今日はちょっとエゲつない題ではありますが、でも大切なトピックです。年々伸びる平均寿命に年々高騰し続ける医療費、それだけ考えただけでも、いったいいくらリタイヤメント資金があれば十分なのかを知るのはなかなか難しいことですね。一生懸命貯めたリタイヤメント資金が、自分が生きている間ちゃんと足りるのか、途中で底をつくようなことはないか、心配しだしたらきりがありません。人間、自分がいつ死ぬか(これがわかればプラニングはかなり簡単になりますが)ばかりは誰にもわかりませんから、やるだけのことをやってあとは思い煩わず人生を楽しみたいものです。今日は、リタイヤメント資金を長持ちさせるためにやれることを考えて見ます。なお、以下のお話は、あくまである程度の長生きを想定しています。病気があって長寿は期待できないなどの場合には、あてはまらないこともありますのでご了承ください。
株を排除しない
リタイヤメントなどの長期投資では、まだ若いうちには株の比率を多くし、リタイヤメントが近づくにつれて株の比率を下げ、債券の比率を上げていき、リタイヤメントに入ったら、さらに預金やCDなどの現金同等品の比率も上げていくというのがポートフォリオ運営の基本です。株は値の上がり・下がりが激しいのでリスクが高く、値が下がった場合に、値がリカバーするまで待つことができないことの多い老後には不向きであるというのが理由です。
しかしながら、寿命は延び続け、これからリタイヤする世代の寿命は90歳とか95歳が想定される時代です。65歳でリタイアしても、25年から30年という期間があるわけで、これはリスクを十分とれる期間であり、老後だからといって株を短絡的に排除するする必要はないといえます。必要がないばかりか、株を排除することは資金枯渇の原因にもなりかねません。株を排除すれば必然的に利回りが下がりますので、リタイヤメント資金が底をつく可能性も高くなるからです。たとえば、リタイヤメント資金$500,000を株比率の低いポートフォリオで年利4%で運営し月々$2,500ずつ引き出した場合、18年後には資金が枯渇しますが、株比率を上げたポートフォリオで年利8%で運営し同様に$2,500ずつ引き出した場合には36年間資金を持たせることができます(インフレ3%を想定)。実際のケースはこれほど簡単ではありませんが、ひとつ言えることは老後だからといって株投資を止めてしまわず、ある程度のリスクをとり続けることが賢明であるということです。
非常時のたくわえはたっぷりと
老後だろうが老後でなかろうが、非常時のたくわえ(英語ではRainy Day Fundと呼ばれます)を持っておくことはとても大切です。車が故障した、家の修理が必要になった、急な病気をしたなど、普段の生活費ではまかなえない事態が起こったときに、すぐに使えるお金を持っておくことが必要です。通常は、このようなたくわえは普段の生活費の3から6か月分というのが目安ですが、老後にはそれより多い数年分の生活費をすぐに使える形で持っておくことが賢明です。投資ポートフォリオの中の現金相当品の比率を上げたり、預貯金やCDなどの形で持ちます。
その理由は、老後は急な病気や怪我の確率も若いころより高くなることと、マーケット低迷時ファンドを売って引き出しをする必要を回避するためです。リタイヤメント資金からの引き出しは、4%が妥当だとか、コンサバに3%にすべきだというような目安がよく使われますが、4%にせよ3%にせよ、やみくもに引き出すのはよくありません。マーケットが好調のときに引き出す4%と、マーケットが低迷しているときに引き出す4%では、リタイヤメント資金維持への影響力が異なってきます。後者では、実際に引き出すパーセンテージが4%であったとしても、低迷により投資残高がそもそも減っているときに、低い株価で売っての換金になりますので、リタイヤメント資金に大きく穴を開けることになりかねません。引き出しによる穴は元金を減らし、翌年以降の利回りも減らします。言い換えてみれば、老後の「非常時」には、「マーケットの低迷」も含まれるということで、低迷時には株式ファンドに手をつけずとも、十分生活費がカバーできるくらいのたくわえを持っておくことが、リタイヤメント資金を長持ちさせる秘訣というわけです。
固定収入を確保する
老後の生活費をリタイヤメント資金を枯渇させないように、月々いくらずつ引き出してもいいのかはなかなか難しい問題です。これに対して、ソーシャルセキュリティ年金や企業年金などは、月々一定の金額が自動的に入ってくるわけですから、なかなか心強いものです。年金収入が十分あれば、リタイヤメント資金から自分で決めて引き出す額は減るわけで、その分プラニングは楽になり、自己責任も軽減されます。ただ、昨今では企業年金を提供する企業や団体もめっきり減っていますし、ソーシャルセキュリティ年金だけでは生活のすべてをカバーするには不足でしょう。そういった場合に、固定収入として受け取れる額を確保するためのツールが保険会社が提供するアニュイティです。
アニュイティにはいろいろなタイプがありますが、たとえば固定アニュイティと呼ばれるタイプでしたら、まとまったお金を入れて、今後死ぬまで毎月一定金額を受け取り続けることができます。たとえば、65歳男性が$200,000でアニュイティを購入した場合、65歳から始めて一生涯受け取れる月額は$1,145という具合です。受給を5年待って70歳から受け取るとすると月額は$1,664まで引き上げられます。
