貯めるときのタブーは引き出すときの必須事項

マーケットタイミングという言葉はご存じでしょうか?市場の騰落を見ながら、安い時に買い、高い時に売るためにタイミングを計ること、別の言い方では「機を見る」とも呼ばれます。売り時、買い時のチャンスを常に計るがら、売り買いを繰り返す投資のしかたは、アクティブ投資とも呼ばれ、本サイトでは提唱していません。マーケットタイミングを計る投資法は、コストが高くつくばかりか、恒常的に成功を収めることができず、インデックスファンドを使った機を計らないパッシブ投資には長期的に勝つことができないという数多くのリサーチ結果を踏まえてのことです。マーケットタイミングはタブーなのです。ところが、このタブーのマーケットタイミング、リタイヤメント後の引き出しフェーズでは、避けては通れない必須事項である・・という、今日はそういう内容のお話しです。

マーケットタイミングがいかに危険であり、また成果の薄いものであるかについては、以下の記事をお読みください。

誰でもできる成功する株投資(1)

誰でもできる成功する株投資(2)

株式市場の不安定でうろたえないために

 

タイミングを計らない、機を見ない投資をするための具体的な方法に、ドルコスト平均法(Dollar Cost Averaging)があります。たとえば、毎月$500ずつを、その時の市場が良くても悪くてもコンスタントに積み立て続けていくというようなやり方です。定期的に買う、つまり価格が高くても低くても買うというこのしくみは、自然と市場がよいときには少ない株数(あるいはファンド・ユニット数)を買い、市場が悪いときには多い株数(あるいはファンド・ユニット数)を買うことになり、自動的に「高いときには少し買い、安いときにはたくさん買う」という作用をつくりだします。自分でタイミングを計ろうとするかわりに、この仕組みに頼るのが一番楽で間違いがないといえます。

 

ドルコスト平均法の力

たとえば、月々$500ずつ積み立てる場合のドルコスト平均法の効果を見てみましょう。株価の上下とともに、購入株数(積立額÷株価)も上下します。株価が高いときは同じ$500でも少ない株数しか買えませんが、株価が低くなると同じ$500でもたくさんの株数が買えます。これにより、自然と「安い時に買って、高い時には買わない」を実現することができます。

機を見すぎて、なかなか投資に回せないということになると、本来なら利回りを生むべきお金を眠らせておくことにもなります。機を見ないで、コンスタントな投資により、自然になるべく安い時にたくさん買い、高い時には買い控えることをしながらも、できるだけ早くお金を長期投資に回し利回りを生む状態を実現することができます。

誰にでもできる簡単な方法で、資金を積み立てるフェーズではとてもパワフルなやり方です。

では、この同じやり方が、資金から引き出すフェーズではどのような効果になるか見てみましょう。

 

ドルコスト平均法の呪い

たとえば、残高$100,000の口座から、月々$500ずつ引き出すことを考えてみます。

株価は上下しますが、毎月コンスタントに引き出します。この場合、同じ$500を引き出すのも、株価が高いときには少しの株数売らなくて済みますが(引出額÷株価)、反対に株価が低いときにはたくさんの株数を売らないと$500になりません。これは、「高い時には少ししか売らず、安い時にたくさん売ってしまう」という好ましくない状態をつくりだしてしまいます。

積み立てフェーズでは「安い時にたくさん買う」という好ましい力で働いていたのが、引き出しフェーズでは「安い時にたくさん売る」という好ましくない状況を生みます。

リタイヤメント資金の引き出しフェーズでは、これはのろいとして働きます。安い時に多くの株数を売ってしまうと、口座に残る累積株数を激減させます。その後たとえ株価が戻しても、株数は少なくなってしまっており、残高の激減をリカバーできません。リタイヤメント資金の早い時期での残高激減は、その後の運用にも暗い影を落とします。複利のパワーが激減し、その後の利回りも減ってしまうからです。

 

引き出しフェーズでは機を見る!

このように、積み立てフェーズでは「高い時は少し買って、安い時にたくさん買う」を実現できたドルコスト平均法ですが、引き出しフェーズでは「安い時にたくさん売って、高い時に少し売る」という反対の効果を生み出してしまうので、コンスタントに定額を引き出すやり方は危険です。また、積み立てフェーズでは、多少高く買ったとしても、それから何十年という長期の投資期間で複利のパワーが享受できるため、長期で投資すれば投資するほど初めの買値の差異は問題にならなくなっていきます。ところが、引き出しフェーズでは、引き出した時点で投資が終わるときです。終わり時点を安値で固定してしまうということは、あとあとリカバーする余地を消去し、リタイヤメント資金に大きなダメージを与えることになります。

よって、リタヤメント資金を不必要に減らすことなく維持しながら引き出しを続けていくためには、機を見るマーケットタイミングの姿勢が必要になります。「なるべく高い時に売り、安い時には少なくしか売らない」しくみを実現することが必要です。この実現には主に2つの考え方があります。

 

機を見る1: 状態が悪い時には引き出さない

ひとつめは、市場価格が落ち込んでおり、ポートフォリオの額が減ってしまっている場合には、いっさい引き出さないという考え方です。市場全体が低迷しているときは、株式ファンドも債券ファンドも思わしくない状態のときもあるでしょう。そんな場合は、引き出すことを一時休止し、状態が戻るのを待つ方法です。

これを実現するためには、1)生活費の固定生活費と変動生活費の整理をしっかりしておき、状態の悪いときには固定生活費だけで生活していける(旅行やホビーなどは少し見送る)ように整えておく、2)生活費の6か月から12か月の現金プールをしっかり持って置き、引き出しをしない期間があっても現金に困らないようにしておく、3)ホームエクイティローンやリバースモーゲージなどを開いておいて、投資ポートフォリオから引き出さない時には、必要な現金を確保できるようにしておく などの体制づくりが賢明です。

市場が回復し値が戻ったら、計画的に売って、現金プールやローンで開いた「穴」を補てんするようにします。

機を見る2:状態のよいものから引き出す

もうひとつの方法は、持っているファンドのうち、比較的状態のよいもの(市場価値が下がっていないもの)から優先に引き出すやりかたです。株式市場が好調のときには、株式ファンドから、債権の方が好調のときには、債権ファンドからというように、その都度どのファンドから引き出すかを判断します。

ふたつの方法を組み合わせながら、ポートフォリオ維持をしていくことになります。

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