リタイヤメント準備 - ターゲット・デイト・ファンドとうまくつきあう

老後準備のために人気を集めているのがターゲット・デイト・ファンドと呼ばれるものです。401(k)などを利用して退職資金を貯めるにあたって、アセット・アロケーション(資産分配)を決めたり、それを維持するために定期的にリバランスを行うことは、ともすると難解で面倒なことですが、ターゲット・デイト・ファンドはそのような負担を軽減するシンプルな投資方法として注目されています。2001年時点でのターゲット・デイト・ファンド投資総額は$12.3ビリオンでしたが、この数字は現在では約$170ビリオンにまで伸びてきています。

ターゲット・デイト・ファンドは、自分がリタイヤする予定の年を指定するだけで、面倒なことは心配する必要がないので、お手軽な老後資金の準備方法として人気を集めています。2006年にPension Protection Actが制定されて以降は、401(k)などのプランに加入した場合の、デフォルトの投資オプションとして、このターゲット・デイト・ファンドが使われることがますます多くなりました。

ターゲット・デイト・ファンドは、ターゲット・デイト(リタイヤする予定年)を目指して、リスクの少ない投資に自動的に調整されていくもので、テーゲット・デイトが近づくにつれ、株の上がり下がりからは保護された投資法になっていくはずのものです。しかしながら、昨今の株式市場の乱降下によって、2010年時点で平均的2010年ファンドは24%もの値下がりを見たというSECの報告もあり、「ターゲット・デイト・ファンドに投資したから安心である」と安易に考えるのは危険だということも浸透しつつあります。

では、このターゲット・デイト・ファンド、使うべきなのか、避けるべきなのか、使うのならどんなことに気をつければいいのかについて、一緒に考えていきましょう。

 

そもそも、ターゲット・デイト・ファンドって何?

ターゲット・デイト・ファンドは、ライフサイクル・ファンドとも呼ばれることもあり、時の経過とともに、投資者のライフサイクルに合わせて、アセット・アロケーションを自動的に調整してくれるミューチュアル・ファンドです。具体的には、リタイヤメントが近づくにつれて、株の比率を下げ、債券や現金同等品などの比率を上げていきます。

ターゲット・デイトとはあなたがリタイヤする予定の年のことを指しあなたが2035年に退職し老後生活に入るのなら、2035年ファンドを選ぶという具合です。その結果、ターゲット・デイト・ファンドには、たとえばFidelity Freedom 2030とかVanguard Target Retirement 2040などのように、名前の一部として年号が入っています多くの場合、ターゲット・デイトは5年おきの設定になっていますので、たとえば2037年にリタイヤする予定であれば、2035年ファンドと2040年ファンドのどちらかを選ぶか、ふたつを組み合わせることで、ちょうどよいミックスをつくりだします。

 

ターゲット・デイト・ファンドの長所と短所

子どもを育てていて思うのですが、長所と短所は裏腹ですね。回転が速く何でもすぐにできる子は、他の人に対して寛容する心が薄く忍耐力がないかもしれません。飲み込みが遅く何をやってもスローな子は、地道にがんばることを知っていて耐える力があるかもしれません。ターゲット・デイト・ファンドの長所と短所も、まさにそのようです。

ターゲット・デイト・ファンドの長所はまさにシンプルさ!通常のリタイヤメント投資には、1) リスク・リターンのトレード・オフを決めること、2) それに従い、アセット・アロケーションをすること、3) 決めたアセット・アロケーションを維持するためリバランスすることと、4) リタイヤメントが近づくにつれてリスクを下げるためアロケーションを変えていくことが必要になります。とくにステップ3)と4)は、難しいことではないのですが、投資を行う長年の間、継続的に必要なことですのでついつい怠りがちです。これに比べ、ターゲット・デイト・ファンドは投資を始めるときに、退職する年号を選ぶだけで、ステップ2)、3)、4)をすべて自動的にやってくれるわけです。

