変化する金融市場(1)~アメリカ市民権および永住権を持っている場合

アメリカで暮らしておられる皆さんは、毎年タックスリターンの際に、FBARやFrom 8938で日本の金融資産について報告をしていらっしゃる人が多いかとお察しします。一昔前まではこんな報告をする必要がなかったので、面倒に思っていらっしゃる人も多いでしょう。この義務、日本に帰ってもついてきます。市民権・永住権を持ったままであればこの義務から逃れられず、それだけでなく今度は日本側でもいろいろ面倒な規制を受ける可能性があります。これらすべて、FATCAという法律に関係しています。

***このトピックはまだ新しく発展途上で、業界にもなかなか確固とした情報がありません。ここに書く内容は最善を尽くして集めたものですが、完全に正確でない可能性や、これから変化していく可能性もありますのでご了承ください。体験談などコメントくださると幸いです。***

 

FATCA 個人の義務

 

FATCAは2010年、オバマ大統領の任期にできた法律で、国の財源確保に苦しむアメリカの苦肉の策です。US Person(市民、グリーンカード保持者)がUS国外に所有する金融資産についての把握を徹底し、それらの資産に対する税金の徴収漏れをなくし税収を確保することを目的にしています。

アメリカは、、US Person(市民、グリーンカード保持者)であれば、世界のどこに住んでいても全世界収入についてタックスリターンでIRSに報告し、しかるべき税をアメリカに納めることを義務付けています。FATCA意図は、富裕層の所得・資産隠しや、マネーロンダリングなどの不正行為などをキャッチし、今まで取り損ねていた税金を発見し取り立てようというものです。FATCAでは、アメリカに住むUS Personが、年度末に$50,000以上あるいは、年を通して一時的にでも$75,000以上の金融資産をUS以外の国で所有した場合は、タックスリターン時にForm8938でIRSへ報告することが必要です。アメリカ国外に居住するUS Personの場合は、年度末に$200,000以上あるいは、年を通して一時的にでも$300,000以上の金融資産を所有していた場合というように限度が少し上がります。

このForm 8938での報告以前に、FBAR (Foreign Bank and Financial Accounts Report)というのが施行されていて、海外金融資産合計が$10,000の場合、FinCEN From114で、(タックスリターンとは別に)Treasury Departmentに報告することが義務付けられていました。なんとなくこれらはダブルところも多いようで、なぜ二つとも必要なのかは私にはわかりませんが、とにかく二つの義務が課せられています。

資産隠しをしている富裕層が発見され、取るべき税金をしっかりとれるようになったのはよいことなのでしょうが、ほとんど利子を生まない(よって税金などほぼかからない)日本の預金を持っているだけのグリーンカード保持者の日本人も影響を受けることになりました。さらには生まれたのはアメリカだからアメリカの市民権を持っているがそれ以降アメリカには住んだことのない海外在住の人々もUS Personであり、すべてこの報告が必要になるという事態に及んでいます。

この個人側の報告に加え、以下に記すとおり金融機関側でも個人情報をIRSに報告する義務化が生まれ、“本当はUS Personだからタックスリターンが必要だけど、ずっとアメリカには住んでいないから今までしないでいる”・・というようなことが見過ごされにくくなりました。US Personの金融資産に関しては、その人がアメリカに住んでいようが住んでいなかろうが、とにかくすべて課税できるものは課税するというアメリカの思惑が着実に現実化しています。

 

海外のFATCA 金融機関への影響

 

FATCAは個人に対しての報告義務をつくりだしただけではなく、US国外の金融機関に対しても報告義務を生みました。これまでは、個人がUS国外にある金融資産を報告せずにいても、アメリカIRSはそれを発見するすべがなかったのですが、それを解決するために、US国外にある世界の金融機関に対し、顧客がUS Personである場合は取引内容を報告する義務をつくったわけです。

