SECURE 2.0 でリタイヤメント準備促進

SECURE 2.0という法律が2022年12月にできました。2019年にできたThe Setting Every Community Up for Retirement Enhancement (SECURE) Act をフォローアップし改定する形でつくられました。アメリカのすべてのコミュニティに置いてリタイヤメント資金づくりを促進し、よりSecure(たしかな)将来を目指そうという趣旨です。

さまざまな改定があり、多くの人に影響があります(ほとんどが良い影響のはず)。改定の主要点をまとめてみます。改定のルールには細かい条件などがあり、また改定の開始時期もルールによって様々です。以下は主要なポイントをまとめていますので、細かい正確な条件などは無視している部分もあります。あくまで簡単にまとめたポイントとしてとらえてください。

Required Minimum Distribution(RMD)開始年齢が引き上げ

401(k)やTraditional IRAなど、所得税控除で積み立てたリタイヤメント口座には、RMDが設定されています。RMDは、前年末の残高と口座保持者の寿命によって計算されるもので、その額を必ず引き出す必要があります。引き出したRMDは所得として数えられ所得税の対象になります。RMDは生活費などに使ってもいいですし、もしも余剰金として残れば課税口座(Brokerage Account)などで投資運用を行うことも可能です。

このRMDの開始年齢が引き上げられ、一部プランにおいてはRMDが廃止されます。より長い間、引き出しを強要されず、税優遇での投資が続けられることになります。Rothコンバージョンを計画する場合にも、より長い間の期間を計画に含めることができるようになります。

RMD開始年齢は今まで72歳でしたが、2023年1月から73歳にに変更になりました。さらには、2033年1月からは75歳に引き上げられます。

同時に、RMDを引き出さなかった場合のペナルティが、これまでの50%(引き出しが必要だったRMD額に対して)から25%に引き下げられました。

さらには、Roth 401(k)に関しては、今まで設定されていたRMDがなくなります。これにより、Roth 401(k)もRoth IRAと同様に、RMDを気にせず運用が継続できるようになります。

キャッチアップ積み立て分がパワーアップ

50歳以上のキャッチアップ積立額はこれまでも設定されていましたが、これがインフレ調整の対象となり年々増額されるとともに、あたらしく60歳から63歳のスペシャル・キャッチアップ積み見立てというのがつくられました。

IRAでは、50歳以上になると通常の積立限度額(2023年で$6,500)に加え$1,000のキャッチアップ積み立てが許されています。2024年からこのキャッチアップ積立額もインフレ調整で増額されます。

401(k)などの職場のリタイヤメントプランでも、同様に50歳以上でキャッチアップ積み立てが許されており、2023年では$7,500です。これに加え、2025年からは60歳から63歳の人は、スペシャル・キャッチアップとして$10,000の積み立ても許されるようになります。この額もインフレ調整の対象となり、年々増額されます。ただし、2024年以降のすべてのキャッチアップに関しては、一定の収入以上(2023年で$145,000でインフレ対応調整される)があった場合は、Roth扱い(所得税課税後の積立)となります。

スモールビジネス向けのSIMPLE IRAに課しては、2024年以降、50歳以降のキャッチアップ積立額が10%増額、60歳から63歳までを対象としたスペシャル・キャッチアップ積み立ては、2025年より開始し$5,000までとなり、それ以降インフレ対応で増額します。

Rothオプションが追加

IRAにはTraditional(所得税控除で積み立て、引き出しは所得税課税)とRoth(所得税を払って積立、引き出しは非課税)の選択がありました。職場の401(k)にもRoth対応がつくられるようになり、だんだんと浸透してきました。しかしながらそれ以外の部分では、Rothを選ぶことができず、Traditional(Pre-taxとも呼ばれる)でしか積み立てることができませんでした。今後、Rothを選ぶことができるエリアが増えます。

Employer Matchと呼ばれる401(k)などでの雇用者マッチアップ積み立てで、2023年よりRothを選べるようになります。

今まで、Simple IRAやSEP IRAは、Traditional/Pre-taxオプションしか選択できませんでしたが、2023年よりRothオプションが加わります。

401(k)への自動参加が促進される

昨今では、雇用主が雇用者を401(k)に自動参加してデフォルト積み立てをさせるシステムがだんだんと浸透してきています。これは単に「やってもよい」というものだったのですが、今後2025年以降は「やらなければならない」ものになります。

雇用主は、雇用者がオプト・アウトしない限り、401(k)に自動参加させ、給与の3から10%を自動積み立てしなければならなくなります。一部条件を満たす規模の小さい企業のみが、この義務を免れます。

