リタイヤメントプランの活用(1)ー401(k)

将来のために投資を始めたいと思った場合、まず何にどう投資をすればいいのかという問題にぶちあたります。このあたりは、「インデックス投資を理解する」シリーズと「インデックス投資をはじめる」シリーズでカバーしています。

次に考えなければならないのが、その投資をどこでするかという問題です。老後のための投資ならば、リタイヤメント口座と呼ばれる税的に優遇措置のある口座が用意されています。税的に優遇があるわけですから、まずはこのような口座を優先的に使って投資を行うのがよいです。

職場提供のプランと個人で加入するプラン

税的優遇措置のある口座は、大きく分けて二つの種類があります。ひとつは、働いている職場で提供されているものです。401(k)と呼ばれるものが主流ですが、そのほかにもいろいろな種類のものがあります。これらはそもそも働いていなければ利用できませんし、働いていても職場が提供していなければ利用ができません。

もうひとつは、職場とは関係なく個人で利用できる口座です。こちらはIRA(Individual Retirement Account)と呼ばれるものです。労働収入さえあれば(あるいは、労働収入のある人の配偶者であれば)利用ができます。

そのオーバーラップしたところに、スモールビジネス用のプランがあります。Solo 401(k)とかSEP IRAなどと呼ばれるものがそれですが、個人や夫婦でやっているビジネスの場合は、職場と個人の中間的な立場で利用できるプランがあります。

リタイヤメントプランの種類

職場のリタイヤメントプラン

まずは、この表の一番左側のコラムにある職場提供のリタイヤメントプランについて考えてみます。広く知られているのが401(k)です。働いている会社で401(k)が提供されていれば、老後のリタイヤメント資金を貯めていくうえで大いに活用したいものです。

401(k) に似たものに、403(b)、457プランなどがあります。そもそも、どうしてこんなヘンな数字と文字なの?と思いませんか。これは税法(タックス・コー ド)において、これらのプランの規定を定めた条項番号なのです。その条項番号をそのままプランの名前にしてしまったわけです。

この3つはどれも職場のリタイヤメントプランで、使い方も似たところがたくさ んあります。401(k)は主に企業が、403(b)は非営利団体、公立の学校、病院などが、457は州政府や郡・市などが主に提供しています。ここでは 401(k)について書きますが、多くのことは403(b)や457にも当てはまります。ただし、細かい運用上のルールは、それぞれのプランで異なってく ることが多いので、必ずご自分のプランの説明書で確認ください。

401(k)って何?

今では少なくなった確定給付プランに代わった

401(k) は確定拠出型制度であり比較的新しいものです。新しいと言ってもはじまって50年弱はたっています。この制度がつくられる以前は、確定給付型年金制度が主でした。確定給付型とはペンションとも呼ばれ、こちらは150年くらいの歴史があります。

ペンションでは、老後 になると給付金がいくらいくら支給されると決まっていて(確定給付)、毎月必要な積立金を積み立ててさえいれば(あるいは必要な年数働きさえすれば)約束の給付金が確実にもらえるというものでした。この場 合、積立金を運用して将来の給付を確保するのは雇用主/企業の責任であるわけです。雇用者/働く人には投資運用で資金を成長させる義務はありませんでした。このような年金制度は、残念ながら加速度的に減少し、いまは限られた雇用主が提供するのみとなっています。

401(k)は、このペンションに代わるリタイヤメント準備制度として、過去50年弱の間に広く普及してきました。

401(k)は確定拠出型年金制度

確定拠出型である401(k)は、拠出(積立金)は確定していますが、老後に受け取ることができる支給額は確定していない、つまりあなたの運用成績しだ いということです。投資がうまくけばたくさんの支給額を得ることができる反面、うまくいかなければ老後に得る支給額が十分でないということもあります。運用のリスクは自分もちということです。

拠出(積立金)が確定というのは少し誤解を呼ぶかもしれません。通常、積立額は自分で選ぶことができるからです。積立金を強いられるわけではないので、自分から積み立てなければそれまで・・・、つまり何も受け取れないといことでもあります。

