なんでこんなに高いのテキストブック!

私がウン十年前、大学院に留学したころ、日本にはないあの分厚いテキストブックを小脇に抱えキャンパスを歩く学生の姿にあこがれたものでした。いざ自分がしてみると、2冊も持てばあまりに重いテキストブックで、しかも読む量も半端じゃないので、そのあこがれはすぐに消えましたけれども。。。あのころテキストブックといえば、University Bookstoreに行って買うのが当たり前でした。安くはなかったけど、きっと$40~50も出せば一冊買えたと思います。それでも貧乏学生には高いので、ブックストアの横にあるコピー屋さんで、友人から借りたテキストブックをコピーしたのも覚えています。だいたいコピーしているのは、コピーライトに対して意識が低いアジア人(自分を含む)でした。。しかしながら、あれからテキストブックの値段は、ものすごい勢いでつり上がり、一冊$300以上するテキストも存在します。いったいなぜ?そして学生はどうしたらいいの?・・・についての話です。

 

何なのこの価格高騰!

American Enterprise Instituteが、1978年をスタートに2015年までのアメリカ大学のテキストブック価格の上昇率を調べました。比較対象として、ベースとなるインフレ(CPI)率の伸びも調べましたが、これは2.5倍、新築の個別住宅価格は3.25倍、医療費は5.75倍の上昇であったのに対し、テキストブックの値段の上昇は8.12倍という結果でした。家や医療費もインフレを大きく上回って価格上昇していますが、テキストブックはそれをはるかに上回る上昇率です。8倍といえば、1978年に$30だったものが$240です。

現在の大学生がどのくらいテキストブックにお金を使っているかについてのデータはいくつかありますが、たとえばNational Association of College Stores (NACS)によれば、平均的な学生は年間$655を費やすとの結果。College Boardによると、$1,168という結果です。随分開きがありますが、テキストブックはとる授業によりかなり開きが出るためなのかもしれません。

 

なぜこんなに高いのか

授業料を含むカレッジ費用があまりに高騰し、ローンを組まないでは大学に行けなくなっていること、大学を出てもローンを返済するのに苦悩する若者増えていること、学ぶためのテキストブックの値段が馬鹿げた域に達してきていること・・・を思うと、アメリカの大学教育は世界でも高い評価を受けているものの、この先この国の将来は本当に明るいのかと疑問に思ってしまいます。

前述のNACSの2008年時点の調べでは、テキストブックの値段の内訳はこんな感じだそうです。

  • マーケティング費用 15%
  • 印税 12%
  • 紙・印刷・人件費など製作費 32%
  • 出版社の純益 18%
  • ブックストアへ 22%
  • 運送費  1%

まあ、これが妥当なのかどうなのか、ちょっと比較するものがないのでなんともいえませんね。ほかの本はどうなのかわかりませんが、でもこれが国の将来を担う学生が学ぶ大学のテキストブックだということを考えると、この要素のどこかに何らかの措置があって、これほどまでに価格が高騰しないように国を挙げての努力があってもよいような気がします。

テキストブック市場のメインプレイヤーは5社で、他からの参入の心配はほぼない状態で市場をコントロールできているという状態だとレポートされています。

テキストブックというのは、他の商品とは違い、必要性の発生原因と商品の選択が消費者本人にはありません。あるクラスをとった時点で、どのテキストブックが必要かを教授や講師が指定していますので、学生は代替品を考える余地もなく指定のテキストブックを買うことになります。医師が処方箋を書くときに、その薬が単価の安いジェネリック品なのか、その5倍の値段のブランド品なのかはおかまいなしに書くのと同じように、教授は自分のクラスで使われている教科書がいくらなのかは考えることもなくそれを指定することがほとんどです。

また、テキストブックは改訂版が継続的に出版され続けるという特徴もあります。改定が本当に必要な場合もたくさんあるでしょうが、そうでない場合もたくさんあるでしょう。それでも新バージョンが出ます。たとえば、法律の教科書など法律改正があったので、テキストの内容も変更が必要な場合もあり、これは仕方がないと思いますが、数学の教科書など内容には大きな変更がなく、改定はほんのマイナーチェンジであっても改訂版がでます。教授は、○○というテキストブックの○○Edition(あるいはISBNで)としてバージョンまで指定することが普通です。学生は、もしかしたら安いUsed Bookでも十分かもしれないのに、高い改訂版を購入することになり、こうやってテキストブックビジネスは継続していくということになります。

 

長期的解決策は??

