ストックオプション・RSU・持ち株会:自社株を持つ心得

ご自分の働いている会社の株をお持ちでしょうか? エグゼクティブなどの経営陣や、マネージャー、ひいては従業員の方々に至るまで、自分が働いている企業の株を持っているケースは案外あります。自社の経営業績が向上して株価に反映されることと個人的な報酬が上がることとをリンクさせ業務へのモティベーションを上げるためのプログラムです。業績が上がり株価が上がれば自分たちも潤うため、株を持っている雇用者は業績向上のために働こうとすると同時に、簡単に会社を離れず留まろうとするのでターンオーバーも防げます。

 

会社が出す自社株関連のインセンティブには、下記のようなものがあります。

ストックオプション: 将来、一定の値段で自社株を購入する権利を付与するもの。将来的に株価が上がって、その値段より高くなった場合は、低い値段で買って高く売れる権利があるわけで、差額は懐に入るというしくみ。

RSU(Restricted Stock Unit): 将来的に企業により定められたベスティング・スケジュール(権利発生のタイミングが決められているスケジュール)に従って、時間経過とともに次第に自社株を取得するもの。たとえば3年ベスティングなら、RSUとして得た株数のうちの33%ずつを1年ごとに獲得し3年で100%獲得する、あるいは4年ベスティングなら、1年ごとに25%ずつ獲得し4年で100%獲得するという具合。

持株会: 自社株を購入する機会を与えられるもので、通常時価に対して10%とか15%とかのディスカウントがある。

 

自社株を持つことのリスク

投資を考えるとき、ダイバーシフィケーション(多様化)は基本です。カジノでルーレットをするとき、持ち金全部をひとつの色のひとつの数字に賭けないのと同じで、いくつもの株式に分散させて持つのです。どうしても全額賭けたい、あるいは数社に賭けたい・・とリスク覚悟のうえでするのならそれは個人の自由ですが、あくまで長期投資で確実に増やしていくことを考えるのならダイバーショフィケーションが基本の基本になります。ミューチュアルファンド、その中でも市場全体をまんべんなく持つインデックスファンドに投資することは、もっとも手っ取り早く安価にダイバーシフィケーションする方法です。

自社株を持つことは業績を上げるモティベーションを上げ、また会社に対するロイヤルティ意識も上げるため、決して悪いものではありませんが、ただ持つ額によっては一社へのリスク集中、つまりダイバーシフィケーションの真逆の効果を生みます。

自分の会社が、勢いのよい業界のトップレベルの会社であり、しかも過去ぐんぐんと株価を上げてきた会社ならば、当分このトレンドは続くだろうと予想して当然でしょう。本当にそうなる可能性は高いかもしれません。ただ先のことは誰にもわからず、予期しない事態が起こった時、株価が激減するということは、案外あることでもあります。この場合、この暴落した株が他のたくさんの株のひとつならいいのですが、多額が投資されていると全体の個人資産に対する影響があまりに大きいことになります。

最近の例でいえば、例えばEquifax。3大クレジット管理会社のひとつであり、これからの情報社会での位置づけからしてもある程度安定した会社であったはずです。ところが7月頭に起こったハッキングによりデータ流出が起こりました。すぐにトップ経営層は自社株を売りましたが、このことは一般の人々には見えないことでした。もしもあなたがEquifaxの自社株を$300,000分持っていたとしたら、データ流出の後は、この価値が$232,000ほどになります。これがそのまま持ち続けていればもとの値に戻り、さらにまた上がっていくのならいいのです。市場全体に多様化されたミューチュアルファンドなら、そうなる確率が大です。しかしながら、この特定の一社の運命がどうなるかは、誰にもわかりません。

 

過去の例でいえば、エンロンや、アーサー・アンダーセン、リーマン・ブラザースなど、安定企業の転落は、なかなかないけど、あり得ない話ではありません。企業に働く場合、インカムに加え健康保険などのベネフィットもその会社に依存しているわけで、もしも会社に万が一のことがあった場合は、それらの収入源を失うとともに、そのうえ持ち株の投資も失うという、ダブルパンチとなります。この意味でも、持ち株によるリスク集中には慎重な考慮とそれなりの覚悟が必要です。

安く買ってすぐ売る

 

ただ、自社株をディスカウントで買えるプログラムが提供されている場合には、利用しない手はないかもしれません。15%オフで購入できたものをすぐに時価で売るなら、この15%(マイナス取引手数料)が短期キャピタルゲインとなり、ご自分のタックスブラケット(最高税率)で課税されることにはなりますが、それでもプラスが残るはずです。すぐに売れること、売る時期について制限がないことは確認する必要があります。

ここ数十年で、インデックスファンドを使っての長期投資は人々から支持を集めるようになりましたが、同時に持株会などで自社株に投資するという傾向はだんだんと少なくなってきました。以前は401(k)の中でも、自社株に多額を投資しているという人もいたものですが、Employee Benefits Research Instituteによると、、401(k)での自社株投資は1999年時と比較すると現在では半分のレベルまで減ってきているとのことです。

通常、よく多様化されたインデックスファンドの場合ですと、“Buy and Hold”といって、いったん買ったら、市場が上がろうが下がろうがただただ持ち続ける(Hold)というやり方が王道です。上がった、下がったに一喜一憂せず、長~く持ち続けることで、長期的な全市場経済の成長から利回りを確保していくやり方です。

自社株の場合はリスク集中で、インデックスファンドの正反対の状態ですので、“Buy and Sell”が王道になります。買ったらすぐさま売り、会社が提供しているディスカウント分だけをすぐに現金として獲得する方法です。手にした現金はインデックスファンドに投資するとよいでしょう。

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