株にする、不動産にする? - どっちがいいかの問題(2)

株投資か不動産投資かという問題について二回にわたって考えています。この記事では、どちらかが勝っているという短絡的な議論はせず、いくつかの項目について株投資と不動産投資の比較をしています。一回目は、キャピタルゲイン、レバレッジ、メンテナンスという項目について考えました。今回は、税制上の優遇、リスク回避のしやすさ、現金化のしやすさ、掘り出し物さがしという点について考えます。

 

税制上の優遇

不動産を持つことの大きな魅力に、税制上の優遇があります。持ち家の場合なら、モーゲージの利子やプロパティタックスに加えホームオフィスなどの費用も税金控除の対象となります。そのうえ持ち家を売ったときに出るキャピタルゲインにいたっては、ひとり$250,000まで、夫婦で$500,000まで非課税(ただし、過去5年間のうち2年間はそこに住んでいたことが条件になります)となります。これほどの大きな額のキャピタルゲインが非課税というのは大きな魅力です(ただし、前述ホームオフィスの控除総額については、販売時に最高で25%の税金がかかるしくみです)。一方、株の場合は一年以上持っていたと想定して、15%(低所得者は0%、高所得者は20%)の課税となります。ゼロか15%かは大きな差です。ただし、株の場合でも年々の税金を支払わないで運用できるオプションもあります。401kやIRAなど税遅延の優遇がある投資制度を利用すれば、年々の課税を心配する必要はありません。そのかわり、401kやTraditional IRAは引き出し時にその時点の所得税で課税されます。

持ち家ではなくレンタル物件として投資する場合は、持ち家と同じように利子やプロパティタックスに加え、修理費用なども税控除の対象となります。その他、通常のビジネスと同様、メンテナンスのための交通費や保険料なども経費として税金を少なくする働きをします。その上、不動産価格のうち、建物に対する価値は減価償却をすることができます。たとえば、$500,000の不動産を購入し、そのうち$400,000が建物部分だった場合、規定の27.5年間で減価償却すると、一年あたり$14,545もの減価償却費を計上することができます。たとえばこの物件からのレント収入が年間$24,000だったとすると、減価償却で$14,545、上に上げた税控除経費の合計が$5,000とすると経費は合計$20,000近くになり、実質上課税対象収入を$4,000までに抑えることができ、大きな節税につながります。

ただし、原価償却には「ワナ」もあり、最終的に物件を売ったときに減価償却費した合計額は25%の税率で課税されます(キャピタルゲインがある場合)。上の物件を10年持っていたとすると$145,450もの減価償却をしたわけで、25%の課税がされると$36,362の税金を払うことになります。年々おいしい思いをしていたわけなので当然といえば当然ですが、あらかじめ知っておかないと驚くことになりかねません。減価償却費を超えたキャピタルゲインがある場合は、その部分は収入により0%、15%、20%の長期キャピタルゲイン率で課税されます。税金は無視できない部分ですから、年々のキャッシュフロー、売ったときのキャッシュフローなどある程度の予想を立てて投資を決めるとよいでしょう。

 

 

リスク回避のしやすさ

この点でも完全に株に軍配です。不動産投資は、この点では決して優等生ではありません。株をはじめ債券などの投資媒体では、正しいポートフォリオを持つことで、最適なリスクレベルを維持することができます。さまざまな投資媒体をうまく組み合わせ、投資額をうまくバラつかせる(ダイバーシフィケーション)ことで、ひとつの株やひとつの債券にリスクが集中することを避け、ひとつが赤字でも他では黒字、差し引き適度に黒字という状態を作り出すことができます。

これに比べ不動産投資は、非常に大きな投資額がひとつの物件につぎ込まれ、結果的にリスクが極度に集中することになります。たとえ何件かの物件を持っていたとしても、不動産市場が低迷しているときは、どれも低迷という状況になりかねません。また、不動産というものは多くの不確定要素を含んでおり、計り知れないリスクも抱えることになりかねません。天災、急な雨漏り、水道管の破裂、カビ問題、問題のある隣人、事件や事故、ローカル経済の不調、訴訟問題など、株投資ではまったくする心配のないリスクを背負う覚悟が必要なのとともに、これらの問題により急激に価格が下がる可能性も理解しておく必要があります。

都市部などでは持ち家が高額で、家をもっているというだけでかなりの不動産資産を持つことになります。その上、リタイヤメントのための投資にも不動産を持つとなると、個人の総資産の非常に多くのパーセンテージが不動産投資に集中することになります。この理由から都市部の家庭では、不動産投資は慎重に考えたほうがいいという意見があり、私も同感です。不動産以外の投資(株、債券、ミューチュアルファンドなど)を十分に蓄積したうえで、全投資資産の5%~15%を不動産投資に当てるというのが適切かと思います。ある程度、リスクがコントロールされた投資資産を十分に持ち、その上で不動産を持つのが望ましいでしょう。
 

現金化のしやすさ

お金持ちの方で子どもに資産を残したいというのでない限り、私たちはいつか資産を現金化し経費にあてる必要がでてきます。安泰にリタイヤメントを迎えたのであれば老後の生活のためかもしれませんし、非常事態があればそれはリタイヤメントの前にくるかもしれません。このとき、持っている投資資産がどのくらい現金化がしやすいかは非常に大切なポイントです。この点でも、もちろん株のほうに軍配があがります。現金化するのに手数料がかかったとしても、比較的簡単に安価に現金を手にすることができます。