アニュイティを購入する場合、低金利時代には少々の注意が必要です。受け取ることができる月額は、アニュイティ購入時の金利によって決まります。低金利時には月額が少なく、高金利時には月額が多くなります。現時点のように低金利の状況なら、一度に購入する代わりに、資金を何回分かに分けて数年後とにアニュイティーを購入するというのもよいでしょう。上記の例で65歳男性が$200,000のアニュイティを購入する時点で金利が1%高いと、受け取れる月額は$1,145から$1,257まで上がります。低金利時には一度にアニュイティを購入する代わりに、何度か分に資金をわけ、数回にわたってアニュイティを購入することで、大きな資金を低金利に固定されるのを防ぎ次第にリカバーする金利を享受することができます。また、アニュイティは一度購入すると、簡単に解約したり現金化したりすることはできませんから、あくまで月々の固定生活費を適度にカバーするよう計画的に設定します。賢く使えば、手持ちのリタイヤメント資金で生涯にわたる固定月額を確保する力強いツールになります。
低金利なら「借り」もあり
昨今のようなマーケット低迷&低金利時代は、前述のとおり老後にとってはなかなか厳しいものがあります。リタイヤメント資金も目減り、アニュイティを買うにも月額は低いとなると、八方ふさがりのような気にもなりますが、ひとついいこともあります。低金利は貯蓄・投資には地獄でも借入には天国です。「老後に借金?」などと思われるでしょう。そう、何も考えないローンはいけませんが、よく計画した上での「賢い」ローンなら大きくプラスに働くのです。その「賢い」ローンのもっともよい例はリバースモーゲージです。
リバースモーゲージは家のエクイティ(市場価格からモーゲージ残高を引いたもの)を担保に借りるローンです。リバースモーゲージは、よく理解しないで借りると大変なコストがかかるばかりか、自分の家を手放さねばならない状況に陥る可能性がありますが、正しい使い方をすると老後の心強い見方になります。リバースモーゲージのうれしい秘密は、増えていくLine of Credit(クレジットライン)です。これは、すぐに借り入れる代わりに、将来必要に応じて借り入れることができるようクレジットラインを開いておくというものです。リバースモーゲージのLine of Creditでは、クレジット限度額の未使用分が、年々変動金利に応じて増えていきます。つまり、使っていないLine of Creditは年々数パーセントの率で増加していくことになります。
今日、$1使わないで置いておくと、それが1年後には$1.04分だけ借りられることになります。10年後なら$1.48、20年後なら$2.19までに膨れます。65歳のとき開設した$100,000のLine of Creditを使わないでとっておけば、20年後の85歳のときには$219,000のLine of Creditに成長するということです。これは急なお金が必要になったとき、非常に心強い資金源となるでしょう。実際、あるスタディでは、このLine of Creditをうまく利用し、マーケットが低迷しているときなど、リタイヤメント資金から引き出しをする代わりに、Line of Creditから安く借り、投資パフォーマンスが上がってきたらリタイヤメント資金から引き出すというようにすることで、手持ちのリタイヤメント資金を長持ちさせる効果につながったという結果が発表されました。この他にもリバースモーゲージにはTenureという受け取り方があり、これは月々一定額を生涯受け取るというものです。Line of Creditを開いておいて途中からTenureという受け取り方に変更することも可能です。一生涯固定額を受け取れるというのは、アヌイティを購入したかのような効果があります。リタイヤメント資金が心細くなったときには、効力を発揮します。ただし、リバースモーゲージは前述のとおり、計画的に正しい選択をすることが何よりも大切ですので、ご利用に際してはご注意されますよう一言付け加えさせていただきます。
節税も考えて
老後だもの、税金はそんなにかからないでしょ。。と思ったら大間違い。一生懸命貯めたリタイイヤメント資金も、ソーシャルセキュリティ年金も、課税される場合もあれば、課税されない場合もあります。一般的に課税されるものは、Traditional IRA、401kからの引き出し、企業年金、投資口座の利子、配当金、キャピタルゲイン、アニュイティの利回り部分など。労働収入もあればそれももちろん課税されます。一方、課税されないものは、Roth IRAからの引き出し、アニュイティの元金部分、リバースモーゲージからの借入れなどがあります。ソーシャルセキュリティ年金については、上記の課税されるものの収入の大きさに応じて一部が税金対象になります。課税対象の収入と課税対象でない収入をうまく組み合わせて、できれば低いタックスブラケット(税率)にとどまるように工夫するとよいでしょう。このためには、さまざまな収入源を確保しておくと(たとえば401kに加えRoth IRAも開いておくなどのように)税金プラニングがしやすくなります。
