選挙が終わるなり、反トランプのデモが行われる今回の大統領選。政治の経験がない大統領のもと、このアメリカはどうなっていくのか不安になる人がいるのも当然のことでしょう。主人が勤める州立大学では、“今回の選挙の結果で大きなストレスを感じている学生がたくさんいるので、もし宿題などの期限延長願いが出された場合は、柔軟に対応するように”と教務部から通達メールが流れたそうです。マクロ経済がどうなっていくかは想像の範囲を超えていますが、とりあえず今日は、トランプ案が家計に与える影響を、とくに税金部分に的をしぼって、まとめてみます。
所得税
多くの人にとって連邦・所得税率が下がるでしょう。現在ある7レベルの累進課税カテゴリーが3つに減ります。たとえばMarried Filing Jointlyの場合だと下のようです。
ほとんどの人には減税となりますが、これまで10%ブラケットにいた人にとっては、12%への増税になります。
Standard Deductionが引き上げられます。2016年のMarried Filing JointlyのStandard Deductionは$12,600ですが、これが$30,000に引き上げられます(Singleは$15,000)。その一方でPersonal Exemption(2016年$4,050)が廃止されます。4人家族の場合は、ほぼ同じ効果($30,000 and $12,600+$4,050×4=$28,800)であり、それ以上ならよくない方向に、夫婦二人か子どもひとりなら好ましい方向に動きます(Standard Deductionを選ぶことを前提に)。
またItemizeする場合は、Itemized Deductionの控除額がMarried Filing Jointlyの場合で$200,000が限度額になります(Singleは$100,000)。このレベルでの控除額がある家庭は相当な高収入世帯ですから、一般の人には関係ありません。
チャイルドケア
トランプ案では多くのワーキングクラスの人にとってチャイルドケアのコストは下がるとのこと。上がっている案によれば、13歳以下の子どものケアにかかった費用、最高$5,000までがAbove-the-line 控除となりAGI(Adjusted Gross Income)を下げることになります(年収制限あり)。Above-the-lineの控除は、1040フォームの1ページ目で控除する項目で、Itemizeする必要がないので、引き上げられたStandard Deductionを選びつつ、チャイルドケアコストを控除することができます。
また、Married Filing Jointlyの場合年収$62,400以下(Singleで$31,200以下)で、Earned Income Tax Creditを通してタックスクレジットを出します。タックスクレジットは払う税金があれば税金を減らす形で、払う税金がなければクレジットの額をそのまま受け取ることができます。
また、トランプ案ではDependent Care Saving Accountというのものができ、年間家族で$2,000まで税控除で積み立てることができ、低収入層のためには最高$1,000までを限度に政府が50%のマッチアップ積み立てをするとのこと。子どもが18歳になった時点でこの口座に残高があれば、大学費用に使えるというしくみも提案されています。これまで扶養者ケア(Dependent Care)はFlexible Saving Accountで税控除で積み立てられるしくみがありましたが、これは雇用主からベネフィットとして提供されるもので、その恩恵の範囲外にいた人には使うことができないしくみでした。今回この案が通れば、税控除である程度のケア費用を捻出するしくみがより広範囲の人に提供されることになります。
健康保険
Trump’s Healthcare Reform White Paperによれば、Affordable Care Act(オバマケア)は廃止され、他の施策に代えらえるとのこと。ひとつめのキーポイントは、現在州ごとに行われている健康保険の提供を、州の境界をなくし、保険ポリシーすべての州で提供されるようにすることです。これは実現されれば便利です。引っ越しても保険を乗り換えることなく同じ保険を使い続けることができたり、大学などで他州にいっている子どもも引き続き同じ保険でカバーし続けることもできるようになるかもしれません。しかしながら、現在のかなり複雑になってしまっている健康保険のしくみをひとつにすることは、一筋縄ではいかないかもしれません。
ふたつめは、個人が支払う健康保険料の税控除化です。現在は、雇用主が健康保険の一部を払ってくれる人や、Self Employed(スモールビジネスオーナーなど)で健康保険を税控除できる人、あるいは収入が一定以下で州の提供するHealth Care Marketplaceで助成金をもらって健康保険を買っている人などはいいのですが、それらに漏れる人は自分で高い健康保険を払わねばならず、そのうえなんの税優遇もない状態でした。この案が通れば、これらの人も含めて誰でも健康保険料を税控除することができるようになります。
3つめはHealth Saving Accountを誰でも使えるようにすることです。現在は、High Deductible健康保険に入っている人のみこのHealth Saving Accountを使うことができ、積み立て額を税控除することができます。これがすべての人に開放されます。医療費の税控除積み立ては、これまでもFlexible Saving Accountで可能でしたが、これは雇用主からベネフィットとして提供されるもので、その恩恵の範囲外にいた人には使うことができないしくみでした。今回この案が通れば、より広範囲の人にこの恩恵が提供されることになります。
気になる保険料ですが、今より保険料が安くなる人もいれば、高くなる人もいるだろうと予想されています。予想では、現在オバマケアの助成金をもらっている層は負担が高くなり、助成金をもらっていない層は、年齢、健康状態などにより高くなる場合もあれば、低くなる場合もあるだろうとのこと。若くて健康な人は保険料がさがり、高齢者や病歴のある人は保険料があがるだろうとのことです。
オバマケアは若い世代や健康な人がある程度負担をすることによって、高齢あるいは病歴がある人でも最低限のベネフィットを提供する健康保険に、全員入れるようにしようというしくみでしたが、これがまたもとのように戻るということを意味しています。オバマケア導入後は“Pre-existing condition(既往症)“ということばをあまり聞かなくなりました。既往症によって保険に入れないということがなくなったからです。これがまた、以前のように既往症があると保険に入れない、あるいは保険料が上がるという状態に戻るわけです。オバマケア導入後は、早期退職し、まだ65歳でないのでメディケアには入れないので自分で健康保険を買うという人でも、必ず保険に加入することができました(健康状態によって差別されないため)が、これがなくなる可能性があるということです。
それで結局・・・
そうすると、我が家にとっては総合するとどういう影響があるのだろう・・と思いますね。税金に関することに焦点を当てるなら、こちらのカリキュレータで試算できます。ご参考までに。たとえば2ケースあげてみると・・
年収$80,000の夫婦、子どもなし、家はレント
年収$150,000の夫婦、子どもふたり、ひとりはカレッジ、家のモーゲージあり
Tax Foundationの試算では、どの所得レベルでも税金は減り課税後の所得が増えるだろうとしています。税引き後の所得の増加率は所得が増えるほど増加する傾向があります。ボトム80%の所得層では、税後所得は0.8%から1.9%の伸びである一方で、トップ20%は4.4%から6.5%の伸び、その中でもトップ10%では5.4%から8.3%の伸びで、さらにはトップ1%にいたっては10.2%から16.0%の伸びという結果です。所得が上がれば上がるほど増加率が増えるわけです。それに加え、1%という数字は所得のサイズにより絶対額にすると大きな差があります。ボトム80%の所得の1%は、たとえば年収$50,000の場合は$500ですが、トップ1%の所得の1%、たとえば年収$10ミリオンの場合は$100,000となりケタが違います。トップ1%では、課税後収入が1%どころか10%も伸びるらしいですから、年収$10Mなら$1ミリオンも課税後収入が増えるということ。つまり格差はどんどん広がるということでしょう。
金持ち優遇、ってことですよね。
残念ながら。。