個人の拠出(積み立て)に応じて、企業が一定額/率を拠出をしてくれる場合も多いです。個人拠出と企業拠出を合わせて、個人の責任で運用をします。

401(k)は雇用主を通しての利用

401(k) は雇用主が福利厚生の一部として提供するもので、加入は雇用主を通して行うことになります。職場が401(k)を提供していなれば、残念ながら利用はできません。雇用主を変えた場合は、残高はあなたのものですが、積み立てを継続して行うことはできません(新しい雇用主を 通して新たな401(k)に加入しない限り)。

401(k)をはじめる

さてでは実際に401(k)を始めるにはどんな流れを踏むのでしょうか。

1.   401(k)に加入する

雇用主が401(k) を提供しており、参加する資格が自分にあれば(雇用形態、雇用期間によって雇用主の定めるルールがある)、加入の手続きをします。年間を通していつでもで きるはずです。最近では、雇用主が自動的にデフォルト加入させる場合も多くなっています。加入を拒否することはできますが、拒否しなければデフォルトで401(k)に加入させられ、デフォルトの積立率/額が自動積み立てされ、デフォルトの投資ファンドで運用されます。

2.   積立額を決める

い くら積み立てるかは、月々のバジェットを踏まえて決めます。リタイヤメントのための用意は、さまざまなファイナンシャルプランニング事項のなかでも最優先で 行われることですから、できる限りの積み立てをしたいものです。しかしながら、そのせいで月々赤字になり、クレジット・カード負債がふくれる・・・なんてことでは本末 転倒。まずは無理のない線で積み立て始め、余裕があれば後で積立額を増額すればいいと思います。

上で書いたように、デフォルト加入された場合も、おまかせにせず内容確認をするのが賢明です。デフォルトの積立率/額はそれほど多くない場合がほとんどなので、もしもっと積み立てができるようならば、積み立てを上げるのがよいです。

毎年、積み立てる額の年間限度額が変更され ます。2023年は$22,500。50歳以上の人には、キャッチアップ積み立てが許されており、$30,000が限度額になります。これは老後の準備 に出遅れた人のために設けられた制度ですが、できればこのような制度を使わなくていいように、早くはじめるということをこころがけたいものです。

3.投資の方法を決める

積立金をどのように投資するかですが、401(k)で提供されているファンドの中から適切なものを選んで組み合わせていきます。許容リスクに応じて、投資アロケーションを決めていくことになります。

最 近ではターゲットデイト・ファンド(target-date fund)といって、自分がリタイヤする予定の年度によって簡単に選べるファンドも人気を集めています。たとえば2035年に退職する予定ならば、 2035年ファンドを選べばよいわけです。ターゲットデイト・ファインドはさまざまな株、債権に投資しており、ターゲットデイトの2035年が近づくにつれて投 資のリスクが小さくなるように設定されています。必要なリバランスもリアロケーションも自動で行ってくれるものです。

上で書いたデフォルト加入のデフォルト投資としては、このターゲットデイトファンドが使われてることが多いです。ほとんどが、Vanguard、Fidelity、Schwabなどの低手数料ターゲットデイトファンドあることが多く、最適な選択といえます。

4.給与明細でたしかめる

401(k)への加入が完了すると、月々の給与から税前ベースで積立金が引かれ、自動的に提携している投資会社のあなたの401(k)アカウントにお金が振り込まれます。積み立てたお金はまるごと所得税控除になります。一応、自分がいくら積み立てていて、それがどんなファンドで運用されているのかを確認しましょう。毎月見る必要は全くありません。一年に一度くらいチェックするので大丈夫です。

401(k)の長所

加入・利用するのに年収上の資格制限がない

通常、税金上の優遇されている制度やタックス・クレジット、リタイヤメント・プランなどは、利用するにあたって年収上での制限があることが多いですが、401(k)はどんな年収レベルの人も参加できます。

