消費者としてのポリシー:クレジットカードの場合で考える

Last Updated on 2019年1月27日 by admin

アメリカも日本も資本主義であり、消費社会です。私たちはその中で労働者であり、経営者であり、消費者でありといくつかの冠をかぶって生活していますが、仕事を持っていない人も、経営をしていない人も、ほとんどの場合消費者であることは免れません。何らかのサービスなり、物なりを消費しながら生きています。企業は消費させるため、できるだけ買ってもらうために多くのエネルギーを費やし、キャッチ―な宣伝、巧みに挿入されたオンライン広告、無意識に働きかけるソーシャルメディアなどで働きかけてきます。そんな中、企業に一方的に操られるのではなく、消費者として自分の立ち位置を決め、企業の提供してくる商品やサービスが自分のニーズや自分の価値観に合うのかを吟味するようなプロアクティブな姿勢が大切ではないかと思います。今日はそんなことに、クレジットカードの例をとりながら思いを巡らしてみましょう。

 

どのタイプの「利益」になるのか

企業の目的は利益の最大化です。“Happy Customer”とか、”Socially Responsible”とかいろいろなスローガンがありますが、それらも企業のポジショニングをうまくとっているだけの話で、突き詰めれば利益を上げることが最終目的です。

企業の収益の上げ方は何も一つではなく、多種多様のサービスや商品を提供して利益を上げていますね。クレジットカード会社の場合の収益のカテゴリーは下のようになります。

Interest Income:毎月残高を支払い切らない場合に、残高にかかる利子からの収益 $63.4 billion
Interchange income:顧客が買い物をしたときに、お店側がクレジットカード会社に払う2.0%から2.5%程度の手数料収益 $42.4 billion
Cash advance fees:クレジットカードで現金を借りるときにかかる手数料(借りた額の5%程度)収益 $26.6 billion
Annual fees:クレジットカードの年会費収益 $12.5 billion
Penalty fees:支払い遅延やクレジット限度をオーバーした場合などのペナルティ収益 $12 billion
Enhancement income:保険などクレジットカードに追加できるサービスからの売り上げ収益 $6.3 billion

 

この収益のうちの、自分はどの「利益」に属するのか?・・・を考えてみると、クレジットカードとの付き合い方も少し変わってくるかもしれません。クレジットカード会社の最も大きな収益源は、一番上のInterest Income(利子)です。クレジットカードを、お財布のちょっと苦しい時のローン減としてみなしている人は、ここの「利益」となっています。計画的に使っていないと、クレジットカードの限度を超えたり、支払いが遅れたり、チェックがバウンスしたり、クレジットカードで現金を下ろしたりということにもつながり、そうするとPenaltyやCash Advance の利益にも貢献することになります。これらの顧客は大きな収益をもたらしてくれるので、クレジットカード会社にとってとても大切な存在です。

反面、クレジットカードはお金を借りるツールとはみなさず、チャージした残高は毎月支払い切るタイプの顧客は、多くのInterchange Income(お店側の手数料)を生むのでその収益源にはなりますが、この場合はお店側が手数料を払うわけで顧客側は一銭も支払う必要がありません。Interchange Incomeもクレジットカード会社にとって2番目に大きな収益源なので、それを生む顧客は大切な存在ではあるもの、顧客のお財布は痛まないという特徴があります。

あなたはどのタイプの顧客であり、どのタイプの収益源でしょうか?また、どの収益源になりたいでしょうか。

 

自分はどのセグメント?

どういうタイプの顧客にどいういう商品を売り、どのように利益を最大化するかという戦略に企業は心を砕きます。顧客のタイプによりグループ化して戦略を考えるのをセグメンテーション(セグメント化)などとも呼びますが、商品開発、サービス提供、宣伝、囲い込みなどなど、それぞれ顧客セグメントごとに最適化したしかけをしてきます。

消費者である私たちとしては、この考えを逆手にとって、このセグメントのうちのどれに自分がなりたいか・・ということを考えてみると、それぞれのビジネスとのより適切な付き合い方がわかってきます。

