健康保険のタイプの違いを理解する

アメリカの健康保険プランの中で最も古くからあるのはHMOです。昨今では、HMOの加入者数ベースのシェア下がりつつあり、半数近くがPPOになっています。また、HDHPもだんだんと浸透してきています。

HMO、PPO、POS、EPO、HDHPなどの略語をよく見ますが、これらは大きく2つのカテゴリーに分類できます。ひとつは、医師・病院のネットワークについての考え方とPCPの指名が必要かどうかの違いにより分類する方法です。もうひとつは、Deductibleの大きさによる分類法です。

まず前者のネットワーク内外とPCPに対する考え方の違いでの分類から見てみます。

ネットワークの内外、PCPの有無が決めて

HMO (Health Maintenance Organization)

HMOはmanaged careという名のごとく、指定したPCP(Primary Care Physician)により医療サービスがmanageされるタイプです。PCPを指定することが必要で、特殊な診断検査を受ける場合や専門医の診断を受ける場合には、PCPのReferralが必要です。保険は、ネットワークの中での医療サービスのみをカバーし、ネットワーク外でサービスを受けた場合は基本的に保険の補償対象になりません。Referralもネットワーク内でのみ行われます。

PCPにManageされるので医師や病院を選ぶフレキシビリティが低いですが、その分医療サービスや医療費もmanageされるので、患者自身が医療サービスを比較検討したり医療費を吟味したりする必要性はあまりありません。結果的に、フレキシビリティが低い分、Copay、 Deductible、Coinsurance(HMOの場合、ない場合もある)が低めのことが多く、医療-ビスを受けたとき自己負担額(out-of-pocket)が低く抑えられるでしょう。

PPO (Preferred Provider Organization)

PPOは通常、利用できる医師・病院のネットワークが大きめで、またネットワークの外(out-of-network)に医療サービスを求めることも比較的容易にできます。通常PCP(Primary Care Physician)を指定する必要がなく、必要に応じて専門医の診断を直接、つまりPCPのReferralなしで、受けることができます。

特定の医師に見てもらいたいという希望がある場合、あるいは特殊な医療サービスが必要なので自由に医師や病院を選ぶフレキシビリティが必要なときには有利なプランです。自分で医師を選択するフレキシビリティがある分、医療サービスを吟味したり値段を比較したりという作業が必要になる場合もあるでしょう。

POS (Point of Service)

POSはHMOとPPOのハイブリッドで、HMOをベースにしながらも、ネットワーク外(out-of-network)で医療サービスを受けることを可能にしているタイプです。PCPのReferralがあれば、out-of-networkのサービスを受けることができますが、コストはHMOより高めになります。

 EPO (Exclusive Provider Organization)

EPO(Exclusive Provider Organization)は、比較的知られていないプランタイプです。HMOのように、ネットワーク内の医療サービスのみをカバーし、ネットワークは一般的に大きめです。EPOは、PCPからのReferralを必要とする場合もありますが、必要としない場合もあります。保険料はHMOより高めですが、PPOより低めです。

Deductibleの高低が決めて

次に、Deductibleの高低での分類を見ます。Deductibleが高いものをHDHPという総称で呼び、そうでないものには特に名前をつけません。HDHPであることが、HSAを利用できることの条件になります。

HDHP (High Deductible Health Plan)

HDHPは、Deductibleが高く設定された健康保険のことであって、本来上のHMO、PPO 、POS、EPOとパラレルに列記されるべきものではありません。HMO、PPO 、POS、EPOのどれでも、Deductibleが高く設定されていれば、それらはHDHPになります。言い換えれば、HMOでもHDHPではない(Deductibleが低い)プランがあれば、HDHP(Deductibleが高い)プランもあります。前者はだたのHMOプラン、後者はHDHP/HMOプランです。PPO、POS、EPOについても同じです。

「Deductibleが高い」というのは、2023年の数字でいえば、Deductibleが個人で $1,500以上 、家族で$3,000 以上であることをいいます。この数字は年々見直されます。

HDHPは、一般的にDeductibleが高い分保険料が低いですが、いったん医療サービスを使うことになれば自己負担額が大きくなります。Deductibleが高いからです。健康でほとんど医療サービスを使わない人にとっては、大きく保険料を削減できる可能性があります。

HDHP加入者は、Health Savings Account (HSA)が利用できます。HSAへの積み立ては、所得税控除になり、利回りは非課税のまま運用、医療費に使えば非課税のまま使えます。雇用主提供のHDHP+HASがある場合は、雇用主がベネフィットの一環でHSAへ一定金額の拠出をしてくれる場合もあります。また、雇用主提供のものではなく、個人で加入したHSHPの場合は、個人的にHSAを開くことも可能です。