Open Textbookというアイデアが発展しつつあります。Open Textbookというのはオープンなコピーライト・ライセンスのもとに作られるテキストブックで、学生、教師、その他だれでもオンライン・サイトを通して自由に使うことができるテキストブックです。印刷された本として、あるいは多くの場合E-bookやオーディオ・ダウンロードとして入手されます。オープンテキストブックの著者は今までのような形で印税を受け取ることはなく、まったく無償という場合もあれば、現在出現しつつある新しいビジネスモデルを通して、たとえば$20というようなある程度の代償を得る場合もあります。また、読者から代価を得る代わりに、グラントマネーで著者をサポートしたり、あるいは広告代金、企業からの寄付などでまかなわれるケースもあるようです。

自分のとっている授業がOpen Textbookを使っているのなら、それはコスト的には大変な吉報です。

以下Open Textbookサイトの例;

http://collegeopentextbooks.org/

http://open.umn.edu/opentextbooks/

しかしながらOpen Textbookが確立されて根付くまでにはまだ時間がかかるかもしれません。テキストブックを作成するという作業は大変なものです。構成を考え、執筆し、必要な図や挿絵を乗せ、引用したものについてはコピーライトの手続きをし、校正し、出版後の内容の改定の必要性を吟味し・・・。これを著者が出版社というバックアップなく無償でするというのは、ちょっと想像しがたいですね。そうなると、Open Textbookで提供されている教科書の内容の正確性や質についてはどう確保していくのかは大きな問題ということになります。テキストブックを選択する講師側も、それを使う学生側も、信頼して使えるようになるよう、発展していってほしいものです。

 

とりあえずどうする?

以下はとりあえず今できるコスト削減策です。

オンラインで検索:基本的なことですが、ISBNを入れれば、オンラインで各サイトの値段がチェックできます。Amazon、Barnes & Noble、Half.com、AbeBooks.com、 CengageBrain.com、BigWords.com、CampusBooks.comなどなど。

本当に必要か吟味する:教授によってはテキストを指定するものの、それほどテキストを使わなかったりということもあります。以前にそのクラスをとったことがある学生に聞いたり、あるいは授業が始まってみて様子を見てから、本当に購入が必要かを検討するというのは一策。

買う代わりにレントする: Bookbyte.com、eCampus.com、Chegg.com、BookRenter.com、CampusBookRentals.comなど。あるいは大学がレントのシステムを作っていることもあります。あるいはパブリックの図書館に行くのも手。ただ、図書館の場合は、貸し出し期限の関係で学期中ずっと借りているのは無理かもしれません。

E-bookを買う:Kindleやタブレット版で読む。キーワード検索も簡単です。

古いEditionを買う:古いEditionを買えば新しいものを買うのに比べて$100単位で節約できることも多いです。ただ、一つ確認しなければならないのは、内容がそれほど変わらないこと。法改正、ルール改正、新しい発見などが頻繁な分野のテキストブックには向きません。教授に古いバージョンでもいいか聞いてみるもの一策ですが、あとは内容をオンラインで見てみて、ページ数やレイアウトがほとんど変わっていなければ、確率的には大きな変更がなかったと推測できるでしょう。

インターナショナル・バージョンを買う:インターナショナル・バージョンというのは、同じ内容のテキストブックですが、アメリカ以外の国で使われるために出版されたものです。カバーがソフトカバーであったり、紙の質が落ちたりということはありますが、れっきとした教科書で大きな節約が期待できます。オンラインで簡単に検索できます(たとえばこちら)。アメリカの消費者がインターナショナル・バージョンを購入することは合法です(カナダでは違法です)。

2 comments

  1. 最近聞いたポッドキャストでちょうど同じトピックのものがありましたので、シェアさせていただきます。買わないというチョイスがないものに、何百ドルも払わせられるのはおかしいですよね。。

    NPRのポッドキャスト、Planet Money からです。https://goo.gl/gSPkxq

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