たとえば、とあるコンサルティング会社が行った、クレジットカード業界のための顧客セグメンテーションを見てみましょう。1)~5)の5つのタイプに顧客を分けています。データは以下のとおり。

各セグメントの説明はこんなふうです・・

 

1) 富裕&高満足度セグメント

家計管理ができており、支出の大部分でクレジットカードを利用し、ポイントやキャッシュバックなどのリワードを望む。毎月残高は支払い切り、リボ払いの高利子ローンを嫌う。自動支払いをセットし、簡単・楽・便利を好む。最も高収入・高資産レベルを誇る。

このセグメントのもたらす利益は、上のInterchange Income(お店が払う手数料)で、このセグメントを引き付けるためには、リワード提供が欠かせない。また、このセグメントは高利子ローンは嫌うものの、クレジットカードで車やアプライアンスなど高額の商品を購入し、簡単かつ自動的に低金利リボ払いを可能にするサービスなどを提供すると有意義。

 

2)特典を追いかけるセグメント

ある程度のリボ払い残高を持っており、常に最低の利子を確保するためにバランストランスファーを繰り返すグループ。このグループは、リボ払い残高を抱えているものの、家計管理はしっかりするタイプで、クレジット負債もコントロールできていると感じており、カード特典について最も自分にとって有利なものを追いかける。Co-brand card(デパート、ガソリン、エアライン会社などのお店側とクレジットカード会社との二つのブランドがついたカード)を利用したり、年会費を払うカードを利用する可能性が高い。上の富裕&高満足度セグメントに次いで、2番目に高収入・高所得である。

このセグメントは、クレジットカード会社に対して「勝つか負けるか=自分が得をするか損をするか」という観点で物をとらえており、「勝っている=得をしている」と感じさせることが大切。0%APRバランストランスファーやボーナスリワードなど、おいしいところだけ掴んで、他のカードに逃げていくこともあるので、「おいしい部分」を機を見て提供し続け、安定したパートナーシップを築いていくことが必要。

 

3) 家計のやりくりに困難があるセグメント

$7,000を超えるクレジットカード負債があるセグメントで、バジェットを守ったり、消費をコントロールすることが難しいと感じている。よりよい商品やサービスを探したり、より安く買うための努力をほとんどせず、負債を完済できるという希望も持たず、恒常的に負債がある状態がふつうと感じている。5セグメントのうち資産が最も少ない。

負債レベルは維持可能なものではないが、同時にクレジットカードなしでは生活が成り立たず、なるべくシンプルに簡単に、必要なお金へのアクセスを確保しながらも、クレジットを使いすぎて破たんしないようコントロールできるしくみを提供してもらいたいと感じている。利子やキャッシュアドバンス、ペナルティなどをもたらしてくれる。

 

4)負債から回復途上のセグメント

$2,000弱程度のクレジットカード負債はあるものの、返済に努めており、バジェットを組み家計を立て直そうと努力しているセグメント。金融機関や金融商品への悪い経験から、「株式はリスクが高すぎる」とか「破たんの危険のゆえ銀行預金は危ない」などという不安を持っている。クレジットカードの利用はなるべくしないように努め、0%APRやサインアップ・ボーナスなどの特典にも反応してこない。オンライン機能より、人を介してのやりとりを好む。

クレジットカード自体に懐疑的なので、危ない落とし穴はなく、安全にクレジットカードを使うことができるという安心感を与える必要がある。この層を取り込むには、バジェットを守りながらの消費をできるようなトラッキング機能を提供すると効果的。また、手数料やペナルティに恐怖心があるので、「一度目の支払い遅延はゼロ・ペナルティ」などの特典を提供すると効果的。

 

5)アンチ・クレジットカード・セグメント

クレジットカード自体の利用が好きでなく、使わないセグメント。70~80%の消費を、デビットカードかキャッシュで行う。それでありながら、$2,000弱のクレジットカード負債を持つ。4)の負債から回復途上のセグメントよりは、多少資産が多い。3)の家計のやりくりに困難があるセグメントと同じように、シンプルなしくみ(手数料、ペナルティ、利子)を望む。

