投資のビッグピクチャー

「インデックスファンドとETFとどっちがいいですか?」、「ドルコスト法というのをやってみたいのですが、どこで口座を開けばいいですか」というご質問を受けることがあります。質問者が深く理解できるよう説明できればいいのですが、たまに説明してもなんとなく腑に落ちない顔をされることもあります。たぶんそれば、投資のビッグピクチャーを描くことなしに、細かい部分に焦点を当てて説明してしまうため、なかなか質問者が納得する回答が提供できないのかと思います。それで今回は、いろいろな概念を整理してビッグピクチャーを描いてみたいと思います。

とりあえず、投資を始めたいと思ったとき、どこから考えていくことになるかというスタートポイントから始めます。項目ごとに重なる部分もありますが、仕分けを理解してビッグピクチャーを描く助けになるよう列挙していきます。

口座の種類

投資する口座はいろいろな種類の口座がありますが、まずは大きく分けて税金面での優遇があるものと、それがないものに大別できます。

A. 税優遇がある口座:特定の目的の資金準備を促進するため、積立金の所得税控除や利回りの所得税遅延、ひいては利回りの所得税非課税などの優遇があるもの。a. リタイヤメント目的のための口座:401(K)、403(b)、IRAなど や- b. 学資目的などの特定の目的:529プラン などがあります。

B.税優遇のない口座:いわゆる「ふつうの投資口座」。税優遇がない口座なので、課税口座とか英語ではBrokerage Accountと呼ばれます。

基本的に、Aの税優遇がある口座が使えるのならなるべくこちらから優先的に利用し、積立上限まで積み立てた場合や、特定の目的には当てはまらない投資がしたい場合には、Bの課税口座を使うことになります。

加入が職場か個人かの別

C. 職場:雇用主がベネフィットの一環として提供するもので、401(K)、403(b)、457などがあります。これらはすべて、Aの税優遇がある口座です。雇用者は、雇用主が提供しているプランしか利用することができず、またそのプランのなかで提供されているファンドしか利用することができません。

D. 個人:個人が自由に金融機関を選び、口座を開き、ファンドを選んで使うことができる口座です。Traditional IRAやRoth IRA、課税口座などです。IRAは税優遇がありますが、課税口座はありません。

リスクへの考え方

E. 個別派:株や債券で個別銘柄を選んで投資する方法。10年ものUS国債を持っていたり、Amazonの株を持っていたりと、個別の銘柄に投資する方法です。また、ストックオプションやストックグラントなどで自社株を所有している場合もこのグループになります。特定の銘柄に集中するので、下の分散派に比べると高リスク高リターンです。

F. 分散派:個別銘柄ではなく、広くリスク分散した多数の銘柄を持つ方法です。複数の銘柄に投資するファンドに投資します。銘柄数をどんどん増やし、市場に含まれるすべてまで拡大していったのがインデックスファンドです。

          ストックオプション・RSU・持ち株会:自社株を持つ心得

昨今では、401(K)、403(b)、457などの職場のリタイヤメントプランでは、Fの分散派が主で、インデックスファンドでの投資がほとんどになっています。

スタイルの別

G. アクティブ投資:投資をする銘柄を一生懸命リサーチして、安いときに買い高いときに売るという売り買いを繰り返しながら利ザヤを稼いでいく投資スタイル。手数料が高め。上のEの個別派はアクティブ投資です。Fの分散派の中にもアクティブ投資をしているものはあり、ファンドの中に含む銘柄を研究によって厳選し、儲かりそうなものだけに投資するタイプで、アクティブファンドと呼ばれます。

アクティブファンドとのつきあいかた

H. パッシブ投資:上のFの分散派の中の、含む銘柄を市場全体までに拡大していったインデックスファンド投資をパッシブ投資といいます。研究しない、選ばない、売り買いしないで、ただただ市場全体を含むインデックスファンドに投資します。インデックス投資=パッシブ投資と考えていただいて問題ないかと思います。

繰り返しになりますが、昨今では、401(K)、403(b)、457などの職場のリタイヤメントプランでは、Fの分散派+Hのパッシブ投資で行われる場合がほとんどです。

ファンドの法的形態

I.  ミューチュアルファンド:複数の投資家から資金を集め、それをプールすることで複数の投資銘柄に投資するファンド。たとえミューチュアルファンドが100の銘柄に投資している場合、そのミューチュアルファンドに投資をする投資家は、たとえ$50の投資額であっても全100銘柄にほんの少しずつではあるが投資することができる仕組み。

J. ETF(Exchange-Traded Fund):アイデアとしてはミューチュアルファンドと似ているが、法的な形態がことなり、市場で取引(売り買い)されるファンド。

ETFを知る - ミューチュアルファンドとどう違う?

