前回、最近ちょっとした流行りのファクター投資についてみてみました。ファクター投資という言葉は新しいが、それはつまるところアクティブ投資の一種であり、昔のアクティブ投資の自動化/高精度化/高速化/低手数料化バージョンであること。ルールの自動化により株式や債券などの選択の精度は上がり高速化され、低手数料が実現されているということをお伝えしました。今日は、各社が売り込むファクターの種類にはどんなものがあり、また私たちはファクター投資についてどういう姿勢をとるべきかについてみていきます。
どんなファクターがある?
では、実際、ファクター投資とはどうやって実現されるのか・・ですが、以下のようなファクター(要素、条件)が良く使われ、それぞれ条件に合う株を集めたファンドに投資することになります。もちろんこれ以外にもファクターはあります。
Value: 実質の割には株価が割安なものに投資する。
Momentum: 直近の成績が優秀な株、上昇トレンドにある株に投資する。
Quality:バランスシート上の財務力が優れている、経常利益が優良な会社に投資する。
Liquidity:トレード(売り買い)されることの少ない(less liquid)な株に投資する
Size: 小型の成長株に投資する
Volatility: 値動きが小さく、リスクの少ないものへ投資する。
ROE: 収益性の高い銘柄へ投資する。
以上は株式の代表的なファクターですが、債券ならこんなものがあります。
Term: 長期債に投資する。
Credit: クレジットレイティングが低い債券に投資する。
以前も述べましたが、ファクター投資は昔のアクティブ投資の自動化/低手数料化バージョンですから、これらのファクターは何も目新しいものではなく、昔からあったものです。これら(これ以外にもある)の要素に合致したものを選び、売ったり買ったりをしながら投資するアクティブ投資は長らく存在していました。
たとえば、世界クラスの投資家であるビリオネアのWarren Buffetは、自分独自のリサーチで成長株とValue株に投資し財をなしてきました。Warren Buffetの頭脳と目利きの代わりに、ファクター投資では、自動化したプログラムが特定のファクターに適う株を選択していくことになります。完全にルール化された条件があり、それを満たす株式が選ばれ維持されていくことになります。
ファクター投資の有用性
特定のファクターを選んで投資することで、「リスクは上げずにリターンだけを上げる」ことや、「同じリターンをより低いリスクで実現する」ことができるとPRしているのも見かけます。もし本当だとしたら、それを使わない理由はないのですが、これは長期的に立証された考え方ではないように思います。もしかしたら特定のファクターファンドには当てはまることがないとは言えませんが、そのファクターファンドを見つけることは容易ではないと思います。ある意味、すべて終わって振り返ってみて初めて、これこれのファクターファンドが成績が良かったと分かるもののように思います。
Vanguard社が、2005年から2014年の10年間、7つのファクターをもとに投資されたファクターファンドについて、それぞれ成績を追ったリサーチがあります。
上の表では、7つの異なるファクターベースの投資ファンドがそれぞれの色で表され、各年で最も成績の良かったものから悪かったものにプロットしてありますが、各ファクターファンドの成績は年々順序が入れ替わり、どれかが一定的に成績がすぐれていると決めることが難しいことを示しています。
このことは、前回ご紹介した以前のブログ記事(インデックス投資を理解する(3):儲かりそうなものを見つけようとしない!)の内容と重なりますが、一生懸命特定の条件に合うものを選んでも、恒常的にトップクラスであることはなかなか難しいことを物語っています。Vanguard社は、「あるファクターが一定期間他と比べてよい成績をおさめる可能性があるが、同時にその同じファクターが他の一定期間では他と比べて悪い成績をおさめる可能性もあることを物語っている」と締めくくっています。
Vanguardは、ファクター投資はアクティブ投資であると明記しています。いろいろな流行りのPRでマーケティングがなされたとしても、やはりファクター投資は自動化/低コスト化はしたもののアクティブ投資であり、市場全体に投資するパッシブ投資に比べれば、ある一定の条件にある株なり債券に“賭ける”ものであるわけです。
で、どうする?
ということで、じゃ、どうすればいいかですが、今までインデックスファンドのパッシブ投資で投資してきた方は、ファクター投資が流行ってきたからといって、姿勢を変更する必要はないように思います。勝てるかどうかわからないファクター投資にふりまわされず、常に市場全体にリスク分散して投資するパッシブ投資で着実に市場利回りを確保していくやりかたは、これまでも、またこれからも有用です。ファクター投資をせずに見送ったからといって、Not much to lose (失うものはあったとしても多くない)です。
もしもどうしてもファクター投資をやってみたいという場合は、インデックスファンドのパッシブ投資を基本に据えながら、限られたパーセンテージを自分の信じるファクターファンドに投資してみるという方法が良いかと思います。以下は、市場全体(Market)に投資する今までのインデックス投資に加えて、一部ValueとMomentumのファクターファンドに投資したやり方を表しています。
ここでは、ValueとMomentumを選んでいますが、どのファクターを選ぶかは自分の信じるところによります。前述のとおり、どのファクターだったら長期的にいつも勝てるかという実績はありません。その時期その時期で成績はまちまちです。
またこの表の下には以下のような注意書きもありました。
どのファクターもかなりの期間、市場全体に投資するのより成績が悪いこともありえる上、長期的に見て、ファクター投資が投資成績を向上させるという保証もない・・としています。
ファクター投資を敢えて選ぶ場合も、姿勢としては長期投資に徹することが大切です。いったん、「このファクター!」と決めて投資したら、多少成績が悪くなろうがなんだろうがずっとそれを持ち続けることが基本です。そういう意味でファクター投資は、インデックスファンドをベースにしたパッシブ投資を基本としながら、ちょっとだけ自分の信じるファクターに追加投資をする=色を付ける(上のCaveatsではtilt<傾き>をつけるという表現と使っています)ものであり、長期投資の姿勢は変わらず維持するものということです。