Last Updated on 2018年7月6日 by admin
以前、ファイナンシャルアドバイザーが準拠することが法律化されたFiduciary Ruleについて記事を書きました(あなたのアドバイザーは本当にあなたの味方?)。このFiduciary Ruleとは、リタイヤメント口座について投資アドバイスを提供するアドバイザーやブローカーは、顧客に対してFiduciaryでなければならない、つまり、自分自身の利益よりも顧客の利益を優先させなければならないということを規定したルールです。このFiduciary Rule施行はファイナンシャルアドバイザー業界に大きな影響を与え、その影響はすでに数字に表れ、Variable Annuity(投資成果により年金額が変わる変額年金。以下変額アニュイティと呼ぶ)の売り上げやIRAロールオーバーの投資額を大きく減少させています。このニュースの裏に隠れている意味は、これらの金融商品の販売が、本来顧客の利益第一優先で行われてこなかった・・・ということです。同じファイナンシャルアドバイスに関わる立場としてまったく遺憾なことでありますが、このことを踏まえて、金融商品を購入する個人消費者、個人投資家が、このことをどのように受け止めればいいかを考えていきます。
このFiduciary Ruleは、米国労働省が発表したもので、オバマ政権下でつくられたものです。当初は2017年の4月にルール施行が予定されていましたが、2017年1月にトランプ政権にかわり、4月施行を60日遅らせて2017年6月施行が暫定的にターゲットとされていました。トランプ政権がFiduciary Ruleの内容見直しや施行自体に物言いをつけ、施行がさらに遅れたりあるいは大幅に内容が緩和されるのではないかという予想もありましたが、あれからいろいろあったトランプ政権、Fiduciary Ruleどころではなくなったのでしょう、すんなりと6月に施行の運びとなりました。
*その後、部分的な導入はみたものの、完全な施行は、度重なる遅延で2019年7月1日まで延期。完全施行を前に、2018年6月21日には U.S. 5th Circuit Court of Appeals がこのルールを取り消しとしています。
へんちくりんな議論
このルールに対しては、トランプ政権をはじめ共和党からの批判があり、批判の主要ポイントは、このルールの施行により、ファインンシャルアドバイザーが法律に準拠するために文書管理やトレーニングなどのコストがかかり、全体的なファインシャルアドバイス提供コストが上がるため、それほど投資資産のない中口顧客以下の層がファイナンシャルアドバイスを受けようとしても受けられなくなる可能性が高くなる・・という論点でした。いかにも顧客のことを考えての問題指摘というようにも聞こえますが、考えてみればこれはとても妙でへんちくりんな議論です。言い換えてみるとこんな感じ・・・
健康アドバイザーが体によいといううたい文句でビタミン剤を売っていました。ビタミン剤はよい成分も入っているけど、利益率を高く保つためにあまりよくない成分も入っており、売りさえすれば儲かるのでガンガン売っていました。でもこんど法律で、消費者が損をせずしかも消費者の体によいものでないと売ってはならない、つまり健康アドバイザーは自分がお金を儲けるためだけに売ってはならないことになりました。販売時、本当にそれが消費者にとって体に良いこと、あるいは損でないものであることをきちんと確認したり、記録したりすることも必要で、そのため勉強をする時間も必要です。その分のコスト増加分をどこからか確保する必要があり、たくさんビタミンを買ってくれるお客さんからは、なんらかの形で利益を確保することができるので何とかなるが、あまり数を買ってくれないお客さんからはまとまった利益が期待できないので、健康アドバイザーはこのような小口お客さんにはビタミンは売らなくなりました。
そもそもよくないビタミン剤ならだれも買わなくても問題はないわけですし、消費者にとって体に良いこと確認したり、記録したり、勉強したりしないで売っていたのだったらそれこそが問題だったわけですし、そもそも悪いものを売って儲けていた利益がなくなるからそれを補てんするためどう利益を確保するかに頭を痛めることこそ道義的に間違っている気がします。
すでに数字に表れている
2016年変額アニュイティの売り上げは大きく打撃を受けました。業界全体で売り上げは激減しましたが、減少率が大きいところから上げると、Transamerica Life Insurance Co.(45%減)、Lincoln Financial Group(42%減)、 MetLife Inc.(39%減)、American International Group(31%減)、Pacific Life Insurance Co(30%減)、Jackson National Life Insurance Co.(26%減)という具合です。 そもそも、変額アニュイティは問題の多い商品で、高額の手数料やサレンダー手数料などが問題になり、多くの訴訟も起こされています。突き詰めれば、今回のFiduciary Ruleがつくられた理由は、これらの問題に起因するとも言えますが、そういうわけでFiduciary Ruleが制定されなかったとしても、変額アニュイティの売り上げは下がり調子でした。ところがFiduciary Ruleのせいで、アドバイザーやブローカーが変額アニュイティを売るにあたっての「危険性」(つまり、顧客の利益を優先せず売ったと言われる)が高まり、売り控えたため一気に売り上げ減少が加速したという状況です。