反対に短所はどうでしょう。ターゲット・デイト・ファンドの短所もそのシンプルさにあります。英語でone-size-fits-allといいますが、2035年にリタイヤする人すべてが、まるで同じアロケーションで全員ハッピーということは本当はありえません。リスク・リターンのトレード・オフは非常に個人的なものです。老後どこに住むか、老後のライフスタイルはどのようか、リタイヤメント・アカウント以外にどのような資産を持っているか、寿命をどのように想定するかなどなどで、同じ年齢で同じ時期にリタイヤするひとでも、リスク・リターンへのニーズが異なってきます。

つまり、ステップ1) リスク・リターンのトレード・オフを決めることは、個人的にきちんと行わなければならないことであり、ターゲット・デイト・ファンドを使うことによって自動的に解決されることではないということです。それを勘違いし、安易にターゲット・デイトを選んで投資をはじめると、冒頭のケースのように2010年退職予定であったのに24%もファンドが値下がりしてしまったと驚くことになるのです(このようなアップ&ダウンは投資にはつきものです。ただし、リスク・リターンのトレード・オフをきちんと理解して投資していたのなら、24%値下がりして「がっかり」はしても、「驚く」ことはない・・・つまり、それは許容されたリスクであり、また値が戻るまで待てる余裕がある・・・というのが理想であるわけです)。

 

ターゲット・デイト・ファンドをうまく使う

では、そのシンプルなターゲット・デイト・ファンドの短所に注意しつつ、長所を十分に活用するにはどんなことに気をとめたらよいのでしょう。

1.アロケーション(資産分配)が自分のニーズにあっていることを確認する

同じ2035年ファンドでも、A社の2035年ファンドとB社の2035年ファンドではアロケーションがかなり違っているということがよくあります。A社は90%を株にアロケート(配分)しているかもしれませんし、B社は70%しかアロケートしていないかもしれません。このアロケーションの違いは、その後何十年もの投資パフォーマンスに直接的に影響しますから、スターティング・ポイント(現在)でのアロケーションをきちんと確認し、自分のリスク・リターンの要件にあっているのか判断することが必要です。

このスターティング・ポイントのアロケーションは、リタイヤメント(上の例では2035年)が近づくにつれて、低リスクになるようアロケーションが自動的に変更されていく(株の配分が下がり、債権・現金の配分が増える)わけですが、リタイヤメント時(ここでは2035年)のアロケーションがどのように設定されているかも確認する必要があります。リタイヤメント時のアロケーションを、A社は株比率を60%に設定しているかもしれませんし、B社は30%に設定しているかもしれません。また、リタイヤメント以降の老後生活でも投資は継続されるわけですが、その時点(リタイヤメント以降)でのアロケーションはどうかも確認したほうがよいでしょう。つまり、スターティング・ポイントだけでなく、エンディング・ポイントでのアロケーションも確認し、最初から最後まで自分のリスク・リターンに見合った投資がされるのかを見極める必要があるということです。

冒頭の2010年ファンドの多くが、2008年の株式市場の乱降下の時点で(リタイヤメントのわずか2年前!)50%以上を株にアロケートしていたというリサーチがあります。問題は、この2010年ファンドに投資をしていたひとが、この事実を知っていたかです。これは、投資者として知らなければならないことです。その気になれば、投資会社のWebページなどで簡単に調べられることですから、確認しておきたいものですね。

2.どんな投資媒体に投資しているかを確認する

アセット・アロケーションの基本は、株・債券・現金同等品の3カテゴリーの分配率を最適に保つことですが、その次の段階としては株のカテゴリーの中で、多様な株に投資を配分すること、同様に債券のカテゴリーの中でも、多様な債券に投資を配分することという作業も重要になってきます。US株だけに投資していればアメリカの経済が悪くなったときは総倒れですが、US株に加えて外国株にも投資を分散させていれば、リスクが分散されます。こういったわけで、同じ株のカテゴリーのなかでも、様々な種類の株を持つことでよりリスクを下げ安定したリターンを実現するわけです。

