2016年末にロサンゼルス市がJCPenney、 Kohl’s,、Macy’s とSearsの4デパートを告訴しました。正規価格(Original Price)を意図的に釣り上げ、そこから割引いた値段をバーゲンプライスとして提示することで、消費者に誤解をさせたというのが理由です。本当は存在しない「正規価格」を設定することで、大きく割り引いた値段を提示し、消費者にウソのお得感を持たせ誤解を招いたという内容です。
たとえばこんなかんじ。。。
Searsで: フロントロードの洗濯機が正規価格$1,179.99、セール価格$999.99で売られていたが、実際は$999.99より高い値段で販売提供されたことは一度もなかった。
Macy’sで: ペンダントネックレスが正規価格$120、75%オフの$30で売られていたが、実際は、発売当初からずっと$30で販売されており、$30より高い価格がつけられたことはなかった。
JCPennyで:マタニティ水着が正規価格$46、30%オフの$31.99で売られていたが、実際は$31.99より高い値段で販売されていたことは一度もなかった。その後、価格は$21.99、次いで$14.99に下げられたが、相変わらず正規価格は$46のままで提示された。
Kohl’sで: カーゴショーツが正規価格$60、セール価格$35.99で売られていたが、$35.99より高い値段で売られたことは一度もなかった。
カリフォルアニアの法律では、正規価格を提示して販売する場合、その値段は過去3カ月以内に実際に販売されていた値段であるか、あるいは具体的にいつその値段で販売されていたかの日付が提示されない限り、その値を正規価格として表示してものを売ることが禁止されています。正規価格を釣り上げて提示することは、消費者にセール品について間違った認識を与えるというのが禁止の理由です。
Price(価格)とValue(価値)
確かに、$120のものが75%オフで$30となっていると、とても得なような気がして、少々色や形が希望にそぐわなくても、なんとなく買ってしまいたい気になりますね。オフのパーセンテージの大きさが購買を正当化するといいましょうか、なぜその商品を買うのかと聞かれて、これこれこういう場合に役立つとか、こういうニーズを満たしてくれるとか、こういう不便に応えてくれるとかという実質的な価値をベースにするのではなく、単に「だって、75%オフだよ~」が購買理由になりがちといいますか。ですから、75%オフでなくなる、言い換えれば正規価格が根拠がなくなったら、たとえ同じ値段で品物も同一であっても、いきなり購買の理由がなくなる可能性もあるということですね。
ちょっと定義してみると
Price(価格): ものを売り買いするときの値段で、売り買いというアクティビティがあってはじめて存在するもの。売り手、買い手の間で適正な値が決められる。商品の価値を貨幣で表したもの。市場において需要と供給で変動する。
Value(価値):その品物やサービスから、個人がどのくらいの有用さや喜びを得るかを表した値。その事物がどのくらい役に立つかの度合い。値打ち。個人的なもので具体的に数字で表すことができない。
比べてみると、Value(価値)のほうは、個々人がその品物やサービスがあるとどのくらい助かるか、うれしいか、楽しいか、役に立つかの度合いのことで、となると、同じものでもAさんとBさんでは違う価値を付けるかもしれないということでもあります。価値とは人それぞれ独特のものであり、自分の意見です。
Price(価格)のほうは、売り買いの状況があってはじめて存在し、どちらから提示価格をだしてもよいのでしょうが、デポートなどの場合であれば、通常は売り手がそれを決めています。
私たちが買い物をするときを考えてみましょう。マグカップを買うとしましょう。スポンジボブの絵がかいてあるマグカップで$10だったとします。スポンジボブが好きなAさんは、ぜひそのマグカップでコーヒーを飲みたいと思い、高い価値を付けます。値段にしてみたら$12くらいまでなら払ってもいいと思うでしょう。それがその人のマグカップに対する価値相当額です。またBさんは、家にマグカップはたくさんあるし、そのうえスポンジボブはどうも趣味に合わないので、たとえ$1でも要らないというかもしれません。Cさんは、マグカップはたくさんあるけど、スポンジボブは子どもがすきそうだから、$3くらいなら買ってもいいけど・・と思うかもしれません。それがその人それぞれのそのマグカップの価値相当額です。
マグカップが大幅セールで$3で提示されていようがいまいが、AさんもBさんもCさんも、マグカップに対する価値は一定なはずです。ところが、いきなり50%オフの$5で売りだされたら、どうでしょう。Aさんはもちろん喜んで買い、Bさんはいやそれでも買わないというかもしれませんが、Cさんあたりは50%も安くなるなら買おうかな・・と心が揺らぐかもしれません。お得なセールを見逃したくないからです。もはや自分が$3と値踏みしていたマグカップの価値はどこかに飛んでしまうことになります。
