Smart & Responsibleはじめ・いま・未来(3)

2011年10月に立ち上げたこのサイト「アメリカ暮らしのファイナンシャルプラニング Smart & Responsible」ももうすぐ8年が経とうとしています。これまで提供させていただいていたファイナンシャルプラニングサービスを一時休止し、2019年秋をターゲットに新しいシステムへの以降を予定しています(このブログは同じような形で続けていく予定です)。今回はこれまでを振り返り、初心を思い起こし、また今後どのような形でサービス展開をすべきかを探っていくような記事を書いています。

 

Smart & Responsibleの葛藤

 

Smart & Responsibleをビジネスとして始めるには葛藤がありました。わたしは聖書をこよなく愛するクリスチャンなのですが、お金という現実的なものを扱い、またそれを計画するファイナンシャルプラナーという仕事は果たして神様の喜ばれることなのかどうか、心に迷いがあったからです。お金に焦点を当てることは大事なものを見失うきっかけにならないか、また「計画する」ということは、計画通りにものごとを薦めたいという自我や、計画通りに行かないとどうしようと心配したりとらわれたりして、神の大きな恵みを見過ごすことにつながらないかという思い煩いでした。聖書に以下のことばがあります。

 

それだから、あなたがたに言います。

何を食べようか、何を飲もうかと、自分のいのちのことで心配したり、

何を着ようかと自分のからだのことで心配したりするのはやめなさい。

いのちは食べ物以上のもの、からだは着る物以上のものではありませんか。

空の鳥を見なさい。種まきもせず、刈り入れもせず、倉に納めることもしません。

それでも、あなたがたの天の父は養っていてくださいます。

あなたがたはその鳥よりも、ずっと価値があるではありませんか。

あなたがたのうちだれが、心配したからといって、自分のいのちを延ばすことができるでしょうか。

(マタイによる福音書 6章25-27節)

 

進むか止めるか決めかねていたところ、私を洗礼に導いてくださった牧師先生が、創世記に出てくるヨセフという人の逸話をもって励ましてくださいました。ヨセフはすぐれた管理能力を用いて財産・資産管理をした人でした。イスラエル人でありながら兄弟によってエジプトに売られたものの、エジプトではファラオから絶対の信頼を得るに至り、エジプト全土の穀物を管理し飢饉に備えて蓄え、飢饉が来てからは計画的に穀物を各地に配布し、エジプトだけでなく近隣諸国まで食物供給を行った人です。牧師先生は、このヨセフの逸話を持って、「あなたのやろうとしていることは価値あることです。お金がいけないものだとは聖書には書いてありません。お金にとらわれることが罪なのです。私たちが手にするお金でさえ神様が与えれくださる貴重なものであり、それを賢く管理し賢く使うことはStewardship(財産管理、委託責任)という聖書でもとても大事な概念です。お金のことを考える能力も神様が与えてくださった賜物です。どうかその賜物を使って、多くの人のために働いてください。」と励ましてくださいました。

この激励がなければ、私は決してファイナンシャルプラナーの仕事をしていなかったでしょう。実際はじめてみて、ますます神の偉大さを知るとともに、自分の小ささを思い知っています。

 

プラニングしきれない人生

 

偉そうにファイナンシャルプラナーなどと名乗っていますが、私にはわからないことがたくさんあります。たとえば、リタイヤメントプラニングをしていても、私たちには最も決定的な情報がありません。計画するに最も決定的な情報、それはいつ死ぬかです。いつ死ぬかがわかれば、ちょうど採算がうまく合うように、ちょうどいいだけ貯め、ちょうどいいだけ使うという計画ができます。

また、インフレーション率や株式市場の利回りなども、将来どうなるかなど正確に予想することは不可能なので、いろいろな数字を想定してシュミレーションするしか私たちには手がありません。「決定的に将来をわかること」は到底ありえず、そういう意味ではファイナンシャルプラナーのするシュミレーションというのは、つたない限度あるものだと思い知ります。どんなに有能なファイナンシャルプラナーがするプラニングであっても、それがそのままその通りに実現する確率はほぼゼロです。一瞬無力感をも覚えますが、ただ同時に、Stewardshipとして託していただいたお金を大切に管理し、限られた範囲ではあるが知恵を尽くしてできるだけのことをする、そしてそのあとは、上の聖書のことばどおり心配しないこと、神様は鳥を養うように、私たちも養ってくださることをからだで理解することができるようになりました。

また、住むのにも、食べるのにも、着るのにも困らないお金があって命は維持していけるのに、いのちがない場合もあるということにも考えを馳せました。聖書で、「いのち」とひらがなで書くときは、それはだた息をして生命があるというだけではなく、自分がつくられたままの形で生き生きと平和に喜んで生きている・・状態であることを差します。命があっても、いのちがない。

マザーテレサ来日の際に、豊かな国日本をご覧になって口にしたことばが心にのこります。

 

豊かな国では、パンのために人が死ぬことはないでしょうが、

さびしさのために人が大勢死ぬことでしょう。

 