ちょっとピンとこないかもしれませんが、個別株が市場で売り買いされるように、売り買いできるファンドがETFです。ミューチュアルファンドももちろん売ったり買ったりできますが、「市場」が存在するわけではありません。ETFには市場が存在し、取引市場が開いている間は一日を通して売り買いができます。

401(k)など職場提供のプランや529では、ほとんどがミューチュアルファンドでの提供です。個人で入る口座の場合には、自由に金融機関を選択することができるわけですが、ほとんどの金融機関でミューチュアルファンドもETFも提供していますから、どちらでも選べるのがふつうです。

ミューチュアルファンドもETFもどちらもFの分散派ですが、スタイルとしてはGのアクティブ投資型もあれば、Hのパッシブ投資型もあります。

内容的に同じ銘柄に投資しているファンドで、形態としてミューチュアルファンドでもETF
でも提供されていることはよくあります。たとえばVanguard Total Stock Market Index Fund Admiral Shares (VTSAX)とVanguard Total Stock Market ETF (VTI)は、投資している銘柄は全く同じ(全米株式)ですが、前者は形態としてミューチュアルファンド、後者は形態としてETFです。

一般的には、全く同じ投資内容でもミューチュアルファンドよりETFのほうが手数料が低い傾向があります。また税的にもETFのほうが有利な場合が多いです。

個別ファンドかFund of Fundsか

K. 個別ファンド:個別ファンドというのは、上のミューチュアルファンドやETFでの、ひとつひとつの最小単位ファンドのことです。たとえば、上のVanguard Total Stock Market Index Fund Admiral Shares (VTSAX)は、ひとつの個別ファンドです。

L. Fund of Funds:Fund of Fundsは名前の表すとおり、個別ファンドをいくつかまとめてひとつのファンドにしているもので、パッケージ化されたファンドです。たとえばターゲットデイトファンドなどはこの例で、US国内株式ファンド、外国株式ファンド、債券ファンドなどのいくつかの個別ファンドを組み合わせてパッケージにしています。Funds of Fundsのほとんどはミューチュアルファンドの形態で提供されています。

積立法

M. ドルコスト平均法:毎月とか、3か月に一度など決まったインターバルで、決まった金額をただただ積み立て続けていく方法です。Cの職場のプランなどでは、給与から天引きで毎月決まった額を積み立てます。A-bの529プラン、B/Dの個人口座の場合は、銀行口座から定期的に決まった額を積み立てるよう設定できます。一般的に、ミューチュアルファンドのほうが形態としてドルコスト平均法に向いています。ETFではドルコスト平均法が難しいといえますが、最近ではこの問題を回避するサービスを提供している金融機関もあります。

N. 一括法: 手元にある金額をまとめて積み立てる方法です。Cの職場のプランではこの方法が選べないことがほとんどです。A-bの529プラン、B/Dの個人口座では、ドルコスト平均法でも一括法でも選ぶことができます。


冒頭の質問に戻りますと、「インデックスファンドとETFとどっちがいいですか?」への答えはこんな感じでしょうか。「インデックスファンドはFの分散派、Hのパッシブ投資をつきつめて市場全体に投資する方法のことを言います。ETFはファンド投資の一形態です。どちらかを選択する排反の関係にはありません。ETFでインデックスファンド投資をすることもできますし、ミューチュアルファンドでインデックスファンド投資をすることもできます。その一方で、ETFを選んで、(インデックスファンド投資に対抗する)アクティブ投資をすることもできます。リスクの取り方、投資スタイルを考えながら、どのような形態が好ましいかを考えて決めていくことになります。」

「ドルコスト法というのをやってみたいのですが、どこで口座を開けばいいですか」というご質問に対しての答えは、「ドルコスト法はたいていどこの金融機関でもどんな口座種類でも可能です。ただし、投資するものはETFでないほうがよい場合が多いです。一般的にETFはドルコスト法に向いていないので、ミューチュアルファンドでのセットアップが簡単です。」

投資のビッグピクチャーできたでしょうか??

2 comments

  1. いつもありがとうございます。

    細かい話ですがVTSMXは新規の受付は終了したようです。この記事を読む皆さんへの説明としてはVTSAXにした方が良いのかなと思います。以前は最低投資金額に差がありましたが、VTSAXも$3,000へ引き下げられたことで実質差が無くなったとのことです。

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