日本の年金とアメリカのソーシャルセキュリティ年金を一緒に受け取ると、ソーシャルセキュリティ年金のほうが減らされる場合があります。このしくみを、WEP(Windfall Elimination Provision)制度といいます。また、このWEPが本来なら適用されなくてよいケースにまで誤って適用されていたという問題もありました。心ある方々のご尽力と働きかけにより、この問題は解決に至ったとのうれしい報告がありました。WEPと誤適用の解決ついては、わかりやすくまとめてくださっているサイトがありますので、詳しくはこちらをご覧ください。
Nenkin Support Center of America
このWEP問題と、問題の解決には、海外年金相談センターの市川俊治さんという方が、2000年代から取り組んでこられました。Social Security Administrationや外務省、大使館、領事館に度重なるコンタクトをなさり、全米の日本商工会議所・日系人会・日本人会の支援も呼びかけながら、この問題の認知度を上げつつ解決までを忍耐強く努力されました。長期間にわたり、多くの方の老後にかかわる大切な問題に取り組んでこられた市川さんとボランティアの方々に敬意を表したいと思います。
以下では、ポイントのみをまとめてみます。
減額が起こる場合
日本の厚生年金か共済年金と、ソーシャルセキュリティのRetirement Benefit(老齢年金)かDisability Benefit(障害年金)を受け取ると、ソーシャルセキュリティ年金のほうが減額されます(Survivor Benefitは対象外。またRetirement Benefitも、勤労年数において日米10年間の合算で資格を得た場合は対象外)。
減額される額は、最大で$557.50(2023年に62歳になる人の例)。年々インフレ調整あり。
20年以上アメリカで働いた人はその労働期間に応じ、上の最大値$557.50が段階的に小さくなる(①)。25年の勤労で、減額は$278.80。30年の勤労で、減額はゼロ。
日本の年金月額の半額を計算し、その額と①の額の、どちらか小さいほうが最終的な減額額となる。
個別ケースでの計算は、こちらのWEPカリキュレータで。日本の年金額(Non-covered pension amount)と、My Social Security口座で確認したアメリカのEarnings Record(Annual earnings covered by Social Security)の入力が必要です。
減額が起こらない場合
日本の国民年金は減額が適用されない。Social Security Administration(SSA)が2022年7月1日付で、「日本の国民年金はWEP適用対象外である」と正式に発表。
これまで誤適用により、国民年金受給者にもWEP減額が行われていた。
SSAは、現在誤適用が起こっている受給者のケースを調べ、修正、還元すべき金額があれば還元すると発表。
誤適用を受けて不服がある人は、アピールができる。詳しくは海外年金相談センターのページで。
そもそも減額はなぜ起こるのか?
WEPとはWindfall Elimination Provisionの略で「棚ぼた排除規定」と訳されます。何が「棚ぼた」かといえば、日米両国の社会保障制度で「おいしいところ」をダブルで享受することです。
社会保障制度では「収入の低い人、長く働けなかった人にはより手厚く」年金を分配していきます。低収入で低税を納めた人は、高収入で高税を納めた人より、収めた金額に対してより手厚く年金を受けられるしくみです。
日本でも低収入、アメリカでも低収入だと、ふたつのシステムでより手厚い年金をもらえることになり、これが「棚ぼた」です。
よってある程度高い収入で長く勤労した人は、そもそも「棚ぼた」がないので、上の減額の計算のとおり減額も低いかゼロということになります。
また国民年金の場合は、年収ベースではなく居住ベースの年金なので、「棚ぼた」がないという理解から、減額がないことになります。
国民年金へのWEP誤適用が廃止された今、もし減額の対象となっても、それは「公正」のためであって、「損」や「搾取」を意味するわけではありません。