アニュイティの難解な4文字ライダーたち

アニュイティ(年金保険)を持っていらっしゃる方や今購入をお考えの方なら、ご覧になったことがあるでしょう。似たようなアルファベットが並ぶ4文字の短縮語。GMDB、GMIB、GMAB、GMWB、GLWBなどなど。商品説明のパンフレットの中にこれらの言葉が現れる場合なら、はすばらしい特典を約束するマジックワードのように紹介されているかもしれません。Fine printと呼ばれるパンフレットの下の方に添えられている極小文字での説明や、あるいは契約書の中の説明文に使われている場合は、なんどその説明を読んでも理解ができないかもしれません。今日は、ちょっと魅力的なような難解なような、この4文字の短縮語について調べてみます。

 

ただではないギャランティ

これらの4文字語の最初はどれもGで、これはGuaranteed(保証された)を意味しています。上の4文字語のうち最後以外はGMで始まり、これはGuaranteed Minimumです。つまり「最低限の保証額」という意味合いです。誰が保証してくれるのかといえばアニュイティを売る保険会社です。親切で保証してくれるのかと言えばもちろんそうではなく、ビジネスですから料金が発生します。これらの4文字語はどれもアニュイティ契約に、追加で付け足されるライダー(特約)であり、契約者の選択で追加され、追加するには保険料に追加料金が課せられます。

ただではないライダーですから、自分にとって本当にそのライダーが必要なのか、価値があるのかはしっかりと吟味せねばなりません。またアニュイティに限らず、生命保険など多くの長期的な保険では、「とりあえず入っておいて要らなければあとで解約する」という姿勢は非常に危険です。途中解約は、Surrender FeeとかCancellation Penaltyなどという解約ペナルティ料金が発生する可能性があり非常に高くつくことになるうえ、それ以外にも具体的に目に見える形ではありませんが、それまでに支払っていた保険料、手数料、ライダー料金がWasteされる(それらの料金は将来的な保証サービスに対する料金も含んでいますが、解約すれば払うだけ払ったのに、将来のサービスは放棄することになります)という意味でも高くつく失敗になる可能性があります。よって契約には、よくよく吟味することが肝要です。よく理解できないものにはお金を払わないこと、契約をしないことが賢明です。

ほかの保険商品同様、アニュイティは、自分のニーズにぴったりあった良質の商品を選べば、とても心強い味方になります。しかし間違った選択をすると、非常に手痛い失敗になります。

 

手ごわい相手との賭け

ここでひとつよく心にとめておきたいのは、アニュイティを含め保険は、保険会社とする一種の「賭け」です。たとえば定期生命保険なら、契約者が期間内に死亡すれば、保険会社が死亡保証金分だけ負け、契約者が勝つ賭けです。反対に契約者が期間内に死亡しなければ、契約者は保険料の分だけ負け、保険会社が勝つ賭けです。生命保険は「早死に保険」であるとすれば、アニュイティは「長生き保険」です。長く生き過ぎて、限られた資金が枯渇することを防ぎ、どんなに長く生きても一定の固定額が永久にもらえる(Lifetime Annuityの場合)保険です。よってアニュイティの場合は、契約者が長生きすれば長生きするほど契約者の勝ち、早く死ねば死ぬほど保険会社の勝ちになります。

賭けは、両社が同じくらいの情報と知識を持っていれば、公平な勝負になります。反対に一方が他方より多くの情報と知識を持っていると、図らずとも「搾取」が起こることがあります。保険会社は、寿命や死亡率などの統計情報のハンドリングとお金の計算にかけてはプロです。つまり、保険会社にとってこの「賭け」は単に天に運を任せる賭けではなく、計算のうえ全体的には必ず勝つように保険金や手数料が計算されています。反対に、契約者は素人である場合が多いでしょう。素人は、艇の良いパンフレットや耳にやさしい歌い文句に惑わされる場合も多いのが残念な事実といえます。

保険会社の提供する商品なりサービスは、保険会社が勝つようにできています。そうでなければ企業として存続できず、そうすれば消費者も困りますから、それがあるべき姿なのですが、あまりに度の過ぎる勝ち方は公正ではありません。通常なら、質の良くない食品であれば、多くの人がそれを見抜き購買を控えますから、おのずと商品が淘汰されるか値段が下がるかになるのですが、消費者の情報と知識が不足していて、質を見抜きにくい場合には、そのままの値段で販売され続けることもあるでしょう。

