連結されるころになり、個人情報の塊が大きくなって一括管理されるというのはあまり気分的によいものではありません。とはいっても、従来型の金融機関の窓口でモーゲージを契約しても、同じ分の情報がデータ化されて保管されるわけなので、Rocket Mortgageのほうが危険かというと一概にはそういえないかもしれませんが。。このあたりは、個人的な判断になるかと思います。
一つ確実なのは、モーゲージ業界が新しいフェーズに入ったということでしょう。昔は、航空券は旅行代理店に出向くか電話するかで買うしかなかったものが、今では日にちや時間、ストップの数などを入力して、好きにサーチをすることが可能になりました。モーゲージもその時代に突入しました。消費者として、ひとつの代理店のWebサイトだけみて航空券を買わないのと同じように、モーゲージも提供されているオンラインサービスをうまく選別しながら、比較検討を十分行って選ぶのがよいのでしょう。