投資業界の変化―ロボアドバイザー(2)

2回にわたり、投資業界の最近の流れの変化とロボアドバイザーの登場について調べています。ロボアドバイザーは低コストでポートフォリオ作成・運用・管理をしてくれ、個人投資家にとっては魅力的ですが、ただ完全に中立とはいえない、セールスマンと化したロボアドバイザーも存在することを見てきました。自動化だから低手数料で安全・・・と一足飛びにうのみにする姿勢は避けるべきです。そうすることは、金融危機以前に、「ブローカーが薦めてくれるからきっといいものに違いない」と手数料に気を配らずファンドを買っていた失敗を、ただ違う形で繰り返すだけです。今回は、ロボアドバイザーを選択するときの基準についてみていきます。

 

かかる手数料

 

ロボアドバイザーは、全投資額のパーセンテージとしてマネジメント手数料をチャージします。最も低い場合はゼロ(最低限のサービスだけ提供し、必要に応じサービス契約をアドオンできるWiseBanyan)から高い場合で0.89%(ポートフォリオ提案の自動化と必要に応じ人間のアドバイザーに相談できるPersonal Capital)までです。毎年かかる低数料は、投資の利回りに食い込みますから、無駄な手数料は省くとともに、必要なサービスには妥当な手数料の基準を持ち、吟味していくことが必要です。

場合によっては、マネジメント手数料は、投資額によって変化することもあります。例えば、Bettermentであれば$10,000未満の投資バランスには0.35%、$10,000以上$100,000までが0.25%、それ以上は0.15%というしくみなっています。今のところ、ロボアドバイザーは他社へのロールオーバーやアカウントの閉鎖にかかわる手数料は課していないので、投資額が低いうちには低手数料のロボアドバイザーから始め、投資額が増えるにつれてよりよい条件のところの乗り換えていくというのもオプションでしょう。

 

提供サービス

 

許容リスクを測り、適切なファンドを組み合わせポートフォリオ提案をするという機能は基本的にどのロボアドバイザーも提供しますが、それに加えて提供されるサービスにはある程度のバリエーションがあります。

Automatic Rebalancing:一度組んだポートフォリオが、投資成果やその他の状況により、当初ターゲットとして投資分配率からずれたとき、定期的に調整しターゲットの分配率に戻すサービスです。これは何も目新しいサービスでなく、難しい作業でもなく、多くのミューチュアルファンド口座や401(k)口座などですでに提供されているもので、いわば最もベーシックな機能です。

Easy Rollover:古い401(k)アカウントや既存の529アカウントやIRAアカウントなどを、簡単にロボアドバイザーのアカウントにロールオーバーできる機能で、これもあってあたりまえのベーシックな機能でしょう。

Tax-loss Harvesting:値下がりした株式を売ってキャピタルロスをつくり、それを他の値上がりした株式のキャピタルゲインやあるいは他の収入に対して相殺し、課税対象収入を減らし節税する方法です。キャピタルロスをつくるため売った株式は、似たような株式で置き換えられ、全体的なポートフォリオのバランスは保つように調整されます。これは案外おおきく歌われているセールスポイントですが、多くの個人投資家は個別株を直接買ってポートフォリオを組むことはせず、ミューチュアルファンドを基本にした投資をしています。その場合は、このサービスは全く意味のないものになります。

Tax Coordination:401(k)やIRAなどの税優遇措置のあるリタイヤメント口座に加え、課税対象となるTaxable Accountを持っている場合、どの口座にどのファンドあるいはどの投資媒体を入れれば、もっとも節税上効率が良いかを計算し、最適解を提案してくれるサービスです。税優遇措置のある口座と無い口座を複数持っている場合には、有益なサービスでしょう。しかしながら、IRAだけとか、Taxable Accountだけなどというように、限られた口座しか持っていないなら意味のないサービスです。

Direct-indexing:インデックスファンドの代わりに、インデックスファンドの中に入っている個別株に自分で投資し、“自作インッデクスファンド”をつくる方法です。これにより、インッデクスファンドのファンド手数料はカットできるとともに、必要に応じ個別株を売り買いする際に、Tax loss harvestingも実現することができるしくみです。たしかにインッデクスファンドの手数料はカットすることができますが、その分ロボアドバイザーのマネジメント手数料はかかります(Wealthfrontの場合は0.25%)。他のロボアドバイザーでマネージする口座と合わせて総合的にベネフィットがあるかどうかを判断することが大切ですが、単にこの機能のためだけなら、別にロボアドバイザーを使わないで、Vanguardのインデックスファンドに直接投資すればファンド手数料は0.15%です。何もややこしいことをしなくてもいいのでは?という気がします(Tax loss havestingのベネフィットがどのくらいあるかは不明です(株の値動きにもよるし、ご自身のタックスブラケットにもよります)。

