401(k)やIRAなどの税優遇がある口座では、年々の利回りが非課税のまま運用がされ続けるという大きな特典があります。株式ファンドが配当金を出しても、債券ファンドが利子を出しても、さらには投資者がAファンドからBファンドにのりかえ、売却益(キャピタルゲイン)が出ても、一切税金がかからないまま運用が継続されます。一方で、課税口座(Taxable Account、Brokerage Account、Regular Accountと呼ばれる)ではそうはいきません。上記のような課税事象が起こったときには、その年に税金を払わねばなりません。この税金にできるだけうまく対処する投資法はどんなものがあるのでしょうか。今までもいくつか記事を書いてまいりましたが、今回、Vanguardのターゲットデイトファンドが大きなキャピタルゲインを出した事件をきっかけに、もう少し考えを拡張してみたいと思います。
人気のターゲットデイトを使うのはどう?
401(k)やIRAでは、ここ10年でターゲットデイトファンドの利用が大きく進んできました。低手数料のインデックスファンドを組み合わせ、ターゲット・リタイヤメント年さえ決めればそれに合わせたリスクレベルでポートフォリオを組んでくれ、その最適な投資割振り比率を常に保つようリバランスをしてくれ、経年とともにターゲット年が近づくにつれリスク低下調整(株式比率を下げ、債券比率を上げる)も自動で行ってくれるターゲットファンドは、大変に便利なものです。昨今の業界においての低手数料化傾向もともなって、ターゲットデイトファンド自体の手数料もかなり低いレベルにまで下がっています。実際、多くの401(k)では(プラン参加者がOpt-outしない限り) デフォルトで自動的にターゲットデイトファンドが投資先として選ばれることも多くなっています。
一方で、このターゲットデイトファンドを、課税口座に使う場合はどうでしょうか?
比較的小さな投資額なら有効な方法
ターゲットデイトファンドは十分課税口座でも利用価値はあるように思います。低手数料で良質のインデックスファンドをベースにしたものであれば、お手軽に投資がはじめられるからです。とくに投資額がそれほど大きくない場合や、投資期間がある程度限られている場合には、下記でとりあげるような課税問題も小さく保てる可能性があり、至便性とのトレードオフではありますが、十分考慮に足るチョイスだと思います。
一方で、投資額がある程度大きく、またリタイヤメントを念頭に置いた長期投資の場合には、税金の問題が大きくなり、ターゲットデイトファンドでないほうがよい場合もあります。ひとつずつ見ていきます。
パッケージファンドであるが故の問題
ターゲットデイトファンドはFund of Fundsともよばれる、いくつかのインデックスファンドを組み合わせたパッケージファンドです。通常ターゲットデイトファンドは、US株式ファンド、外国株式ファンド、US債権ファンド、外国債券ファンドなどの個別ファンドをパッケージにしたファンドです。よって。将来的にお金を引き出す時は、これら個別ファンドをパッケージのまま全部売ることになります。
リタイヤ後の引き出し時には小回りがきかない
リタイヤメント時代のお金の引き出し方のリサーチでは、引き出し時には市場のアップダウンを見ながら、どの個別ファンドからお金を現金化するか考慮したほうがよいという結果が出ています。たとえば、株式市場が落ち込んでいる時に株式ファンドを売ってしまうよりは、市場の影響を受けていない債券ファンドから引き出しをしたり、あるいは反対に株式市場が好調のときは値が高いうちに株式ファンドを売っておくなどのフレキシビリティ確保が、資金枯渇を防ぎリタイヤメント資産を維持するのに有効ということです。このフレキシビリティはターゲットデイトファンドにはありません。繰り返しになりますが、ターゲットデイトファンドはパッケージファンドなので、売る時はこの個別ファンドを組み合わせられたままパッケージで売るイメージになるからです。
「ばらす」作業にキャピタルゲインがかかる可能性
この問題を解決するためには、リタイヤメントまでターゲットデイトファンドで運用していたものを、引き出しフェーズに入った時点で個別ファンドに分解してやることが必要になります。具体的にはUS株式ファンド、外国株式ファンド、US債権ファンド、外国債券ファンドの個別ファンドにばらしてから、上にあるように市場の状態を見つつ、一番状態の良いファンドから現金化する引き出しフェーズに入っていくことになります。
この「ばらす」という作業は、具体的にはターゲットデイトファンドを売って、それぞれの個別ファンドを買うという作業です。BeforeとAfterで持っている投資内容は変わりません(ただパッケージをばらすだけです)が、それでもファンドを売って他のファンドを買う作業なので、売却益(キャピタルゲイン)が出ることになり、課税口座でそれが起こった場合はキャピタルゲイン税がかかることになります。
最初からばらばら投資がいいかも
これを防ぐために、パッケージとしてのターゲットデイトファンドではなく、もともとばらばらの個別ファンドで持ちつつ、でもターゲットデイトファンドに似たような自動リバランス・自動リスク調整の機能を確保するものとして、以前のブログで以下の2つを取り上げています。
ミューチュアルファンドであるが故の問題
さらには、ターゲットデイトファンドはどこの会社もミューチュアルファンドとして提供されていますが、ミューチュアルファンドであるが故にかかるキャピタルゲイン税の影響も無視できないかと思います。
不可抗力のキャピタルゲインもある
