病院から「びっくり請求」をもらわないようにする

Last Updated on 2021年10月11日 by admin

アメリカで手術を受けたり入院した方ならご存知だと思いますが、ひとつの手術なのに、請求書はあっちからこっちからいくつも来たりします。アメリカでは、しばしば、医療サービスを提供する「人=つまり医師」と「施設=つまり病院やクリニックやセンター」は独立しており、別ものなのです。つまりA病院でB麻酔科医から麻酔を受けてC執刀医に手術してもらった場合、A病院からは病院関連費用が、B麻酔科医からは麻酔サービス費用が、C執刀医からは執刀サービス費用が別々に請求されるわけです。

保険を持っているならば、医療サービスの提供者がネットワーク内なのかネットワーク外なのかは大きな問題ですね。ネットワーク内の医療機関やお医者さんを使えば、健康保険会社があらかじめネゴして決めてくれているNegotiated Priceを払えばいいわけです。しかしながら、ネットワーク外となると医療機関やお医者さんのリスト価格(言い値)を払うことになります。

手術を受ける場合、受ける病院やクリニックと、執刀するお医者さんがネットワーク内であることを確認することは第一歩ですが、それだけでは残念ながら十分ではありません。なぜなら、手術などの大きな医療サービスですと、他にもさまざまな医療従事者がかかわることが常だからです。病院と執刀医はネットワーク内だったけど、知らないうちにネットワーク外の医師が治療グループの中に入っていたなどということが起き、結果的に思いもかけない額の請求書が届くということが最近増えています。

以下実際にあった例です。

ケース1:子どもが、ネットワーク内の病院で、ネットワーク内の執刀医によって心臓の手術をうけたところ、アシスト外科医がネットワーク外であった。患者にはその事実は知らされないまま手術が行われ、アシスト外科医からの請求額は$6,400。健康保険は$1,400のみがカバーされ、残高の$5,000は個人負担となった。

ケース2:ネットワーク内の放射線センターで、乳がん検診(マモグラム)の定期健診を受けたところ、マモグラムの結果を読み診断をした放射線医がネットワーク外であった。放射線医からは後日$110の請求があり、この女性は$110を個人で支払うことになったうえ、健康保険会社はそのうち$58.64分しか、Deductibleの計算に数えてくれなかった。

ケース3:脳内出血のため運ばれたネットワーク内の病院では手術の準備がなかったため、ネットワーク内の他の病院に搬送され、そこで手術を受けた。執刀した脳外科医はネットワーク外の医師であったため、後日$40,091の請求が来た。保険会社は、ネットワーク外扱いとして$8,386だけをカバーし、残りの$31,704は患者の個人負担となった。

病院で手術や医療サービスを受ける場合は、その施設と主治医だけでなく、アシストに入る外科医、麻酔科医、放射線科医、病理学医、ラボなど、かかわるすべての医療サービス提供者がネットワーク内であることを確認する必要があるのです。なんか、気分が悪くなりそうな話ですね。でも、現実です・・・

ニューヨーク州が行った最近に調査で、「患者は、いったいどうやってネットワーク内・外をチェックできるのか」との質問に、保険会社各社からの一番多かった答えは、「プロバイダ・ディレクトリを提供しているので、それで確認するのが患者の責任」と答えたそうです。脳内出血で搬送されているのに、ディレクトリでチェック?ちょっとバカにするなよと思いますが、でも現実です・・・

自分の保険プランはどうなのかチェックする

HMOはPPOやEPOに比べると、この点では、患者に対する保護が厚いようです(保険の法律は州によって異なりますので、必ずしもいつもこうとは限りません)。ネットワーク内の病院・医師によりアレンジされた医療行為はすべて保険の適用範囲となり、患者は規定のCo-payのみを支払えばよいという保護です。つまり、ネットワーク内の病院で受けた手術なら、誰がどうかかわろうと「すべてネットワーク内扱いになる」ということです。ところが、PPOやEPOにはこの保護がない場合があるようです。PPOやEPOを持っている場合には、かかわるすべての医療プロバイダについて、ネットワーク内であることを確認する責任が患者に課せられているということです。そしてこれこそが、Consumer Directed Health Plan(消費者が裁量するヘルス・プラン)の真髄です。

ちなみに我が家のHMOプランは、病院に入院したときのCo-payは$250ですので、ネットワーク内の病院に入院したのなら、どんな医療サービスを誰から受けようが、$250さえ払えばそれ以上の責任はないということです。我が家にとっては、このシンプルな安心感がとても重要なので、このプランが(今のところ)自分たちにとっては一番だと思っています。
これは、健康保険の説明冊子できちんと確認すべきことです。名称はいろいろでしょうが、Explanation of Your Planなどという名前の冊子はお手元にありますか?お手元になければ、保険会社にコンタクトしてもらいましょう。最近ではオンライン・サイトに情報があるので紙の冊子を送ってこない場合もあるかと思いますが、この説明冊子には保険のカバレッジや使い方などがまとめられていますので、手元に置いておいたほうがいいと思います。あらかじめ目を通して保険プランの概要を把握しておくと同時に、何かの時にはすぐ確認できるようにするためです。

担当医と健康保険会社にあからじめ確認する

前述のHMOのような消費者保護がない場合は、手術などを受ける前に、どんな医療サービス提供者が参加するのか、それは誰か。彼らはネットワーク内かを確認せねばなりません。「医療サービスを受ける前に」がたいせつ。手術台に上ってはじめて会う麻酔科の先生、自分が寝ている間に行われる組織検査をする先生が、ネットワーク内かどうかなんて手術の前にしか確認できません。

