日本の年金をもらうとソーシャルセキュリティが減額される?

Last Updated on 2020年2月7日 by admin

日本の年金を受給していると、アメリカでのソーシャルセキュリティー年金が減額される場合があるという問題について知りました。何人かの方からご質問を受けると同時に、このことについて知っている方が情報を送ってくださったりもし、私もこの切実な問題に無関心でいるわけにはいかないと思い少し勉強をしてみました。今回は、私の勉強した内容をまとめますが、私はこの点に関しては全くの素人で、ここでまとめたことも最善を尽くしましたが間違いがある可能性もありますので、どうぞご了承ください。かえって経験者の方、詳しい方がいらっしゃいましたが、コメントくださると幸いです。

減らされるってどういうこと?

問題となっている現象は、日本の年金のようなソーシャルセキュリティ以外の年金と、ソーシャルセキュリティ年金とを同時に受けると、ソーシャルセキュリティ年金が減額されるというものです。具体的には、ソーシャルセキュリティ税を徴収されていない勤労所得に基づいてソーシャルセキュリティ以外の年金を得ると同時に、それとは別にソーシャルセキュリティ税の徴収対象となる(別の)収入も得たためソーシャルセキュリティ年金も受給をする状態にある場合が該当し、別の年金額によって、ソーシャルセキュリティ受給額が減らされるというものです。「ソーシャルセキュリティ税の徴収対象でない」ことを“non-covered”といい、non-coveredの勤労所得に基づく年金のことを“non-covered pension”と言います。“non-covered pension”は、たとえばアメリカの場合なら学校の先生などのように、ソーシャルセキュリティとは別の公的年金などがそれで、この別年金加入のため給料がソーシャルセキュリティ税の対象となってない場合などは、この減額に該当することになります。また、外国の年金も該当し、たとえば日本の年金も減額の対象になることがあります。

なぜ減額?

この減額は、ソーシャルセキュリティ税の徴収対象となる勤労所得だけを得てソーシャルセキュリティ税を納めてきた年金受給者との公平をはかるためのものです。

たとえば、アメリカで働く高校の先生Aさんの例で考えて見ましょう。Aさんは、先生として働いている間は、州の先生用の年金制度に加入しており、本人と学校とがこの年金制度に払込をしました。この制度に加入している間は、給料はソーシャルセキュリティ税の徴収対象とはならず、Aさんは州の年金制度だけに払込をしました(Non-covered pension)。Aさんは、先生として働いていた間もパートタイムで他の仕事をしたり、あるいは何年かの休職中は学校とは全く別の仕事をしていたことがあります。これらの仕事で得る所得はソーシャルセキュリティ税の対象となり、雇用主もAさん自身もソーシャルセキュリティ税を納めていました。さて、Aさんが退職して年金生活に入った時、州の年金制度とソーシャルセキュリティ年金のどちらからも年金収入をもらえることになりました。

問題は、ソーシャルセキュリティの「収入の低い人にはより手厚く」年金を分配していくシステムです。ソーシャルセキュリティ側からだけ見ると、Aさんの州の年金の情報は簡単には見えず、ソーシャルセキュリティ対象の収入履歴だけ見ると非常に低収入に見えるため、「収入の低い人にはより手厚く」年金が分配されることになります。

ソーシャルセキュリティの年金額の計算式では、収入が高くたくさんソーシャルセキュリティ税を納めた人が年金として受け取る額の戻り率と、収入が低く少しだけソーシャルセキュリティ税を納めた人が年金として受け取る額の戻り率を比較すると、後者のほうが高くなるように設定されています。収入が高かったひとに比較して、収入が低かったひとは、より高い還元率で年金を受け取れるようになっています。これは社会保障システムの核ともいえる考え方かと思います。

ただ、前述のAさんは、先生としての収入履歴も合わせれば実はそれほど低収入であったわけではないのです。Aさんの先生としての収入とその他の収入を合わせたトータル収入と同額を、全額ソーシャルセキュリティ税の徴収対象として税を納めていた人(Bさんとする)に比べると、(収入も納めていた税金もほぼ同じなのに)Aさんのトータル年金(州の年金とソーシャルセキュリティ年金を合わせた額)のほうが、Bさんのソーシャルセキュリティ年金と比べて多くなってしまうという不公平さが存在することになります。

この不公平さを解消するために、AさんのNon-covered pensionである州の年金制度からの年金額を鑑みながら、ソーシャルセキュリティ年金を減額するというのがWindfall Elimination Provision(WEP)と呼ばれるものです。Windfallというのは棚からぼた餅の「棚ぼた」のことで、Aさんにとってみては、年金を二つにまたげただけでソーシャルセキュリティ年金が他の人より大きくなる・・というのがこの「棚ぼた」です。公平のため「棚ぼた」分を減額するのが、Windfall Elimination(棚ぼたの削除)です。

なんでアメリカ以外の年金も?

