病院からの請求書は そのまま信じない!

無駄な医療費を払わないで済むようにするためには、医療サービスを受ける前に確認をするのが一番効果的です。請求書が来てしまってから値段交渉をするのは、レストランで食事を済ませてしまってから「安くしてください」というのと同じです。ただ、レストランで「安くしてください」といってもなかなか安くしてくれないでしょうが、医療費の場合、安くなる確率はずっと大です。その理由は、1) そもそも値段が間違っているかもしれない、2) 間違っているとはいわないまでも、値段のつけ方が案外いい加減、3) 情状酌量ということもある からです。

来た請求書をそのまま払うのではなく、それが妥当なものか確認するのはわたしたちの責任です。では、どんな確認をしたらよいのでしょう。どうやったら、医療費を節約することができるでしょうか。

1.Itemized billをリクエストする

病院から来る請求書は、Summary billといって大雑把な医療サービスの記述しかされていないのがしばしばです。また退院する時点で、医療費を支払うことを強く勧められる場合もあるようです。しかしながら、支払いはItemized bill(明細請求書)をよく吟味してからにするのがよいようです。一度払ってしまったものを後で取り返すのは大変な労力がいりますから、支払う前にそれが間違いのない正当な額であることを確認することがたいせつです。

Itemized billというのは、健康保険あるいは患者に対して請求されるすべての医療措置、備品、薬などを列挙し、それぞれの値段を併記したものです。お金を払うのだからこのような請求書はもらって当然のものだと思いますが、まだまだリクエストしないともらえない場合が多いようです。患者からリクエストがあれば病院は必ずItemized billを発行せねばならないことに法律で決まっている(Patient’s Bill of Rights by the American Hospital Association)そうですから、迷わずリクエストしましょう。下は、Itemized billの例。

2.Itemized billを吟味する

保険会社が監査人を雇って、病院の出した請求書を吟味させたところ、90%以上の請求書にエラーが見つかったという報告があります。クレジット調査会社Equifaxの行った監査では、$10,000以上の請求書では平均して$1,300のエラーがあったという報告もあります。Co-payさえ払えばあとはすべて保険会社がカバーしてくれた一昔前は、患者にとってはこれは大きな問題ではありませんでした(HMOなら今でもCo-payさえ払えばOKというプランもありますが)。しかしながら、現在では無保険の人もいますし、健康保険があっても高いCo-insuranceを負担せねばならなかったり、High deductibleプランなので自己負担がほとんどという場合もあるでしょう。結果的に、少なくとも自分の払う分に関しては、きちんと請求書を吟味することが非常に重要になりました。

医療関係のお仕事についていらっしゃる方なら話は別でしょうが、わたしのようなまったく医療知識のないものにとっては、病院はまさにブラックボックス。人間、わらかないことは、「そういうことなんだろう。間違いがあるはずがない」と決め付けて、言いなりになりがちです。ところが、これがキケンなようです。「病院の請求はかなりいい加減(かもしれない)」ということを頭において、自分からチェックするという姿勢が必要なようです(疲れるけど・・)。

では、具体的にどんな間違いがあるんでしょう?

その1:二重請求

請求エラーのナンバー・ワンは二重請求だそうです。Laboratory(ラボ費)というような一般名称で何度も同じような請求がされていたり、あるいは同じひとつの処置について、お医者さんからはPhysician Serviceとして、病院からはHospital Servicesの一部として二重に請求されるということもあるらしいです。また、一度のレントゲンに二度分の請求があったため質問したところ、レントゲン写真の現像で一度目に失敗したのでやりなおしたなどと、患者側にはまったく非がない理由であったいうこともあったそうです。ひとつひとつ見ていって、この項目は何だろうと思ったら質問することです。

その2:「タダじゃなかったの?」

ちょっとした備品でそんなに高額ではないのに、仰々しいネーミングをつけて請求が来ることもあるそうです。たとえば、Miscellaneous(その他の費用)として$500以上の請求項目があったので聞いてみたら、病室のテレビ使用料だったとか、Disposable mucus recovery system(使い捨て・痰処理ツール?)などという請求項目があるので質問したら、ただのティッシュー・ペーパー(!)だったとか、Cough Support Device(せき緩和ツール?)という項目で$57.50の請求があるので問いただしたら、病院からプレゼントでもらったと思っていたテディ・ベア(ぬいぐるみ!)だったとか。さてさて、どんなクリエイティブな医療用品がでてくるのか楽しみですよ!ちゃんと吟味しましょう!

