生命保険はいくらあれば安心できるか 

あなたはどんなタイプの生命保険をどのくらいお持ちでしょうか?生命保険は、人間が一番避けたいトピックである「死」についてですから、なんとなく計算したり計画したりがはばかられるものですが、でもこれを避けては完全なファイナンシャル・プラニングは成り立ちません。どんなにきちんと節約し貯蓄し投資していても、「万が一」のことがあったらすべてがぐずれてしまうようでは困るからです。いったいどのくらいの生命保険が必要なのでしょう?少なすぎても困る、多すぎても無駄・・・ちょうどいいレベルはどうやった知ることができるのでしょう・・・

生命保険は必要か

こたえは、”It depends.”です。あなたが亡くなったあと、残されて困る人のニーズを満たすためのものです。扶養者がいないのであれば、生命保険は不要な場合が多いでしょう。また、あなたの収入が家計にあまり貢献していないのであれば、生命保険はあまり必要ないでしょう。

ただし、収入だけから生命保険の要・不要を決めるのは危険です。たとえば、働いておらず家で小さい子どもの育てている配偶者が亡くなった場合、残された家族は収入面で困ることはないかもしれませんが、子どもの面倒をみたり家まわりの仕事をするヘルパーが必要になることは大いに考えられます。そのようなコストは大きく、残された(働いている)配偶者だけの収入では生活が成り立たなくなるかもしれません。その場合は、ヘルパーを雇うのに必要になる分の保障が得られるよう生命保険の購入が必要でしょう。

多すぎても少なすぎてもいけない保険金

「どうせそんなこと起こる可能性は少ないから、保険はなくてもいいや」という姿勢も、「保険は十二分にかけてあるから、とっても安心」という姿勢も、どちらもいけません。保険は万が一の場合の大きな損失をカバーするためのもの。「万が一の場合」は、あまり起こる可能性はありませんが、でも実際に起こった場合、今までの生活が根底から崩れることになりかねません。それを防ぐための保険は、きちんと入っておく必要があります。

反対に、保険は「必要以上に」持っていることはお金の無駄遣いです。無駄な保険料は払うべきではありません。無駄な保険料はただの「浪費」ですが、無駄な保険料やめて将来のための貯蓄や投資に回せば、それは財産になります。キャッシュ・バリューの溜まる保険に入っているから、かけた保険金は無駄にはならない・・・という考えを聞いたことがありますが、そう思い込むのは危険です。キャッシュ・バリューがたまる保険の場合、払った保険金は、1) 死亡保険金への掛け金部分 と2) キャッシュ・バリュー部分 に振り分けられますが、1)に関しては必要以上の死亡保障額に払い込んでいれば、やはり同様に浪費ですし、2)に関しては他の貯蓄や投資のほうがずっと条件よく貯められる可能性があるからです。保険は、買うにしても買わないにしても、「納得していること」が必要なのです。

どう「納得するか」?それは、自分のニーズをきちんと把握することにはじまります。生命保険に対して自分はどのようなニーズがあるかをちゃんと把握し、そのニーズは多すぎず少なすぎず、きちんとカバーすること・・・これが、ポイントです。

生命保険に対するニーズとは?

生命保険の死亡保障額を決める目安としてよく使われる指標は収入です。「生命保険は収入の7倍必要」というようなキャッチ・フレーズです。この数字はかなり上下します。保険会社やエージェントのサイトをいろいろ見てみると、5倍、7倍、9倍、場合によっては15倍や20倍というような数字も目にします。7倍あたりがよくあるタイプですが、これはあくまで目安として使うのにとどめておくほうがよいでしょう。収入が多いからニーズも高いとは決していえないからです。年収が$200,000の人で、配偶者も十分な収入源を持っており子どもは巣立っている家庭であれば、年収の0.5倍の$100,000の生命保険で十分かもしれません。反対に、年収が$50,000の人で、配偶者は働いておらず小さい子どもが3人いるという家庭であれば、年収の10倍の$500,000の生命保険でも足りないかもしれません。

では、必要な生命保険の大きさをもっと正確に知るためにはどうすればいいのでしょうか?

