過去2回で、アニュイティの存在意義は生涯年金の確保であり、このニーズがはっきりしているときこそ、アニュイティの購入を考えるべきであること、副次的ニーズと金融商品のおまけ的役割にまどわされてアニュイティの検討をしないほうが賢明であること、老後の資金準備の運用はアニュイティの中でなく、低手数料のインデックスファンドなどで効率よく行ったほうがよい場合が多いことを書きました。今回は、アニュイティの特典としてよく語られる、市場が値下がりしないでも減らない、着実に伸びていく投資という要素について考えてみます。
値下がりしても大丈夫な投資
Variable Annuityのマーケティングキャッチですが、値上がりは享受しながらも、値下がりの危険はない・・・。ということは寝下がった時のリスクは誰が負ってくれるのでしょう?保険会社ですね。そんなおいしい話がありますか?ないでしょう。保険会社はチャリティでこれをやってくれるのでしょうか?そんなわけありませんね。ここには保険会社への利益がしっかり組み込まれています。いろいろな形で保険会社が損をしないようなしくみになっています。そうでなければ、これを大々的に宣伝して売らないでしょう。
先にアニュイティの業界平均手数料は2.27%と書きましたが、この数字は「値下がりしても大丈夫な投資」のための追加料金は含まれていません。「値下がりしても大丈夫な投資」は前回記事で書いたGMIB(Guaranteed Minimum Income Base)とかGMWB(Guaranteed Minimum Withdrawal Base)とかの特約(ライダー)をつけてはじめてONになるものですが、これらのライダーはさらに手数料がかかっています。
ただ、これらの手数料を払ってでも、絶対減ることはなく増えるところだけ享受できるのであればそれなりの価値があるかもという気になるかもしれません。しかしながら、よく見ていくと、価値がある場合が全くないとはいえないが、そうでない場合のほうが断然多いというのが現実だと思います。
分の悪い賭け
ここは「賭け」です。そもそも保険は一種の「賭け」ですね。保険は、使うことがあれば大きく得をするが、使うことがなければ損をするものです。どのくらいの保険料をとれば、会社がつぶれることなくこの「賭け」でうまく利益を出していけるかは、保険会社の得意とする計算です。私は、Variable Annuityの場合、この「賭け」が大きく保険会社に有利なように設定されていると考えます。先ほどの、高いセールスコミッション(Variable AnnuityのほうがFixed Annuityよりコミッションが高い)にも表れています。
保険による「賭け」は、生命保険のように、死亡しなければ生命保険料は「損」するが、でももし死亡すれば大きな補償が得られるというような場合、消費者にとって有意義なものです。小さな掛け金で大きな補償を買うわけです。消費者は払う保険料と得る補償とを比べて検討したり、またいくつかの生命保険を比べて同じ補償に対して、各社の保険料の違いを比較したりで、どの商品がよいかを選ぶことができます。ところが、アニュイティの場合、この比較検討が非常に難しいです。そもそも何が払う料金で、何が得る補償なのかがよく判断できません。また、あまりに複雑な商品(商品ごとにさまざまなバリエーションがある)が多く、A社のアニュイティとB社のアニュイティのどちらがよいかという比較は、私のようにファイナスを生業にしている者にとってもほとんど無理です。
この複雑さには意味があり、いってみれば保険会社に有利なように消費者を煙に巻く効果があると考えます。たとえばGMIB(Guaranteed Minimum Income Benefit)とかGMWB(Guaranteed Minimum Withdrawal Base)で、Income Base(あるいはWithdrawal Base)は絶対下がりませんが、投資の結果次第で上がります・・とか、毎年着実に5%ずつ伸びていきます・・といううたい文句についてみてみましょう。
目くらましの術
消費者はまるで口座残高(現金価値)が5%ずつ伸びていくなんてなんとよいディール!と思うかもしれませんが、5%伸びていくのはあくまである意味架空の“Base金額”です。これは、アニュイティ化(年金受給の開始)やWithdraw開始(引き出し開始)の時点で、いくらもらえる/引き出せるかの計算の「ベース」となる金額であり、この金額がまるまる自分のものというわけではない(これに対し口座残高は自分のもの)のです。計算はこんな感じです。
STEP1: Income Base/Withdrawal BaseはGuaranteeで約束されたパーセンテージやルールで決して減ることなく着実に成長していく
STEP2: アニュイティ化あるいは引き出しを開始するときには、どれだけ年金がもらえるか/引き出せるかを次のように計算
Base金額 x 係数 = もらえる/引き出せる金額
まず、上に書いたようにBase金額はキャッシュバリューではないので、この金額は自分のものではありません。そして次に、実際にもらえる年金や引き出せる金額は、このBase金額に係数をかけて計算します。係数は、男性、女性と現在何歳か(寿命があとどのくらいか)などによって、また会社や商品によって変わってきます。どんなにBase金額が大きくてもこの係数が小さければもらえる/引き出せる額は少なくなります。
Withdrawalの場合だと年間4.5%までなどのようにシンプルな係数が設定されていることもあります。毎年毎年4.5%引き出せるのは魅力とも思えるかもしれませんが、シュミレーションしてみると、最初の15~20年間(70歳で開始すれば85~90歳まで)は自分の元金相当額を引き出すだけ、それを超えてはじめて、利回りの部分からの引き出し額なるという計算になるケースが多いようです。そもそもBase金額は計算に使われるだけで、この金額が一度にもらえるわけではありません。
この2段階の(場合によってはもっと複雑な)しくみによって、「確実に減ることなく増える」が耳には甘く聞こえるももの、実はそれほどおいしくもないアニュイティの実態をつくっているといえます。
で、市場が下がっても大丈夫にしたいなら?
値下がりしても大丈夫な投資をしたいというニーズは、アニュイティで満たせない・満たすべきでないなら他でどう満たせばよいのでしょう?
値上がりしたらお金が増えるけど、値下がりしたらお金は減らない運用。これは誰もが夢見ることですが、残念ながら現実的にありえません。市場は上がり下がりを繰り返します。それが投資というものです。ただ分散投資によって無駄なリスクをコントロールし、長期的に投資することによって、市場の上がり下がりをうまく乗り越え着実なプラスを狙うことは誰にでも可能です。低手数料のインデックスファンドを自分のリスクレベルに合わせて組み合わせること、つまり、株式ファンドと債権ファンドの比率をうまく選択する(債権ファンドの比率が高いほどリスクは小さい)ことで、決して値下がりしないわけではないが、少なくともその振れ幅を小さくするという調整はできます。
アニュイティなどを通して無駄な手数料をかけて「無理やり」リスクをコントロールするのでなく、お金をかけず自分のニーズにあったリスクのとり方をして、あとは長期投資でじっくり待つというのが賢くてシンプルなやり方だと思います。