その3:小さいものこそ要注意

エアラインがイヤフォンに$2.00とか、スナックに何ドルとか、なんだかチマチマとお金とりますねえ、この頃。あれの病院版がコレ。比較的大きな額の請求項目は注目を集めがちで保険会社からもチェックが入りますが、小さなものは見過ごされがちなもの。シャンプー、石鹸、はぶらし、トイレット・ペーパーなど細かい請求があったり、手術用トレイの上の備品や、はたまたペースメーカーのねじ一本まで請求されることがあるとのこと。またこれらは、質問すれば、実はRoom and board(室料)として含まれているとか、Surgical Tray/Kit(手術トレイ/キット)とかいうカテゴリーに含まれているとかで、別項目として支払う必要もない場合があるそうです。安いものばかりではありません。出産時、IV点滴のコストは「通常エビデュラル麻酔」という大項目の中に入っているはずなのに、IV点滴を別項目として$360の別請求があったというようなケースもあるそう。細かすぎる項目は、どこかにすでに含まれているのではないか、不当な額の請求でないかチェックしましょう。

その4:ちょっとアップグレード?

これは本当は必要ないのに、ひとつふたつ上の医療サービスに格上げすることだそうです。たとえば、比較的難易度の低い治療しか必要としない処置であったのに、もっと難易度の高い高度な治療が必要であったかのようにCPT/DRGコードを「アップグレード」して請求するというようなことだそうです。単なる事務処理ミスから詐欺的なものまでいろいろあるそうです。

あるいは、本当はGenericの安い薬で十分なところ、ブランド薬をあえて使うことで、請求額を上乗せするというようなやり方もあるそうです。

3.治療記録(Doctor’s orders)と照合してみる

受けてもない医療サービスの請求が来たらたまったものではありませんね。でも、どうです?実際来たら、それをわたしたちは見つけることができるでしょうか?たいだい、麻酔を受けて手術台の上に寝ていたら、何をされているかなんて覚えていられるわけもなく・・・。だけとあきらめてはいけません。自分の病状と治療や手術の流れは掴んでおくことです。注射や薬をもらうときも、それがいったいどういうものであるか、積極的に聞きましょう。自分の体ですからね。そうすれば、あとでItemized billを見たとき、羅列された項目の中にもなんとなく流れが見えてくるかもしれません。

身に覚えのない項目を見つけることができ質問することができれば理想的ですが、そうでなくても、「この項目はどうもわからない」と思ったらとにかく聞いてみましょう。担当医に、「このような処置はオーダーしましたか?」と聞いてみるといいそうです。医師からのオーダーは、処置やサービスを提供するラボや病院に送られ、すべて書類で残っているはずだそうですので、それを確認させてもらうのも手です。また、看護婦さんなど医療スタッフが行った処置についてもすべてログに記録されているはずだそうですので、必要があれば見せてもらいましょう。医療記録部門(Medical Records Department)にコンタクトして自分の治療のDoctor’s orders and nursing notesのコピーをくださいとお願いすればいいそうです。他の患者さんに対するサービスが間違って入力される、手術室利用時間が実際よりずっと多く入力されるというようなズサンなこともありえるそうです。とにかく記録の残っていないものは払わないということです。

4.EOBと照合してみる

医療サービスを受けると、健康保険会社からEOB(Explanation of Benefits)という紙が送られてきますね。オンラインで確認できる場合も多いでしょう。EOBは請求書ではありません。EOBは医療機関が保険会社に提出した保険クレームに関して、請求額や保険適用のためのディスカウント、保険のカバー額、患者の負担額などを説明するものです。この保険会社からのEOBと病院からのItemized billをつき合わせて、項目ごとに照合することも間違い探しのためには有効です。EOBには項目が請求されていないか、保険でカバーするはずなのにカバー適用がないものはないか、あるいはEOBで払わなくてもいいとされている額(保険会社と病院がagreeした額以上の額)が請求されていないかなどチェックしましょう。請求関連の問題は病院に、保険適用関連は保険会社にコンタクトします。

5.請求エラーの訂正をリクエストする

請求エラーは、お医者さんや病院に対して請求書のリチェックをリクエストするだけで比較的簡単に訂正される場合もあるでしょうし、それ以上の努力が必要なこともあります。大きな病院やクリニックだと、Internal Audit(内部監査)部門が設置されていることがあります。請求部門(Billing Department)に調査を依頼しても埒があかない場合などは、独立部門のInternal Auditに監査をリクエストすることもいいでしょう。

