アメリカ医療のミステリー 病院はホテルを探すように・・

ホテルに泊まるなら、施設がととのっていてサービスがよくて便がよいところを探しますね。でも値段は、できれば安いほうがいいでしょ?ホテルの目星をつけたら、今度はいくつかのサイトを見てみますね。同じホテルでもexpediaとhotal.comでは値段が違うかもしれませんね。Pricelineでバーゲンを探すのもいいかもしれません。病院探しもこれと同じです・・・なんて言われたら信じませんか?いやいや、昨今のアメリカでは、当たらずといえども遠からずみたいですよ。

安くていいものを探すことを英語でショップ・アラウンドといいますね。車を買うのならショップ・アラウンド、モーゲージ・ローンを組むのならショップ・アラウンド、保険を探すのもショップ・アラウンド・・・そう、お医者さんや病院を探すのもショップ・アラウンドという世の中になりました。健康保険をちゃんと持っているからって必要ない??そうでもないかもしれません。保険を持っていないのならもちろんのことですが、でも保険を持っていたとしてもどうやらショップ・アラウンドが必要な場合もあるようですよ。住みにくい世の中になったものです。

 

健康保険を持っていなかったら・・・

保険がないのにどうしても手術が必要になったとしたら、安くていい病院を選びたいと思うのは当然のこと。同じエリアにある病院でも、値段はかなりのばらつきがあります。しかも健康保険を持っていない人は、Medicareや健康保険会社が病院側とあらかじめ交渉して取り付けたNegotiated Priceの恩恵を得られず、病院側の言い値で医療費の請求を受けることになります。緊急を要する場合はムリですが、もしある程度あらかじめ準備がすることができる状況にあるのなら、地域の病院のサービスの質と当該医療措置の見積もり費用を集め、安くてよい病院を選びたいものです。

 

健康保険はあるが、High Deductibleプランである・・・

High DeductibleプランはCatastrophic Coverage(破壊的な状況のための補償)とも呼ばれ、比較的小さな問題に対する補償はなく、大きな損害の場合にフォーカスして補償をする保険です。最近ではHSA(Health Savings Account)との抱き合わせのものも多く、その場合、比較的小さな問題は保険の補償はない代わりに、HASに貯めているお金から医療費を捻出することできます。HASのお金は個人のものですから、個人が直接的に医療費を負担するわけで、Deductibleに達するまでの医療費についてはさらにいっそう、その値段についてセンシティブにならざるを得ません。

Deductibleに達するまでの医療費は個人負担ではありますが、無保険者のように値段交渉は各自の責任というのではなく、保険会社が交渉してくれたNegotiated Priceの恩恵を得ることができます。たとえば、健康保険のネットワーク内のA病院でヘルニアの手術手術を受けた場合、病院のリストプライスが$12,000でも、保険会社とA病院とのNegotiated Priceが$4,500であれば、個人で負担するのも$4,500となります。

一方、ヘルニアを専門に扱うクリニック、Bクリニックというところがあったとしましょう。Bクリニックは健康保険のネットワーク外ではあるものの、ヘルニアを専門にしていることもありリストプライスが$3,000だったとしましょう。そうすると、Negotiated Priceの$4,500をA病院に払うより、保険がきかない値段$3,000をB病院に払うほうが安くなります。保険を持っているからといって、必ず保険会社のネットワーク内の病院を選ぶのが安いとは限りません。健康保険をもっていても、もっと安いところがないか調べるほうが賢いということです。

たとえばこんな例が・・・Aさんは、Deductibleが$7,000のHigh Deductibleプランに入っていました。CTスキャンが必要になりました。当年はまだ、Deductibleに達する医療費が発生していないため費用は自分もちになります。調べたところ、自分の保険会社が提携する病院ではCTスキャンは$1,000以上(Negotiated Price)ですが、個人で他の病院にいけば$350であることがわかり、保険は使わず受けました。

