FSA、HSA、HRAって? – 健康保険と消費者の責任

Last Updated on 2015年11月20日 by admin

HMO, PPO, POS, FSA, HSA, HRA… どれも、アメリカの健康保険に関係した3文字略語です。アメリカの医療費は毎年膨張する一方ですが、それに比例してこの3文字略語も増加の一方です。毎年のオープン・エンロールメントのたびに、保険料はどんどん上がっていくし、新しい健康保険は追加されるし、今までのものも変更されたりで、なにがなにやら。いったいどの健康保険を選べばいいのかと頭を悩ます方も多いのではないでしょうか。最初の3つはこちらでご紹介しましたので、今回は後の3つを考えます。

FSA、HSA、HRAはそれぞれ、Flexible Spending Account, Health Savings Account, Health Reimbursement Arrangementの略です。それでもまだ意味がわからないって。ごもっとも。では、少しずつ解析していきましょう。

消費者が裁量するヘルス・プラン

まずこれらはまとめてConsumer Directed Health Plan(消費者が裁量するヘルス・プラン)と呼ばれ、従来の健康保険に新たに加えられた新しい付加プログラムです。これらは、ひとりひとりの消費者(つまり患者)に、自分の医療費を低く抑えようというモティベーションを与えて、ひいては全体的な医療費の削減を実現しようという目的のために生まれた対策です。「どうせ保険会社が払うから、どんな高い措置でもしてもらえばいいや」という消費者の姿勢を、「できるだけ安く、可能な限り有効な医療措置を選ぼう」という姿勢に転換しようというのがねらいです。

従来の健康保険(主にHMOなど)では、診断のためのテストや手術などは、フルかそれに近いレベルで保険で支払われることが多く、医師にそのようなテストや手術を提案されれば、消費者(患者)はコストをあまり意識せず医療措置を受けることが常でした。わたし自身も何年か前に子宮筋腫の手術をしたとき、医師からCTスキャンに加えてMRIを撮るよういわれたことがあります。MRIは高いので「本当に必要なんだろうか?」とは思ったものの、自己負担はゼロだったので、「ま、受けてもいいか」というような気でいました。ところが、いろいろあって結局そのMRIは受けずして手術の日を向かえ、何の問題もなく手術は終わりました。つまるところ、CTスキャンで十分で、MRIは不要なオーバースペックだったというわけです。「MRIは$4000かかります。あなたも半分くらいは払わなくてはなりませんよ」と言われれば、もう少し真剣に自分の頭で考えたでしょう。これがConsumer Directed Health Planの狙いといえます。

消費者の責任

このように、これらFSA、HSA、HRAはどれも、わたしたちが自分の頭で考え医療行為を取捨選択していくという前提の上に成り立っています。誰もがそれをするならば、従来の健康保険よりも医療のトータル・コスト(保険料と医療措置に払う医療費自己負担の合計)をずっと低く抑えることも可能であるというプログラムです。言い換えますと、従来の健康保険では「保険料は高く、(保険会社がほどんど負担するので)自己負担は低く」というパターンだったのが、FSA、HSA、HRAの付加プログラムを使うと「保険料は低く、(自分で取捨選択するので)自己負担も低く」というパターンが可能になるというわけです。ただし注意が必要なのは、「保険料は低く、(想定外の病気をしたときや、取捨選択を誤ると)自己負担は高く」というパターンにもなりうる可能性を秘めているので、そのリスクをきちんと把握せねばなりません。医療行為の取捨選択、つまり消費者として自分の医療サービスの利用パターンを把握していることと、サービスの要不要や値段を吟味するという責任を負わされているというところをきちんと理解していないと思ってもいない高額の医療請求を受けることにもなりかねません

というわけで、今回はFSA、HSA、HRAをひとつひとつ調べていきましょう。

 

FSA(Flexible Spending Account):