アニュイティはとくに非常に複雑なものが多く、残念ながら消費者の搾取が起きやすい商品だと思います。アニュイティは、本来はシンプルであってよいもののはずですが、敢えて複雑になっている(情報と知識を持つものが、そうでないものの目を見えにくくするため、敢えて複雑にしているケースも存在する)ものが多いと思います。複雑であることは、「煙に巻く」効果を作り出すためかもしれないことを、心にとめておきましょう。

下でこれら4文字語のライダーについて簡単な説明を載せますが、ファイナンスを生業にしている私でも、何度読んでも混同したり混乱したりします。商品を扱う保険エージェントも、実際裏の計算などは知らないまま、代理店・社内トレーニングなどで教わったマーケティング文句を心から信じて、善意でこれらのライダーを勧めてくれるかもしれません。ただ、契約するのは自分ですから、しつこく質問をして理解する自己責任があります。

下の説明は簡易バージョンです。保険会社によっても細かい差異があることはよくありますので、あくまで参考にしてください。

 

Guaranteed Minimum Death Benefit (GMDB)


アニュイティ(年金)をもらい始める前に、契約者が死亡した場合、ベネフィシャリーが手にする死亡保証金の最低額を保証します。積み立て投資を行って、投資損が出た場合でも、「最低でも、払込保険料(から手数料やそれまでに引き出した額を差し引き後)分は払い戻される」ことを保証します。

Guaranteed Minimum Income Benefit (GMIB)

アニュイティをもらい始めるときには、投資の結果、成長した口座残高をもとにして、月々いくらづつの年金になるかを計算しますが、その口座残高の最低額を保証します。投資でロスがあったとしても、最低限のベース額を保証するので、それをベースに計算される月々もらうことができる年金額も最低保証されます。これはアニュイティをもらい始めて、初めて享受できる恩恵です。途中解約や引き出しによって、結局アニュイティ年金としては受け取らなかったというのでは無駄になります。また、最低の保証額も年利計算するとかなり低いケースも多く、わざわざ別料金を払ってまで買う価値はなかったという場合もあります。

Guaranteed Minimum Accumulation Benefit (GMAB)

一定期間(7から10年が典型)の後の口座残高の最低額を保証します。最低額は、多くの場合、払込保険料です。投資で損失が出てしまっても、最低限は元本保証がされるしくみです。投資するファンドには一定のしばりが設定されている(あまりにリスキーなものには投資できないように)場合あります。7年とか10年してから元本が返ってくるというのは、いってみれば利子ゼロの貯金口座に貯金しているのと同じことですから、全く喜ぶべきことではありません。余分なお金を払ってこのような保証を買うのなら、そもそもこのような保証が不要な状態を作り出したほうが得策ともいえます(後述)。

 

Guaranteed Minimum Withdrawal Benefit (GMWB)

こちらも元本保証のライダーで、投資の損失がでて口座残高が減ってしまった場合でも、最低限、払込分だけはリカバーできる保証をします。ただ一度に保証額を引き出すことはできないで、一年ごとに保証額の5~7%などという割合を、合計の引き出し額が保証額に達するまで、毎年引き出し続けられるというしくみです。最近では、ステップアップ方式が導入され、投資成果が出た場合にはそれに応じて保証額が上がっていき、より高い額にロックされていくものもあります。この保証額(Minimum Withdrawal Baseなどと呼ばれる)は、Cash Valueとは異なります。ルールに従ってWithdrawする場合に、計算のベースとなる金額であって、Cash Valueではありません。Cash Valueが保証され、年々成長していくと誤解をされませんように。

引き出しは、アニュイティ年金をもらうのとは意味合いが違います。いったんアニュイティ年金の受給を開始したら、投資口座はなくなり、契約者は年金をもらうだけになります。このライダーを買えば、アニュイティ年金受給を開始することなく、年々一定額を「引き出す」ことが可能になり、同時に投資口座では投資を続行することができます。ただ、人生のそのフェースで投資を続行できることがどれだけ価値があることかは、よく吟味する必要があります。

反対に言えばアニュイティ受給を念頭に契約するのではれば、このライダーは価値がないともいえます。

Guaranteed Lifetime Withdrawal Benefit (GLWB)

こちらは上記のバリエーションで、たとえ投資の損失がでて口座残高が減ってしまった場合でも、一生涯一定額(保証額の2~8%など)をもらい続けることができるという保証です。