これにより、US国外の金融機関に大変なコンプライアンス義務を課されたわけで、US Personを顧客に持つとコンプライアンス作業に多大なコストがかかることいなりました。これを受けて、US国外の金融機関はUS Personの新規口座開設は受け付けない、既存の顧客であっても大口でない限り口座閉鎖を強要するという措置をとるなどの変化が生まれました。コンプライアンス準拠のため顧客維持コストが増えたせいで、大口顧客でないと元がとれないということになったのです。国により差もあるようですが、スイスなどはUS Person顧客には門を閉じたともいわれています。

日本の場合はというと、やはりUS Personに対しては取引規制があります。IRSへの報告義務発生のため、その報告準備対応ができないことから、US Personへの株、ETF、投資信託などが取引できないとあります。例えば楽天証券はこんなかんじ。

 

 

SBI証券もこんな感じです。

 

 

預金の場合は、口座が絶対開けないということもないようですが、FATCA確認というのがなされるようです。考えてみれば、アメリカが勝手に法律をつくって日本の金融機関が確認をしなければならないなんて、なんとアメリカとは強引な国かとも思いますが、とにかくFATCA確認がされています。

FATCA確認とは、顧客がUS Personでありアメリカ納税義務がある人か、そうではないかの確認をするということです。具体的には、US Personであれば、IRSのW-9 Form(Request for Taxpayer Identification Number and Certification ちゃんと日本語版が用意してあるようです)にSocial Security Numberを届け、US Personでなければ、IRSのW-8BEN Form(Certificate of Foreign Status of Beneficial Owner for United States Tax Withholding and Reporting /Individuals)でUS Personではないので報告義務外であることを届けるようです。たとえば三菱UFJ銀行の場合はこんな感じ。

 

 

そして、FATCA確認ができない場合は口座開設は不可能とあります。

 

 

既存口座については少し規制が緩いようで、「IRSに情報を連携する場合がある」とだけ書いてあるので、ステイタスをはっきりさせて厳粛に取り締まるということは(少なくとも今のところは)ないように理解できます。

日本では既存口座が閉鎖されるというようなドラスティックな状況にはいたっていませんが、前述のスイスなど対処が厳しい国では極端なケースも発生しているようです。、両親が米国籍のために自分も市民であるけれど、アメリカには一度も住んだことがなく外国でずっと暮らしており、仕事も居住地もずっとその国であり、モーゲージも組み家を買い、投資も預金もすべてその国・・というような場合でも、US Personであるという理由で口座が閉鎖になりバンキングができないというような状況もあるそうで、考えただけで大変なことです。

このような変化を背景に、US Person(市民権・グリーンカード保持者)の中に、それを放棄する人が増えています。アメリカで長らく暮らしたが老後は日本で・・と考える人の中にも、市民権・グリーンカードは放棄して、アメリカへの納税義務、金融資産の報告義務から解放されるためです。次回はそのあたりについて考えてみます。

 

9 comments

  1. こんにちは!前からときどき拝読させていただいております。こちらに来て初めのころは、本当に勉強させていただきました。今後も記事を楽しみにしています。
    ところで、FACTAですが、スペルがFATCAではないでしょうか?
    私もずーっと間違えていました!

  2. 定期的にブログにおじゃまさせて頂いていたのに、ここ数年、引っ越しやらなんやらですっかりご無沙汰してしまいました。
    知りませんでした~、FATCA.
    こうなると、老後に日本の移住を考えているわたしにとっては、勉強が必要になります。
    情報ありがとうございます。

  3. いつも読ませていただいています。
    教員生活だけで40年以上過ごして来た私には、特にアメリカでの投資をはじめ金融についての知識は、0同然なので、多くのインフォを頂きいくら感謝してもしきれません。本当にありがとうございます。
    先月退職しましたので、これからの人生の設計に大きな助けとなっています。
    これからも宜しくお願い致します。

    1. 先月退職されたとのこと、長らくのお働きごくろうさまでした。これからの新しい人生のフェーズが素晴らしいものになりますようお祈りいたします。

  4. こんにちわ、

    大変有益なブログをいつも有難うございます。2019年のものですが、非常に有難いです。楽しみに拝見しています。ご自愛くださいませ。

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