ミドルスクールの息子とスノボーを買いに行ったSports Chalet。お目当てのものが決まり、レジに行くと立て続けに質問ふたつ。ひとつめは“Would you like to buy an extended warranty on this?”。もうひとつは”Would you like to apply for Sports Chalet credit card, so that you can save 10% right away?” 前回は、ひとつめのエクステンデッド・ワランティについての大後悔ものがたりをご披露しましたが、今回はふたつめのストア・カードについてです。スノボーとビンディングで合計$500、ストア・カードをつくればその10%の$50が節約できる。店頭では“No”と答えたものの、車に乗り込んでから、「いったい、$50をみすみす見逃して、私はばかだったのだろうか?」という不安がよぎります。事実、レジの店員さんも、”Are you sure? You can save $50 right away!”と懐疑的なまなざし。。。あなたならどうします?
だいたい、ワランティにしろストア・カードにしろ、こういう質問、やっとお目当てが定まり「はぁ~、決まってよかった~あとはお金を払うだけ~」と いう精神状態のときに、それにつけ込むかのように聞かれるわけで、しかもキャッシュ・レジスターを前に3秒で決断しなければなりません。後ろには待ち 行列。「ちょっと、考えさせて」という暇もない。
そもそも、ストア・カードを1枚つくるのだって立派なファイナンシャル・デシジョンです。どういう特典があるかだけでなく、残高をリボルブした場合の金利はいくらか、グレース・ピリオド(物を買ってから、金利が発生するまでの猶予期間)はどのくらいかなど吟味しなければならない条件はたくさんあるはず。それなのに、店頭で「今日買ったものの値段の10%節約できますよ」の一言だけで、「つくる」か「つくらない」の判断をするというのは、たまたま見ていたWebページの宣伝を見て「今なら10%オフ」の文句につられ、何も調べないで購入するのと同等です。誰でも、「10%オフ」だけでなくて、もう少しその商品なりサービスなりについて調べるでしょう。いわんや、ストア・カードをや・・・です。「決断に3秒しか与えない」のにもワケがあるわけで、時間をかけてよく調べると「やめたほうがいい理由」もでてくるということです。
ストア・カードの特徴
ストア・カードは大きくふたつに分けることができ、ひとつめはそのお店だけ、あるいはお店の系列だけで使えるもの。もうひとつは、Amex、Master、Visaなどのマークの入ったもので、そのお店だけでなく、そのクレジット・カード会社のカードが使える会社ならどこでも使えるものです。こちらはco-brandedストア・カード(お店とクレジット・カード会社のふたつのブランドがついているので)と呼ばれます。ここでは主に前者のほうを念頭に書き進めますが、多くのポイントは後者のタイプのカードにもあてはまります。
- 限定的な利用とリワード: その店でしか使えないクレジット・カードはいうまでもなく利用価値が低いですね。また、リワードもそのお店でしか使えないリワードとなると、そのお店の常客で1年を通してかなりの買い物をするのでない限り、そのようなカードを持つ意味は疑わしいでしょう。
- 緩い審査基準: クレジット・カードを申請すると、通常は審査がありますが、ストア・カードの場合は、この審査の基準がかなり緩く設定されているのが常です。実際、レジで、「残念ですが、あなたはこのカードの審査にパスしませんでした」と言われたという話はあまり聞いたことがありませんね。
- ひどい支払い条件: 審査基準が甘いということは、それだけクレジット・ヒストリー上リスクの高い人にもクレジット・カードを発行するということですので、結果的に利用の条件は厳しくなります。残高を翌月以降持ち越した場合の金利は20%から30%というものがほとんどで、条件的にはサブプライム・ローン並みともいえます。そのうえ、グレイス・ピリオドが短いものもあり、グレイス・ピリオドの期間が、モノの購入後最初の請求日までの期間より短いため、最初の請求日に遅れず支払いをしたとしても、金利がかならず発生するように仕組まれているものもあります。
- 低いクレジット限度額: 厳しい審査をしないでカードを発行するということは、あなたのクレジット・スコアが非常に優秀であってもそれを十分に鑑みないということです。結果的に、本来はもっと高いクレジット限度を受ける資格があったとしても、非常に低い限度額しか提供されないこともあります。ストア・カードでは限度額が数百ドルということも珍しくありません。低い限度額は、カードの利用価値をリミットするだけでなく、クレジット利用率(利用したクレジット額÷クレジット限度額)を上げます。高いクレジット利用率はクレジットスコアに悪影響がありますので注意が必要です(下記参照)。
クレジット・スコアへの悪影響
レジで気楽に申し込めるストア・カード。買い物額から○○%節約できると聞くと、心が揺れることもありますが、目先の数十ドルの節約にばかり気をとられるのは危険です。ストア・カードの隠れた危険は、なんといってもクレジット・スコアへの悪影響です。そのような悪影響とは・・・
- インクワイアリ: ストア・カードは審査基準は低いですが、それでも審査はあります。つまりカード会社があなたのクレジットを調べるためEquifax、Experian、Trans Unionなどのクレジット・レポート会社にインクワイアリをするということです。インクワイアリ自体は悪いものではないのですが、ただクレジット・スコアには悪影響があります。このインクワイアリがどのくらいスコアを下げるかについてはいろいろな意見があり、1件のインクワイアリで下がるスコアは3ポイントという人から30ポイントという人までいますが、だいたい10ポイントというのが妥当な線のようです。
