タックスロス・ハーベスティング 課税口座をお持ちなら・・・

今回はTax Loss Harvestingについて書いてみます。実は、この記事を書くかどうかは迷いました。なぜなら、このサイトでは長期パッシブ・インデックスファンド投資を推奨しており、ふつうこのタイプの投資法においては、ロスハーベストはあまり意味をなさないことが多いからです。ただ、株式もさらには債券もロスを出しているものが多い現状では、ある一定の条件を満たすのなら、ロスハーベストも考慮に足るケースもあります。広く一般にお勧めすることではありませんが、一応取り扱ってみようと思います。

ロスハーベストとは・・

ロスハーベストとは、ロス(投資の損失)をハーベスト(収穫する)もので、損失を出している投資を敢えて売ることでキャピタルロスを出すことです。なぜ、そんなことをわざわざするかというと、そのロスを、他の課税対象の収入に相殺することができ、結果として税金を減らすことができるからです。

キャピタルゲインやキャピタルロスには2種類があります。その投資を1年以上保持してから売るなら、長期キャピタルゲイン/ロスが生まれます。その投資を買ってから1年以内に売るなら、短期キャピタルゲイン/ロスが生まれます。

長期キャピタルロスは、その年の長期キャピタルゲインをまず相殺します。短期キャピタルロスは、その年の短期キャピタルゲインをまず相殺します。同じカテゴリー内のゲインを相殺しても、まだロスが残っている場合は、他のゲインを相殺します。それでもまだロスが残っていれば、今度はOrdinary Income(勤労所得)を$3,000まで相殺します。それでもまだロスが残っていれば、それは将来のタックスリターンにとっておいて、将来のゲインやインカムを相殺します(Carry Forwardといいます)。

ロスハーベストをするにはいくつかの前提があります。それらは・・・

前提1:長期投資は乱さず継続すること

損失を出すために売った投資は現金になってしまいますから、そのままではそこで投資が中止されてしまいます。それでは、せっかく構築していた投資ポートフォリオがくずれることになります。なので、売った投資は、すぐにまた買い戻して、売る前のポートフォリオに近い形に戻し、投資を継続させることが前提になります。

ただ、A株式を損失を出すだけに売って、売るなりすぐにA株式を買うことが許されるなら、節税のためにこれが永遠に何回でもできることになり、大きな脱税が可能となってしまいます。なので、「脱税の目的ではなく、真に投資の変更が必要であり、売ったところ損失が出た」という大義名分が必要になります。

というわけで、投資を売って損失をだし、30日以内に同じ投資を買い戻したら、出した損失はキャピタルロスとは認められないというルールがあります(Wash Sale Ruleといいます)。裏返せば、30日たてば同じ投資を買い戻してもいいわけですが、ただ、30日待つ間に、その投資媒体が大きく値上がりしてしまう可能性もあります。そうすると、安く売って損を出して節税したはいいが、買い戻すとき高くて結局損ということにもなりかねません。よって、ふつうは30日待たず買い戻します。30日たたず買い戻すなら、前述のように、売る投資媒体と買いもどす投資媒体は同じではいけません。

同じ投資媒体ではダメだけれど、全体的な投資ポートフォリオのバランスをくずさないようにすることも大変重要です。よって、売った投資媒体にかなり似ているものの、でも完全に同一ではないものを探して買うことになります。

前提2:課税口座であること

キャピタルロスが出る口座であることが前提になります。401(k)やIRAなど、税遅延措置のある口座では、損失を出している投資を売ったところでキャピタルロスが出ません。税遅延措置のある口座では、売り買いをしても課税対象にはならないからです。

よって、Brokerage Accountなど課税口座である必要があります。

こんなケースでは使えるかもしれません。

ケースA

今まで課税口座で個別株投資をしてきた。今回を機に、個別株ベースからインデックスファンド投資に乗り換え、リスク分散をしていきたい。個別株の中には、大きく値が上がったものもあるが、値を下げているものもある。