税前ベースでの積み立て

税 前(pre-tax)ベースで積み立てられ、その額が所得税控除になります。たとえば、タックス・ブラケット が24%のひとが、$10,000の積み立てを行った場合、かかるはずの$10,000x0.24=$2,400の税金がかからなくなる、つまり減税になります。言い方を変えれば、自分の実質的持ち出し は$7,600($10,000-$2,400)なのに、投資の元手は$10,000であり、この元手が年々増えていくという大きな魅力があります。

税金遅延(tax-deferred)

投資されたお金は年々、配当金や利子などの利益を生みますが、この利益への税金は、実際リタイヤしてお金を引き出すときまで、払う必要があ りません。そのためこのようなプランは税金遅延(tax-deferred)プランと呼ばれます。老後の所得税率(タックス・ブラケット)は現役のそれよ り低いことが予想されます(収入が低いので)。税前ベースの元手で大きく増えたお金に、現役時代より低い税率で所得税を払えばOKというのが利点なわ けです。

知っておきたいポイント

雇用主からのマッチング・プログラム

社員のリ タイヤメント準備を促す目的で、多くの雇用主がマッチング・プログラムを提供しています。マッチング・プログラムとは、雇用者が401(k)に積み立てを 行うと、それに応じて雇用主も積み立てをしてくれる(マッチしてくれる)というものです。マッチングの条件は雇用主によって違います。

たとえば、「50% match up to the first 6%」という条件であれば、あなたの積み立てた額の50%(ただし給与の6%を上限として)を、雇用主が積み立ててくれるということです。年収が$60,000で、あなたが$5,000を積み立てていれば$2,500のマッチ、あなたが$10,000を積み立てていれば$3,600のマッチ($10,000X50%は$5,000ですが、$60,000X6%=$3,600でこれが限度)となります。

雇用主からのマッチング積み立ては、フリーマネーです。これを利用しない手はありません。上の例ですと、もし自分が401(k)に積み立てをしていなければ、もらえるはずの$3,600をみすみす見過ごすということになります。

401(k) 以外にもIRAなど目的によっては利用価値の高いリタイヤメント・プランは存在しますが、そのようなプランに積み立てる前に、少なくともこの雇用者からの 最高限度のマッチング額は獲得することを考えましょう。

長期計画と運用責任

リ タイヤメント準備は長期戦です。長い年数をかけて準備していくわけですから、401(k)にいったん加入して投資しはじめたら、たまにはチェックをしましょう。あんまり頻繁に残高をチェックして、マーケットの上がり下がりに一喜一憂というのはよくありませんが、何年も全くチェックしな いというのもだめ。どのくらい増えているか、リスクレベルは自分に見合っているか、手数料はとられすぎていないかなどを、少なくとも数年に一度はチェック したいものです。

ベスティング(vesting)

ベスティングとは、リタイヤメント・プランの中のお金があなたのものかどうか、つまりあなたのお金に対する権利の有無のことをいいます。401(k)に自分で積み立てたお金はあなたものです(fully vested)。つまり積み立てると同時に、ベストするということ。会社を辞めても、あなたのものです。

ただし、雇用主が積 み立てたお金(マッチアップ額)については、「働き始めて5年でベストする」などというような条件がついていることが多いようです。これをベスティグ・スケジュール (vesting schedule)といいます。会社を辞める場合など、可能ならばベスティングが完了してから辞めたほうがいいですね。

いつから引き出せるか

59 歳と半年になったら401(k)からお金を引き出して使うことができます。401(k)への積み立ては所得税を払っておらず(税前ベースでの積み立 て)、そのうえ年々の利回りに対しても所得税は払っていません(税金遅延)。ですから、引き出したお金には全額所得税がかかることになります。

また、59歳と半年になる前にお金を引き出すと、上記の所得税に加えて、10%のペナルティが課せられます。ただし、本人が死亡したり障害を負った場合など特例によりこのペナルティを回避できる場合が定められています。