これらGMWBやGLWBの保証された Withdrawal Benefitについてですが、年々引き出せるパーセンテージが固定されており、それ以上は引き出せないようになっています。多くの専門家が数的分析をして判明していることは、この引き出し額がある程度低めに設定されているので、引き出し始めて最初のうちは単に自分の保証なしの場合のCash Valueを引き出しているだけで、そのうちCash Valueをすべて引き出してしまった時点で、Cash Value以上に保証してもらっている部分を引き出すことになるのですが、それは計算上80歳後半から90歳前半になるケースが多く、かなり長生きしないとこの保証のベネフィットがないということです。そうであるなら、なにも複雑な保証をお金をだして買わず、最初からよく計画されたシンプルなライダーなしのアニュイティを買ったほうがよい気がします。

 

Simple is the best

 

どうでしょう、いろいろあって頭がおかしくなりますね。どれが必要かと言われても整理がつかないこともあるでしょう。

最も簡単な方法は、金融商品を買う時に、ひとつの商品で多くの機能を兼ねようとせず、ひとつの目的にひとつの商品を買うことです。たとえば、一番上のGMDBが必要だと思うのなら、アニュイティで実現せず、必要な期間必要な固定額の生命保険を別に買います(Term Life)。投資の損失が気になるのなら、アニュイティでは投資はしないことにし、投資は別口座できちんとポートフォリオを組み、自分の許容リスクで計画的に行うことで、投資ロスに対するライダーをわざわざお金を払って買う必要がなくなります。またWithdrawal(引き出し)が必要なお金は、そもそもアニュイティには入れず、換金性の確保できる投資口座や貯蓄口座に入れることで引き出しは自由にできる環境をつくっておけば、GMWBやGLWBも考慮しなくてよくなるでしょう。そして、月々ずっと続く年金が必要ならば、単に固定額を保証する固定アニュイティ(Fixed Annuity)をシンプルに持てば、いくら将来もらえるかが最初からはっきりし、最後まで変わることはありません。

冷蔵庫をクーラーのように使ったり、あるいはちょっと無理して乾燥機として使おうとしないことです。複雑な商品にうんざりする方は、アニュイティはアニュイティ本来の使いかた(固定額の年金化)に徹するのが最もシンプルといえます。

2 comments

  1. 度々のコメント、失礼致します。

    生命保険の他記事についての内容に、どうしても申し上げたい事がありましたが、既にコメントが締め切られておりましたので、こちらにて失礼を致します。

    該当記事内で、生命保険のエージェントに支払われるコミッションは、年額掛け金の90-100%+という箇所についてです。

    私は、現在大手企業にエージェントとして勤務し、自社と他社の保険を扱っておりますが、実際のコミッションレートは岩崎様の仰っておられる%の半分以下です。

    私が知らないだけかもしれませんが、大手企業でそこまでの%を出す企業がありますでしょうか。あるとすれば、一斉に社員が転職してしまいそうです!

    また、お客様が支払われる掛け金の丸々1年分がそのままエージェントに支払われるかのような印象を受けることに、違和感を覚えました。コミッションの出処と割合に関してです。

    それから、確かに、生命保険が全ての人に絶対に必要ではないかもしれませんし、死亡保障だけを考えて最小限でよいというのも一つの案だとは思います。

    しかし、生命保険も日々変化している中、ただ単に死亡時の保証としてだけでなく、様々な活用方法がある点において、ご自身やビジネスの守りとして持つことは、多くの場合、一考の価値は大いにあることだと思います。

    問題は、何だかわからない保険に、高い保険料を支払い、いつまで支払いが続くかすらわかっておられない方が圧倒的に多いことです。

    岩崎様も、そういうお話をお聞きになることがおありかと思います。

    これがいいからと同じ商品を万人に売ったり、契約にサインしたら一切顔を見せなくなったエージェント、termに入ってるがいつ切れるのかも、term終了後の掛け金が驚く程跳ね上がることも(桁が変わります)お客様はご存知ない。切れたら、またtermに入ればよいと考えてる方。同じ死亡保証額なのに、なぜご自身の加入しているA社の終身生命保険の掛け金がこんなに高額なのかわからない。

    そういうお話を日々伺います。

    これは、お客様ではなく、全て担当エージェントの責任だと思います。

    そういうことから、保険や金融業界全体の不信感に繋がっているのだと、肌で感じます。

    だからこそ、私に出来る事は、時間が掛かったとしても、正直にお一人お一人に丁寧に対応していくことしかないと、信念を持っています。

    生命保険に関しても、不必要な額を掛ける必要は勿論ありませんが、特に、医療費や介護費が高額なアメリカでは、特に生命保険の活用方法を知っておくことは良いことだと思います。