Aさんの場合は、アメリカの中のふたつの年金システムにまたがっていたわけですが、日本の年金に加入していた人もこのWEPの対象になってしまうことになります。

このWEPは1985年から制定されているルールなので何も新しいものではありませんが、多くの人が知っているというものでもなく、年金受給を開始してみて初めてわかったというケースも多く問題になりがちです。ソーシャルセキュリティ・オフィスに行って受給の手続きをすると、「日本で年金をもらっていますか」と聞かれ、「はい」と答えて金額を申告すると、後で減額の通知を受け取ることになり狼狽する方もいらっしゃるようです。

減額される額は、誕生年と受給額によって計算されることになりますが、目安としては月に数百ドルレベルになることが多いようです。ただし、減額には上限が設定してあって、ソーシャルセキュリティ以外の年金額(日本の年金額)の半額です。最大で、日本の年金の半額がソーシャルセキュリティ年金から減額されるということです。

WEP対象外となる場合は?

日本からもらう年金すべてがWEPを引き起こすかというとそういうわけではなく、労働者あるいは雇用主がMandatory(強制的に)加入する年金システムが対象になります。よって厚生年金や共済年金は対象となりますが、個人が払い込んだ国民年金は対象外となります(が、残念ながら、誤った適用によって国民年金もWEP対象になるケースもでているそうです。https://www.sandiegoyuyu.com/index.php/news-2/286-town-news/14538-social-security190801-8)

また、受給資格を満たすのに日米社会保障協定を適用して加入期間を通算した場合も、通常の計算方式が適用されないという理由からWEP対象外となります。たとえば、日本の受給資格を満たすため、カラ期間やアメリカの労働期間を通算して10年の受給資格期間をクリアした場合や、反対にアメリカの受給資格を満たすため、日本の労働期間も加えて通算して10年の受給資格をクリアした場合などは、WEP対象外です。

さらに、ある一定以上の収入で30年以上ソーシャルセキュリティを納めていた場合は、対象外になります。ある一定以上という年収額は年々設定されていて異なる数字ですが、たとえば2018年の収入では$23,850ですので、それほど大きな額ではありません。たとえ収入は少なくとも30年以上ソーシャルセキュリティを払い込んでいればWEPは適用されません。また、30年に満たなくとも21年以上ならWEPが適用されるものの、減額が小さくなります。

WEPが適用になるかどうかについては、下のForeign Pensions Screening Toolで判断ができます。

https://www.ssa.gov/international/wep_disclaimer.html

問題は・・・

確かに不公平を是正するための減額というのであればそれは仕方がない気もしますが、それならばそれで皆が理解できるように教育・説明の努力が必要かと思います。日本人からしてみれば、日本で一生懸命働いて納めたおかげでもらえる年金があるからといって、他国アメリカのソーシャルセキュリティが減らされるというのは理不尽に感じるところも多いでしょう。また、個人的に掛ける国民年金の受給はWEPを引き起こさないはずなのにもかかわらず、実際はWEP対象になってしまっているケースもあるそうです。

ソーシャルセキュリティのWebサイトでは自分の口座を作って、将来受けることができる年金額を調べることができますが、そこではWEP対象になること、なるならいくら減額されるかについては何の明示もないため、Webサイトに出てくる額がもらえると見積もっていたのに、ふたを開けたら減らされたというようなリタイヤメント・プラニング上の問題も引き起こしているようです。

WEPについての説明、WEBについての問題点については、下記のサイトに詳しく書かれていますので参考にするとともに、私たち自身、言われるままに減額に甘んじるのではなく、自分の権利は自分で守る、納得できるよう説明を求めるなどプロアクティブな姿勢を持つことが必要だと思わされました。

海外年金相談センター 棚ぼた排除規定(WEP)とは?

『週刊NY生活』米国在住の日本の年金受給者を悩ます3つのハザード

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15 comments

  1. 私の場合ですが、USAのSSベネフィットを62歳で申請しました
    その際に、他の国でのペンション・年金の受け取りを聞かれましたので、65歳になった時に日本で
    受け取る予定と答えました その際、担当者の方は、その旨をノートとして申請受付に記入しました
    65歳になった時に、その担当者の方に、日本での年金受け取りを始めたと連絡したら、その為の報告の書類が送られてきました(OMB 0960-0395)
    結果的に、その申請により、私と妻のSSベネフィットは20%程度減額されました (申請してから一年半後に連絡が来たため、遡って返却することになりましたが)
    申請しない方もいるようですが、日本での年金受け取りをTAX申請の際にキチンと報告するにはIRSに対してだけでなく、SS上もきちんとしたほうが良いと思ったからです
    私としては減額はされましたが、毎年のTAX申請時のつじつま合わせなどの必要がなく、却ってストレートに報告できるので良かったと思っています
    ただし、日本では厚生年金、USAではSS TAXを別々に両方に払っていたのにWEPの仕組みは理不尽だとは思います

