あなたのアドバイザーは本当にあなたの味方?

米国労働省がファイナンシャルアドバイザーに関しての新しいルールを発表しました。リタイヤメント投資についてのアドバイスを行ったり、投資商品を売るアドバイザーは、顧客の利益を自分の利益より優先させねばならない・・・というルールです。考えてみれば当然のことだと思うのですが、でもこのようなルールが今になってわざわざルールとして発表されるということは、それが行われてこなかった証拠です。「簡単な原理だ。ファイナンシャルアドバイスを提供するのなら、クライアントの利益を優先させることである」というオバマ大統領の言葉がこのルールの根底にあります。今日は、そのルールの内容と消費者としてこれをどう受け止めるかの話です。

 

このルールとは?

このルールはFiduciary Ruleとも呼ばれ、401(k)などのグループプラン、Roth IRAやTraditional IRAの個人プラン、加えてリタイヤメント目的で使われる可能性もあるHealth Savings Accountを含むリタイヤメント口座について、投資アドバイスを提供するアドバイザーやブローカーは、Fiduciaryでなければならないとしています。Fiduciary=フィデュシアリーというのは聞きなれない言葉かもしれませんが、自分自身の利益よりも顧客の利益を優先させる者という意味です。プロフェッショナルなサービスを提供する職業では、その職業の専門団体などでその職業に関するFiduciary Standardというのを設定開示しているのが常で、例えば、医師は患者に対して、弁護士やCPAはそのクライアントに対してFiduciaryとしての義務があります。

National Association of Personal Financial Advisors (NAPFA)という団体は、ファイナンシャルアドバイザーとして働くのであれば、Certified Financial Planner (CFP)、Certified Public Accountant/Personal Financial Specialist (CPA/PFS)、Chartered Financial Consultant (ChFC)、Chartered Financial Analyst (CFA)の少なくともどれかひとつの資格を持つことを推奨しています。それぞれの資格を保持するためにはそれぞれのFiduciary Standardに準拠する必要があります。また州やSECによるRegistered Investment Advisor(RIA)も同様にFiduciary義務があります(Smart&ResponsibleはCPA/PFS、RIAに準拠しています)。しかしながら、これらの資格を持っていなければファイナンシャルアドバイザーになれないかというとそういうわけではなく、ファイナンシャルアドバイザーというのは一般名称なので、なんらなかのアドバイスをする立場にあればファイナンシャルアドバイザーと名乗っても別段問題ありません。資格のないアドバイザーがすべてひどいアドバイザーということはありませんが、ただそのようなアドバイザーはこれまではFiduciaryとしての義務はなかったというのが事実です。

新ルールにより、IRAなどを含むリタイヤメントプランに関して、投資購入、投資保持、投資売却、投資変更などについての提案を行なったり、投資マネジメントについての提案を行ったり、投資査定などをしたりする場合、ファイナンシャルプラナーは全員、Fiduciaryとならなければならないとしています。

 

今までの問題は・・・

これまでは投資アドバイスを行う場合、多くのアドバイザーはSuitability Standardに準拠していればよしとされていました。Suitabilityというのは「適切さ」とでも訳しましょうか、その投資が顧客にとって「適切」なものでありさえすればよかったということです。この「適切」はかなり余裕を持って理解できる言葉です。それなりの利回りを生むだろうと予想される、でも同時にアドバイザーにセールスロードとして手数料が稼げる投資が「適切」として判断されていることもあったでしょう。たとえば、かなり一般的な株を広く含む、ポートフォリオの中でも基本的な役割をしめるようなミューチュアルファンドがあったとします。このような基本的なファンドはどこの投資会社でも提供しているようなジェネリックなもので、たとえばあるファンドでは手数料は1.2%かもしれません。1.2%は低くはないがものすごく高いということもないレベルです。他の会社では同様なファンドが手数料0.12%で提供されているかもしれませんが、1.2%のものが「適切」でないわけではないということです。

