「インデックス投資を理解する」シリーズと「インデックス投資をはじめる」シリーズで、何にどうやって投資すればいいのかを考えました。具体的に投資をはじめるとき、どのような口座を開ければいいのでしょうか。
老後のための投資ならば、リタイヤメント口座と呼ばれる税的に優遇措置のある口座が用意されています。税的に優遇があるわけですから、まずはこのような口座を優先的に使って投資を行うのがよいです。これらの口座は、まず職場提供とのもと個人で入れるものに分かれます。前回は、職場で入る代表的なプラン401(k)プランについて学びました。
今回は、上の表の右側のコラム。個人加入のプランについて学びます。IRA( Individual Retirement Accounts)には、ふたつの種類があります。Roth IRAとTraditional IRAです。
IRAをざっと説明すると・・
Roth IRAは積立時には所得税を払い、その代わり引き出し時には所得税を払わずに引き出しができるものです。Traditional IRAはその反対で、積立時には所得税控除で積み立て、その代わり引き出し時には所得税を払うものです。
二つ合わせての限度額と401(k)との併用
IRAは年間の積立限度額が設定されています。Roth IRAとTraditional IRAの二つは合わせて使うこともできますが、年間積立限度額は二つ合わせての限度額です。つまり、Roth IRAとTraditional IRAは一つのカテゴリーとして限度額が適用されます。
一方で、401(k)などの職場のリタイヤメントプランは全く別のカテゴリーとして認識されます。よってそれぞれ限度額までの併用が可能です。つまり、401(k)の限度額までかけたうえで、Roth/Traditional IRAの限度額までかけることができます。
配偶者は所得がなくても
IRAの積立には所得があることが前提ですが、 ジョイントリターンをしている夫婦の場合には特例があります。ジョイントリターンをしていれば、勤労収入のない配偶者であっても、勤労収入のある配偶者の収入をベースに積み立てをすることができます。
所得による制限
所得が高くなると、Roth IRAでは積み立て可能額が制限され、Traditional IRAでは所得税控除額が制限されます。
引き出し可能年齢とRMD
引き出しは基本的には59歳半以降からになります。早期の引き出しは、10%のペナルティがかかります。また、Traditional IRAにはRMD(Required Minimum Distribution)というのが設定されており、73歳になると、必ず規定の額(RMD)を引きださなくてはならないというルールがあります。
詳しくは下の図を参照してください。
Roth IRAへの積立額の制限
Roth IRAは収入によって、積み立てられる額が減っていき、一定以上で積み立てられなくなります。収入はMAGI(Modified AGI)で、ほとんどの方にとっては、タックスリターンのAGIと同じか、かなり近い額です。
Traditional IRAの所得税控除額の制限
Traditional IRAへの積立額は通常所得税控除になりますが、一定の条件が重なるとこの所得税控除額が制限され、さらには税控除が全く消滅します。
一定の条件とは、職場のリタイヤメントプランがあるかないかと 所得(MAGI)です。401(k)などの職場のリタイヤメントがある人はすでに税控除で大きな額をリタイヤメントプランに積み立てられているので、所得が比較的低くてもTraditional IRAでの税控除ベネフィットが制限されます。
所得税控除が全くなくなった状態ででも、Traditional IRAに積み立てることは可能です。これをNon-Deductible IRAと呼んだりします。
Non-deductible IRAは積み立て時も控除なし、引き出し時も課税でいいとこなしともいえます。それでも運用利回りは引き出すときまで課税されない(税遅延)の利点がありますので、ふつうに利回りが課税されるインベストメントに比べると、運用額を早く増やせるという利点があります。
いったんNon-deductible IRAに積み立てて、それをRoth IRAにコンバートするという方法(バックドアIRAという)も使われることもあります。このバックドアIRAは、これまで何度も利用が不可になるよう法改正があるあると言われながら、2023年時点でいまだ法改正は行われていません。よって利用することはできる状態です。
どちらをどう選ぶか
ではこの二つのIRAをどういう基準で使い分ければいいのかを考えてみましょう。
