アメリカは、医療サービスを受けてから送られてくる請求額を払うという時代から、医療サービスを受ける前に見積もりをとって比較する時代に移行しつつあります。健康保険がないならなおさらのこと、健康保険があってもHigh Deductibleであるとか、Co-insuranceが高いなどの場合は、医療サービスの見積もりをとって、値段を吟味した上で措置を受けるというのが常識になっていくのかもしれません。
そしてこれがHigh Deductibleプランなどに代表されるConsumer Directed Health Plan(消費者が裁量するヘルス・プラン)の狙うところです。医療費コントロールの責任が、保険会社や雇用主などから、医療サービスを受ける個人に移ってきている。つまり、医療も「自己責任」ということで、個人にはシビアな移行でもあります。
見積もり以前に、まずつかんでおきたいベーシック・ルールは・・・
- ネットワーク外よりネットワーク内
- InpatientよりOutpatient
- 病院より独立系専門施設(テスティング施設・手術センターなど)
のほうが安いということです。
ただし、Never assume anything!(思い込みはキンモツ!)
たとえばあなたがHigh Deductibleプランを持っているとしましょう。ヘルニア手術が必要になりました。健康保険のネットワーク内のA病院でヘルニアの手術手術を受けた場合、A病院のリスト価格は$7,000であっても、保険会社とA病院とのNegotiated Priceが$4,500であれば、個人で負担するのも$4,500となります。
一方、ヘルニアを専門に扱うクリニック、Bクリニックというところがあったとしましょう。Bクリニックは健康保険のネットワーク外ではあるものの、ヘルニアを専門にしていることもありリスト価格が$3,000だったとしましょう。そうすると、Negotiated Priceの$4,500をA病院に払うより、保険がきかない値段$3,000をB病院に払うほうが安くなります。
本当に面倒なことではありますが、あちこちに見積もりをとりつつ、健康保険のネットワークやNegotiated Priceを考慮しつつ、どこで治療を受けるかを決めねばなりません。
見積もりリクエストのステップ
見積もりをとるにあたっては、こんな感じで進めていきます。
1.コードを特定する
正確な見積もりのためには、自分の必要な医療措置が具体的になんであるのかを正確に把握していることが最重要です。お医者さんと話すときに、治療や措置の名称をできるだけ正確に細かく聞くとともに、できれば医療コードまで突き止めます。
受けるべく医療サービスについては、テストの名前や手術の種類程度だと正確な検索ができません。それぞれの医療措置には医療コードがふられています。このようなコードは、医者、患者、健康保険会社やその他関連機関が医療措置を正確に特定することで、間違いのなく効率的な措置の実行、請求、分析ができるようにしています。お医者さんのオフィスでの措置にはCPTコード、病院での措置にはDRGコードというコードが使われるようです。
わたしたち患者としても、自分に必要な医療措置の一般名称だけではなくて(一般名称の中にも細かく措置ごとに複数のコードが存在します)、そのCPTコーやDRGコードを確認しておくと、より正確な見積もり比較ができるでしょう。たとえば「ヘルニアの手術」などといっても、患者の年齢や状態、手術のしかたや、必要なプロシジャーなどによって、非常に細かく手術のプロセスが分類されています。医者、病院、保険会社はみなこのコードでお互いの理解をとっていますので、わたしたちもこのコードを押さえておくと、彼らとのコミュニケーションも迅速になるはずです。
Googleで医療措置の総称と「CPT code」あるいは「DRG code」というキーワードでサーチしてみると、code表がでてくるかもしれません。そうしたら、それを見つつ、お医者さんやナースに質問して、必要措置を特化していくこともいいかもしれません。
キーワードは、「彼らの言語を話すこと」です。たとえ英語が少々ぎこちなくても、この医療コードを押さえておけば、それは「彼らの言語を話す」への大きなステップです。「わけのわからないことをいっている患者」ではなくて、「我々の用語を理解する患者」になること。英語では、“I have done my homework.”という表現がありますが、それは「自分側でできることは準備しておく」ということです。患者は患者なりにできる限りのことはした上で、「助けやすい・助けがいのある患者」になるよう、準備をしておきたいものです。
2.オンラインで価格トレンドを把握する
New Choice Healthというサイトをご紹介しましょう。ZIPコードを入れて、自分の受ける医療措置を入力すると、一帯の医療機関でのリスト価格の一覧が表示され、さらに個々の機関から詳しい見積もりをとることもできます。このデータベース、まだ完全とはいえず、お住まいの場所によってはあまり情報がない場合もあるようですが、少なくともこのようなシステムが加速度的に完備されていき、患者が「調べて選ぶ」のがふつうになるのも遠い将来ではないでしょう。
Healthcare Blue Bookというサイトでは、医療サービスの「適正価格」を教えてくれます。見積もりをとってみて、それが高いか安いか、妥当な線なのかを判断する基準になるでしょう。この「適正価格」は、Blue Bookの調査による、「そのエリア(ZIPコードで指定)の医療機関が請求する典型的な値段」だそうです。この「適正価格」は、値段交渉にも利用できますね。またこのサイトでは、事前に同意した適正価格で手術をすることを約束する、Blue Bookの提携医療機関を紹介してくれるサービスも始めました。自分でめぼしい医療機関が見つけられない場合など、利用するといいかもしれません。
3.個々の病院・クリニック・センターにコンタクトして見積もりをもらう
キッチンのリモデルの見積もりならともかく、手術の見積もりをとるなんて・・・と思ってしまいがちですよね~。。でもまずは、その先入観を捨てましょう。払うのは自分なんですから、見積もりをとってあたりまえ。見積もりなしに手術を受けるなんて、値段を見ないでレストランに入ってコース料理を食べるようなものですよ。
最近では、この見積もり・・・かなり常識的なことになりつつあり(これは、必ずしも歓迎すべきことではないけれど。だって、病気のときぐらい何も心配しないでおまかせしたいですよね~)、進んだ病院ではオンライン見積もりのページをつくっていたり、見積もりホットラインを設置しているところもあります。たとえば、下はペンシルバニア州のGeisingerという病院のオンライン見積もりサイトです。
患者があらかじめ見積もりをとることは、医療措置後の請求と支払い段階でのモメゴトも少なくするでしょうし、そういう意味では病院にとってもベネフィットのあることでしょう。・・・というわけで、見積もり・・自信をもって(?)とりましょう!