そもそも個別株でのリスク集中投資から、高分散のインデックスファンド・ベースでの投資に乗り換えたいという目的を達成しながら、ついでにロスハーベストもしてしまうというケースです。

個別株を売って、そのお金でUS株式ファンド、外国株式ファンドを購入しました。長期キャピタルゲインが$20,000、長期キャピタルロスが$30,000出ました。ゲインとロス相殺後、キャピタルロスが$10,000残り、そのうち$3,000は課税所得を相殺しました。残った$7,000は将来のタックスリターンにとっておきます(Carry Forwardされます)。

ケースB

課税口座でターゲットデイトファンドを持っていたが、それらをUS株式ファンド、外国株式ファンド、US債券ファンド、外国債券ファンドに買い替える。

ターゲットデイトファンドもいつ買ったかによりますが、時期によってはロスを出している場合もあると思います。ターゲットデイトファンドを課税口座で持っていけないということはないですが、敢えてばらばらの個別ファンドで持っていた方が使い勝手がよいと判断し、買い替えを行います。

ロスを出しつつ、内容的にはほぼ同じような投資ポートフォリオを保ちながら、ばらばらのファンドに乗り換えるというやり方です。この場合、内容的には「かなり同一な投資内容」になるかと思いますが、ただパッケージファンドか個別ファンドかの性質の違いが大きいため、Wash Saleにはあたらないと私は考えますが、このあたりはいろいろサーチしてもはっきりと言い切っている文献がないのでなんともいえません。(最悪、出たロスがWash Ruleで認められないこともありますので、あしからず)

インデックスファンド投資では利用は限定的

基本的にはインデックスファンドでの長期投資を行っている人にとっては、頻繁に使える手法ではありません。インデックスファンドを売って、投資ポートフォリオの方向性を変えずに、「似ているけど同一でない」インデックスファンドを買うというのはなかなか至難の業でもあるからです。

タックスを遅らすだけ

ロスハーベストは、税金の支払いをなくするのではなく、遅らすだけだという主張もあります。値下がりしているときに安く売って損失を出し、同じような投資をやはり安く買うわけで、買った投資は原価が低くなります。その原価の低い投資を将来売るときには大きなキャピタルゲインが出ることになります。今節税した分は、将来の課税につながるというわけです。それであっても、なるべく課税を遅らすのは、それなりに意義があることも多いとは思います。

というわけで、長期パッシブ投資をしている人には、ロスハーベストは安定的に使うべき/使いたい手法ではないように思いますが、一定の条件があえば、お考えになってもいいかもしれません。

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7 comments

  1. すいません、多分、わたしの理解が足りないだけなのだと思いますが、ここまで手間を掛けてするメリットが見えてきません。これをする人は、節税が目的というのはわかるんですが、ここをいじくるよりも、他に簡単な節税方法がありそうな気がします。。

  2. 管理人様
    3月半ばに1年ものの投資をして現在までに25Kを蒸発させた者です。銀行のアドバイザーの薦めで安易に知識が少ないまま行ったため自己責任ですが、このアドバイスで私の場合も何等かの対応策があるのか、と考え始めました。ありがとうございます。

    1. 今一律、株も株債券も下がっています。皆さん同じような経験をなさっています。気を落とされませんように。

  3. この手法に興味がありましたので日本語の解説を読ませていただき感謝です。
    インデックスファンドでは利点は限定的、とのことですがNerdyな界隈ではSP500 Indexを売ってTotal marketを買う(値動きは中期的にはとても似ています)というTipsはよく語られています。このあたりどのようにお考えでしょうか

    1. はい、それはありと思います。S&P500はTotal Stock Marketのサブセットでその大きな部分を占めますが、基本的には違うインデックスなので、Wash Saleにはならないでしょうし、かえって分散が広くなるという意味でもよいMoveかと思います。

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