以下、選択のための3つの要素を考えます。
収入
収入(MAGI)によって、Roth IRAは積み立て可能な額が決まります。Traditional IRAは収入にかかわらず積み立ては可能ですが、職場のリタイヤメントプランに参加しているかしていないかと収入によって、所得税控除できる額が変化します。
高額所得者は、Roth IRAは利用不可であるうえ、Traditional IRAに控除なしで積み立てることしかできないということになります(Non-deductible IRA)。
Traditional IRAでは、夫婦のおひとりが職場のリタイヤメントプランに参加しており、配偶者は参加していない場合は、夫婦のそれぞれで控除対象額が異なってきます。リタイヤメントプランに参加している方は比較的低い所得でも控除が制限・不可になります。配偶者は比較的高い所得まで控除が可能です。
そういうことで、まずは収入がかなりのキーになります。
今と将来のタックス・ブラケット
基本的に、Roth IRAは積み立ててるときに所得税を払い、引き出すときは無税でOK(所得に数えられない)であるのに対し、Traditional IRAは積み立てるときには無税(所得から差し引け所得税控除)、引き出すときには所得税を払うというものです。
「一生懸命働いて貯めたリタイヤメントの資金を、リタイヤした後に使う」という典型的なケースを考えてみます。このケースでは積み立て時は勤労所得がそれなりにあるわけで所得税率は相対的に高く、リタイヤした後は所得がそれなりに低下し、所得税率は相対的に低くなるというのがふつうでしょう。この場合、他の条件が一定であれば、Traditional IRAに積み立てる時点で節約できる税金のほうが、Roth IRAで引き出すときに節約できる税金より多くなります。つまり、Traditional IRAに積み立てたほうが有利です。
反対に、現在失業中であるとか、あるいは一時的な不景気のため所得が激減したというケースもあるでしょう。この場合は、タックス・ブラケットが今年は低く、将来リタイヤした後のほうがかえって税率が高くなるということになります。よって、Traditional IRAに積み立てる時点で節約できる税金は比較的小さく、将来Roth IRAで引き出すときに節約できる税金のほうが多くなります。つまり、Roth IRAに積み立てたほうが有利です。
その中庸で、現在の税率と引き出し時の税率が同じというのであれば、節約できる税金のことだけにフォーカスすれば、どちらでも同じということになります。
州税も考える
また、連邦税だけでなく州税も考慮に入れたほうがいいかもしれません。今住んでいるのが比較的、州の所得税の高い州(New York, New Jersey, California, Oregon、Hawaiiなど)で、リタイヤメント後は所得税の低い州(Florida, Texas、Nevadaなどは州の所得税ゼロ)に引っ越すというのであれば、Traditional IRAのほうが有利、その反対であればRoth IRAのほうが有利ということになります。
将来は税金が上がる?
最近ではアメリカの国家赤字ため、将来にわたって税率は上がり続けるだろうという考え方が強くなってきています。本来ならばリタイヤメント後は所得が低くなり税率が下がるはずであるところ、国家的に全体の税負担が上がらざるを得ないため、自分のリタイヤメント後の税率は、今支払っている税率より高くなるであろう(たとえ所得が下がっても!です)という危惧が存在するわけです。なんだかちょっと考えるだけで暗くなりそうですが、もしそう信じるのであればRoth IRAのほうが有利ということになりますが、これはあくまで予想ですからなんともいえません。
カレッジに使うなら
また、追加ですが、カレッジなどの高等教育のためにはどちらのIRAからもペナルティーなしで引き出して使うことができますが、税金は払わねばなりません(Roth IRAの場合は利子のみに対して)。この場合は、積み立て時の税率とカレッジのために引き出し時(リタイヤメント後ではなくて)の税率の比較になり、当然後者のほうが高いということもありえます。そうなると、Roth IRAのほうが有利ということになります。
Traditional IRAは
つまるところ、Roth IRAとTraditional IRAどちらが有利かは、積み立て時に払う税金と引き出し時に払う税金のどちらが少ないかの問題になります。
エステイト・プラニング(相続対策)