Part1 – 必要経費の部

一家の稼ぎ手が死亡した場合、残された家族が生活を維持していくために必要になる経費について把握します。細かくする必要はありません。概算でかまわいませんが、項目だけは押さえておきます。

生活費 : 現在の月々のキャッシュ・フロー(収支把握)を見てみましょう。電気・ガスなどのユーティリティ費、食費、教育費、交通費、医療費、被服費、保険費、衛生費、娯楽費など、残された家族の生活費を計算します。現在のコストを下方修正(車が一台減るなどのように)する必要があればします。リタイヤメントや学資へのニーズは、支払われた死亡保障によってフルに満たされることを前提にしますので、その後の月々の貯蓄は必要なくなります。また、ハウジング費用についても、生命保険をもらってモーゲージ・ローンの残高を一括払いすることを前提にするなら、月々のローン返済は必要なくなります。逆に、賃貸の場合は月々のレントはこれまでどおり生活費に組み込みます。月の生活費x12ヶ月x必要年数でニーズを計算します。お子さんが一緒に住んでいる期間、子どもが巣立ち配偶者だけになる期間など、複数の期間で生活費に大きな変化があるのなら、人生をいくつかのフェーズに分けて計算することも必要かもしれません。

カレッジ費用 : お子さんの将来のカレッジの費用の必要額です。一家の稼ぎ手が亡くなると世帯収入が減りますから、ファイナンシャル・エイドを得られる可能性が高まります。そのあたりも考慮に入れつつニーズを概算します。

ファイナル費用 : お葬式代やエステート処理の費用など。多くの場合$15,000から$20,000でいいでしょう。

負債の返済 : モーゲージ・ローン、エクイティー・ローン、車のローンなど、稼ぎ手が亡くなった場合、生命保険金で一括返済する必要があるものをリスト・アップします。

これらを合算したものが、ニーズ(必要経費)です。

Part 2 – あてにできる収入と資産の部

一家の稼ぎ手が亡くなった後、残された家族が得られる収入や、使うことができる資産を把握します。これが多いほど、生命保険の死亡保障は少なくていいことになります。

ソーシャル・セキュリティ : 死亡した人のソーシャル・セキュリティから残された家族に対しSurvivor’s Benefitが支給されます。ソーシャル・セキュリティ・オフィスに問い合わせると(あるいはWebサイトで)、現時点でのこのBenefitの予測値が得られます。また、残された配偶者が働いている場合は、リタイヤメント後自分のRetirement Benefitを受けることができます。

配偶者の収入 : 残された配偶者の年収の予想値です。

貯金・投資 : 貯金や401(k)、529、その他投資アカウントなど、生活費やリタイヤメント、学費のために使える資産の現在価格です。

その他売却できる資産 : 売却して生活のために使える資産の市場価格を把握します。不動産や車、骨董などです。

これらの合算したものが、ニーズ(必要経費)に対して、あたにできる収入や資産であり、この差が必要な生命保険金になります。さらにそこからすでに契約済みの生命保険金を差し引いたものが、新たに必要な生命保険金ということになります。

「新たに必要な生命保険金」がプラスであれば、保険を追加で購入する必要があります。逆にマイナスであれば、保険に入りすぎということです。あくまで概算ですので、多少の誤差は気にしません。これに似た計算ができるカリュキュレータがあります(若干項目の名前やアレジンジに違いがあります)ので、よろしければお使いください。

人生のフェーズで見直す

生命保険へのニーズは人生を通して一定ではありません。上の計算の各要素を見てみてもお分かりになるでしょう。20代のシングル(配偶者・子どもなし)の方は生命保険は不要でしょう。結婚して子どもができると生命保険が必要になります。家を買ってローンを組めば必要度は上がります。子育てがひと段落し配偶者に収入が増えれば、生命保険の必要度は下がります。子どもが職を得るなり大学を終えるなりで独り立ちすると、さらに必要度は下がります。モーゲージ・ローンを返済していくにつれ、必要度は下がります。多くの人の人生では、生命保険のニーズが高まるピークがあるということです。「一度入ればそのまま」というのではなくて、ニーズが増えるに従い生命保険も増やし、このピークのニーズをきちんとカバーしていくことと、必要度が下がるにつれて無駄を省いていくということが必要なのです。

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14 comments

  1. うち、実は会社のベネフィットの分しかなくて、ぜんぜん足りないのですけれど、必要だって言うと、俺を殺すつもりかみたいなこと言われて聞いてもらえないんです。
    どうしたらいいんでしょう?
    上の例くらいとして、どのくらい年間かかるものなのですか?
    健康な家族です。
    だいたいがわかれば説得できると思うのですが。。。泣きそうです。

    1. Cheeさん、そう、生命保険って、ちょっと難しい話題ですよね。人間、なかなか自分が死んだら・・・と冷静に計画するのって難しいですから。 ほんの一例ですけど、とあるグループ保険なら、$500,000、45歳、健康な場合で、Yearlyで更新するTerm Lifeなら$33/月、10年保険料据え置きのLevel Term Lifeなら$40/月、20年保険料据え置きのLevel Term Lifeなら$108/月みたいな感じです。これはIEEEというプロフェッショナル団体のグループ保険ですけど、こちらで条件を入れると保険料が計算されます。ご主人も職場かプロフェッショナル団体のなんらかのグループ保険をきっと利用できると思います。

  2. 生命保険って難しいですね。「安心」を買う、という感じですものね。ただ、生命保険って、その会社自体が倒産したり、破産したりした場合はどうなるんでしょうか。なんかこの不況で、突然会社がなくなるとかありそうで、怖いです。ソーシャル・セキリュティーについては、たとえばSurvivor’s Benefitなどは、受け取る人がグリーンカード保持者であっても大丈夫なのでしょうか?それとも、市民権をもった(アメリカ国籍)の人に限られるのでしょうか?