それを考えさせられたのが、前回とりあげたVanguard Target Retirement Fundの謎のキャピタルゲイン問題でした(Vanguardターゲットデイトファンドのキャピタルゲイン問題)。このキャピタルゲインは、上で説明した、投資家本人がファンドを売却したことによるキャピタルゲインとは違って、ファンドマネージャーがファンドの中で投資媒体を売却したことによるキャピタルゲインです。投資家本人の売却によるキャピタルゲインを売却キャピタルゲインと呼ぶなら、後者のほうは投資家本人はなにもしなくともかかるファンド内キャピタルゲインとでも呼ばれるものです。
ファンド内キャピタルゲインは、投資家本人がなにもしなくてもかかるので、投資家本人はなすすべがありません。通常、市場インデックスが変更になったときなどしか起こらず頻繁ではないうえ、額も目が飛び出るほど大きなものではないので、ふだんは気にする必要がほぼありませんが、それでも今回のVanguardの件のようにファンドの売却が急増したときに、思わぬファンド内キャピタルゲインをこうむる危険性をはらんでいます。書き加えておきますが、Vanguardの今回のような事件は、かなり特殊なケースで普通に起こるキャピタルゲインの大きさが度を大きく超越していました。この件については、Vanguardのビジネスプラクティス上のミスが問われ、いくつかの集団訴訟が起こされています。マサチューセッツではすでに判決が出て、過大な税金を負わされた投資家に対し、Vanguardが$6.25ミリオンに上る和解金を出すことになりました。この規模の問題は繰り返す可能性が少ないものの、投資家にとっては不可抗力のキャピタルゲインがでるのは事実です。
ロボアドの利用は考慮に足る
このような課税口座でのターゲットデイトファンドの不都合に対処するためには、ロボアドバイザーの利用が考慮に足るかもしれません。以前ご紹介していますが、VanguardのDigital AdvisorとM1 FinanceのPlan for Retirement は利点があるかと思います。個別ファンドを組み合わせて組むポートフォリオであり、パッケージファンドを持っているのとは違いますので、誰かが売却するこでのファンド内キャピタルゲインは発生しません。さらにはこの2つのプランにおいては、個別ファンドもミューチュアルファンドではなくETFを使っているので、より税効率がよいこともあります。
自分で投資ファンドを組み合わせて投資する方法も
あるいは、最後の手段として、ターゲットデイトファンドでもなく、ロボアドでもなく、自分で投資を管理する方法もあります。必要なファンドを組み合わせて、自分で投資をする方法です。投資ファンドの管理に抵抗がない人には一番良い方法かもしれません。
選択のガイドライン
下記に課税口座での利用を前提に、ターゲットデイトファンド、Vanguard Digital Advisor、M1 Finance Plan for Retirementと、これらサービスを使わず自分で投資する場合の4つについて、ProとConをまとめます。
ターゲットデイトファンド
- 手っ取り早く、低手数料(0.10%以下から0.15%程度)で始められる。
- 将来的に個別ファンドにばらす必要がなく、ある時が来たらそのまま引き出すのであれば問題は少ない。
- 今回のVanguardのような、ファンド売却が急増してのファンド内キャピタルゲインはおそらく今回一度きりのものと想像できるので、将来はそれほど気にしなくてもよいと思われる
VanguardのDigital Advisor
- 手数料はほんのちょっと余分にかかる(ファンド手数料とロボアド料合わせて0.20%程度)が、ターゲットデイトファンドを持っているのと同じ投資内容を、パッケージファンドを使うことなく実現できる。
- ETFなので、より税効率がよい。
- ETFベースなので端数投資ができない(上記ブログ記事を参照のこと)。投資額の全額がすぐに投資にまわらないもどかしさはある。
- VanguardのWeb User ExperienceとCustomer Serviceは定評が低め。
- Vanguardは老舗だが、Vanguard Digital Advisorは比較的トラックレコードが短い(未知数あり)。
M1 Finance Plan for Retirement
- ロボアド手数料無料で、Vanguardの低手数料ETFを中心とした、ターゲットデイト・ポートフォリオを実現できる。
- もともと個別ファンドを組み合わせての投資なので、将来引き出すときも個別ファンドを選んで引き出せる。
- ターゲットデイトファンドのファンド内キャピタルゲインを気にする必要がなく、個別ファンドもミューチュアルファンドではなくETFなので、より税効率がよい。
- M1は端数投資ができるようなので(実際の処理で未確認)、投資額全額をすぐに投資に回せる。
- オンラインオンリーで新興の金融機関なので、Customer Serviceなど未知数のところがある。
自分で個別ファンドで投資する
- 自分でUS株式ファンド、外国株式ファンド、US債権ファンド、外国債券ファンドの4つの基本的インデックスファンドを組み合わせて投資する。
- ターゲットデイトファンドやロボアド手数料はかからないので、低手数料投資が可能。
- 個別ファンドを組み合わせての投資なので、将来引き出すときも個別ファンドを選んで引き出せる。
- ターゲットデイトファンドのファンド内キャピタルゲインを気にする必要がない。
- リバランスやリスク調整は自分で定期的に行う必要がある(かなり面倒くさい)。
- ETFを選べばさらに税効率が良い・・・が端数投資ができず、全額が投資に回らない。また、ドルコスト平均法の場合は、都度自分で購入シェア数を計算する必要がある(ただし、金融機関によっては端数処理を許しているところもあり)。
- ミューチュアルファンドを選べば、税効率はETFより劣るが、ドルコスト平均法が使える。
さて、どれにするかは、それぞれの投資目的、状況と投資スタイルによって決めていくことになります。