一方、不動産のほうは販売するのに必要な準備(修理など)をする費用や、不動産仲介手数料など、7%から10%ほどの費用がかかるうえ、販売までに数ヶ月かかることも珍しくありません。たとえば、レント収入を老後の生活費にあてようとレンタル物件を持っていたが、健康を壊し医療費がかさんだため、レンタル物件を売りたいとなった場合、簡単に必要な現金を手にすることができない状況にもなりえます。不動産投資をリタイヤメント後まで継続する場合は、不動産以外に十分なすぐに引き出せる投資を十分に築きあげておくことが肝要です。

 

掘り出し物さがし

掘り出し物、つまり市場の適正価格に比べ安値がついているものを見つけ、高く売るというのは、誰でも狙いたいところですが、これは株に関してはかなり難しいといわざるを得ないでしょう。全世界の株式市場の値動きを高度なコンピューティング・システムが見張り、買い売りの指示はナノセカンドで自動的に行われる時代です。個人投資家が、安値のついている株を見つけて一儲けするというのは、ほぼ不可能といっていいでしょう。一方、不動産はというと、どうでしょう。不動産市場にも投資家はわんさかいますが、でも少なくとも不動産市場はそれぞれローカルレベルで動いていますし、売買活動が一時的に低迷する時期を狙うということもできるかもしれませんし、売り手が何らかの理由で売り急いでいる物権というのもあるかもしれませんから、株に比べると掘り出し物を見つけ易いといえましょう。また、不動産には、自分で手を加えて価値を上げるということができます。オンボロを買ってリノベーションし高く売るというこができます。「フリップ」と呼ばれるのが、この例です。フリップでは、経験を積んだ投資家がする場合、非常に大きなリターンを見込めます。

 

いかがでしたか。大雑把にまとめると、リスクをできるだけ小さく抑え、安定的な長期投資を狙いたい人はポートフォリオでの株投資、不動産投資に経験があり、すぐに現金化できる投資もある程度あるので、不動産でさらに財を大きくしたいという人は不動産投資というようなところでしょうか。もちろん、リスクを抑えた上で不動産投資もちょっとやってみたいというのであれば、REIT(Real Estate Investment Trust)ファンドなどに投資するという手もあります。株や債券とあわせポートフォリオの中で不動産投資が可能です。自分で直接株を買う代わりに株のミューチュアルファンドを買うように、自分で不動産を買う代わりに不動産のファンドを買うわけですね。あくまでケースバイケース、ご自分のタイプに合わせ選択してみてください。

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6 comments

  1. アメリカの金融やハイテク産業、高度医療、有名大学が集まっているような都市では「高くても自宅」。東京と同じ。

    こういうところは、リベラルな傾向があり、借主側に有利なことが多い。変人だらけなのに。
    大家やるには覚悟は必要。
    スキルがあれば、フリップも可能だが、こういった人気地域の物件を手に入れるためには、相当のコネと知識と経験が必要。
    結局、素人には、自宅投資が税制上も、ファイナンス上も、有利な点が多い。

    問題は、高い地域で自宅買うと、それだけで不動産ポートフォリオが大きくなってしまうこと。
    かなりお金持ちでない限り。
    なので、こういった地域に住む人は、自宅買ったら、残りは株やファンドにってなるのが自然。

    で、産業に伸びシロのある安いエリアでは、楽に自宅も手に入るので、自宅以外の不動産を所有できる可能性も十分あり。
    でも、どうしても安いエリアは、想像を絶するアホも多い。地元をよく知り、そういう人たちにどう接していくかのスキルがないと、大家は難しそう。

    で、それ以外のエリアで不動産で儲かるには、さらに相当の知識と経験が必要。

    という個人的な見解になっております。近頃。

    どうでしょうか?

    1. Cheeさ~ん!お久しぶりです。経験者は語るですね。私は大家業をしたことがないので、なるほど~とうなづきながら読みました。そう、私の友人も大家業で苦労していました。このあたりは高いので、かなり離れた他州の物件。地理的にも経済層的にも、自分の環境とは違った物件・テナントを相手にするのって大変だな~と思いました。かといってこのあたりの高い物件には手が出ない(自宅だってなかなか手が出なかったんだから)し、そもそもフリップ物件なんてキャッシュオファーの世界だし。お話しになりませんでした。。ま、私は地道にミューチュアルファンドでいいです~。。

      1. 私は大家をしたことがありませんよ~。

        私のブログのリンクにあるテキサスの大家さんのブログや他の大家さんの経験談を読み聞きし、すっかり大家はやめておこうという考えに変わっています。
        やはり周りの方も苦労されているのですね。

        私は、ユーチューブが投資感覚になってきています。
        ビデオ制作という労働の投資をすると、チマチマ増えていく。しかもリスクゼロ。
        本当におススメです。

        これをミューチュアルファンドや自宅のムーブアップ資金にしてバランス取りたいです。

  2. いつも勉強させていただいています。ありがとうございます。

    先日、投資 節税目的で不動産を買ってしまいました。
    先にこちらの文を参考にすれば、もう少しお金を貯めてからにしたかもしれません。場所はニューヨークなので今後下がることはないと願います。

    もうすぐデポジットの支払いの為、ポートフォリオ内35%程の金額を支払います。ポートフォリオの約40%は401kで、残りの40%は債権、10%は株、残りの10%は現金になります。現金と持っている20種類ほどの債権から半分以上cashにして、支払いを予定していますが、どんな基準で20種類の債権から現金化する債権を選ぶのをおすすめしますか? アドバイスをお願いします。
    どうぞよろしくお願いします。

    1. 全体像を把握せずに安易にアドバイス差し上げられることではありませんし、Smart & Responsibleは機を見て売り買いする(マーケットタイミング)は推奨せず、ノウハウもないので、あまり有益なことは申し上げられませんが、敢えて言うならInflation Protectedでない債権や長期債券は、今後利子が上がることが想定されるので今売ってもよいのではないでしょうか。

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