- 複数のストア・カード: クレジット・スコア上、ストア・カードというのは通常のクレジット・カードとは区別されるようで、ストア・カードはちゃんと月々支払いをしてきちんと使っていても、通常のクレジット・カードの場合ほどクレジット・スコアを上げるために考慮されないようです。ちょっと格が下ということでしょうか。一方、ストア・カードを複数持っていると、通常のクレジット・カードを複数枚持っているのに比べ「よりリスキーな消費者」と認識されて、クレジット・スコアには悪影響があるようです。具体的には30ポイントもスコアを下げるとする専門家もいます。
- 高クレジット利用率: 上にも書きましたが、ストア・カードの低いクレジット限度額のゆえに、ちょっとクレジットを利用しただけでもすぐにクレジット利用率(利用したクレジット額÷クレジット限度額)をが高い数字になってしまい、これもクレジット・スコアを引き下げます。限度額が$500だったとすると、$400買い物をしただけでクレジット利用率は80%($400÷$500)で、これは「非常に高い利用率」でキケンと認識されるわけです。
- アカウントの保持年数: クレジット・スコアにはそれぞれのアカウントの保持年数と、すべてのアカウントの平均保持年数が考慮されます。保持年数は長いほうがいいわけですが、新しくアウントを開くことで、保持年数の数字は低くなりスコアが下がります。本当に必要なアカウントなら躊躇せず開けばいいと思いますが、そんなに必要でもないストア・カードであるならば、スコアを下げてまで開く必要はないでしょう。
ストア・カードの正しい(?)使い方があるとすれば・・・
つまるところ、ストア・カードとは、数十ドルの目先の利益に気をとられた消費者を、緩い審査基準と3秒決断で囲い込み、月々残高を払いきらない(リボルビング支払いをする)場合、異常に高い金利とその他の手数料でいっきに儲けるというビジネス・モデルです。緩い審査基準がゆえに、リスキーな消費者を相手にするわけで、損失の上方限度を設けるためにクレジット利用限度額は低くなっているわけです。支払いの悪条件だけが消費者にとっての注意点ではなく、むやみにストア・カードを申し込むことはクレジット・スコアにも悪影響を与えます。では、ストア・クレジットは一切持つべきではないのでしょうか。
私個人的には、ある一定の条件を満たせばストア・カードをうまく利用することもできるかと考えます。一定の条件とは・・・
- クレジット・スコアは当分使わない: モーゲージを組んだり、車のローンを組んだり、新しく保険に加入したりなど、クレジット・スコアを使うことになるような状況が当分ないこと。よって、クレジット・スコアが少々下がっても、問題がないことです。そのためには、日ごろから自分のクレジット・スコアを知り、きちんと管理しているということも条件になります。
- クレジット・スコアがすでに非常に高い: すでにExcellentレベル(通常のクレジット・スコア760以上)のスコアを獲得しており、少々スコアが下がってもまだExcellentレベルであるような場合。たとえば、現在800のスコアが20ポイント下がって780になっても、ローンを組む場合の金利などには影響はなし(760以上であるなら780だろうが800だろうが関係ない)というような場合です。これも、日ごろから自分のクレジット・スコアを管理していることが前提になります。
- きっちり支払う: ストア・カードを開いても、必ずグレース・ピリオド内に月々の全額を支払い、決して金利や手数料を発生させないこと。計画的に使い、計画的に支払いができるということです。
この条件がそろっている場合は、一定の状況下ではストア・カードをつくることも考慮されるべき一策でしょう。一定の状況下とは・・・
- 大きな買い物をするので、ストア・カードをつくることによってセーブできる金額が大きい場合。どのくらいの金額ならばよしとするかは個人それぞれでしょうが、たとえば、$100とするのであれば、10%オフを提供しているストア・カードをつくり、$1,000以上のものを買う場合はOKとするということです。できるだけ必要なものはまとめて1回で買う努力をすることも必要になります。
- 大きな買い物をする場合で、ストア・カードをつくると6 month free financingなど、金利なしで短期ローンが受けられる場合。ただし、このような場合も6ヶ月で必ず返済しきってしまうこと。それ以上引きずることで高い金利や手数料を絶対に発生させない努力が必要不可欠です。
いずれにせよ、「店頭での甘いささやきにひっかかって後でがっぷり搾り取られる」のではなく、「店頭の甘いささやきだけはしっかり味わっておいて、後でがっぷり搾り取る機会は絶対に与えない」という「いいとこ取り」作戦でいくということです。
このような「いいとこ取り」作戦がきちんとできる方は、クレジット・スコアはすでにかなり優秀な方かと思われます。そうであるなら、ストア・カードよりももっと条件の良いクレジット・カードをすでにお持ちか、あるいは申請することが可能でしょう。とすると、ストア・カードは「条件は悪いか、いいところだけ取らせてもらう」カードだと割り切って、いいところを取った後は、早々と解約するのがよいかと思われます。
前回ご紹介したエクステンデッド・ワランティと同じく、店頭の3秒で決断するのではなく、購入計画とクレジット・スコア管理という面からあからじめ計画的に行うことが必要です。大きな買い物をする場合は、店頭に行く前にストア・カードについて調べておくとよいでしょう。
ということで、Sports Chaletの話に戻りますが、レジのところでは知りませんでしたが、家に帰って調べたらSports ChaletはVisa Platinum/Visa Signatureカードでした。Visa付なので、Sports Chaletだけでしか使えないということはありませんが、すでにVisa Signatureは持っていますし、リワードがSports Chaletでしか使えないVisa Signatureをもう一枚持つ必要はまるでありません。その上、我が家はもしかしたら近々家を購入するかも知れず、クレジット・スコアを高く保っておくことはモーゲージを組む上でとても大切です。ということで、$50の節約には一瞬「どうしよう?」と迷ったけれど、でもこのストア・カードはつくらなくて正解でありました。