リタイヤする年号を決めて投資すれば、すでに最適なアロケーションが組まれており、年々のリバランスやリスク調整も自動してしてくれるターゲットデイトファンドは、ここ10年くらいで大幅に利用が増えています。一方で、アンケートに応えて自分の要件を入力すると、それに応じてカスタマイズされたアロケーションを組み、その後も運用管理をしてくれるロボアドバイザーも人気がでてきています。ターゲットデイトファンドとロボアドバイザーは、その機能の多くがオーバーラップしますが、個人投資家としてはどちらを選ぶのがよいのでしょうか。
ターゲットデイトファンドの特徴
- 通常5年単位に設定されたターゲット年を選んで投資。
- 2006年のPension Protection Actができてから、多くの401(k)プランで、ターゲットデイトファンドが“デフォルトファンド”に設定された。これにより、プラン参加者が敢えて他の投資ファンドを選ばない限り、参加者の年齢によりリタイヤ年を割り出し、その年号に応じたターゲットデイトファンドに自動投資するケースが増えた。
- 通常は、投資各社が自社の低手数料ミューチュアルファンドやETFを使いターゲットデイトファンドを組んで提供している。手数料は、ミューチュアルファンドやETFのExpense Ratioに、ターゲットデイトファンドのマネージメント手数料を加えたもの。Charles Schwabの08%、Vanguardの0.14~0.15%程度から高いものは1%を超えるものまである。
- 年齢ごとにあらかじめ設定されたポートフォリオがあり、年齢が上がるごとにリスクが下がるように自動調整。自動調整されていくスケジュールをGlide Path呼ぶ。
- Glide Pathの設定のしかたは、それぞれの会社で異なる。同じ2050ファンドを選んでも、株式:債券の比率が異なったり、US国内株:US以外の国際株の比率が異なったりする。
ロボアドバイザーの特徴
- 個人がアンケートに答え、その回答結果を使い、アルゴリズムが最適な投資ポートフォリオを組み、その後のリバランスなどのメンテナンスも行う。
- アンケートで考慮される情報は、ゴール、投資期間、貯蓄額、リスク許容度など。
- 通常、ポートフォリオは低手数料のETFなどで組まれることが多いが、投資会社にタイアップしたロボアドバイザーだと、投資会社の投資ファンドを優先的に使ってポートフォリオを組むことも多く、セールスマン的存在になっているものもある。
- アルゴリズムでの完全自動化マネジメントを提供するものから、アルゴリズムに加え、人とやりとりすることのできるヒューマンタッチを取り入れているものまである。
- 顧客が支払う手数料は、ポートフォリオの中の各ミューチュアルファンドやETFのExpense Ratioと、ロボアドバイザー手数料を足したもの。ロボアドバイザー手数料は、無料(Wise Banyan)、15~0.35%(Betterment)からそれ以上までさまざま。
- 401(k)では適用が少ない(Bettermentが最近開始)。IRAやTaxable Accountでの適用が多い。
どう比較するのか
ターゲットデイトファンドにせよ、ロボアドバイザーにせよ、一番大切な基本は、ポートフォリオに使われるミューチュアルファンドやETFが低手数料の良質のものであることです。どんなにターゲットデイトファンドのGlide Pathがすばらしくても、またどんなにロボアドバイザーのアルゴリズムがすばらしくても、最終的に提案されるファンドが手数料が高かったり、分散投資が偏ったファンドであれば、本末転倒の結果に終わります。どんなに薬剤師がすばらしくても、調合する大元の薬の質が悪ければ、なんにもならないのと同じです。運用実績のある、低手数料の良質インデックスファンドを提案しているものを選ぶ必要があります。
401(k)でターゲットデイトファンドを選ぶ場合は、デフォルトで提供されている1社のものしか選べない場合も多く、そういう場合は、提供されているものが手数料が高すぎず、Glide Pathも大きな問題がければ、迷わずそれを使えばよいと思います。手数料が高すぎる場合は、手数料の安い個別ファンドで自分でポートフォリオを組むか、401(k)の雇用主マッチアップの限度額までは積み立てをして、あとはIRAなど社外の個人投資をするかになります。
IRAやTaxable Accountなら、どこの会社のものを使ってもよいわけですが、手数料をチェックしたあとは、Glide Pathをチェックし、自分のターゲット年でファンド年号を選んだとき、現在の株式:債券のアロケーションがあまりに希望とかけ離れていないことをチェックします。
ターゲット年でのアロケションもチェックします。さらに、ターゲット年を超えたあと(リタイヤメント後)のアロケーションもチェックしましょう。Retirement TO型とRetirement THROUGH型との2種類があり、前者はターゲット年でリスクが最小になり、株式比率がぐんと下げられて、リタイヤメント期間は低リスク運用します。後者はターゲット年でもリスクが最小にならず、リタイヤメント期間もある程度のリスクをとりつつ運用し、リタイヤメント後7年から10年くらいで最初リスクまで下げていくタイプです。前者は低リスクですが、利回りも下がるため、リタイヤメント期間が長い場合は、最後の方で資金が枯渇する可能性もでてきます。後者は長いリタイヤメント期間でも最初のうちはリスクをとりつつ運用するので、資金枯渇の可能性を下げますが、ただその分市場の騰落の影響を受けやすくなります。最近ではRetirement THROUGH型が主流になりつつありますが、ターゲット年とそれ以降でどの程度のリスクをとるかは各社で差異があります。