自分のお目当ての病院が、オンライン見積もりやホットラインを設置していなければ、直接電話して、”I like to speak to someone in billing for price information.”と言えばOK。担当のお医者さんやナースに聞いても、きっと彼らは価格や保険のことはよくわからない場合が多いので、あくまで価格のことをかっているひとに話します。
ここで、できれば前述のCPTコードあるいはDRGコードで、必要な医療措置を伝えられれば理想的です。そうでなければ、できる限り詳しく必要な医療サービスを説明します。健康保険を持っているなら、保険会社とプラン名を伝えます。これは、保険会社ごとのNegotiated Priceを知るために重要です。保険がないのなら、自分で支払うつもりであることを伝えます。キャッシュで支払うと伝えると安くしてもらえることもあるので、該当する場合はそれも伝えましょう。
かえってくる見積額は、トータルだけでなく、可能な限り要素ごとに分けてもらいます。手術の場合、Physicians Services(医師サービスの料金)、Hospital Services(病院利用料金)、Anesthesia Services(麻酔サービス料金)のカテゴリーごとの見積もりをもらいます。
4.値段を決める
Healthcare Blue Bookは、少なくとも3つの病院・クリニックから見積もりをとることを薦めています。また、見積もりでとった価格が、Healthcare Blue Bookの「適正価格」より大きければ、その価格まで引き下げてもらえないか聞いてみるのもよいでしょう。さらに、キャッシュ支払いであれば、価格交渉には有利です。
値段が決まったら、文書にしてもらいます。口約束は危険です。“Can I have it in writing?”とお願いしましょう。あるいは、Healthcare Blue Bookのテンプレートを使って文書を作成してくれるようお願いしてもいいでしょう。せっかく値段を見積もってネゴして決めても、後でくる請求に問題があったとき、それを証明するものがなくては何にもなりません。文書でもらうこと、これは最後のたいせつなステップです。
医療にもBlue Bookがあるんですね~。
うちはHigh Deductibleですし、ネットワークもそれほど大きくない保険なので、障がい児を育てながら、とても苦労しています。でもBSBCは高くて手が届きませんです。。。
ほんと施設によってまちまちですよね。オッケーって言っていたのに、次の日になって、やっぱダメみたいなことも経験しました。T T
たしかに~。BSBCは高いですよね~。そんなにいいのかな~。
アメリカって医療費が施設によってまちまちって言うのが困りますよね。ただ、医療機関に行かないといけない状態になった場合、事前にいくつかの施設で料金の比較ができる状態ならいいですが、急いで何とかしないと、とか、すぐ手術しないと、とかいう状態の場合、選んでいられないというのが現実問題としてありますよね・・・。本当に日本の医療制度がうらやましい・・・・・。でも、日本がTPPに正式に参加したら、アメリカのようにビジネス化する可能性大ですね。私はそれがこわいです。
その通りですね。個人的には、そのような意味での消費者保護はHMOプランが一番充実しているように思います。緊急時でなければ、PCPを通すことですべての医療はネットワーク内扱いになる(医療サービスがネットワーク内にとどまっているか確認するのは、消費者ではなくてPCPの責任)ですし、逆に緊急時の場合は、もよりの病院に行ってもOK(ネットワーク外であっても)ということになっていますから(少なくとも我が家のHMOはそうです)、一応(・・ま、今後どう法律やルールが変化するかわかりませんけども)今のところはうちにはこれが一番じゃないかなと思っています。日本にアメリカの保険会社が入ったらえらいことになるでしょうね。パンドラのハコというか。。だいたい、アメリカのこの医療制度、あまりにmessyすぎるけども、もうどうにもこうにも後戻りできない状態じゃないですか。よく考えて、一歩を踏み出して欲しいです。
我が家は数年前に保険代が値上がりした時にカバー内容のランクをさげました。それでも毎月結構な保険代を払っているのに、使えそうで使えない保険なので見直しが必要だと思っています。日本の保険制度は優れてますよね。アメリカ人の友人は高額な保険代が払えない(払いたくない!)と言って保険に入っていません。何かあったらどうするの?と聞けばその時は自費で払うからと言っていますが、多分踏み倒す気でいるのかもと思っています。。。
使えそうで使えない保険・・ってよくありますよね。うちの場合は、歯の保険がまさにそうでした。すごく使えそうに見えるけど、使おうとすると全然使えませんでした。難しいのは、使ってみないと、本当に使えるか使えないかがわからないってとこですね。あらかじめ見極めるのが難しいというか。。。私の周りにも健康保険を持っていないという人がいます。「その時は自費で払う」レベルでは済まない事もあるでしょう(というかそのほうが多い)から、きっと踏み倒すのかしら。。。やっぱり。