ネットワークの重要性と考え方

ネットワークとは

保険会社が、契約をしている医療サービス網をネットワークといいます。保険会社は、ネットワーク内のプロバイダー(医師や病院、ラボなど含む)に値段交渉し、患者がネットワーク内のプロバイダから医療サービスを受けた場合は、交渉済の値段(通常価格より安い)で請求がされます。ネットワーク外の医療機関にかかると、そのような料金の取り決めがないため、一般的に高額な負担になります。

かかりつけの医師がいる場合

現在かかっているプロバイダーに引き続きかかりたい場合は、検討しているプランのネットワークリスト(オンラインでチェックできる)にその医療機関が載っているかどうか確認します。また、特定の医療保険に加入しているかどうかを、医師に直接尋ねることもできます。

しかしながら、このネットワークは流動的なこともよくあります。ある年にネットワークに属していた医師が、次の年にはその契約から外れてネットワーク外になる可能性もあります。さらには、契約者本人が職場が変わったりして、保険が全く別のものに変わることもあり、それでネットワークも変わらざるを得ないこともあります。

相当懇意で長く関係のある医師や、特殊な医療サービスを受けるための医師でない限り、医師を基本に保険を選ぶのは理にかなわないことも多いのではないかと思います。一方で、大切な医師とは、保険についても話をし、なるべくネットワーク内にとどまれるようどんな保険を選べばいいかを積極的に相談するというのも必要かと思います。

大規模なネットワークは重要か?

一般的に、「ネットワーク内しか選べない」というのは、大きな欠点のように表現されます。もともアメリカの古くからある健康保険プランはHMOでしたが、「ネットワーク内にとどまらなければならない」というのを払拭するためにPPOが生まれました。これが「ネットワーク外に出られるようになった」患者のためだったのか、それとも体よくPRして新プランの宣伝効果を上げた保険会社のためだったのか・・・。答えはどちらもでしょう。

ネットワーク内しか選べなくとも、ネットワークが充実していて、ネットワーク内で事が足りるなら何の問題もありません。特に都市部では、HMOでもネットワークが十分充実しており問題がないことが多いと思われます。HMOの大御所ともいえるKaiser Permanenteは、恒常的に契約者から高い評価を得ています。

反対に、地方で医師や医療機関が限られているような場合には、ネットワークの大きさと内容の吟味とが非常に重要になるかと思います。いざとなったとき、すぐ近くにかかれる医師がいない、何十マイルも運転しなければならないとなれば大きな問題です。

よって、お住まいの地域や特殊性、ご自身のニーズによって、「ネットワーク内しか行けないと問題があるか」という吟味からはじめ、「ネットワーク外に出られることが、どのくらい価値があるか」までを考え合わせることになります。

「Referralが必要」はめんどうくさいか?

専門医に会うためにPCPからのReferralが必要なのは確かに面倒です。ただ、これもReferralが必要なものは一概に排除してしまうのではなくて、ある程度内容を見て判断することも必要でしょう。

大規模な健康保険プランでは、オンラインで医師や病院とインタラクトできるものも増えています。「眼鏡を作りに行ったら緑内障の可能性を疑われ、眼科医に会いたい」というようなとき、わざわざPCPに予約を取って会いに行かなくても、オンラインサイトで医師にメールをして状況を説明したところ、すぐにオンラインでReferral処理をしてくれたこともありました。

また、昨今ではTele Health(ビデオ診断)を取り入れている健康保険プランも多くなり、PCPとTele Health予約で会ってReferralをもらうこともできるような場合もあります。あるいは健康保険プランが提供しているサードバーティーのTele Health App (Teladoc、MD Liveなどなど)を使って、PCP以外のオンライン医師からサービスを受けられるケースも(PCPが必要としているプランでも)増えています。

PCPのReferralはある意味、自分で専門医を探さなくてもいいという気楽さはあります。専門医の診断や治療は、PCPに共有されるので、情報の一括管理も可能です。Referrされた専門医が気に入らなければ、自分で調べてPCPに特定の専門医へのReferralをリクエストすることも可能かと思います。

あくまで内容を吟味して

健康保険のタイプをご紹介しましたが、具体的プランを選択するとき、まず「どのタイプが自分に合うか」という切り口から始めないほうがよいように思います。一概にHMOとかPPOとかタイプ名がついていても、詳しく内容を見ると千差万別です。このタイプだけで、最初にスクリーニングをかけてしまうのはよいやり方ではありません。

タイプの違いはある程度頭に入れておいて、あとは使い勝手(ネットワークの大きさや充実度)とコストのかかり方(Deductible、Copay、Coinsurance、Out-of-pocket maximum)を吟味する必要があります。

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