    1. 会社について調べることは大切ですね。安い保険料でたくさん死亡保障に入れても、いざ必要となったときに会社がない・・のでは話になりませんものね。Standard and PoorsやAM Bestなどのレイティング会社のデータなどを使って、長期間安心して契約できる会社を選ぶのが大切ですね。ソーシャル・セキュリティーのほうは、Non Citizenの場合、若干の追加資格条件が課せられますが、それさえクリアすれば同様にBenefitを受けられるようです。詳しくはこちら

      1. はじめまして。今回オバマケアについて調べたいと思った所、このサイトを見つけました。
        いろいろな情報が親切、丁寧に解説されていて思わず、午前中まるまる4時間近くサイト内の情報を読ませていただきました。忌憚のないご意見が特に参考になります。
        と、前置きが長くなってしまいましたが、この項目の質問でCitizenでなければソーシャル・セキュリティはもらえないかの問い対し、若干の追加資格が必要とありますが、詳しい事を知りたくコメントさせていただきました。また、更には現地採用でVISAで働き10年以上ソーシャル・セキュリティを払い続けている場合、将来帰国後、受給資格年齢に達した場合はもらえるのでしょうか。本当に長くなってしまってすみません!!宜しくお願いします。

        1. Masumiさん、コメント、どうもありがとうございます。
          ご質問の件、Spousal Benefitの件でしょうか。労働者の本人が40クレジットなどの資格を満たしており、かつSpouseが”qualified alien”(リーガルに滞在している人)であれば、SpousalBenefitを受けられるようです。また日本とアメリカでは社会保障協定があるので、受給資格を満たすためにそれぞれ相互の国の労働履歴が認められるうえ、日本にいてもアメリカのBenefitは受けられることになっています。こちらはお読みになりましたか?個別のケースでの細かい条件などは、私には責任をもってお答えできませんので、ソーシャルセキュリティオフィスにお問い合わせいただく必要があります。

  3. ありがとうございます!会社の方のベネフィットを確認したら、おっしゃるようなのがありましたので、それを利用するように説得しました。それでも家のローンと葬式代と、しばらく託児代をカバーできるくらいですね~。大学の費用や収入分なんて含めたら高くて。一応、私が死んだ場合のも託児代ぶんくらいも入れておきました。
    少し安心できそうです!

  4. 一般的に、雇用者を通してはいる団体保険と、NY LifeなどのTerm生命保険では、団体のほうが安いのでしょうか?うちは夫婦二人とも両方入っているのですが、会社で払っているほうが半分以下で、断然安いです。

    1. ふつうに考えると団体保険は、その団体に属するメンバー専用で、ある程度デモグラフィクスとかが搾れてリスク査定ができやすいので、その分保険料が安い・・・はずだと思うのですが。。でも職場やプロフェッショナル団体など、いくつかの団体保険が使えるのなら、比べてみるとその中でもまた差があるのでしょうね。たとえばうちの主人の職場の提供する保険より、プロフェッショナル団体の保険のほうがお得でした。

  5. 若くもないのに全然考えていなくて反省です。
    条件付きのGCから通常のGCにする為の手続きに色んな書類を出せと催促が来て、こりゃ保険にでも入って彼を受取人にすればひとつ書類作成ができるわけ?・・・と記事を探していたら、またこちらにたどり着きました。
    日本で暮らしていた時には色々と計算したり考えたりしていましたが、こっちに来てから言葉と仕組みがわからないという理由でずっとほってあります。時間はあっという間に過ぎてしまうので、年をとったらきっと考えるのがもっと面倒になりますね。
    良い機会なったとめんどくさーいイミグレのいじめのような仕打ちを前向きに考えようと思います。
    いつも貴重な情報をありがとうございます。

    1. 「めんどくさーいイミグレのいじめのような仕打ち」 わかります、わかります!ははは。あーるさん、応援してま~す!生命保険は、あんまり若いうちは入る必要ないと思いますけど、守るべきものができたら入ったほうがいいかもしれませんね。これも健康上問題が出てくると入りにくくなりますので、タイミングもありますしね。。

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