ロボアドバイザーによっては、これらのサービスを全部まとめてマネジメント手数料を設定している会社もあれば、WiseBanyanのように、Tax loss have stingは有料で追加できるとしている会社もあります。そもそも不要なサービスにお金を払うことはないので、自分がどのサービスが必要か、価格設定はどうなっているかを調べて決めることが必要です。

 

投資アドバイスの質

 

これまでのファンドが課す”隠れたファンド手数料“やブローカーの課す”高額のセールスロード(販売手数料)“、ひいてはアドバイザーの課す”アセットマネジメント手数料“への不信感に対する解決として生まれたロボアドバイザーですが、そのロボアオバイザーもファンドの”セールスマン“的存在になりつつあるという現状を前回の記事で述べました。

よってロボアドバイザーが提案する投資ファンドがどのようなものなのかについては、よく注意をする必要があります。顧客にとって最適なものよりは「企業側が売りたいもの」を提案してくる可能性があるからです。まず、投資ファンドを提供している会社の自社ロボアドバイザーや、息のかかったロボアドバイザーは、当然のことながら自社のファンドを中心に提案を行ってきます。Charles SchwabのロボアドバイザーはSchwabのETFを、BlackRockはShare ETFを、InvescoはPowerShares ETF中心の提案となります。ロボアドバイザーのマネジメント手数料に加え、投資家はファンド手数料も負う必要がありますから、いくら自動で“最適化”されたポートフォリオとはいえ、提案された投資ファンドが本当によいものかは吟味することを怠ってはいけません。たとえば、Charles Schwabの場合、マネジメント手数用はゼロですが、ファンド手数料は比較的高め(最低は0.12だが、高いと0.25%まで)です。

また、マネジメント手数料もファンド手数料も低かったとしても、隠れたコストも見逃してはなりません。たとえば、Charles Schwabの場合、ポートフォリオ提案の際、他社に比べてキャッシュ(現金相当品)の提案比率がかなり高いという特徴があります。許容リスクレベルによりますが、最低でも6%、最高では30%もの比率をキャッシュに割り振ります。たとえば20代で、リタイヤメントまで40年以上ある場合、キャッシュ投資はゼロとするのが通念ですが、それでも6%はキャッシュに投資するよう提案されます。このキャッシュへの強制的な投資(というか貯金?)がCharles Schwabのビジネスモデルで、この現金分をSchwabが自社のために運用することで利益を得るようなしくみになっています。Schwabの利益は、ミスした投資利回りとして個人投資家への損失となります。Schwabがマネジメント手数料をゼロとしているのももはや魅力的ではなくなります。

 

最低投資額

 

会社により最低限必要とされる投資額はゼロ~$100,000です。ふつう、ゼロに近いほど、完全自動化サービスで、額が上がるにつれなんらかのパーソナルサービスが付加されています。小さく始めるなら、Betterment (最低額はゼロなので小さく始められ、$10,000の投資額の場合には$100以上の自動積立を設定すれば月$3の維持費を避けられる)か、 WiseBanyan (最低額$10)からはじめ、額が大きくなったら他に必要に応じ乗り換えを考慮してもよいでしょう。

 

アカウントのタイプ

 

今のところ多くのロボアドバイザーが提供している口座タイプは、IRAとTaxable Account(税優遇のない通常の投資アカウント)です。401(k)市場に乗り出したロボアドバイザーや、529プランを提供しだしたロボアドバイザーも出てきていますが、まだまだ一部です。ロボアドバイザーでマネージされている口座以外の口座(他社にある口座)の情報もリンクして、ある程度のアドバイスが受けられるケースもありますが、個人の投資全体を包括的にアドバイスするところまでは、もう少し時間がかかるでしょう。

このような限度を意識しつつ、将来的にはロボアドバイザーに全体を把握させ包括的な利用を目指すのか、それとも部分的なロボアドバイザーの利用にとどめ、それにどのくらいの価値があるのかをよく考えることも必要でしょう。

 

無駄な手数料をカットし、必要なアドバイスだけを低価格で提供すべく登場したロボアドバイザーですが、だからといってすべてのロボアドバイザーでも同じというわけではありません。またロボアドバイザーが提案するファンドも、うのみにするのは禁物で、これまでSmart&Responsibleで提案してきたとおり、何事でも自分のファイナンスに関係することは、よく調べて納得することが大切ということだと思います。一度選択するときにきちんと選べば、あとはある程度自動でおまかせすればよいと思います。

また、そもそもロボアドバイザーを使わなければならないのかということは考慮の余地があると思います。今は流行りとしてロボアドバイザーやETFに焦点が当たっていますが、これまでどおり低手数料のミューチュアルファンドを利用してポートフォリオを組み、既存のプログラムを使ってリバランスやメンテをしていくことで、十分な効果を得ることができ、トータルの手数料もそのほうが低いということは十分あり得ます。金融業界は、手を変え品を変えいろいろな形で商品やサービスを提供してきますから、流行りに流されず、必要なものだけを選んでいくことは大切な姿勢だと思います。

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