これらのことは、ファンド・マネージャーが投資媒体の取捨選択をして、最適なミックスを維持してくれるはずなのですが、どうやらこれもファンドによってかなり差があるようです。実際どんな内容の投資媒体に投資しているのか、詳細まででないにしろ、おおまかには把握しておくほうがよいようです。どのような投資媒体を含めるのがよいかのモデルはこちらにありますので、それと比較してみるのもいいかもしれません。

ファンドによっては、流行を追ってゴールド投資比率が高かったり、反対に不動産やコモディティーなどの代替媒体を含めていなかったり、US以外の外国株への投資比率が異常に高かったりなどと偏りがあることがあるようです。たとえば、AllianceBernsteinやJohn Hancockのファンドでは35%以上も外国株に投資されていたという事実もあるようで、それが自分のリスク・リターンに見合うのか判断する必要があるでしょう。

3.リバランスはどのくらいの頻度でされるかを確認する

リタイヤメントが近づくにつれ自動的に低リスクにリバランスされるはずのターゲット・デイト・ファンドですが、「自動的」の中身もミソ。ファンドによっては、十分な頻度でリバランスされないものもあると、ある専門家は指摘します。3、4年に一度のリバランス、ひどいと4、5年に一度という場合もあるそうです。リバランスの頻度があまりに低いのは、あるべきアローションからずれている期間が長くなる可能性がありますし、売買が不利なときに一度にまとめてリバランスがされる可能性も高くなります。少なくとも1年に一度のリバランスを行っているファンドのほうが、好ましい気がします。

4.手数料が高すぎないか確認する

投資ファンドは、手数料がつきものです。手数料は、アロケーションを維持したり、投資媒体の多様性を維持したり、媒体を選択したり、売り買いしたりなど、投資者に代わってファンドが行ってくれるサービスに対しての代償です。しかしながら、この手数料、何にいくらかかっているのかが分かりにくく、いったい自分がいくら支払っているのかを知ることは簡単ではありませんでした。結果的に、非常に高い手数料を払っているのに投資者がそれを意識していないという結果も生んでいました。これを受けて、Department of Laborが手数料開示のルールを発行し、今年半ばにはリタイヤメント・アカウントの手数料は分かりやすい形で明示されるようになるはずです。

手数料はばかになりません。毎年毎年支払うものであり、これが何十年にもわたって繰り返されることですから、最終的な投資パフォーマンスに直接的な影響があります。たとえば$100,000を20年間、ふたつのファンドで投資したとしましょう。どちらも11%の利回りで運用されたとします。ひとつのファンドは手数料が2%、もうひとつは手数料が1%だったとします。20年後の残高は、前者が$560,000、後者は$673,000となります。$113,000は大きいですね。

ターゲット・デイト・ファンドが課する平均的な手数料は1.27%とのことですが、手数料は投資会社によって非常に開きが大きいようです。Vanguardの手数料は0.19から0.21%であり最低レベルですが、Wells Fargoの一部のファンドでは2.00%となっています。T. Rowe Priceは0.60%から0.74%、FidelityのFreedomファンドは0.57から0.84%となっています(以上(Kiplinger調べ)。

また雇用主によっては、投資会社との直接交渉により、雇用者の払う手数料を低くする努力をしているところもあるようです。反対に雇用主によっては、人事部も手数料についてよく把握しておらず、法外な手数料が野放しになっている場合もあるようです。いずれにせよ、手数料を払うのは他ならない私たちですから、きちんと確認したいものです。手数料開示の新ルールが施行される前でも(施行後は今より見やすい形で開示するということで、今が開示されていないわけではありません)、少し調べれば手数料を知ることができるはずです。自分のリタイヤメント・アカウントのWebページにいって、ファンドの詳細情報を見つければ、手数料についての記述があるはずです。

 

以上の4項目、1)アロケーション、2)投資媒体、3)リバランスの頻度、4)手数料について、確認したうえで、自分のニーズにきちんとあっているものであるかを判断することが、ターゲット・デイト・ファンドをうまく使うには欠かせないということです。

 

次回は、この1)から4)項目に関して、実際我が家のターゲット・デイト・ファンドについて調べてみたいと思います。。。

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