6.ただ単に安くしてくださいと頼み込む

医療措置は高額なものになればなるほど、そのサービスをどこで受けるかによって、値段に大きな差が生じます。事前に見積もりをとり、値段を合意の上で医療サービスを受けるのが理想です。しかしながら、そうではなくうっかり高額なサービスを受けてしまった場合や、請求エラーをはじめ値段が下がりそうな交渉はすべてしたけれど、まだ請求が高すぎると思う場合は、ただ単に「もっと安くしてくださ~い」とお願いするというのも大いにありです。

その医療機関がもともと他に比べて安いのであれば、お願いの余地も小さいかもしれませんが、反対に高めの場合、「適正市場価格(Fair market price)」までは下げてもらえるようお願いの余地が残されています。

Healthcare Blue Bookが提示している「適正価格」を参考にするとよいでしょう。これは、Blue Bookの調査による、「そのエリア(ZIPコードで指定)の医療機関が請求する典型的な値段」だそうです。たとえ自分の病院がもっと高い請求をしてきたとしても、「この値段まで下げてくれ」というお願いは、聞いてもらえる可能性があるでしょう。

もし、失業した、すでに多大な医療費を抱えているなど、経済的な困難に直面しているのであれば、それもきちんと説明します。あきらめずに何度もお願いすることがたいせつなようです。交渉がうまくいって請求額が下げてもらえた場合は、すかさず訂正された請求書を発行してもらいましょう。減額をオフィシャルに証明できるものを確保しておくことです。

7.第三機関にヘルプを頼む

医療関係の学校に言った訳でもなく、そういったトレーニングを受けたわけでもなければ、病院相手にどう話を進めればいいか途方にくれることもありますね。そういった場合は、プロを雇って請求書チェックと値段交渉をお願いすることもできます。時間給で払うなら、一時間$50~$175、成功報酬なら節約額の15%~35%というのが相場だそうです。

Patient Advocate Foundationは、患者、保険会社、雇用主や債権者とを間で、保険上の諸問題や医療費負担など調停サポートをしてくれるそうです。さまざまな情報が提供されており、e-mailやチャットなどで相談をすることもできるようです。

Medical Cost Advocateは、医療請求問題にフォーカスした有料のサービスを提供しています。請求書を提出すると内容を吟味してくれ、問題箇所があれば患者に代わってネゴシエーションをしてくれます。それで請求額が減った場合は、減額分の35%を手数料としてMedical Cost Advocateに支払うというしくみです。

INSNETは、上と同様、患者に代わって請求問題のネゴをしてくれます。この段代の手数料は28%です。

Medical Billing Advocates of Americaでは、全国の医療請求プロの中から、ニーズに合った人を紹介してくれます。

 

7 comments

  1. 医療費が高いアメリカ。請求書をそのまま信じてはいけないですよね。まず疑ってみてみるというのは大切ですね。Healthcare blue book というのがあるんですね。知りませんでした。これは大いに活躍しそうな本なので、『一家に一冊』っていう感じですね!

    1. 疑ってばかりいる人間にはなりたくないですが、疑わないでいるとたいへんなことになってしまうのが、苦しいですね~。。

  2. 先日こちらのサイトを見つけました。素晴らしいリサーチ、分析力ですね。私のようなアメリカ社会の仕組みをまだよく理解していない者にとっては、とてもありがたいサイトです。特に情報源へのリンクは助かります。
    これからも、ちょくちょく立ち寄らせていただいて、私も「Smart」で「Responsible」に生きていけるようになりたいと思っています。よろしくお願いします。

    1. Basilさん、あたたかいコメントありがとうございます。わたしは通算17年アメリカにいますが、だからこそ知っているつもりで知らないこともたくさんありまして。。なので、フレッシュな目で疑問など教えてください。これからもどうぞよろしくお願いします。

  3. アメリカから高額医療費の請求がきて困つています。日本でやり取りできる人を探しています。

  4. アメリカでやったちょっとした血液検査でとんでもない法外な額の請求書が送られてきたのですが、問い合わせたところ保険会社に請求する額と個人に請求する額は違うので請求額を修正する(1/10以下)、と言われました。インターネットで同じような検査を受けた人が同じようなことを言われる記事をみなければそのまま支払っていたかもしれません。今後同じことを繰り返さないように日本語で書かれている病院や保険の記事を探していたらこの記事にたどり着きました。ほかの記事も含め、非常に貴重な情報です。どうもありがとうございます。

    1. ちゃんと確認されてよかったですね。情報を持たなくて正直なひとなら払ってしまうかもしれません。ひどいと思ます。少しづつでも情報が広がるとよいと思います。

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