担当のお医者さんは、わたしたちの保険がどんな保険プランなのかなど詳しく知る由もありません。すべての医療措置がネットワーク内で終始するかを確認するのは、わたしたち自身の責任です。

  • 担当医に、「ネットワーク内の医療サービス提供者のみを利用したいこと」を伝える。
  • 担当医の推薦する医療サービス提供者が、ネットワーク内かどうか確認し、ネットワーク外のサービス提供者がいた場合は、ネットワーク内の人に変更してもらうか、あるいはそのネットワーク外提供者に直接コンタクトして、見積もりをとり値段交渉のうえ最終価格を文書でもらっておく。
  • 保険会社にPre-authorizationのために電話することがあれば(医者や病院がすることもあり)、その時に、ネットワーク外の多額な請求が来ないようにするために、どういうことを注意すればよいか聞いてみる。
  • 病院に入院するに先立って、「自分にかかわる医療サービスにアサインされる医師はすべて自分の健康保険ネットワーク内の医師・専門家であること」をリクエストし、入院時のサインする各種の書類とともに文書として提出する。

緊急時はどうなるの?

事故にあったとか、心臓発作だとかの場合はどうなるんでしょう。近くにネットワーク内の病院があるとは限らないし、麻酔科医がネットワーク内かどうかなんて気を配っていられませんよねえ。。このような「本当の緊急時」については、ほとんどの健康保険プランが、ネットワークの内外にかかわらず必要な医療サービスをカバーするとのことです。そして、状態が安定した時点で、ネットワーク内の病院に移されるということです。

「本当の緊急時」というのがミソでして、「本当の緊急」でないのにERに行ったりする場合はこうはいかないようです。「本当の緊急時」とは、通常、「健康・医療について平均的な知識を持っている人が、すぐに処置をしなければ、1」個人の健康を著しい危険にさらす、2)身体機能の重い損傷につながる、3)内臓や身体部位の重い機能障害につながるのどれかと判断するような場合」というような場合だそうです。

自分の健康保険プランが、「本当の緊急」をどう定義し、「本当の緊急時」のネットワーク外の医療措置をカバーするのかどうか、もし確認していないなら、今、しましょう。先ほどの、保険プランの説明冊子に書いてあるはずです。

ちなみに我が家のHMOプランの説明書によると、

In serious emergency situations, call 911 or go to the nearest hospital.

If you situation is not so severe, call your PCP or Physician Group or, if you cannot call them or you need medical care right way, go to the nearest medical center or hospital.

とありますので、どこの病院に行ってもカバーされるようです。また、Emergencyの定義も上に書いた定義があてはまります。

このような、「ネットワーク内のプロバイダが不在のときに、ネットワーク外のプロバイダを追加のコストなしに利用できる」という保護はHMOには規定されていることが多いようですが、PPOやEPOの場合にはないことが多いそうです。よく把握しておきましょう。

世知辛いかな、うかつに病気もできません。でも、確認、確認、確認です。問題は防止が一番。起こってしまってからは、解決するのに10倍のエネルギーがいります。

NOTE:この問題、2022年1月からはNO Surprise ACTが施行され、軽減される予想です。

7 comments

  1. 本当にアメリカの医療は完璧にビジネスですね・・・。日本の医療制度が本当にすばらしく思えます。一般の人々には、1つの手術の開始から終了までに、あるいは手術後に、どのようなプロセスがあり、どのような医療従事者が関与するかなど、想像も検討もつかないケースたくさんあると思います。日本は、医療従事者には『奉仕』というのが身についてますが、支払いのことをまず考えて選択を変えていかないといけないアメリカでは、それを見ることはないんだろうな・・・と改めて思います。「仕事をするならアメリカ、患者になるなら日本がいい」と、言っていた方がいました。納得です。

    1. そう考えるといざというときは国民健康保険に入れるように、アメリカ人にはならずグリーンカードを持ち続けたほうがいいのかなあ・・・と考えたりする日々です。

  2. 以前、子供がフルタイムの学生でなくなった直後に行ったERから後日「びっくり請求」が来ましたが、電話で交渉して一括で払うのなら半額にするって言われた時にもびっくりしました。
    ダメもとでも言ってみるもんですね〜。
    アメリカの高額な健康保険代、医療制度を考えると老後は日本の方が良いのでは?と考えているので、私もアメリカ人になるのは躊躇しています。

    1. cranberryさん、いきなり半額ですか。。なんかちょっとバカにしていますね、そういう請求の仕方って。慣れるしかないのかなあ。そんなの、慣れたくないなあ。。

  3. PPO Adjustmentとはどのようなものかご説明いただくことは可能でしょうか?
    これを病院側が実施し、実質的な請求金額が大幅に下がったことがあります。

    1. それぞれの保険会社で使うことばが違ったりするので100%確信がありませんが、文脈から判断するに、Contractual Adjustmentといって、健康保険会社が病院側とあらかじめ交渉して取り付けたNegotiated Priceに請求額を下方修正することのように思います。病院の「いい値=表示価格=保険を持っていない人が払うフルプライス」でなくて、保険会社と病院があらかじめ交渉のうえ取りつけた額へ、調整することかと思います。

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