引き出しに関しての大きな違いは、Minimum Required Distributions (RMD .最低引き出し額)の設定の有無です。Traditional IRAの場合、73 歳になった時点で、最低限引き出さねばならない額というのが発生します。この額は、その時点での予想寿命から割り出されるものです。リタイヤメント資金がふんだんあるわけではなく、ソーシャル・セキュリティー・ベネフィトではカバーしきれない生活費を、リタイヤメント資金でまかなうことが必要な場合(つまり、大多数のフツウの人たちにとって)は、このMinimum Required Distributionsは大きな問題にならないでしょう。
しかし、あなたが富裕層でIRAからは特にお金を引き出さなくても老後の生活がなりたっていくような場合は、このMinimum Required Distributionsは面倒なものです。もし、Roth IRAでお金を貯めていたとしたら、このMinimum Required Distributionsがありませんので、一生涯、非課税のままお金を貯めて置けます。
また、本人が死亡した場合は、IRAのお金はそのベネフィッシャリー(受益者、相続者)に引き渡されますが、Traditional IRAの場合は、資金を引き出したときにベネフィシャリーが自分の収入として税金を払います。一方、Roth IRAの場合は、すでに死亡した本人が税引き後で積み立てているわけですから、ベネフィシャリーが引き出す時点で税金を払う必要がありません。言い換えれば、ベネフィシャリーに代わって税金を払ってあげたうえで、ベネフィシャリーがいつ引き出しても非課税で使える資金を残してあげるということになります。このように、Roth IRAは、リタイヤメント資金の積み立てという本来の目的に加えて、相続税対策にも使われることがあるようです。
つまりは、その人その人の状況に合わせて、どちらかを使い分けていくことになります。
勤務先のroth 401k と vangaurd 口座で個人としてのroth IRA、両方とも開設できるでしょうか?
その場合の、金額のリミット等ありますでしょうか?
よろしくお願いいたします。
Roth IRAがかけられるかどうかは、年収で制限がかかります。こちらの記事の、Roth IRAheの積立額の制限をご覧ください。
言葉足らずで失礼いたしました。娘(33歳)のRothのご相談です。
Singleで、現在は年収の制限には該当いたしません。
年収制限に引っかかるまで、積み立てしていく予定にしております。
現在、勤務先にてTraditional401KとRoth 401K両方に分けて積み立てております。
更に、VangaurdにRoth IRA口座を開設して、Target fund に積み立てをしようと計画しております。
彼女がリタイアする頃はSS受給の年齢も引き上げられているとおもいますので、Target fundは何年のものに設定すると良いでしょうか?例えば2068年にリタイアする予定だと、2070年と2065年とどちらが良いのでしょうか?それとも、両方に分けるのが賢明でしょうか?
よろしくお願いいたします。
Target Date Fundを何年物にするかですが、SS受給年齢が上がっても、十分な資産があればそれより前にリタイヤもできますし、とりあえずこのくらいにリタイヤかなという目途で始められていいのではないでしょうか。その年号で引き出しを始めなければいけないとか、リタイヤをしなければいけないということはありません。多少リスク設定が違ってくるだけで、年号が近ければ差異は大きくありませんし、なんとなれば後で年号は調整することもできます(年号の違うファンドに新たに投資し始めたり、今まで積み立てた分の乗り換えもOK)。2068年にリタイアする予定なら、2070年と2065年を半分ずつなどミックスするので対応できます。
ありがとうございます。ミックスするのは良い方法と思われますので、是非、そうしたいと思います。
以前にアメリカで働いていた際に会社側の福利厚生でSimple IRAに加入し、日本に帰国後もそのままアメリカの投資ファンドで運用をしてもらってきました。今年60歳となりこのSimple IRAを解約してアメリカの銀行口座に移してから日本に送金を行う予定です。この場合、日本での税金はどのように計算して支払うのが適切でしょうか?グリーンカードは帰国時に返納していますのでW-8BEN Formは投資ファンド会社に提出してあります。
残念ながら、私には日本側の税制について責任を持ってアドバイスできる能力がありませんので、日本の税理士さんにご確認ください。
回答ありがとうございました。