同じトレンドがロールオーバーIRAにも出ています。401(k)などの雇用主が提供するリタイヤメントプログラムに参加していた雇用者が、転職やリタイヤメントのため雇用主を離れるとき、401(k)内の残高を、第三者のIRAアカウントに移し(ロールオーバー)するビジネスは、アドバイザーにはとてもおいしいビジネスでした。まとまったお金が一度に動くため、投資金額の一定パーセンテージで計算されるセールスコミッションが大きく稼げるからです。
401(k)は、雇用主のポリシーにもよりますが、そのまま雇用主提供の401(k)プログラムにお金を残し運用し続けても問題ない場合も多いです。残しておくか動かした(トランスファーした)方がいいかは、401(k)内で提供されている投資ファンドの選択肢や手数料などの大きさによりますが、大きな企業の401(k)などは大口顧客であるがゆえに手数料が極安であったり、投資ファンドの質も高い場合が多く、無理に外にお金を動かす必要はありません。また、アドバイザーがセールスコミッションを課す場合には、それだけで全体額の数パーセントがとられてしまうわけで、お金を動かすベネフィットが相当ないと元が取れないことも多いです。
しかしながら、このようなことはあまり考えたことのない人も多く、ロールオーバーを決断するときの大きな要因はアドバイザーからの勧めである(約30%)というレポート結果もあがっています。いろいろいい面を並べ立てられると全体像を見渡さないままロールオーバーする人も後を絶ちませんでした。そこで今回のFiduciary Ruleの登場となりました。ロールオーバーIRAの対象となる投資額は、これまでの半分の水準に減少することが予想されています。裏返せば、これまでロールオーバーされIRAに移された金額のうち半分は、顧客にとっての利益が最優先ではなかったということです。
今さら・・・?
とある業界紙(ファイナンシャルアドバイザー向けの雑誌)からの一節;
“The rule will make an advisor stop and think: is this the right move for my client or prospective client?” (このルールは、アドバイザーに立ち止まらせ、「こうすることはクライアントにとって最適な選択か」と考えさせる機会となる。)
この最も基本的でファイナンシャルアドバイスの出発点ともいえる問いを、今まで考えたこともなかったアドバイザーが一握りならず案外多くいる(いた)ということは、あきれることでもあります。
大変興味深く拝読させて頂いております。ありがとうございます。
アニュイティは大きなお金が動く為にコミッションが高く、エージェントに支払われる額も高いというのに少し違和感を感じました。
会社によって違いもあるかと思いますが、生命保険と比較して、アニュイティのコミッションの率は非常に低いです。なので、クライアントの方がいくら入れるかにももちろんよりますが、相当額を動かさない限り、実際に受け取るコミッションの金額は大きくないです。
また、アニュイティの比較に関しては、確かに難しく、エージェントの中でも知らない事が多いようですが、自社の商品だけでなく、きちんとクライアントに最も適した商品をリコメンドする為、しっかりと各会社から商品説明を受け、他社商品も比較検討し、お薦めしているエージェントもいるので、問題は商品知識が乏しく、自社の特定のプランを一律にベストだとセールスをするエージェントがいるところではないでしょうか。
401Kのレフトオーバーを動かす際に、手数料や運用を比較するのは確かに重要ですが、エージェントの中にすら、アニュイティの手数料が高いと言いながら、計算の方法を間違えている人が少なくないと聞きます。
手数料が、他のミューチュアルファンドに比べ低いアニュイティのプランもありますし、アニュイティには、ライフタイムギャランティーされたインカムの魅力は確かにあるので、大事なのは、クライアントがどこまで正しい説明を受けられるかに尽きると思います。
保険会社のエージェントの中にも、真摯にクライアントにベストな提案を比較検討し、何も動かしたり、購入する必要がない場合は、そのまま現状を維持し、購入をせずに、将来的な提案のみをすることをしている者もいることを、お伝えしたく。。。
ちなみに、私自身はお客様には、他社も含め、無料のセミナー、有料相談など、利用できるものは、何でも利用する事をお薦めしています。最終的に決めるのはお客様ですし、じっくりとそのお客様の目標、現状、ライフスタイル、リスクトーラレンスなども含めお話しを伺い、提案をしています。
大福さん、真摯なコメントありがとうございます。大福さんのようなエージェントさんであれば、本当にお客様は安心ですね。お客さんの立ち場にたったエージェントさんをなかなか見つけることができなくて、迷いや戸惑いを感じている人がたくさんいるように感じます。私もエージェントさんをひとからげにして考えるのではなく、そういう真摯でよいビジネスをしているエージェントさんがいらっしゃることを心に留めます。記事内に失礼なコメントがあったこと、お許しください。どうぞこれからもたくさんのお客さんが大福さんのサービスとアドバイスを受けることができますように!
現在まさに老後のファイナンスを計画中です。大福さんの様なクライアントの立場にたってアドバイスして下さるエージェントを探すにはどうしたら宜しいのでしょうか、ご教示下さい。
大福さんに聞いてみます。。