雇用主がベネフィットとして提供するプログラムで、通常、オープン・エンロールメントの期間に雇用主を通して口座を開きます。自分(家族)が来年1年(1/1から12/31)にいくら医療費に使うかを割り出します。その金額を月割りしたものが、毎月の給与から天引きでこの口座に入金されます。この入金分はpre-taxベースです(所得税がかかりません)。入金できる額には上限が設定されており、多くの場合雇用者ひとりにつき$5000/年ほどです。2013年からは、一律どのプログラムも$2500/年に上限が引き下げられます。医療サービスを受けるたび、この口座から必要金額を引き出して使うことになりますが、実際は個人が立替えて払っておいて、あとで口座から払い戻しを受けるという場合が多いようです。FSAは、他のふたつのタイプのように、特定の健康保険と抱き合わせになっておらず、雇用主の提供するどの保険プランをを選んでも、利用できることが多いようです。

注意が必要なのはふたつ。まず、この口座のお金はこの1年間の間に使い切らねばなりません(訂正:2016年度より、$500を限度に次年度への繰り越しが許されれる法改正がありました。ただ、実際に許すかどうかは個々の会社に託されているので、HRにご確認ください)。もし残金がある場合は没収されます。ですから、1年の間にどのくらいの医療費が必要かというある程度正確な計画が必要ということです。細かいcopayや処方箋などよりは、LASIKなどの視力矯正手術や歯科矯正など、高額のサービスを受ける予定がある場合などに比較的計画が容易でしょう。なるべく正確に必要となる医療費を割り出し、その額の少し少なめを入金して、足りなければ都度手持ちのお金でカバーするという方法が安全ではないでしょうか。

もうひとつの注意点は、すべての医療サービスが対象ではないこと。たとえば審美効果のためだけの整形手術などは対象になりません。これは極端な例にしろ、自分が受けようと思っている医療サービスや医療品がFSAの対象アイテムかどうかをきちんと確認しておく必要があります。また、この対象医療サービスや医療品のリストは年々見直され、縮小される傾向にあります。たとえば、2010年末まではOTCドラッグ(over the counter drug=薬局で普通に売っている薬)は対象アイテムでしたが、2011年1月よりOTCドラッグは医師の処方箋がある場合のみ対象とされることに変更になりました。だいたいのFSA対象医療サービスおよび医療品はこちらのサイトで確認できます。このサイトはFederal Governmentの提供するFSAプログラムですので、参考としてお使いいただくのには有効ですが、実際上はご自分の加入されるFSAプログラムについて詳細をご確認ください。

 

HSA(Health Savings Account):

こちらはHigh Deductible Health Plan(保険料が低い分、Deductibleが高く設定されている健康保険。多くの場合はPPOタイプ)に加入している人に限り、開くことができる口座です。自分の保険がこのタイプに該当するかをチェックするためには、保険の説明をよく読むと、該当の場合には「HSA Eligible」と書いてあるはずです。High Deductible Health Planは、ある一定の額(Deductible)を消費者が負担し終えるまでは、保険のカバーが発生しません。このHSAの目的は、HSA口座にお金を貯めておき、Deductibleを満たすまでの医療費をそこから使うというものです。また、Deductibleを満たした後に発生するcoinsuranceなどの医療費にも使うことができます。

HSAは、雇用主のベネフィットの一部として提供され雇用主を通して口座を開くこともありますし、雇用主とは関係なく自分で金融機関に出向き直接口座を開くこともできます。後者の場合、IRA(Individual Retirement Account)と感覚的に似ています。ただRetirementのためではなく、Healthのための口座であるというのが違いです。IRA同様、入金したお金を投資することもできます。入金できる額の2012年の上限は、個人で$3,100、家族で$6,250、2013年はそれぞれ$3,250、$6,450です。カフェテリア プランなど、ベネフィットの一部として雇用主が入金してくれる場合もあります。この場合の雇用主の入金はpre-taxベース(所得税がかからず)であり、また個人での入金はtax deductible(所得税控除の対象)です。また、投資にとって得た利子もnon-taxable(非課税)です。