今回のデパートで起こったことはまさにそれで、もともと$10の価格は付けないようなものを正規価格を$10として提示し、お得感を打ち出すことで購買促進をしたということですね。自分のつけた価値相当額が$3ならば、たとえ50%オフの$5になっても、買わないでいるはずなのに、いきなり50%オフを見せられることで、$3というもともとの自分のつけた価値がなんとなく$5につりあがってしまったわけです。この$5をPerceived Value(顧客の知覚価値)というのだそうで、操作によって知覚のしかたが変わったということです。
比較と相対に生きる私たち
本来であれば、ある品物なりサービスに私たちが見出す価値というものは、「自分がそれからどのくらいの有益さを得るか」であり、個人的なものですから、他人がどう言おうが言うまいが揺らぐはずがないというのが正論です。ところが、この価値は実は企業のマーケティングによって案外簡単に操作され、知覚価値にすり替えられるわけです。
企業が物を売るとき、物の質やその他の条件が一定だとすれば、もっと買ってもらうためには基本的に2つの方法があります。ひとつは値段を下げる方法で、もうひとつはこの認知価値を上げる方法です。もちろん企業にとっては後者のほうが好ましいわけで、この認知価値を上げるという目的のため、企業は毎年多額の経費を費やしています。これがマーケティング、言い換えれば販売促進、宣伝活動です。
私たちにとって難しいのは、先の例でいえばスポンジボブのマグカップが自分にどのくらいの価値があるかは感じ取ることはできても、それを「○○ドルの価値があります」と絶対値で表現することが難しいことです。なぜなら、自分の中には価値を数字化する絶対的な基準がないからです。先のBさんやCさんが$3とか$1という数字をつけていたのは、なんらかの前データがあって、判断基準がほかにあったので、そこから比較して相対的に決めた数字です。たとえば、以前にマグカップをセールで買ったことがあって、それが$3だったとか、あるいはこれくらいの質のものなら$5でほかの店で売っているはずだとか、あるいはこのスポンジボブのマグカップの当初の値段$10という数字を基準値として使ったかもしれません。なんらかの基準がなければ、私たちは自分にとっての有益さを感じることはできたとしても、その価値の度合いを数字化することは難しいのです。
たとえば骨董屋に行って、すばらしい壺を見つけました。中国清朝後期の壺らしいです。リビングに飾って眺めて暮らせたら毎日歴史に思いを馳せ、美しいものを愛でることもでき、どんなによいだろうと思います。つまりこの人にとってはこの壺はとても価値があるものなわけです。だた、価格にしていくらが正当かといえば、いきなり「○○ドル」とはじきだすことは難しいですね。なんらかの基準値が必要です。オンラインで同様な壺を見つけてみたり、骨董に詳しいお友達に聞いてみたりするのではないでしょうか。
企業はこの基準値の概念をうまく使って、マーケティング攻勢をかけてきます。このマーケティング、行動心理学などに基づきいろいろ研究されていますので、消費者として抵抗するのはなかなか至難の業でもあります。先のデパートの例でいえば「正規価格」はこの基準値の役目を果たしており、「正規価格」と比較してどのくらい安くなっているかという情報が、購買を決断させる説得係のような役目を果たしているわけです。
できるだけ後悔しない購買決断をする賢い消費者になるためには、自分の価値基準を日ごろから磨いておくことと、企業側のマーケティング活動による認知価値の操作について知っておき、企業の投げかけてくる基準値をそのまま鵜呑みにしないことが役立ちます。その物に対して自分はどのくらいの価値を置くかという自分なりの基準をつくっておくと、買いたいという思いが生じたとき、企業側の基準値の設定や認知価値の操作に流されて無駄な消費に終わる可能性がないかのチェック機能が働くようになるからです。。次回はそのあたりを具体的に見ていきましょう。
最近はブランド直営やもちろん、T〇M〇xxのようなアウトレット店も増えてきて、どこもレジ待ちの長い列ができていますね。
一方で、姉が世界的な高級ブランドで働いていますが、値段の決め方は「うちに来る客ならこれくらいは払えるだろう。」という前提だそうです。 先日近くの高級モールでちらっと見たおしゃれなシンプルなドレスが$1600!
昔の自分なら$1600でも気に入れば買ったかもしれないけれど、今はアウトレット店で気に入ったものが見つかるまで何度か通うと思います。 年齢と共に本当に必要で欲しいものだけにお金を使うようになりましたが、確かに値下げ率が高いものは、気になってしまいます。
そういう値段の決め方なんですね!$1,600を払う人は、物の価値とかよりは$1,600払いたいから払うのでしょうね。それはそれで、そういう消費者ニーズ(価値とはかい離した値段を高級ショップで支払いたいというニーズ)にきちんとこたえたサービスともいえるのかもしれません。それもひとつのお金の使い方であり、間違っているというわけでもないのかもしれません。つまるところ、自分がモノの価値派かブランドグループか、どちらに属したいかってことになるのでしょうね。。