1975年以降、アメリカのリタイヤメントプランが確定給付型から確定拠出型に移行されてきましたが、それに伴い投資の自己責任は重く一般人にのしかかってきたのに、安価で質の良い顧客優先の投資アドバイスを確保するしくみがなかったことはとても残念なことです。ウォールストリート発のアメリカの金融業界は、アドバイスを受ける側ではなくてアドバイスをする側に利があるようにつくられてきたのは悲しいことです。顧客にとって一番投資効果の高い商品は何かという観点だけではなく、アドバイザーにとって最も手数料が高い商品は何かという観点が、商品選択のデシジョンメイキングを影響していたことは否めない事実です。

White House Council of Economic Advisersの調べによると、このような利害の対立による顧客の損失は平均的に年間投資残高の1%を占めると予想され、影響を受けた顧客全体の受けた損失は年間総額$17ビリオンに上るとしています。

とくに401(k)プランからのIRAへのロールオーバーは大きな問題でした。セールスロードなどの販売手数料は、投資を売るときにまとめて入ることが多いので、顧客の離職にともない、それまでの401(k)の残高をまとめてIRAにロールオーバーさせることで、まとまった金額の投資を販売し大きな手数料を稼ぐという方法は横行していました。

 

これからはどうなるの?

ルールには細かい規定条項がありますが、多くは2017年4月に有効化、それ以降2018まで有効にならないものもあります。アドバイザーはこれから新ルールに対応するための体制づくり、開示制度、契約変更などの準備を整えることになり、2018年以降はフル施行となります。

個人に対して本来であれば必要なかった手数料がなくなることで、IRA投資家を中心に今後10年間で総額$40ビリオンが、個人投資家にとって節約となると発表されています。

ただし、セールスロードやその他の手数料が今後消えてなくなるわけではなく、これらは許容され続けます。ただ、今後はFiduciaryであるアドバイザーが、自分の利益を顧客の利益より優先させるような、つまり利害の対立の可能性がある形での手数料を徴収することは違法となります。このルールの下では、顧客がBest Interest Contract (BIC)に同意しサインする限りにおいては、利害の対立の問題は解消され、アドバイザーが顧客にとってのBest Interest(最善)の立場を優先しているとみなされることになります。このBIC契約をとりつけることで、アドバイザーは現行のような手数料制度を引き続き課し続けてくる可能性があります。アドバイザーはどのような手数料体系でチャージをするのかを細かに開示する義務があります。BICにサインをするということは、手数料システムの内容を理解し、同意するということなので、よく理解の上サインするようにします。

 

個人としてどう捉えるか

リタイヤメント投資についてのアドバイスを受ける場合、アドバイザーがFiduciaryであるということは安心ではあります。今までは見えにくかった手数料がより露出されることになり、より手数料の低い顧客にとって最適な投資へと移行が進むでしょう。

しかしながら、だからといって自分ではよく理解しないまま、人の勧める投資を買うというのは引き続きよいやり方ではありません。前述のBICにサインをすることを求められたならなおのことです。開示された情報は面倒でも目を通すこと、わからないものにはサインしないことです。複雑なもの、理解の困難なものほど、本当は理解したほうがよい情報を隠していることは金融業界ではよくあることで、この傾向は新ルールが施行された後も根底には残るでしょう。自分のことは自分で守らねばならないのがアメリカであることには変わりません。

ルールへの準拠、情報開示、記録保存などにコストがかかり、このためこれを消費者へ転嫁してくる金融機関もあると思います。セールスロードなどの販売手数料は減っても、年間の管理費などという形で手数料が増えるということもあるかもしれません。そういう意味では全体的に課せられている手数料には引き続き敏感でいることが必要だと思います。