保険は持っているがCo-insuranceが高い

High Deductibleプランでなくても、Co-insuranceの%が高い場合、同様に健康保険を使わず敢えて100%自己負担で払ったほうが安くなることもあります。たとえば、加入している保険では、イン・ネットワークの医師から受けたサービスは20%のCo-insurance、オウト・オブ・ネットワークの医師から受けたサービスは40%のCo-insuranceだったとします。イン・ネットワークの病院のNegotiated Priceは$1,200、アウト・オブ・ネットワークの病院の値段は$400だったとすると、インのほうの自己負担は$1,200×20%で$240であるのに対し、アウトの自己負担は$450×40%で$180となり、アウト・オブ・ネットワークの病院にいったほうが安くなります。

たとえばこんな例が・・・Bさんは腎臓結石の疑いで超音波検診が必要になりました。保険の提携ネットワークで受ければ、Negotiated Priceが$3,200、そのうち保険が$1,500をカバーし、残りの$1,700をCo-insuranceとしてBさんが払うことになります。しかし、Bさんは保険のカバーしない他のクリニックに行って、現金払いにすることにしました。請求額は$250でした。

はたまたこんな話も・・・

Cさんの娘さんが急な手術のため、S病院でCTスキャンを撮り、その結果を小児放射線科の医師が診断しました。請求額は$14,359。保険会社とS病院とのNegotiated Priceは$9,645でした。CさんのCo-insuranceは$846で、差額は保険会社が払いました。

Cさんはたまたまお医者さんでした。CTスキャンと診断に$9,645は高すぎると、怒りをおぼえました。自分の医師という立場を利用して、「自分の患者で経済的に困難な人がいるがCTスキャンをいくらでしてくれるか」という問い合わせを5つの病院にしたところ、最低額は$1,100、最高額は$9,300という結果でした。その間は、$1,787, $4,485、$5,179という数字だったそうです。

このデータをもとに、Cさんは実際に娘さんがCTスキャンを受けたS病院に何度もネゴシエーションをしました。最初はS病院も保険会社も、Negotiated Priceの正当性を主張し譲ろうとしませんでしたが、結局最後にはCさんの言い分が認められCさんの$846のCo-insuranceは全く払わなくていいことになったそうです。

 

この話のポイントはCさんは医師であったということ。医師であったので、CTスキャンの値段が高すぎることに気づくことができたし、いろいろな病院から値段を聞きだすこともできました。S病院とのネゴにも医師であることが役にたったことでしょう。

一方、それが私だったらどうでしょう。「CTスキャンの相場は?」なんて聞かれても、わかりません。$800以上のCo-insuranceの請求を受けたら、びっくりするでしょうけれども。けれども、私たちも他人事ではいられませんね。患者として、消費者として、「医療費は医療費、請求されただけを払う」というのではなくて、病院やお医者さんもホテルと同じように選び、医療費の請求書は携帯電話の請求書と同じように内容をチェックする・・・そういう態度でなくてはならないような気がします。考えただけでも疲れるけど、残念ながらそういう世界に生きているということです。

わたしは政治にはあまり詳しくないのですが、アメリカの医療リフォームのニュースを読んでいると、高騰し続ける、そして暴走し続ける医療費にストップをかけ、市場の原理(安くてよいサービスが消費され、高くて悪いサービスは淘汰される)を医療界に持ち込むために、患者個人が消費者としてショップ・アランドし、その経済活動によって医療費をコントロールしていこうという狙いがあるようです。この議論は、個人的にはどうもしっくりきません。医療を選ぶのは、お店でりんごを選ぶのとは違います。高い専門知識も必要ですし、緊急の場合は選んでいる暇もありません。医療はボトムアップではなくトップダウンでよくしていってもらいたいと願うところですが、どうやらアメリカはそのようには動いていませんね。

昔は、Co-payを払えばよかった健康保険に、Co-insuranceが導入され、High Deductibleプランができ、HSAができ・・・これらの動きは、消費者である私たちにとって選択肢が増えただけでなく、それらを選択する時点にはじまり選択した後も、消費者として「見極め、選ぶ」責任を負わされたということです。アメリカで暮らすわたしたちは、好むと好まざるとにかかわらず、意識を高くもって自分たちの生活を守っていかねばならないということですね。あんまり考えるとちょっと疲れますけども、一緒にがんばりましょうね!

One comment

  1. 家を買うときは不動産鑑定士に頼るるように、医療鑑定士が必要な時代になった。

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