Last Updated on 2018年10月12日 by admin
健康保険マーケットで変化が起きています。
オバマケアが本格導入され、健康状態がよくなくとも、またすでに既往症があっても、誰でも差別なく健康保険に加入できるようになりました。収入が限られている人には助成金が支給され、減額された保険料で加入ができるようにもなりました。また、健康保険の補償内容の整備も行われ、最低限度ラインの補償が定められました。各保険会社はこの最低限度ラインの補償内容を提供することを求められ、その意味では消費者が守られることにもなりました。ところが今、それに対抗する形でShort-term Health Insurance とかTerm Heath Insuranceとか Gap Health Insuranceなどの名で呼ばれる短期健康保険が登場し、ものすごい勢いで加入者を増やしています。いったいなにが起こっているのでしょうか。
短期健康保険とは?
オバマケアでは、健康保険に加入できる期間が定められています(オープンエンロールメント期間)。この期間を逃すと、一年後の次回のオープンエンロールメントまで健康保険に加入することができません。短期健康保険とは、もともとは、何らかの理由でオバマケアのオープンエンロールメント期間に加入することができなかった人のために、短期的な補償を提供することを目的につくられました。よって、この短期健康保険は、オバマケアで定められている補償内容を満たす健康保険ではなく、あくまで一時的で限定的な保険としてはじまりました。
短期健康保険は、オバマケア認定の保険(オバマケアの補償内容や条件を満たした保険で、これ以降オバマケア保険と呼ぶ)に比較して限られた補償内容となっており、主に、ある程度高額の医療費がかかった場合にフォーカスして補償を行うものです。また、オバマケア保険では、健康状態や既往症によって加入を拒否されたり保険料が上がることはありませんが、短期健康保険では、生命保険のときの同じような医療スクリーニングが必要とされる場合もあり、健康上の問題を理由に加入できない場合もあります。あるオンライン保険サイトのデータによると12%の申請者が拒否されるということです。また、加入が許された場合でも、2年さかのぼり既往症と認められた症状については補償がないなどの限定がある場合も多いようです。
短期健康保険は、健康上のリスクが高い人は加入させず、さらには限定的な補償内容を提供することも許されているため、オバマケア保険に比べるとその分コスト安にできるという利点があります。オバマケア保険の平均月額保険料は$271であるのに対し、短期健康保険のそれは$100というデータがあるのもそれゆえです。
これからどうなる?
オバマケアでは、Preexisting condition(既往症)のある人、過去に大きな病気をした人でも、差別なく誰でも保険に加入できるようになったため、医療サービスの利用度や利用可能性が高い人々が加入する一方で、健康な人々は買い控えをしている現状があり、保険会社にとってのコストは上昇傾向、ゆえに保険料値上げに踏み切る保険会社も少なくありません。2016年度の保険料は30%程度上がるという予想もあります。保険が買いやすくなるどころか、上がり続ける保険料ゆえにどんどん買いにくくなっている現状において、比較的安価に加入ができる短期健康保険は人気を集めています。短期健康保険の加入は前年度比30%増というデータもあります。
オバマケア保険が高いため、より多くの比較的健康な人が短期健康保険に流れ込むにつれ、オバマケア保険加入者はさらに健康に問題がある人の比重が高まり、よってますますコスト高になるという悪循環が始まっていることを危惧する声が高まっています。短期健康保険はもはや、オバマケア保険に入りそこなった人の一時的な保険という位置づけを脱し、オバマケア保険の代替保険になりつつあります。短期健康保険加入者の40%は、保険期限が切れた後、同じような短期健康保険に引き続き加入するというデータもあり、オバマケア保険には入らず短期健康保険でつなぎ続ける層も出てきたことを物語っています。とくに、18歳から34歳までの若くて健康なグループが好んで短期健康保険を購入しているようです。
鵜呑みはあぶない
ただし、短期健康保険は保険料も安いのでよいに決まっていると鵜呑みにするのは危険です。以下に短期健康保険とオバマケア保険とを実際に比較しながら見てみましょう。
これはカリフォルニア州に住む30歳の単身男性を想定し、保険料を見積もったものです。見積もり検索をするとさまざまな条件の保険プランが出てきますが、下記はそれぞれ検索結果の一番最初に出てきたもっとも保険料の安いプランの比較です。
保険料は短期健康保険が$124ほど、オバマケア保険(この保険はブロンズレベル)は$170ほどという結果でした。確かに保険料だけ見ると短期健康保険のほうが安いですが、ただ補償内容をひとつずつ見ていくと、一概に短期健康保険のほうがお得でよいとはいいがたい結果です。
このオバマケア保険はHMOでネットワーク内で医療サービスを受ける必要がありますが、そうする限りは保険補償は即時に受けられるのに対し、短期健康保険のほうはIndemnityといって、どの医者からでも医療サービスを受けることができる反面、まずは自分で医療費を立て替えて支払い、あとで申請して補償金を受け取る形です。申請の手間と返金までの期間は考慮に入れたほうがよいでしょう。
またオバマケアで違法となったCovered Max Amount(補償の限度額)の設定が、短期健康保険では許されているため、下では$2ミリオンの限度額が設定されています。難しい病気になり医療費がかさんだ場合、保険会社が補償するのは$2ミリオンで打ち切りですので、それ以降は自己負担となります(ただし、次のオープンエンロールメントまで待てばオバマケア保険に加入することができますので、それによって限度なしの補償を得ることは可能です)。
下の短期健康保険では$7,500がDeductibleであり、そこまでの医療費は自分で支払う必要があるとともに、その後$12,500まではCoinsuranceを払い続ける必要があり、もしも大きなけがや病気をした場合には高額の負担となります。オバマケア保険のほうは、Out of Pocket Maxが$6,500ですので、それを超えた部分は保険会社が全額負担してくれることになり、そのうえ、上で書いたとおり補償の限度額がないので、その後いくら医療費がかかったとしても保険会社が負担します。つまり高額医療の補償は万全ということです。また、上記の例のようなHigh Deductible のオバマケア保険の場合、HSA(Health Saving Account)を利用することができるので、税控除をうけてHSAに積み立て、利回りも税遅延/税控除で出金という優遇措置を受けることができます。短期健康保険はたとえ設定されているDeductibleが高額でもHSA利用の資格を得ることはできません。医療費は税引き後の収入から支払うことになります。
短期健康保険はオバマケア保険で補償が必須とされている内容をすべてカバーする必要がないので、下の例でも定期的健康診断やマタニティーケア、処方箋などの補償が手薄です。
このような背景から、短期保険では保険料は安いものの、自己負担額は大きくなりがちであるという危険性をはらんでいます。連邦政府の各家庭での医療費負担平均額(Deductible、Copay、Coinsurance)は$3,301という予想データがあるのに対し、短期保険加入者の負担平均額は$4,000弱というデータも出ています。
さらには、短期健康保険ではオマバケア認定の保険とはみなされず、オバマケア制度上ではあくまで「無保険」とみなされるので、無保険者に課せられる罰金の対象となります。(2018年10月追記: 2019年度からは罰金はかからなくなります。)
この比較はほんの一例であり、場合によっては短期健康保険のほうが有利である可能性もあるかもしれません。しかしながら、ブームだからといって短期健康保険を安易に購入することは避けねばなりません。医療保険は、オバマケア保険であっても短期健康保険であっても、その補償内容をよくよく見て決めることが必要です。