さらには、2025年よりパートタイム労働者が401(k)により早く参加しやすくなります(連続の2年間で500時間以上労働)。

転職時の401(k)の自動トランスファー

転職して去った前の会社の401(k)が忘れ去られたり、キャッシュアウトして消滅したりせず、そのまま新しい401(k)にトランスファーし自動継続できるしくみが許されます。自動トランスファーは$5,000以下の少額口座が対象となり、もちろん本人がそれを拒否することもできます。

スチューデントローンの返済で、401(k)マッチアップを得られるように

働き始めてからスチューデントローンの返済をしている人に吉報です。ローン返済をしていると、なかなか401(k)に積み立てをする余裕がなく、そうすると雇用主が提供しているマッチアップ積み立ても享受することができないという残念な状況が起こっています。

2024年より、たとえ雇用者自身が401(k)の積み立てを行っていなかったとしても、スチューデントローンの返済をしているなら、それをベースに雇用主がマッチアップを提供できるようになります。

使い切らなかった529資金がIRAにロールオーバーできるように

お子さんの学資のために積み立てた529口座の資金を、お子さんが大学に行かなかったり、行ってもアメリカ以外の大学だったり、大学に行ったけれど資金が残った場合に、2024年よりRoth IRAにロールオーバーできることになります。

529の残金は、利回りに所得税と10%のペナルティ税を払って他の目的に使うか、あるいはそのまま残して他の家族や孫などの教育資金に使うかしか選択肢がありませんでしたが、IRAオールオーバーによりお子さんのリタイヤメント準備に使うことができるようになります。

以下の条件があります。

  • Roth IRAは529のBeneficiaryであるお子さんの名義であること
  • ロールオーバーの上限は$35,000(Beneficiaryにつき生涯上限)
  • 529が開設されて15年以上たっていること
  • ロールオーバー前さかのぼって5年以内に積み立てられた資金とその利回りは、ロールオーバーの対象とならない
  • 一年間にロールオーバーする額は、年ごとのIRA積み立て上限に準ずる(生涯上限が$35,000だが、何年かに分けてロールオーバーする必要がある)

リタイヤメント口座からの59歳半前の引き出し規制がゆるやかに

59歳半前の引き出しに対しては、対象額に対し10%のペナルティ税がかかりますが、以下の条件に合致すれば、それぞれ定められた限度の範囲内であればペナルティなしで引き出せるようになります。

  • 余命84か月以内と診断された場合
  • Domestic Abuseの被害者となった場合
  • 一定の条件を満たすLong Term Care(長期介護保険)の保険料を払う場合

Traditional IRAからのチャリティ寄付がよりしやすく

Traditional IRAからチャリティに直接寄付することで、RMD要件を満たしつつ所得税控除を受けるQualified Charitable Distributionがより利用しやすくなります。

リタイヤメント口座資金でアニュイティが買いやすく

リタイヤメント口座の資金でQualified Longevity Annuity Contracts(QLAC)を買うときの、資金上限が$200,000に上がります。QLACAは生涯年金契約であり、85歳までに年金受け取りを開始する必要がありますが、73歳から始まるRMDの必要は免れます。受け取り時期を遅らせながら、生涯年金の確保をすることができます。



リタイヤメントとリンクさせエマージェンシーファンドを確保

純生活費の3から6か月の現金を、銀行口座やHigh Yield Savings でもつことがファイナンシャルプラニングの基本です。ところが若年でキャリアを始めたばかりなど、これがなかなか難しい場合もあります。そんな人のために、職場のリタイヤメント口座とリンクした形でエマージェンシーファンドを確保できるしくみができます。

一つ目は、リタイヤメント口座から、エマージェンシー時に年間$1,000を限度に引き出しをすることができるようになり、これは59歳半前の引き出しに課せられる10%ペナルティを免れます。3年の間にリタイヤメント口座に入れ戻す必要があります。

もう一つは、雇用主が、リタイヤメント口座に付帯してエマージェンシー用の口座を提供することができるようになります。年間$2,500までの積み立てが可能で、積み立ては課税後(Roth対応)になります。一年につき4回の引き出しまでは、非課税・ペナルティなしで可能です。また、個人がこの口座にする積み立てに対して、雇用主マッチアップ(リタイヤメント口座へ積み立て)を提供することも可能となります。401(k)に積み立てをすることができず、とりあえずエマージェンシー用口座にしか積み立てができない人も、マッチアップを得ることができるようになります。

他にもカバーしていないものもありますが、主要ポイントでした。

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