このプログラムにも、該当医療サービス・医療品が指定されています。FSAと同様、該当医療サービス・医療品に出費がある場合は、この口座から引き出して使うわけですが、Debitカードを発行され、直接支払いができるものも多いようです。FSAと異なる点は、この口座の残高は将来のために持ち越すことができるということです。FSAのように1年の終わりに残金が没収されるようなことはありませんので、多めに貯めておいて将来の医療費に備えるということができます。

 

HRA(Health Reimbursement Arrangement):

HRAも、医療費を払うためのしくみであるという意味では上記のふたつと似通っています。ただし、大きな違いもあります。まず、その名の2語目にReimbursement(払い戻し)という言葉がありますね。これは、いったん消費者が支払った医療費をあとで払い戻すしくみであるということを意味しています。それから3語目、Arrangement(しくみ)という言葉がありますね。これは、Account(口座)ではなくてしくみ、あるいはシステムであることを意味しています。

HRAは、雇用主がベネフィットの一部として提供する医療費を払い戻すためのしくみです。たとえば、「1年あたり$2,000まで、該当費用を払い戻してあげます」などのように、雇用主が払い戻しの上限や、該当費用などの詳細を決めます。$2,000は払い戻しの上限として設定された額であって、口座への入金のように雇用者に直接支払われることはありません。HRAは通常、High Deductible Health Planと抱き合わせで(医療保険とHRAが合体したかたちで)提供されるようです。払い戻しの上限、該当医療サービス・医療品、払い戻しの手順、残高の翌年への繰越の有無とその仕方など、多くの事項が雇用主の裁量下にあり、雇用主ごとに内容が変わります

 

気に留めたいこと

FSA、HSA、HRAのどれもが、医療費のためにお金を貯めておいたり、雇用主から返金をうけたりするしくみですから、それ自体が「危険なもの」というわけではありません。ただ、これらのしくみと抱き合わせになっている健康保険の内容をよくわきまえておく必要があるということです。病気や怪我はすべて予期できるものではありませんから、高額の医療が必要になったときに「こんなはずでははかった」とならないよう、保険のカバーする範囲と自分の負担責任範囲をきちんと理解しておきたいものです。

HRAやHSAは、うまく使えば(また比較的健康であれば)医療トータルコストの大きな節約につながります。最近では、雇用主がこの点をうたい文句に、雇用者に対しHigh Deductible Health Plan +HRA(あるいはHSA)合体プランへの乗り換えを奨励する傾向があります。その裏には、上がり続ける医療コストという問題と、健康保険料の雇用主側の負担を少しでも軽減したいという強いニーズが(雇用主に)あることをわたしたちは忘れずにいなければなりません。雇用主にとっては、従来の健康保険料よりもHigh Deductible Health Planの保険料のほうがずっとコスト削減ができるうえ、とくにHRAはHSAに比べて雇用主の自己裁量範疇が広いため、自分たちに有利なように運営ができるという背景もあるのです。これは言い換えてみれば、保険会社や雇用主が負担する分が軽減され、その分負担が雇用者に移行されたということでもあります。雇用者にとっても、健康でほとんどお医者さんにかからないのであれば、大きくコスト削減になりますが、反対に高度な医療が必要な状況になった場合、今までにない大きな負担を抱えることになる可能性があるということです。かなりラッキーな場合もあれば、かなりアンラッキーな場合もあるしくみということです。

いずれにせよ、自分のニーズを知り、納得のできる選択をしていきたいですね(とても面倒ですが)。ちなみに、その 選択の過程~我が家の場合はこちら

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8 comments

  1. 我が家は、今現在HSAです。会社が一部負担するタイプのです。
    まだ日本から来たばかりで、今年一杯は健康な家族が病院にお世話になる可能性が低いのと、Maxが低いので、計算すると、HMOよりもいいということで選びました。
    でも、最近困ってきています。
    というのは、子どもの1人に、教育支援(最近の医療改革でこういうのも保険対象になった州もあります)でホームサービスを受けようと思ったのですが、かなり限られているんですよね。HSA受け付けるとこ。
    で、そこに電話かけたら、ちょっと遠いだのなんだの言われて。。。結局、大丈夫って言ってくれたところは、私が望んでいたものとは違う内容で。。。公立学校の推薦とも違うんです。