ロボアドバイザーを選ぶ場合は、特定の投資会社のものに限って(あるいは中心に)提案するものではなく低手数料の良質ファンドを提案するものであることと、ロボアドバイザー手数料が高すぎないことがチェックポイントです。ロボアドバイザーの主な機能は、1)ポートフォリオ構築、2)リバランスとリアロケーション(ターゲット年に近づくにつれて、いつも最適なアロケーションに自動調節、3)タックス・ロス・ハーベスティングによる節税効果 ですが、このうち1)も2)もターゲットデイトファンドに組み込まれている機能です。唯一の違いは、ロボアドバイザーのほうが、個人の所得、貯蓄額、ゴール、リスク許容度などを細かく考慮して、より個人的にベストなアロケーションを提案し維持してくれることですが、この「個人的にベスト」というのは、いったい何をもってベストかというとちょっと微妙なところかなと思います。ロボアドバイザーのセールストークは、「ターゲットデイトファンドはOne-size-fits -allタイプで、ターゲット年が同じ人なら、だれでも同じアロケーションになるが、ロボアドバイザーなら個人的な条件によって、よりきめ細やかに対応」というものですが、実際、「よりきめ細やかな対応」がどのくらい効果があるものなのかは、私個人的には疑問に思います。アロケーションを決めるにあたっての最も大きな要素は、投資期間でこれはターゲット年です。所得はアロケーションを左右するというよりは、いくら積み立てるべきかの金額によりかかわることですし、貯金額は6か月目安の非常時のための現金を確保するのが長期投資の前提なので、その貯蓄額はクリアしてターゲットデイトファンドを選べば、わざわざロボアドバイザーを使う必要もありません。ゴールはターゲット年とほぼ同義で、リスク許容度はターゲットデイトの指定しているアロケーションがどうしても納得できないというのでない限り、組まれているものを受け入れるという姿勢で問題がないかと思います。
ということで、私は、ロボアドバイザーに毎年一定パーセンテージの手数料を払う代わりに、ターゲットデイトファンドで問題ない場合がほとんどではないかと考えます。どうしても細かい点が気になるという場合は、時間給でサービスを提供するファイナンシャルアドバイザーに一度見てもらい、問題点や不安を解消して、あとはターゲットデイトファンドにするという手もあります。
なお、3)のタックス・ロス・ハーベスティングによる節税効果は、Buy&Holdで長期投資する投資家にはほとんど意味のないものです。そもそも、IRAなどの税遅延のある口座では、節税自体を気にする必要がないので無関係です。Taxable Accountの場合は、値下がりした株式(あるいはファンド)を売ってキャピタルロスをつくり、それを他の値上がりした株式(あるいはファンド)のキャピタルゲインやあるいは他の収入に対して相殺し、課税対象収入を減らし節税するというのが売りですが、インデックスファンドベースの長期投資ではそもそもこのような売り買いは推奨しません。
2018年までに401(k)の積立額の63%がターゲットデイトファンドに当てられるという予想がでていますが、401(k)はターゲットデイト主流が今後も進んでいくでしょう。401(k)のターゲットデイトで満足しているなら、IRAやTaxable Accountの投資も同じ路線のターゲットデイトファンドで・・というのも自然なロジックだと思います。ポートフォリオが複雑にならず、全体像も把握しやすいと思います。
実際、内容と手数料を比べてみよう
特定の会社のファンドを売るような「セールスマン的な」ロボアドバイザーはすでに論外ですが、まっとうな提案をしそうなロボアドバイザーのつくるポートフォリオをチェックしてみると、往々にして低手数料で良質なVanguard社のファンドが入っています。各社のロボアドバイザーが提案するETFを人気順に並べると、トップ5がVanguardのものだそうです。
たとえば、Bettermentで2060年リタイヤでAggressiveに増やしたいポートフォリオを組んでみると下記のようなものが提案されました。
Betterment ポートフォリオ
17.7% Vanguard Total Stock Market ETF
17.6% Vanguard Value ETF
5.6% Vanguard Mid-Cap Value ETF
4.9% Vanguard Small-Cap Value ETF
41.0% Vanguard TAX-MA/FTSE DEVELOPED MKTS
13.3% Vanguard Emerging Markets Stock Index Fd
一方、Vanguardのターゲットデイトファンドでいくなら、Target Retirement 2060で下記のとおりの内容。
54.2% Vanguard Total Stock Market
35.8% Vanguard Total International Stock
7.0% Vanguard Total Bond Market
3.0% Vanguard Total International Bond Market
ファンドの種類の数も比率も違うように見えますが、内容を見てみると案外似たような感じです。ただし、Target Retirement 2060は債券が10%入っているので、そこは違います。
で、このふたつの投資ポートフォリオを過去3年(2015-2018年)持っていたとしたら、パフォーマンスはどうだったかというと、かなり近似です。Portfolio A(赤)がBetterment、Portfolio B(黒)がVanguard Target Retirement2060。
肝心の手数料はというと、
Betterment: ファンドのExpense Ratio合計0.07%+Bettermentのロボアドバイザー料0.25%=0.32%
Vanguard Target Retirement: トータルで0.15%(個人で買う場合の手数料。ちなみに401(k)なら0.09%)
です。将来のパフォーマンスは誰にも正確に予想ができないですし、このあたりは、「何を信じるか」という信条のようなものに尽きますが、私個人的には、Vanguard のターゲットファンドのほうが簡単で安くてよいように思います。