ソーシャルセキュリティ年金は、課税収入(と一部の非課税の利子)の大きさによって最高で、受け取った年金の85%に所得税がかかります。たとえば、ソーシャルセキュリティ年金$30,000、労働収入$15,000、利子と配当金$5,000、401(k)からの引きおろし$20,000で生活しているご夫婦がジョイントでタックス・リターンをする場合、設定されている収入の上限(収入と計算の仕方は込み入っていますので割愛します)を超えることになり、ソーシャルセキュリティ年金の$30,000の85%に所得税がかかります。所得税を25%とすると、$30,000×0.85×0.25=$6,375もの税金を納めねばなりません。この例で、401(k)からの引きおろしを$9,000にとどめ、差額の$11,000をRoth-IRAかAnnuityから引きおろしたとしましょう(トータルの収入額は同じでどこから引きおろすかを変えただけ)。そうすると、ソーシャルセキュリティ年金にかかる所得税は$3,750となり、$2,625もの節税になります。税金面での考慮もしつつ生活費を確保するのが、リタイヤメント資金長持ちの秘訣でもあります。
ソーシャルセキュリティ年金を最大化
年金を受け取ることができる最低年齢は62歳ですが、Full Retirement Age(生まれた年により65歳から67歳)以前に受給を開始すると、受給額は減額され、満額あるいは基本額より少ない年金になります。また、反対にFull Retirement Ageを超えてさらに受給開始を遅らす(最高70歳まで)と、遅らした年数に応じて満額あるいは基本額に上乗せがされ、受給額が増やされます。また、年金額の算出の計算には、過去35年の収入(35年以上働いた場合は、もっとも高いほうから35年分)の平均値が使われます。働いた年数が35年に満たない場合でも、割り算の分母は35ですから、収入のない年があればあるほど、受給額が引き下げられる結果になります。結果的に、できるだけ長く、できるだけ多く収入を得ることが、受給額を引き上げることになります。たとえば、あと2年働けば働いた年数が合計35年になるというのであれば、あえて2年働き続けることで受けられる受給額を大きくすることができるわけです。
加えて、夫婦共働きだった場合の受給プラニングは、勤労者ひとりだけのプラニングに比べて複雑です。受給のタイミングと受けられる額をよく吟味し計画的に行うのとそうでないのでは、夫婦ふたりで受ける生涯年金総額は何万ドルもの差がでてくることもしばしばです。一般的には、夫婦のうち収入が低かったほうは、受給が可能になり次第受給を開始し、収入が高かったほうは70歳まで受給を伸ばすというのが、ふたりの生涯受給額を大きくするする方法だと考えられています。ソーシャルセキュリティは一生涯続く年金です。ソーシャルセキュリティはたいしてもらえないと侮るのではなく、できるだけ効率よく受給することでもらえる額を最大化することが、自分で貯めたリタイヤメント資金を長持ちさせる秘訣です。
長く働く
これは、状況さえ許すなら、ナンバーワンのリタイヤメント資金保存法です。65歳で$500,000のリタイヤメント資金があり、毎月$2,500ずつ引き出した場合(年毎の利回りは7%、インフレ対策として年2%ずつ引き出し額は増加、所得税率は25%を想定)だとリタイヤメント資金は21年間、86歳までもたせることができます。3年追加で働いて68歳でリタイヤし同資金から毎月$2,500相当(3年後にはインフレ調整のため$2,653)を引き出したとすると、25年間、93歳までもたせることができます。
働き続けることで、上記のようにリタイヤメント資金を手付かずのまま成長させ続けられることに加え、ソーシャルセキュリティ受給を遅らせ受給額を増額できること、雇用によるよりよい安価な健康保険を利用できることなどの利点もあります。フルタイムでなくとも、パートタイムで働くというのでもよいでしょう。それまで培ってきたスキルを使って、働き続けるというのは大きなリタイヤメント成功の秘訣です。
節税を考えて、去年から401kをRoth401kに変更しました。税金が先に引かれるので、手取りが少し減った感じですが、老後にたくさん税金を払うことは避けたいのでそうしたのですが、今現在のタックスリターンが増える、という利点がなくなり少しさみしいです~~。
アニュイティのことは、なんだろう、とは思いつつ面倒で調べてこなかったのですが、こちらでだいたいの内容がわかりました。ありがとうございます。
長く働く、というところも興味深く読ませていただきました。ただ、夫がアメリカ人で、早期リタイヤを楽しみに生きてるような感じなので、これは難しいかなあ、と思います。
でも、日本だとみんなどこでもいいから定年後職を探している感じですよね。実家の母は夫を「怠け者」と思っていますよ。でも、賢く投資して、必要資金がたまったならリタイヤしてもいいと思うけど、日本はとにかく老後は「働き続ける」が美点みたいでちょっと不愉快です。
どうなることやら~。
生きるために働くのか、働くために生きるのか・・ですね。日本は勤労を美徳と信じるところが強いですし、そもそも早期リタイヤという概念自体なかなか浸透しない(できる人が少ない)ですものね。働き続けるというのも、別にフルにそれまでの仕事するのだけがすべてではないですね。それこそ、フリーランスで仕事を続けたり、趣味で多少のインカムを得るというのでも、いいかもしれませんね。早期リタイヤができるのなら、誇らしくそうされればいいと思います!