「健康(医療)保険をキャンセルしようかと思っているのですが・・・」という書き込みを、どこかのページで見つけました。こんな内容でした(原文は英語でした)。「現在、加入している健康保険は、High Deductible Planで、Deductibleは$10,000($10,000相当の医療費を自分で支払ってはじめて、それ以降の医療費を保険がカバーするようになる)です。我が家の年収は$80,000程度。こどもは二人いますが、みんな健康です。月々の保険料は$300ですが、医療サービスがほとんど必要ないので無駄遣いをしている気分です。医療サービスをうけるにしても、Deductibleが$10,000なのでほとんど自分もち。事故か大きな病気にならない限り、保険は使わないでしょう。非常時のたくわえとして$30,000ほど貯めてあるし、健康保険はキャンセルしてもやっていけるのではないかと思います。」
さて、あなたはどう思われますか?最近のアメリカの健康保険をめぐる動きはめまぐるしく、雇用主を通して得られる健康保険の内容も、毎年変化しています。自営であれば、個人加入で健康保険を探すしかなく、割高になるかもしれません。職を失って家計が苦しいというのであれば、なおのこと健康保険をカットしようと思っても無理はありません。昨今のヘルスケア・リフォームによって、2014年からは誰もが健康保険に加入せねばならないことと、もし加入しなければかなりの額のペナルティを支払わなければならないようになるそうですが、どちらに転んでも消費者としては苦しいところですね。
保険は「万が一」のときのもの
保険料を毎月払っていても、ちっとも使わない健康保険。キャンセルしようと考えるのも自然なことです。しかし、ファイナンシャル・プラニングの立場からいきますと、健康保険は持つべきものというのが基本です。アメリカの医療費はえらく高いですね。盲腸の手術の平均的なお値段は$15,850ということです(HealthcareFees.com調べ)。上のケースでは、「非常時のたくわえとして$30,000が貯金してある」とのことでしたが、たった一、二日の入院でそのたくわえの半分以上が無くなってしまします。足を折って手術が必要な場合は、$17,000から$35,000だそうです(helth.costhelper.com調べ)。
保険を買わないで、万が一のときは自分で支払うというやりかたは、セルフ・インシュアランス(自分で自分をインシュアするという意味)と呼ばれますが、その場合は、数万ドルレベルのたくわえでは不十分です。上記のような比較的重篤でないケースならばなんとかなるかもしれませんが、大きな手術を要する怪我や重い病気となれば、すぐに数十万ドル単位での医療費に膨れ上がります。ミリオン単位での余剰財産(なくなっても生活には困らない財産)があるのなら別ですが、そうでない限りセルフ・インシュアランスは現実的な選択肢ではない場合が多いでしょう。
そもそも保険は、日々の生活で「モトをとる」ために入るものではないですね。普段健康で、お医者さんにちっともいかない生活をしていると、健康保険の掛け金はムダのように思いがちですが、そうではないのです。保険は「もし万が一」のときのもの。大きな手術や重い病気になってしまっても、経済的に過大なダメージを受けることなく生活を継続していけるよう補償を得るためのものなのです。
でも何となれば無料サービスが・・・
「保険がなくても医療は受けられる」とはアメリカでよく聞くことですね。友人のそのまた知り合いで、どこの国だったか忘れましたがどこかの国の大変なお金持ちがアメリカに遊びに来たそうです。妊娠中にもかかわらず車の事故にあい、急に早産で医療措置が必要な状態になりました。保険がなかったので、救急車でカウンティー・ホスピタルに運ばれ、えらく高額な医療費がかかったのですが、本人は一銭も払わずにすんだということ。お金持ちにもかかわらず・・・というのがオチです。これは作り話ではなく実際にあることです。これはチャリティー・ケアと呼ばれ、本来は経済的に困難な人や無保険者に対して、無料あるいは低料金で医療サービスを行うというもの。ニュー・ジャージー州のように、州が定めているものもあれば、それぞれの病院(とくに非営利の病院など)が独自のルールで提供しているものもあります。
チャリティー・ケアは、わたしたちが経済的困難のゆえに保険に加入できない状態にある場合には、心強い味方です。もしこのような状態になってしまった場合に、医療サービスが必要になったら、チャリティー・ケアを行っている病院を探し、迷わずヘルプを請うことです。しかしながら、これは経済的に困難な状態にない人が簡単に当てにできるものではありません。上の例のお金持ちの場合は、きっとアメリカ国内で収入や財産がなかったことが功を奏したのでしょう。州や病院によってルールは異なりますが、「経済的な困難」の基準が定められていて、通常、収入と財産の両方が一定以下であることが必要です。たとえば、「今年は自営業の収入が激減したので保険を買わずに済ませよう」と決めた人の場合、当年の収入が低かったとしても、資産(銀行預金や投資アカウントなど)が一定以上あれば、チャリティー・ケアの対象にはならないでしょう。
Negotiated Priceの効用
アメリカの医療はミステリーです。まるで同じひとつの医療サービスをとってみても、それを受ける病院によって値段はまちまちですし、そのうえひとつのサービスを同じ病院で受けたとしても、保険に加入しているかどうか、どの保険に加入しているかによって値段がちがってきます。同じ病院の同じサービスに、十数種の異なる値段が設定されていることは常です。
たとえばこんな例が。Aさんは、X病院である医療サービスを受けました。X病院は、Aさんの保険会社に$1300を請求しましたが、保険会社はAさんの負担がDeductibleに達していないため支払いを拒否、Aさんが自己負担せねばなりませんが、ただしAさんはX病院と保険会社が事前に同意している値段(Negotiated Price)の$800を支払うだけですみました。一方。Bさんは、同じX病院で同じ医療サービスを受けましたが、保険がないので現金で自己負担することを告げると$1100を請求されました・・・・。$1,300も$1,100も$800も、この同じ医療サービスの値段です。
保険に入っていないと、保険に入っている人の払う額よりも高額な請求がくることが常です。この額は、個人的にネゴをして引き下げることが可能ですが、保険会社と同様のネゴシエーション・パワーはないでしょうから(保険会社は多数の患者を代表してネゴするのに比べ、個人はひとり単位です)、最終的に支払う金額は多くの場合、保険のある人のそれよりは高いでしょう。このように同じ自己負担にしても、保険に加入していて支払う負担と、保険なしで払う負担では差があるのです。 (注:同じ病院で同じサービスを受けた場合は、自己負担するときの値段はNegotiated Priceより高くなりますが、ただし全く別の病院に行って自己負担すると返って安くなるということもありえることが判明しましたので付け加えておきます。)
・・・つまるところ、健康保険は高いけれども、払えるのである限り、加入したほうがいい・・というか加入すべきものであるというのが、ファイナンシャル・プラニングの基本です。ただし、どうしても経済が立ち行かず、保険を買えなかった場合、チャリティー・ケアという選択があることは覚えておきたいですね。納得のいく健康保険を選ぶのもまた一仕事ですが、それは次の機会に・・・
Negotiated Priceについて実体験を報告します。CA州在住です。シングルインカムの我が家で、私がレイオフで半年間失業中で健康保険を持っていなかったとき、配偶者が敗血症で緊急手術→4日間入院しました。2週間後、呼び出されて乳飲み子を抱えて行った病院で見せられた請求書は6万ドルでした。「失業中で保険もなく、とても払えない」と言ったら、「じゃあPPOのディスカウント価格にしてやる」と言われ、最終的な金額は4千ドルになりました。医療費の多重価格は想像を絶する法外です。
本当に、、、そこまでくると、医療費自体に大きな不信感を抱きますね。安くなってよかったですけど、でもひどすぎる!