専門家の中には、この新ルールの導入によりルール準拠のためのコストが上がる一方で、アドバイザーに対する報酬が下がるため、ある程度大口の顧客でないと相手にしないアドバイザーが増え、それほど投資資産のない顧客は有益なアドバイスが受けづらくなるというようなことを言っている人がいますが、私はそうではないと思います。これまでも、投資を売っての手数料で稼ぐのではなく、時間給ベースでプラニングをするアドバイザーはいました(Smart & Responsibleもそうですが、アメリカではGarrett Planning Networkというのが有名です)。これらの時間給ベースでのプラナーは、今回での新ルールではほとんど影響を受けず、ルール施行前も後も、同じように販売する投資商品からの手数料によらない、中立的なアドバイスをしています。大口の顧客であろうが、小口の顧客であろうが、同様にプラニングサービスを提供するプラナーは多いと思います。おそらくそのようなプラナーに今後もますます注目が集まるのではないでしょうか。

同様に、ファンドについても、手数料ばかり高く実質的な意味のないものは、アドバイザーが売りずらくなることが予想され、減少していくのではないかと思います。ただ、今回の新ルールは「リタイヤメントプランについての投資」というくくりがあることに注意が必要です。法的にリタイヤメント目的とされていないもの、たとえば普通の投資口座は、たとえゆくゆくはそれがリタイヤメント資金になったとしても、今回のルールの下にはありません。Fiduciaryではないアドバイザーから商品を買うことになるかもしれません。気を付けましょう。

多かれ少なかれこのFiduciaryというのはキーワードになりますから、これから金融のアドバイスを受けたり、商品を買ったりするときには、“Are you acting under the fiduciary standard? If so, can I have that in writing?”と聞くとよいと思います。Fiduciaryでない場合も多いかもしれませんが、その場合も、相手に良い意味での危機感を与えるきっかけになると思います。

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6 comments

  1. 昨今の低金利により銀行に預金してもほとんど金利がつかないどころかサービスを受けるために支払う手数料の方が高くなりそうで口座も開けず かつ金融も勉強できてないため投資銀行への足取りも重く。。。で前へ進めない状態です。このサイトをひょうなことから拝見する事ができ目の前が明るくなるような気持ちです。
     ただ未だアメリカでの投資についてどう学んでいいのかそれも分からない状態です。何かアドバイスいただけますと幸いです。使途目的は当分ないのですが予算は大きくないので冷たくあしらわれるかもしれないのも一歩前進できない理由にあります。

      1. Beberyu

        こんにちは、リクエストにお答えいただきありがとうございます。
        お返事遅くなり申し訳ありません。
        素人なりに調べてみましたが、会社によって色々と手数料等にばらつきがあるようです。また、まだ、決まっていないところも多いようです。
        私のROTHはEdwardJonesにありますが、既存の投資はGrandfathered,すなわち手数料がかからないような方向?だそうです。主人のROTHはStateFarm にありますが、ここは、法律に反対?して、顧客から手数料を取らない代わりに、来4月からは、アドバイスを一切しないそうです。
        色々と、未定のことが多く悩んでいる家に、401K(Vanguard)のほうからお知らせが来て、今、アドバイザリーサービスを申し込むと、今年末まで、手数料が免除。もちろん来年からは、かかるのですが、これは、Fiduciary law?の影響で、有無をいわずに、来春から、手数料を取るという、暗のお知らせなのかと思ったりしています。60過ぎで、定年も近く、実際、既存のものは、アドバイスを拒否して、そのまま、定年まで眠らせておきたいのが、本音です。それか、SFにロールオーバーして、CDにでもしておこうかとも思っています。

        1. アドバイスは必要がなければとくに不要なので、拒否すればよろしいと思います。ただ、CDにするのはもったいないですし、得策ではありません。ファンド自体の手数料が上がるわけではなく、アドバイスを得なければアドバイス料はかからないですし、そのままでよいかと思います。必要であれば、時間サービスではたらくアドバイザーを必要に応じて使うというで十分だと思います。

          1. 早々のご返答ありがとうございます。fiduciary law は法案とのことでしたので、拒否できるという観念がありませんでした。従来のものは拒否するとして、来年4月以降に、新規にファンドを購入するときにも、拒否できるのでしょうか?

          2. fiduciary lawはアドバイザーに課せられる法律で、投資家の義務には関係ありません。アドバイザーはfiduciary lawに縛られますが、投資家はアドバイザーが必要ないならアドバイザーを使わない権利はもちろんあります。

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