お金はなんのためにあるのか

 

お金は使うためにあるのだと思います。もちろん、お金を稼ぐことは大事です。でもなぜ稼ぐのかといえば、使うために稼ぐのです。お金を貯めることは大事です。でもなぜ貯めるのかといえば、将来使うために貯めるのです。子どもに相続させたいという方がいらっしゃるでしょうが、それもお子さんが使うために相続させるのだと思います。つまるところ、お金はいくらためても、死ぬときには持って行けません。この人生で生きていてこそのお金です。

学資やリタイヤメントのために貯めること、長期投資することは大変大切ですが、これは増やすことが最終目的ではなく、今使うのと将来使うのとをバランスをとりつつつじつまを合わせていく作業です。節約したり貯めたりしていると、だんだんと残高が増えることに心がとらわれて、本当はお金は使うためにあるということを忘れてしまいがちになります。ともするとお金を使うと罪悪感を感じるというような症状もでてきて、そうなるとお金がたくさんあっても使えない・・・大変不自由なことにもなります。

お金はまずは命の維持のために使われるべきであり、その次にはいのちの育みのために使われるといいなと思います。生命を維持する衣食住を満たした後は、いのちを育む豊かな人間関係のために使われると素敵だと思います。Harvard Study of Adult Developmentというプログラムが、70年以上にわたり人々をしあわせにする要素について研究し続けた結果、人間関係とその質、安定した結婚などが人の幸福度にとって非常に大切だということがわかりました。

私たちの社会は、幸せを考えるとき、金銭的な財や仕事や地位などに多くの重きを置きますが、この70年以上もの間をかけて行われた研究結果では、そのどれでもなく、家族、友人、コミュニティでの人間関係に満たされている人がより幸せであるということを物語っています。この研究は、Harvard大学の学生とボストンのインナーシティの青少年というある意味で社会的に両極端にあるような人たちを対象しています。財にしても、学にしても、持つものと持たないものという対照がそこにはあるように思いますが、人がどれだけ幸福であるかを考えるとき、この要素がまるで語られない、つまり統計的に幸せを決定する要素ではなかったことは興味深いことです。

となると、使うためにあるそのお金の賢い使い道は、人間関係に投資することだと思ます。家族旅行、両親への感謝、困った人への差し入れ、子どもが本当に必要とするものへの出資、自分や相手を豊かにする本や音楽や芸術、家族が集うためのリビングの改装、特別をお祝いする食事などなど。。時間と思い出を共有するために使われたお金は、Vanguardのミューチュアルファンドよりはるかに高い高利回りを生んでくれるような気がします。そして、その利回りこそがいのちのような気がします。

私のするファイナンシャルプラニングでは、いのちまでは計画することはできませんが、ただお金の管理の仕方、使い方を考えるきっかけをつくることで、いのちに考えを馳せる糸口くらいは提供できるかもしれないという希望もあります。

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6 comments

  1. 数年前から読ませていただいていますが、日本語で多岐にわたって、正確かつ信頼できる情報を得られるのは本当に貴重です。20年近く前に夫を亡くし、それまでファイナンスはほとんどお任せでしたので、その後は手探り状態でした。その時にこちらのブログがあれば、どんなにか助けられたことかと思います。私もクリスチャンですが、老後への不安などから、残高を増やすことに気を取られて、本当に大切なことを忘れがちになります。でもすべては預けられているものと思うと、また原点に戻ることができますし、こちらのブログで考えさせられることも多く感謝しています。再出発が祝されますように。

    1. ありがとうございます!そのとおり、すべては神様より私たちに託されたものですね。それを賢明な使い方ができるようにと、いつも祈っていますが、それでも私も残高や計算に気をとられることがよくあります。私も毎朝聖書を読み、原点に戻って、ブレない生活ができるようにと思っています。

  2. 私も数年前から読ませていただいています。非常にわかりやすくまとめられ、読みやすく、ことあるたびに読み返すこともしばしばでした。次のステップも楽しみにしています。
    追伸ですが、今後も読み返す機会が多いと思います。出来れば削除せずそのまま残していただけると助かります。

  3. アメリカに在住する日本人向け(日本語)で8年間も掲載したファイナンシャル プランの情報はSMART&RESPONSIBLE以外に無いと思います。それだけ貴重、希少、尚且つ優良な情報を提供して頂いたと思います。特にアメリカではお金の使い方を知っていて行動するのとしないのでは雲泥の差だと思います。私はクリスチャンでは無いですが、なるほどとSTEWARDSHIPに対して同感しました。お金は良いことにも悪いことに使えるので管理が大事だと?合ってるかな?私の妻はカトリックですが、generosityが幸せを呼ぶと言ってました。お金でも時間でも差し上げた場合、それ以上の物(幸せ)が戻ってくるそうです。またの機会を楽しみにしてます。

    1. おお、そうですね! ”受けるより与える方が幸いである”と言うキリストのことばがありますが、逆説的に聞こえますが案外真理だと思います。なかなか実行が難しいですが。。。

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