こ のペナルティゆえに、401(k)は「リタイヤメントのために手付かずにとっておく財産」と考え、急にお金が必要になった場合でも、基本的には当てにでき ない/しないお金と考えておいたほうがいいでしょう。

いつから引き出さねばならないか

また、通常、73歳になった年から(翌年の4月1日までに引き出し)最低額の引き出しをしなければならないことになっています(RMD=Requited Minimum Distribution)。この最低額は、「年初の残高 ÷ あなたの残存寿命予測年数(Distribution Period in Years)」です。たとえば残高が$500,000ならば、73歳の人は、その年に$18,867($500,000÷26.5年)を引き出さねばならないということになります。

もしこの引き出しを行わないと、かなり重いペナルティ(引き出さねばならない額と実際に引き出した額の差額の50%)が課せられますので注意が必要です。

今回は、職場のリタイヤメントプランである401(k)について学びました。このほかにもいろいろなリタイヤメントプランがありますが、401(k)は広く普及しており、老後準備の中心的存在で、まずはじめに利用を考慮するとよいです。

5 comments

  1. すみません、アメリカに来て5年目のほんとうにわからない素人です。
    4O1Kもなにがなんだかわからずアメリカに来てから3年はなにもしてませんでしが、やった方がいいと周りに言われ、4%マッチが会社の規則だと言われ、わからぬまま登録。4%マッチの意味もわかりません。しかし、先日、自分のアカウントを見たら、あなたの目標はたりないので、6%にしてみませんか?と言われ、訳がわからないので6%に変更。
    質問なのですが、パーセントは上げたら上がるだけ、将来の為にプラスになりますか?4%は、会社が保証するので、問題ないとして、プラスした2%は、経済の状況により変化はあると理解してますが、プラスになれどマイナスにはならないという理解で合ってますか?
    それならば、なるべく多くパーセントを増やした方が、将来の貯蓄として、
    マイナスにはならいけど、プラスにはなるかも!という考えて、パーセントを増やした方がいいという考えであってますか?難しい用語もわからなくて、子どもでもわかるように教えていただければと思います。

    1. パーセントは、収入の何パーセントを401(K)に積み立てるか(拠出ともいう)するかです。4%マッチは、ご本人が4%以上積み立てれば、会社もそれに合わせて4%を限度に投資に拠出してくれるということか、あるいは場合によってはご本人が全く積み立てなくとも会社が自動的に4%積み立て拠出してくれる場合もあります。どちらかは人事部に確認ください。いずれにせよ、たくさん投資に積み立てて、長期的に投資運用すれば、リタイヤされる頃には増えているというのが目標です。ただ、プラスかマイナスかは投資の成績によりますので、絶対赤にならないいう保証はありません。ただ、広くいろいろな株をプールしたファンドに投資してれば、過去パターンからみれば長期的には増えていると十分に期待できます。サイト内に投資関連の記事がたくさんありますので、読んでみてください。

  2. 401kを始めた方がいいのは重々承知なのですが、会社によるマッチ1%。口座手数料約1%。そして401k管理会社の評価が著しく悪く、引き出しがなかなか出来ないなどのコメント多数。将来日本で老後を迎える可能性もゼロではない。

    以上の状況から、なかなか口座開設に至らないのですが、それでも401kを始めた方が良いと思われますか?現在、IRAと通常のBrokerage口座で行っている状況です。

    1. それは悩むところですね。IRAをすでにお使いなのはよいですね。ただ、IRAは上限設定が低いので、できれば401(k)を使いたいところですが、所得税控除のベネフィットも手数料の高さや欠点でもみ消されてしまうようなら使い意味がなくなってしまいます。会社を辞められたらIRAにロールオーバーできるので、老後の引き出しの難はそれほど心配しなくてもいいかもしれません。社員のみなさんが問題と思われているなら、人事に401(k)管理会社の変更をリクエストしてもいいのではと思います。最近は低手数料の管理会社のチョイスも増えていると思いますので。

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