    1. 経験談を教えてくださりありがとうございます。
      自己申告に頼るということなのですね。理不尽さの感は確かに残りますね。

  2. 質問です。
    逆の場合はどうなるのでしょうか。
    年金&SS受け取り期間に日本に住んでいた場合、日本の年金も減額されるのでしょうか。

    1. アメリカ暮らしが専門なので、日本のことは勉強不足で知りません。そういうことは聞いたことはありませんが、私が聞いたことがないだけなのかもしれません。どなたか知っていたら教えてください。

  3. 今年、アメリカ人の主人の配偶者SS年金の手続きをしました。
    60歳から特別支給の老齢厚生年金を受給していましたが、65歳で支給が終了。
    老齢厚生年金と基礎年金はSS年金を受給する予定だったので、
    繰り下げして日本の年金はストップしていました。
    66歳になったので、SSオフィスに受給の相談に行ったところ、私自身のSS年金額より
    主人のSS年金の半分の方が多いので、配偶者年金を勧められました。
    外国の年金を受給しているかどうか質問があるかと思ったのですが、政府系で働いたか、軍歴があるか等
    しか聞かれず、とてもスムーズに手続きが済みました。
    いろいろ調べたら、配偶者がアメリカ人の場合はWEPの対象ではないようです。
    SSオフィスの担当者から、私自身のSS年金を70歳で手続き受給すると32%増額され、
    主人の半分よりも多くなるので、乗り換える事も勧められました。
    70歳時点で、WEPで減額される日本の年金額とそのまま配偶者年金のままの場合と
    比較検討してみようと思っています。

    1. なるほど、生きた情報をありがとうございます。
      配偶者年金はあくまで配偶者の方の履歴による年金なので、配偶者の方がWEP対象でなければ、その配偶者年金も影響を受けないということなのですね。70歳の時増額され、かつWEPで減額されるご自身のベネフィットと、今の配偶者年金との比較ということですね。どうなるのでしょう。いずれにせよ、SSの方が親切でよかったですね。

  4. アメリカの年金支払期間が10年未満で10年をクリアするために日本の期間を参入した場合WEP適用外との事ですがどのようにアピールできるか教えて下さい。先日大幅な減額通知を貰って将来設計が真っ暗となり困っています。宜しくお願い致します。

    1. 記事内のリンク Foreign Pensions Screening Toolでご自分のケースを入力し、WEB適用外となったのなら、その事実を持ってソーシャルセキュリティオフィスに行かれてはどうでしょうか?

  5. お世話になります。
    1月から米国年金を受給できるよになりましたが、USAからMIDICARE HEALTH INSURANCE
    のカードが届きました。HOSPITAL(PART A)
    BENEFITS ONLY と書かれていますが、どうすればいいのですか?これわなんですか?
    教えてください。

    1. Part Aだけ加入されていて、Part Bやその他のカバレッジはないということかと思います。Part Bの加入、Medicare AdvantageやMedigapなどの検討も必要かと思います。メディケアを取り扱っている保険やさんにご相談ください。
      Medicareを知る(1) –  Part A and Part B

      Medicareを知る(2) - Part C、Part D、Medigap

      Medicareを知る(3) - 利用と申請

  6. お世話様です。
    ずっと60歳から特別支給の老齢厚生年金を知らず、昨年末からやっと受給を開始しました。なので、今年度が初めての確定申告になりますが、IRSのフォームのどこに記入すれば良いのかと電話をしたところ、そういう質問のサービスはしていないと言われてしまいました。
    何か、ご存知でしたらお知らせください。どうぞよろしくお願いします。

    1. 1099-R https://www.irs.gov/forms-pubs/about-form-1099-r ではないかと思いますが、タックスリターンを行っている会計士さん・税理士さんにご確認ください。

  7. こんにちは

    今年2021年5月に永住帰国を控え、SSを受給することに決め、手続きしました。フル受給資格は66歳からで、現在67歳になったところです。勤続年数も多くなく、見込み額も多くなく、日本の年金は65歳から受給しているため、どれだけ減らされるか心配でした。
    申し込みから数週間後に電話があり、「$400以上減らされることはない」と言われました。それは聞いていた通りです。要求された提出書類は、現在の日本の年金の支給額を示す公的文書でした。
    その数週間後に決定額の文書が届きましたが…$100足らず減らされただけでした! 見込み額も元々少なかったのですが、それでもホッとしました。日本の年金と合わせて、これで何とか日本で引退生活を始められそうです。
    こちらのサイトは時々読ませていただきました。いつもありがとうございました。

    1. そうですか!$400かもと覚悟していらっしゃって$100だったのは、本当によかったですね。
      日米これで、年金額が決まったこと、安心ですね!リタイヤメント生活の一日一日楽しんでくださいね。

  8. Admin 様、ご返事ありがとうございます。最初のSS振込が5月の初めです。
    思えば、最初に「棚ぼた防止法」について教えていただいたのが、確かこのサイトでした。それ以来あちこち調べまくり、ようやく今日の状態にたどり着いたのです。何事もリサーチ、リサーチだと思い知らされました。
    5月の中頃には帰国予定です。ようやく日本に帰国後のことにも関心も向けられるようになりそうです。
    重ねてお礼申し上げます。

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