    売りたいから言っているのではありません。終身保険に入っておらずに、今大変なご苦労をされている方にお会いすると、その思いは益々強くなります。活用方法を知った上で、購入するしないはご本人の判断でよいと思います。

    間違っても、コミッションが高いからという理由で終身保険を薦めることは決してありません。状況に応じて、終身保険にコンバートできるtermをお薦めすることもあれば、お子さんが成人されるまで、又は会社経営をされている期間だけ少額の終身保険にtermをプラスしたり、様々です。それこそ、suitability です。

    仰るとおり、終身保険に加入し、途中解約するほど損な話はないですから、最小額のtermだけをお薦めする場合も勿論あります。

    私が働き始めた時、周りの先輩エージェントの何人もの人達が、ビジネスになってもならなくても真摯にお客様に対応していく大切さを話してくれました。

    仕方がないとはいえ、とにかくお金の為だけに働いているエージェントばかりのような印象を持たれてしまうことは、とても残念に思います。

    社内にも、有料のフィーベースでプランニングをしているエージェントもいますが、通常、我々はお客様の様々なご相談に対し、情報やプランニングを無料で提供しています。お客様の現状を診断し、一つ一つの数字を見ていきます。

    会社のあらゆるリソースを使って、そういうサービスをさせて頂きます。日本人の方は、兎角遠慮されがちですが、ビジネスはビジネスと割り切り、こういうサービスは大いに理由し、納得出来なければ購入は断るという強さを持って頂きたいと願っています。

    同時に、こちらからもプレッシャーを与えてしまうことのないように、よくよく留意しているつもりです。

    たとえ、どんなに高額商品をご購入頂いたとしても、お客様が何だかよくわからないけど、薦められるがまま買ってしまったと感じられたとしたら、プロとしてはワーストケースだと思います。

    また、記事中で仰っておられました通り、生命保険会社は、営利を目的とした会社ですので、他業種の企業同様、利益が出るように勿論計算されています。

    これは、私個人の意見ですが、保険会社が儲けを出している=悪ではなく、会社が安定し、お客様に満足して頂けるより良い商品を提供し続けられるなら、双方に取ってwin winではないでしょうか?

    ちょっとニュアンスは違いますが、手数料に関しても、激安スーパーの薄利多売と、高級店で高いサービスと品質を買うのと、どちらがいいかを比較しているのと似ていると思います。高品質、低価格のお値打ち品を探せれば、最高ですが、なかなかバーゲン品は見つかりません。安いのにも、高いのにも、理由がありますから。

    要は、その商品に噓偽りなく、適正な価格だとお客様が判断すれば、その商品は価値があると思います。

    問題は、その価格が本当に適正かどうかを判断する術があるかです。でも、通常、そこまではなかなか知識がなくて当たり前。だからこそ、その商品を売っているエージェント、そして会社を信頼できるかで判断されることになるのではないでしょうか。

    お客様にどんどん他の情報も活用してくださいとお伝えしているのは、ただ単に自社のお薦めするプランに自信があるからということでなく、ご自身で納得できる選択をして頂きたいからです。

    岩崎様がよくご存知なように、大切なお金をお預かりするということは、額に関わらず、お客様の生活や将来の一部をお預かりするのだという気持ちでおります。

    まわりくどくなりましたが、コミッションのパーセンテージ、そして終身保険をエージェントが売りたがるという記載かにつきましては、業界全体の印象に関わることなので、ほじくり返すようで申し訳ないのですが、コメントさせて頂きました。

    長々と失礼しました。

    1. はい、私も心からお客様のことを思って保険を売っていらっしゃる方がいらっしゃるのは存じ上げております。すべての保険会社、すべての保険エージェントを十把一絡げにしないように気をつけているつもりですが、失礼がありましたがお許しください。ただ、コミッションのパーセンテージについてはいくつかの文献を参照したつもりですが、事実確認が不確かだった可能性もあるのでもう一度調べてみます。ただ、コミッションの高さのせいで特定の商品への販売にモティベーションが高くなる傾向というのは、保険業界だけではなく投資の業界でも確かにあることだと思います。大福さんがそうでないのはとてもすばらしことです。

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