このセグメントの取り込みのためには、いくらのものを購入したら、月々いくらの返済で何カ月で完済・・というように、シンプルにわかりやすく返済計画などを提示すると効果的。

 

どのセグメントに属したいか

ここまでお読みになって、「あ~自分はこのセグメントだ~」と思いつくふしがある方もいらっしゃるでしょう。これが、今思いついたのではなくて、「言われるまでもなく自分はこのタイプだ」と分かっていらっしゃる方は、自分の立ち位置がよく分かっている人とも言えます。企業は勝手にタイプ分けをし、タイプごとに最適なマーケティング攻勢をかけてくるので、無意識で使っているとずっと相手の手に乗ることにもなりかねません。それがわかって乗っているのならいいのですが、そうでないと無駄にお金を支払う、ひどいと搾取されることにもなりかねません。

上のセグメントで1)富裕&高満足セグメントはほとんど利子、年会費、ペナルティなどは支払わず、クレジットカードを積極的に使うことで、お店が支払う手数料、つまり人のお金でクレジットカード会社への利益を生み、一方で自分にはキャッシュバックやポイントなどの還元を手に入れています。1)はクレジットカード会社には一切払わず、たくさんもらっている層です。

2)の特典を追いかけるセグメントは、ある程度の利子を支払いながらも、特典やリワードには敏感なので、クレジットカード会社も低利子やボーナスなどを提供せざるを得ず、それなりの特典を得ています。2)はクレジットカード会社に少し払って、たくさんもらおうとする層です。

3)家計のやりくりに困難があるセグメントは、クレジットカード会社にとっては恒常的な利子収入を確保できるおいしいグループで、消費を継続的に喚起するための返済計画機能などを提供するものの、キャッシュバックやボーナスなどの特典は必要がありません。3)はクレジットカード会社からは全くもらわず、その代わりたくさん払っている層です。

4)負債から回復途上のセグメント、5)アンチ・クレジットカード・セグメントは、不安や恐怖をいかにして取り去るかが課題で、ここをうまくクリアするしくみを提供すれば、1)か2)か3)あたりのどれかにコンバートし、より多くの収益を得られる層です。

どのセグメントに入りたいかは、個人の自由ですし、「私は私。どのタイプにも属さない!」というのも本人次第です。ただ、クレジットカードを使うならば、できれば1)か2)あたりを狙うともっともお得ではあります。一番よくないのは、ポリシーを持たずクレジット会社のなすがままに流されることでしょう。会社側に誘導されるままになるのではなく、消費者としてどういうタイプになりたいかというポリシーを持つことが、賢い消費者になる第一前提のような気がします。

これはなにもクレジットカードだけに限られることではなく、銀行でも投資会社でもケーブル会社やでもAmazon でも、どんなビジネスに対しても同じように、自分はどういう消費者でありたいかという思いを持ちつつ、企業側から発信されるマーケティングに流されるのではなく、自分のポリシーをもって企業の提供するサービスを使ったりモノを買ったりするという姿勢は、このアメリカというインスタント消費社会ではとても大切なことのように思います。

 

賢い消費者になりたい – 操作されない消費(1)

賢い消費者になりたい – 操作されない消費(2)

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2 comments

  1. 面白い分類ですね。
    返すあてがないのにクレカを使うと言うのは、事情があるのでしょうが、自滅的で怖いです。アメリカに来て数年は、クレジットヒストリーがなくてなかなかクレカを作れなかった経緯があるので、大事に使ってます。

    我が家はジョイント口座で家計をやりくりしてるので、デビットカードの使用も多いです。年会費を払ってまで高い比率のポイント還元要らないので、最初に作ったカードをずっと使い続けています。

    ポリシーと言うほどのものはないですが、流されているとも思いません。このような視点で考えたことがなかったので、勉強になりました!

    1. いろいろな考えの人がいますから、いろいろですよね。企業側もそこをうまくついてきます。
      流されていない・・というのは一番です。企業のマーケティングに流されるだけだと、本当につらいです。
      流されない方なら、デビットカードよりクレジットカードをうまく使うというのもお考えになるといいかもしれません。次回の記事が参考になるかもと思います。

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