    保険会社自体は丁寧で、わざわざ、「どうなりましたか~?」的な電話をくれたりはするんですけれど、まだこのHSAというサービスは、未熟というか、こっちからかなりの要求をしないといけない印象を受けました。

    年末の切り替え期には高いのを覚悟で、HMOかPPOにすると思います。
    ちなみに我が家の住むMAは、すでに州民全員保険加入は義務ですからね。。。これがアメリカの将来です。

    1. Cheeさん、わかります、ソレ。保険料はもちろんちゃんと吟味しないといけないけれど、ネットワークの中に入っているお医者さん・専門医などのチェックもかなりポイントですよね。うちも、こどものスピーチ・セラピーでかなり苦悩しました。うちはHMOですが、HMO会社を一度変更し、そのあとさらに一度、同じHMO内でメディカル・グループ選択を変更しました。今は、とても質のよいセラピーが受けられてハッピーですけど、ここにたどり着くまでが長かったです。こういうのって、やってみないとわからないところがあって、健康保険を選ぶ時点ではなかなかわからないこともあって、ホント不便です・・・

      1. 同じところで苦悩されてきたのですね~。次は研究して慎重に選びたいです。たぶんBlue Crossになると思うんですけれどね。

  2. 初めまして。アメリカの保険制度がわからなくて、検索していてこちらにたどり着きました。夫はアメリカ人ですが、驚くくらい保険のシステムを知らない・・・と思っていましたが、日本の保険制度のように単純でなく、こうも色々と選択肢があると知らないというより、わからなくても仕方ないようにも思えてきました。
    昨年までは私は無保険、今年はHSAを利用して2人で加入していますが、昨年まで夫の使っていた保険会社は「一応、信用度?としては良い保険会社なのだ」と言うモノの、ほとんどの場合何故か20ドルとか30ドルくらいの金額を保険会社が病院に少なく支払うようで、病院から何度も支払いの催促が来たりしました。そしてその度に保険会社に電話してようやく支払いが済むという感じ。めんどくさいから払っちゃおうという人もいるんじゃないかと思います。そのくせうっかり保険料の支払いが一日でも遅れたら延滞料とかはしっかり取る。
    幸い2人とも健康なので今のところ助かっていますが、何があるかわかりませんから、やっぱり保険は大事ですよね。私も英語をもう少し(少しじゃ追いつかないんだけれど・・・)勉強して、ここで暮らしていけるようにならねばと常々思うのですが、ついついこうして日本語サイトに頼ってしまいます。
    丁寧な説明をありがとうございます。他にも興味深い記事がたくさんあるので、少しずつ読ませて頂きます。

    1. あ~るさん!コメントありがとうございます。ステキな写真ブログをお持ちなんですね。なんだか心がほっとするような写真がたくさんあってとっても楽しませていただきました。そう、アメリカの保険制度はちょっとタイヘンですよね。あまりに複雑になってしまい、医療よりこういう事務的なごちゃごちゃにお金がかかっているのじゃないかと思ってしまいます。残念ながら、おっしゃるとおりちょっとのほほんとしていると、どんどんお金をとられてしまうようなシステムで、悲しいなあ~と思います。。病気のときくらい、人の善意を信じていたいですよね~。。

  3. 昨日会社より2013年度の健康保険の説明があり、初めてHRAを知りました。当日は保険会社の方も来られての説明だったのですが、内容が余りにもピンと来なく、ネットで検索していると、こちらのサイトに行きつきました。
     非常に分かりやすい説明で、今の保険の違いや、注意点が理解できました。この週末に旦那と来年度はどのプランにするか決める予定ですが、結局今のままのプランに落ち着きそうです。
     サイトには他にもアメリカで暮らす上での経済的な知恵が沢山ありそうなので、参考にさせていただきます。これからも宜しくお願いしますね!

    1. Mamiosan、コメントありがとうございました。保険のことなど、本当に複雑ですよね。毎年、毎年、いろいろ変わるのでちょっとうんざりきます。アメリカに暮らす同士として、みんなでがんばりましょう!

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